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June 15, 2012

『BSCによるシナジー戦略』で言いたかった「部門間シナジーのためのBSC」をまとめるとこんな感じか?

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BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴

武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12

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 《前回までの記事》
 スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』
 キャプラン&ノートン著『BSCによるシナジー戦略』に関する個人的な疑問(続き)

 結局半分ぐらいしか読まなかったのだが(半分読んだだけで紹介するな、という声も聞こえてきそうだけれども)、部門間シナジーを発揮するためのBSCの概要をまとめると、こんな感じになるのではないだろうか?またまた手描きの図で恐縮です・・・。

BSCによるシナジー戦略

(図中の「F」は「財務の視点」、「C」は「顧客の視点」、「P」は「内部プロセスの視点」、「L」は「学習と成長の視点」を表す。また、便宜上、各視点には戦略目標、KPI、目標値、施策を1つずつしか記載していないが、当然のことながら、1つの視点に複数の戦略目標、KPI、目標値が設定されるのが普通であるし、あるKPIの目標値をクリアするために、複数の施策を打つこともある)

(1)最初に、各事業部が個別にBSCを作成する。この段階では、まだシナジーをそれほど意識しなくてもよい。第1段階の作業は、「戦略目標」の設定からスタートする。「財務の視点」であれば「収益性の向上」、「顧客の視点」であれば「製品ブランド力の強化」などである。戦略目標は、いわばスローガンのようなもので、定性的に記述して構わない。なお、4つの視点に書いたそれぞれの戦略目標の間に、明確な因果関係が必要であることは言うまでもない。

 次に、その戦略目標の達成度合いをモニタリングするKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)と、各KPIの目標値を設定する。先ほど挙げた「収益性の向上」を測定するKPIとしては、財務分析で使用される「売上高総利益率」、「営業利益率」、「投下資本利益率」などの指標が役に立つだろう。また、「製品ブランド力の強化」を測定するKPIとしては、「各製品の認知度」、「各製品の購入頻度」、「各製品を他人に推奨したいと思う人の割合」(※)などがある。いずれのケースも、会社としてどの収益を重視するのか?”ブランド力が強い”とはどういう状態を指すのか?をよく議論した上で、最適なKPIを設定しなければならない。

(2)事業部がBSCを作成したら、それぞれの事業部のBSCを持ち寄って、事業部間シナジーが発揮できないかどうかを検討する。上図では、X事業部が「顧客の視点」でZ事業部と、「内部プロセスの視点」でY事業部とシナジーを発揮できる可能性が示唆されている。具体的なシナジーとしては、

 ・X事業部とZ事業部で共通する顧客に対し、両事業部の製品・サービスを組み合わせて販売する。
 ・X事業部とY事業部で製造ラインの共通化を図り、製造コストの低減を図る。

などが考えられる。X事業部は、「顧客の視点」に設定したKPIの目標値について、X事業部の施策と、Z事業部の施策の両方によって達成を目指す(同様に、「内部プロセスの視点」に設定したKPIの目標値について、X事業部の施策と、Y事業部の施策の両方によって達成を目指す)。あるいは、シナジーによってもっと野心的な戦略目標が目指せそうならば、戦略目標から練り直して、それに紐付くKPI、目標値も再設定し、施策の内容も練り直した方がよいかもしれない(この変更により、BSC全体の因果関係にも影響が及ぶ可能性もある)。こうして、「事業部間のシナジー」を考慮したBSCができ上がる。

(3)事業部間のシナジーを検討したら、サポート・ユニット(人事、情報システム、購買、マーケティング、R&D、経理・財務部門など)とのシナジーを検討する段階に移る。個人的には、キャプラン&ノートンが本書で主張したことに反するものの、サポート・ユニットは必ずしもBSCを作成する必要はないと考える。というのも、4つの視点を全部埋めようとすると、冒頭にリンクを貼った記事で指摘したように、どうしても無理が生じるからである(例えば人事部門の事例)。

