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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
March 08, 2011
【第8回】製品をまとめてパッケージ化する―ビジネスモデル変革のパターン
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【パターンの概要と適用できるケース】
しばらくこの連載が滞りました…。今回の「製品をまとめてパッケージ化する」パターンと、次回の「製品を分解する」パターンは、実は密接に関連している。というのも、多種多様な製品をバラバラに販売することが当たり前になっている業界では、前者のパターンで切り込んでくる新規プレイヤーが現れるし、逆にパッケージ販売が当たり前になっている業界では、後者のパターンで競争のルールを変えてしまうプレイヤーが現れるものである。
また別の見方をすると、人間というのは、ある時は製品の種類が多すぎて選ぶのが面倒だと思う一方で、ある時は幅広い選択肢の中から選ぶことを楽しいと思う、非常に気まぐれな動物である。そして、選択を面倒に感じる場面と楽しいと感じる場面は、人によって全く異なる。だから、いろんな業界で両パターンは共存しうると考えられる(もちろん、時代によってどちらかのパターンが主導権を握ることが多いのだが…)。
【パターンが当てはまる事例】
《旅行代理店》
旅行代理店のパッケージプランは解りやすい例である。旅行代理店は、交通機関や宿泊施設から切符と空室を大量に仕入れ、周辺の観光施設の入場券やお土産屋めぐりをセットにしてパッケージ化する(旅行代理店が観光客をお土産屋に連れて行くと、キックバックのマージンが得られる)。そして、このパッケージを販売することで成り立っているビジネスモデルである。
こうしたパッケージプランがターゲットとしているのは、社員旅行や慰安旅行に参加する団体旅行客、さらには自分ひとりで旅行プランを立てるのが苦手な個人旅行客である。しかし、最近は福利厚生を縮小する動きの中で社員旅行も減ってしまい、旅行代理店は大きなダメージを被っている。また、インターネットで個人が代理店を介さずに簡単に切符購入や宿泊予約ができるようになったことも、大手旅行代理店の業績を押し下げる要因となっている(業界第1位のJTBと第2位の近畿ツーリストは、10年度3月期の連結決算でそれぞれ145億円、84億円の赤字[最終損益ベース]を出している)。
社員旅行のニーズを取り戻すことは難しいかもしれないけれど、個人顧客に目を向けると、今でも旅行プランを自分で考えるのが億劫だという人はそれなりに存在するはずだ。聞くところによると、添乗員付きのパッケージプランを利用する個人顧客の大半は中高年であるらしい。
逆に、若い人たちは添乗員や他の旅行客と一緒に行動するのを嫌がるので、切符と宿泊施設だけがセットになった添乗員なしの割安なパッケージプランを利用することが多いわけだが、若い人の中にも自分で行きたい所や食べたい所を決められる人と、そういうのを面倒に思う人がいるに違いない。
後者に対しては、切符と宿泊施設だけを提供するのではなく、例えば旅行代理店が観光施設やレストランをネットワーク化して、ネットワーク内で自由に使える”3万円クーポン”みたいなのを発行することで、パッケージの単価を上げるというのも一つの手かもしれない(ビジネスモデルとしては、観光客がレストランでクーポンの中から5,000円分を利用すると、そのデータがレストランから旅行代理店に送信され、旅行代理店は5,000円から一定の手数料を抜いた金額をレストランに支払う、という仕組みになる)。
《大手SIer》
90年代にIBMがルイス・ガースナーの下で業績回復を成し遂げたのは、まさにこの変革パターンを適用したからであると言えそうだ。当時のIT業界では、技術の進歩に伴って一部のハードウェアやソフトウェアに特化する専門企業が大量に出現しており、顧客企業はニーズに応じて好きな製品を組み合わせて利用すればいいようになると考えられていた。
これに対してIBMは、ありとあらゆるハード、ソフトを自社で取り揃えていたため、企業規模が大きすぎるという批判を受けていた。事実、IBMを再建するには、ハード、ソフトなどの各部門を分社化するしかないという見解が投資家の間には広がっていた。
ところが、ガースナーはIBMを分社化するどころか、「顧客企業に合ったシステムをIBMが一貫して構築するサービスを展開する」という、全く違う戦略を打ち出した。そして、顧客企業が望むのであれば、自社製品ではなく他社製品を導入することも厭わないと宣言したのである。今でこそ多くのITベンダーがこうしたインテグレーションサービスを提供しているが、当時のIBMが置かれていた状況を考えれば、この戦略が非難轟々だったのは明白である。