 そうではなく、次のような方法を提案したい。サポート・ユニットは、それぞれの事業部が事業部間シナジーを踏まえて作成した全てのBSCをチェックし、自らのユニットが提供するサービスで、事業部が掲げた戦略目標の達成を支援できそうな箇所を特定する。上図では、人事部門はX事業部とY事業部が「学習と成長の視点」で掲げた戦略目標を、購買部門はX事業部が「内部プロセスの視点」で掲げた戦略目標の達成をサポートできる可能性が示されている。これは例えば、

 ・人事部門は、トレーニングや採用活動、事業部を超えた人材配置の最適化などを通じて、X事業部とZ事業部が目標とする人材の質・量の確保を支援する。
 ・購買部門は、仕入先の選定や調達基準の見直しを通じて、X事業部のそれぞれの製造工程で使われる部品の納品リードタイムや納期遵守率を改善し、X事業部の製造リードタイムの短縮を支援する。

といったサポートのことである。サポート・ユニットが提供するサービスの性質によって、各ユニットがサポートできる戦略目標のレイヤーはだいたい絞り込まれる。具体的には、人事部門や情報システム部門は「学習と成長の視点」でシナジーを発揮しやすく、マーケティング部門は「顧客の視点」でシナジーを発揮しやすい(マーケティング部に関して一例を挙げると、マーケティング部はコーポレート・ブランドを市場に浸透させるプロモーションを打つことで、各事業部が掲げている新規顧客獲得数の目標達成を後押しすることができる)。

 こうしてサポート・ユニットが各事業部とともに発揮すべきシナジーを整理していくと、BSCという形式よりも、上図に示したように、もっと単純な施策の一覧になるのではないだろうか?もっとも、事業部とサポート・ユニットの関係に関しては、シナジーというよりも、サポート・ユニットが本来のミッションに従って事業部に提供すべきサポートの内容を、より明確に定義したと言った方が適切かもしれない。

(4)ここまでの一連のステップを経て完成した事業部のBSCが、右下に示したものである。4つの視点に設定された戦略目標には、事業部の単独施策で達成を目指すものもあれば、他の事業部やサポート・ユニットと共同で達成を目指すものもある。重要なのは、施策の責任部門を明確にすることだ。これによって、仮にKPIの数値が想定通りに改善しない場合、どの部門に責任があるのか?(もう少しソフトに言えば、どの施策に問題があるのか?)が議論しやすくなる。


(※)マーケティング用語では、「NPS(Net Promoter Score:賞味推奨者比率)」と呼ばれる。フレデリック・ライクヘルドが提唱した概念であり、顧客に対して「あなたは○○の製品・サービスを友人に薦めますか?」という質問をして、推奨者の割合から批判者の割合を引くことで算出される。

顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」 (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」 (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
フレッド・ライクヘルド 鈴木 泰雄 堀 新太郎

ランダムハウス講談社 2006-09-27

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《補足》これまでにも、KPIに関する記事を何本か書いたのだが、プロセスKPIの設定方法については、BSCの「内部プロセスの視点」のKPIを設定する際に参考になると思う。

 プロセスKPIを設定するための5つの視点
 実務的なプロセスKPIにファインチューニングする3つのポイント
 スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性
 部門のミッションに合ったKPIを設定しよう
 KPI(重要業績評価指標)の取得方法を工夫しよう―『日経情報ストラテジー(2012年2月号)』
June 13, 2012

キャプラン&ノートン著『BSCによるシナジー戦略』に関する個人的な疑問(続き)

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BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴

武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12

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 前回の記事「スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』」の続き。

(p76〜93)「顧客の視点」における「顧客」の定義が曖昧である。純粋に「外部顧客」を指すケースもあれば、サポート・ユニット(=スタッフ部門)にとっての「社内顧客」を意味するケースもある。例えば、アムステルダムに本社を置く民間投資持株会社アクティバ社の事例では、本社が事業子会社に対して提供するガバナンス支援の内容を、キャプランとノートンの別のツールである「戦略マップ」で可視化し、それをBSCへと落とし込んでいる。

 この場合の顧客は、事業子会社、すなわち社内顧客である。よって、「顧客の視点」の指標は、事業子会社がガバナンス支援の価値をどれだけ享受できたか?あるいは、ガバナンスのノウハウをどれだけ吸収できたか?といった観点から設定される。

 一方、インスツルメンタリウム社(現在はGEヘルスケアの一部)の子会社であるデーテックス・オメダ社(麻酔器、酸素吸入器、薬物送達システムなどの救急治療分野におけるメーカー)の経営陣は、多数のビジネスユニット間でシナジーを発揮すべく、同一の顧客に対し、複数の製品やサービスを組み合わせたトータル・ソリューションを提供する体制への移行を進め、BSCを作成した。

 同社のケースでは、「顧客の視点」が外部顧客に向けられており、顧客のウォレット・シェア(顧客の予算のうち、自社に対して支払っている金額の割合)、ターゲット顧客が利用した製品・サービス数、顧客の生涯価値などといった指標が検討されている。この「顧客」の中身の違いが、若干読み手の混乱を招くように感じる。


(p94〜97)これは、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部が、他の事業部とのシナジーを考慮したBSCを作成する手順に関するものである。個人的には(1)最初に4つの視点のうちどのレイヤーでシナジーを発揮するのかを定めて、そのレイヤーでの活動とKPIを設定し、(2)その次に上下のレイヤーへと視点を移す、すなわち、

 (2)-a.下位レイヤーに関しては、シナジーを発揮するレイヤーのKPIを改善するために、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部内でどのような取り組みが必要か?また、その取り組みの成果をどのようなKPIで測定するか?を検討する。
 (2)-b.上位レイヤーに関しては、シナジーを発揮するレイヤーのKPIが改善されると、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部でどのような成果が見込めるか?あるいはどのような成果を見込むべきか?また、その成果はどのようなKPIでモニタリングするのか?を検討する。

という2段階で検討が進むように思える。より具体的に言えば、仮に先ほどのデーテックス・オメダ社のように、複数の部門が「顧客の視点」でシナジーを発揮すると決めた場合には、各部門はまず(2)-aのステップに従い、「顧客の視点」におけるシナジーを考慮したKPIの達成に向けて、どのような業務プロセスを構築する必要があるか?(「内部プロセスの視点」)さらに、その業務を円滑に遂行するためには、どのような能力を持った人材を育成し、いかなる情報システムを構築すべきか?(「学習と成長の視点」)を熟考する。

 そして、(2)-b.のステップに沿って、最下層の「学習と成長の視点」から順番にレイヤーを昇って行き、それぞれのレイヤーのKPIが改善されていくと、最終的に「財務の視点」で何が達成されるのか?をシミュレーションする。または、顧客レベルでのシナジーを通じて実現すべき財務目標があらかじめ想定されているならば、その目標に到達できるよう、それぞれのレイヤーのKPIを再調整する必要性も出てくる。

 私としてはこういう手順でBSCの作成が進むと解釈しているのだけれども、アメリカ南東部のメディア・ジェネラル社が目指した印刷、放送、双方向メディアの3事業間における顧客シナジーの説明は、私の解釈からするとやや不十分なように感じる。というのも、同社が作成したBSCを、「学習と成長の視点」から「財務の視点」へと順番に説明しているため、BSCの作成段階における具体的な検討内容が見えにくくなっているからだ。


(p101〜105)ヒルトンホテルの事例について。直営、フランチャイズを含めて2,300以上の施設(2005年時点)を抱えるヒルトンホテルでは、各施設のサービス水準のばらつきをなくし、サービス品質の全体的な底上げを狙って、本社がBSCを導入した。そのBSCがp102に掲載されており、

 ・「財務の視点」には「GOP(Gross Operational Profit)」
 ・「顧客の視点」には「顧客ロイヤルティ指数」(満足度、リピート利用の意思、他者への推奨の意思の度合いに基づいて算出)
 ・「内部プロセスの視点」には「ブランド一貫性指数」(端的に言えば、サービス品質の基準)
 ・「学習と成長の視点」には「従業員ロイヤルティ」

などの指標が設定されている。とはいえ、このBSCは本社が活用すべきものというよりも、それぞれの施設が使用すべきものであろう。本社自体へのBSC導入の狙いが、施設間の「サービス水準のばらつきをなくすこと」であるならば、本社はそれぞれのKPIの数値について、施設間の「バラつき」をモニタリングする必要があると考える。つまり、「顧客満足度の”標準偏差”」などを指標にすべきなのである(複雑なITツールを使わなくても、エクセルで統計的に算出することが可能である)。要するに、BSCの利用目的に合致した、適切な指標を設定しなければならない。