ガースナーに先見の明があったということもあるけれども、この戦略はガースナー自身の経験にも根ざしているように思える。というのも、アメリカン・エクスプレス時代にIBMのシステムを利用していたガースナーは、IBMが自社のニーズを深く理解して、一貫したサービスを提供してくれることを強く期待していたからだ(実際は、IBMが傲慢で対応が遅いことにかなり苛立っていたようだ)。
たとえ市場に高度な専門製品があふれることになっても、顧客企業が自ら製品を選定できるようになることとは別の話である。むしろ、製品が多様化すればするほど、顧客企業はそれらの製品をうまく統合してくれるサービスをより一層求めるようになる、というのがガースナーの考えであった。
ただ、どのベンダーの製品でもOKというのではIBMの利益を圧迫してしまうし、他ベンダーの製品同士を機能面でうまく連携させることができなければ、そもそもシステムとして破綻してしまう。そこでガースナーは、IBMが特に強みとしてたミドルウェアに着目し、IBMのミドルウェアを介して他ベンダーのハードやソフトをネットワーク化するというサービスを展開した。IBMは、ミドルウェアを核として顧客企業と中長期的にビジネスを継続する仕組みを確立して、業績と信頼を回復させたのである。
他にも「製品をまとめてパッケージ化」している事例はたくさんある。例えば、家電メーカーや家電量販店は、一人暮らしに必要な家電一式をまとめて「新生活スタートパッケージ」を販売している。また、ニッチな市場ではあるけれども、特定分野の新聞記事をまとめてクリッピングするというサービスもある。さらに、最近私の手元に届いた広告の中には、「毎月、重要なビジネス書を何冊かピックアップして、その要約を配信する」というサービスもあった(これは、忙しくて1ヶ月に何冊も本を読む時間がない経営者などをターゲットにしていたようだ。残念ながら、私はターゲット外でした(笑))。
あと、私は洋服を選ぶのが非常に面倒くさい性格(というか、ショップで店員といちいち話をするのが苦痛)なので、こういうサービスは非常に魅力的なんだな。
http://www.lookup-fun.jp/
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・選択を面倒だと感じる顧客セグメントの特定
(このパターンを成り立たせる大前提)
・パッケージの中核となるコア製品
(IBMの事例で言うところのミドルウェア。複数の周辺製品をつなぐコア製品を押さえていることが重要。そのコア製品を自社で製造可能であれば、より有利)
・パッケージを貫くコア・コンセプト
(当たり前と言えば当たり前だが、「なぜそれらの製品を束ねる必然性があるのか?」という問いに答えられなければ、顧客に対する訴求力を持たない)
・顧客のニーズに合わせて製品を組み合わせる提案力
・(自社製品、他社製品を問わない)幅広い製品知識
(選択が面倒だと感じる顧客は、「自分のニーズは解っているが、どの製品が一番ニーズを充足してくれるのかが解らない」か、「そもそも自分が何を欲しているのかが解らない」顧客である。こうした顧客と接する営業・サービス担当者には、強い提案力と深い製品知識が必要)
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
しばらくこの連載が滞りました…。今回の「製品をまとめてパッケージ化する」パターンと、次回の「製品を分解する」パターンは、実は密接に関連している。というのも、多種多様な製品をバラバラに販売することが当たり前になっている業界では、前者のパターンで切り込んでくる新規プレイヤーが現れるし、逆にパッケージ販売が当たり前になっている業界では、後者のパターンで競争のルールを変えてしまうプレイヤーが現れるものである。
また別の見方をすると、人間というのは、ある時は製品の種類が多すぎて選ぶのが面倒だと思う一方で、ある時は幅広い選択肢の中から選ぶことを楽しいと思う、非常に気まぐれな動物である。そして、選択を面倒に感じる場面と楽しいと感じる場面は、人によって全く異なる。だから、いろんな業界で両パターンは共存しうると考えられる(もちろん、時代によってどちらかのパターンが主導権を握ることが多いのだが…)。
【パターンが当てはまる事例】
《旅行代理店》
旅行代理店のパッケージプランは解りやすい例である。旅行代理店は、交通機関や宿泊施設から切符と空室を大量に仕入れ、周辺の観光施設の入場券やお土産屋めぐりをセットにしてパッケージ化する(旅行代理店が観光客をお土産屋に連れて行くと、キックバックのマージンが得られる)。そして、このパッケージを販売することで成り立っているビジネスモデルである。
こうしたパッケージプランがターゲットとしているのは、社員旅行や慰安旅行に参加する団体旅行客、さらには自分ひとりで旅行プランを立てるのが苦手な個人旅行客である。しかし、最近は福利厚生を縮小する動きの中で社員旅行も減ってしまい、旅行代理店は大きなダメージを被っている。また、インターネットで個人が代理店を介さずに簡単に切符購入や宿泊予約ができるようになったことも、大手旅行代理店の業績を押し下げる要因となっている(業界第1位のJTBと第2位の近畿ツーリストは、10年度3月期の連結決算でそれぞれ145億円、84億円の赤字[最終損益ベース]を出している)。
社員旅行のニーズを取り戻すことは難しいかもしれないけれど、個人顧客に目を向けると、今でも旅行プランを自分で考えるのが億劫だという人はそれなりに存在するはずだ。聞くところによると、添乗員付きのパッケージプランを利用する個人顧客の大半は中高年であるらしい。
逆に、若い人たちは添乗員や他の旅行客と一緒に行動するのを嫌がるので、切符と宿泊施設だけがセットになった添乗員なしの割安なパッケージプランを利用することが多いわけだが、若い人の中にも自分で行きたい所や食べたい所を決められる人と、そういうのを面倒に思う人がいるに違いない。
後者に対しては、切符と宿泊施設だけを提供するのではなく、例えば旅行代理店が観光施設やレストランをネットワーク化して、ネットワーク内で自由に使える”3万円クーポン”みたいなのを発行することで、パッケージの単価を上げるというのも一つの手かもしれない(ビジネスモデルとしては、観光客がレストランでクーポンの中から5,000円分を利用すると、そのデータがレストランから旅行代理店に送信され、旅行代理店は5,000円から一定の手数料を抜いた金額をレストランに支払う、という仕組みになる)。
《大手SIer》
90年代にIBMがルイス・ガースナーの下で業績回復を成し遂げたのは、まさにこの変革パターンを適用したからであると言えそうだ。当時のIT業界では、技術の進歩に伴って一部のハードウェアやソフトウェアに特化する専門企業が大量に出現しており、顧客企業はニーズに応じて好きな製品を組み合わせて利用すればいいようになると考えられていた。
これに対してIBMは、ありとあらゆるハード、ソフトを自社で取り揃えていたため、企業規模が大きすぎるという批判を受けていた。事実、IBMを再建するには、ハード、ソフトなどの各部門を分社化するしかないという見解が投資家の間には広がっていた。
ところが、ガースナーはIBMを分社化するどころか、「顧客企業に合ったシステムをIBMが一貫して構築するサービスを展開する」という、全く違う戦略を打ち出した。そして、顧客企業が望むのであれば、自社製品ではなく他社製品を導入することも厭わないと宣言したのである。今でこそ多くのITベンダーがこうしたインテグレーションサービスを提供しているが、当時のIBMが置かれていた状況を考えれば、この戦略が非難轟々だったのは明白である。
ガースナーに先見の明があったということもあるけれども、この戦略はガースナー自身の経験にも根ざしているように思える。というのも、アメリカン・エクスプレス時代にIBMのシステムを利用していたガースナーは、IBMが自社のニーズを深く理解して、一貫したサービスを提供してくれることを強く期待していたからだ(実際は、IBMが傲慢で対応が遅いことにかなり苛立っていたようだ)。
たとえ市場に高度な専門製品があふれることになっても、顧客企業が自ら製品を選定できるようになることとは別の話である。むしろ、製品が多様化すればするほど、顧客企業はそれらの製品をうまく統合してくれるサービスをより一層求めるようになる、というのがガースナーの考えであった。
ただ、どのベンダーの製品でもOKというのではIBMの利益を圧迫してしまうし、他ベンダーの製品同士を機能面でうまく連携させることができなければ、そもそもシステムとして破綻してしまう。そこでガースナーは、IBMが特に強みとしてたミドルウェアに着目し、IBMのミドルウェアを介して他ベンダーのハードやソフトをネットワーク化するというサービスを展開した。IBMは、ミドルウェアを核として顧客企業と中長期的にビジネスを継続する仕組みを確立して、業績と信頼を回復させたのである。
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他にも「製品をまとめてパッケージ化」している事例はたくさんある。例えば、家電メーカーや家電量販店は、一人暮らしに必要な家電一式をまとめて「新生活スタートパッケージ」を販売している。また、ニッチな市場ではあるけれども、特定分野の新聞記事をまとめてクリッピングするというサービスもある。さらに、最近私の手元に届いた広告の中には、「毎月、重要なビジネス書を何冊かピックアップして、その要約を配信する」というサービスもあった(これは、忙しくて1ヶ月に何冊も本を読む時間がない経営者などをターゲットにしていたようだ。残念ながら、私はターゲット外でした(笑))。