《2012年7月14日追記》
 「バラつき」をモニタリングすることには意味があることを示す事例が、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年7月号にちょこっとだけ掲載されていたので紹介。今はもうなくなってしまったアメリカの大手書籍チェーン・ボーダーズの事例だが、
 ボーダーズの1999年〜2002年のデータを250店以上について分析したところ、1店舗あたりの労働力水準の標準偏差が1増加すると、1年間の利益率が10%増加したのだ。
(ゼイネップ・トン著「業績低迷の悪循環から脱却する方法 小売業は人件費を削ってはいけない」)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-06-08

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 先進的なアメリカ企業の特色の1つとも言えるだろうが、一部の企業は、中間的なKPIが最終的なKPIである財務の数字にどのくらいのインパクトを与えるのかを統計的に明らかにすることに躍起になっている。トーマス・ダベンポートが『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年12月号に寄稿した論文「情報技術が人事管理を変える 「人材分析学」がもたらす競争優位」には、次のような記述がある。
 我々が調査したほとんどすべての企業は、「社員のやる気を重視している」と言うが、特定店舗における社員のやる気が0.1%増加した時の価値を正確に見極めることができるのは、そのうちの数社―スターバックス、大手衣料品製造小売業のリミテッド・ブランズ、ベスト・バイなど―である。たとえばベスト・バイの場合、その価値(※社員のやる気が0.1%増加したときの価値)はその店舗での年間の年間の営業利益が10万ドル超増加することに相当する。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 12月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 12月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2010-11-10

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(p119-125)同書では、同じホテル業界から、マリオット・バケーション・クラブ(MVCI)の事例も紹介されている。ところが、MVCIのケースは、何かしらのシナジーを狙ったものには見えない。なぜならば、マリオット、リッツ・カールトン、ルネッサンス、コートヤード、フェアフィールドといった各ブランドに属する個々の施設が、本社の企画部門が用意したBSCの雛形に従い、本社が設定した全社目標をブレイクダウンする形で、BSCを作成しているからだ。

 もちろん、これはこれで重要な活動なのだけれども、シナジーを発揮するという本書の趣旨からはやや外れている印象を受ける。むしろ、目標管理制度をブランド、事業、下部組織レベルで徹底的に行ったケースと言えるのではないだろうか?(あるいは、敢えてシナジーという言葉を使うならば、「マネジメントのシナジー」ということか?)


 以上が私の感じた主な疑問である。これ以外にも細々としたものを挙げればキリがないので、この辺でやめておく。次回は、ライン⇔スタッフ部門間、事業部間のシナジーを発揮するためのBSCの作成方法について、同書を基に私なりに整理した内容を述べてみたいと思う。
June 12, 2012

スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』

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BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴

武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12

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 バランス・スコア・カード(BSC)で有名なロバート・キャプラン&デイビッド・ノートンの著書。この本で言うシナジーとは、

 (1)スタッフ部門⇔ライン部門間のシナジー
 (2)事業部間のシナジー
 (3)外部のパートナー企業とのシナジー
 (4)取締役会と経営陣のシナジー

の4つであり、その中でも(1)がメインであると理解しているが、何とも読みにくい。というか、キャプラン&ノートンの本はなぜかどれも読みにくい。何年か前に『バランススコアカード−新しい経営指標による企業変革』を読んだ時も結構苦労したし、もう1冊の邦訳書『キャプラン&ノートンの戦略バランスト・スコアカード』も一応手元にあるけれども、つまみ読みしただけで終わっている(汗)。

バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革
ロバート・S. キャプラン デビッド・P. ノートン Robert S. Kaplan

生産性出版 1997-12

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キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカードキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード
ロバート・S・キャプラン デビッド・P・ノートン 櫻井 通晴

東洋経済新報社 2001-08-30

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 この2人の著書は、どれも事例が豊富なのは嬉しいものの、守秘義務の関係により、BSCの中身やBSC作成プロジェクトの全てを公開しているわけではないのだろう。その一部の非公開情報のせいで、途中のロジックが不自然になっているのではないか?それから、BSCの各階層には、「定量的に測定可能な指標」、いわゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を記入すべきなのに(そうでなければ、BSCの達成度合いをモニタリングできない)、時に定性的な目標が混在しており、全体の構造を理解しづらくしている。いっそのこと、完全に情報を公開してもOKという企業を1、2社厳選して、そのBSCを詳細に解説する、というスタンスの方がいいのではないか?という気もする。

 なお、(3)外部のパートナー企業とのシナジーに関しては、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年11月号に所収されている2人の論文「戦略的提携を実現するバランス・スコアカード」の方がおそらく解りやすい。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2010-10-09

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 通常のBSCでは、最上位に「財務の視点」がくるが、パートナー企業とのBSCでは「両社への価値」が位置づけられる。また、第3の視点である「業務プロセスの視点」では、「コラボレーション」を意識した業務プロセス上の目標が設定され、最下層の「学習と成長の視点」では、「アライアンスを活かす環境づくり」(例えば、アライアンス活動を促進・評価する人事制度の構築など)を検討することになる。

 論文では、神経科学、心血管代謝、インフルエンザ、膵酵素補充療法などに関する医薬品を開発しているソルベイ社と、臨床試験など生物医学関連の各種サービスを提供するクインタイルズ社によるBSCの事例が紹介されている。

 話が逸れたけれども、ここからは、同書を読んで個人的に疑問に感じたことを列記したいと思う(といっても、(1)に該当する部分を読んで、残りを読む気が失せてしまったため、途中までの内容に関する疑問にとどまるが・・・)。ただ、かなり重箱の隅をつつくような細かい指摘もあるので、この本を読んでいない方にはさっぱり伝わらない内容になるかもしれない点はご容赦ください。

(p45)男性用作業靴の製造・販売からスタートしたアパレルメーカーであるスポーツマン社(仮名)のBSCの事例について。p45には、事業ラインと調達部門それぞれのBSCのリンクを示した図が掲載されている。このうち、調達部門のBSCに関して、「内部プロセスの視点」にある「注文履行の数」や「注文拒否数」といった指標は、調達部門の本来業務と密接に関連しているから理解できる一方、同じく「内部プロセスの視点」にある「製品イノベーションの数」や、「顧客の視点」にある「主要カテゴリーの浸透」(※)、「財務の視点」にある「海外成長」(※)などは、果たして調達部門が責任を負うべき指標なのだろうか?

 スタッフ部門(本書では「サポート・ユニット」という言葉で表現されている)とライン部門のBSCを関連づけるBSCのことを、キャプランとノートンは「リンケージ・スコアカード」と呼んでいる。著者によると、このスコアカードには、スタッフ部門が直接コントロールできない指標も含まれるという。人事部門の例に関する記述ではあるが、該当箇所を引用する。
 リンケージ・スコアカードの尺度は、人事部門が直接コントロールして影響を及ぼすことができない。たとえば、企業戦略として買収による成長戦略をとる場合、人事部門のリンケージ・スコアカードでは、「重要な従業員の流出防止」、「クロスセルによる売上の増大」、「買収メリットの享受」について測定する。(p183)
 「重要な従業員の流出防止」(本来は、「重要な従業員の”離職率”」といった指標で表現するのが適切)は、PMI(Post Merger Integration)プログラムなどによって、まだ人事部門がある程度影響を及ぼす余地もあるだろう。しかし、「クロスセルによる売上の増大」にまで、人事部門は責任を負うべきなのだろうか?コントロールが困難な指標にまで責任を持たせるのは、逆に無責任であるし、仮にその指標が目標値に届かなかった場合、責任の所在が曖昧になる可能性があるように思える。

 (続く)


(※)これが、文中で述べたように定性的な目標になっているため、定量的に測定可能な指標に変えるべきである。例えば、「主要カテゴリーの認知度」(定期的な市場調査、顧客アンケートによって測定)や「主要カテゴリの販売数」(店舗POSシステムから情報を取得)、「海外成長率」や「全社売上に占める海外売上の比率」(ともに財務データより算出)などといった指標にする必要がある。