あと、私は洋服を選ぶのが非常に面倒くさい性格(というか、ショップで店員といちいち話をするのが苦痛)なので、こういうサービスは非常に魅力的なんだな。
http://www.lookup-fun.jp/
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・選択を面倒だと感じる顧客セグメントの特定
(このパターンを成り立たせる大前提)
・パッケージの中核となるコア製品
(IBMの事例で言うところのミドルウェア。複数の周辺製品をつなぐコア製品を押さえていることが重要。そのコア製品を自社で製造可能であれば、より有利)
・パッケージを貫くコア・コンセプト
(当たり前と言えば当たり前だが、「なぜそれらの製品を束ねる必然性があるのか?」という問いに答えられなければ、顧客に対する訴求力を持たない)
・顧客のニーズに合わせて製品を組み合わせる提案力
・(自社製品、他社製品を問わない)幅広い製品知識
(選択が面倒だと感じる顧客は、「自分のニーズは解っているが、どの製品が一番ニーズを充足してくれるのかが解らない」か、「そもそも自分が何を欲しているのかが解らない」顧客である。こうした顧客と接する営業・サービス担当者には、強い提案力と深い製品知識が必要)
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September 17, 2010
「ビジョンは不要」と言いながらも強力なビジョンを掲げたガースナー−『巨象も踊る』
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いつ何のきっかけでこの本を買ったのか全く覚えていない(汗)。そして、なぜこのタイミングでこの本に手を伸ばしたのかも解らないのだが、読書とはそんなものだと割り切ってみる。ガースナーといえば、IBMのCEOに就任して間もない頃に、「IBMにビジョンは必要ない」と言い切ってメディアをびっくりさせたエピソードが有名だ。
しかし、実のところガースナーは、「『いま現在の』IBMにビジョンは必要ない」と発言していたようだ。メディアが「いま現在の」という部分を抜かして報道してしまったため、ガースナーの意図が正しく伝わらなかったと振り返っている。
わたしが「いま現在の」ビジョンは必要ないと言ったのは、(CEOに就任してから)最初の九十日間にビジョンを書き連ねた書類がファイル・キャビネットに何個分もあることに気づいたからだ。IBMは、コンピューター業界の主要な技術トレンドを正しく読めていた。そして、こうした変化を生み出した技術のほとんどを発明している。IBMは肥大化した官僚組織ゆえに実行が伴っていなかった。ガースナーが洗練された聞こえのいいビジョンを発表すればIBM社内から歓迎されたかもしれないが、ビジョンが実行されずに終わるのであれば作らない方がましだと考えたのだろう。
だが、身動きがとれず、予想に基づいて動くことができなくなっているのも確かであり、この問題を簡単に解決する方法はなかった。(中略)ほんとうの問題は、市場に出ていき、市場で日々行動を起こすことだ。
とはいえ、ガースナーは全くビジョンを持っていなかったわけではない。空中分解しそうなIBMを1つの方向にまとめるためには何かしらのビジョンが必要だ。以前の記事「ビジョンを構成する要素とは一体何なのだろうか?」で書いたように、ビジョンの要件が「目的」、「未来イメージ」、「価値観」の3つであるとすれば、それに該当する要素を同書から読み取ることはできる(価値観の内容は同書からの引用、それ以外は私なりにまとめたものである)。
(1)目的同書を読む限り、ガースナーは「8つの原則」を全社メールで送信した以外は、上記の内容を明文化することは最後までなかったと思われる。昨年11月の記事「<布教>という時代は終わりました−『感じるマネジメント』」でも書いたが、ビジョンの文言そのものではなく、その「解釈」こそが重要なのであり、社員との対話を重ねてお互いの理解に齟齬がないかどうかを確認する作業にガースナーは相当の時間を割いたようである。
IBMの目的は、世界中で一流のインテグレーター事業を展開することである。
(2)未来イメージ
IBMの未来イメージは、「eビジネス」の実現である。具体的には、
(Who:誰に)大企業から中小企業、さらには政府機関や自治体まで世界中のあらゆる組織に対し、
(What:何を)IT戦略立案・システム設計から運用・保守までの一貫したサービスを、
(Where:どこで)当時の主流であったクライアント・サーバーシステムの範囲を超え、今後ますます重要になるグローバル規模のネットワークにおいて、
(How:どうやって)IBMのあらゆるハードウェア、ソフトウェアの独自規格をオープン・アーキテクチャに転換し、競合関係にあるソフトウェア会社とパートナー関係を結んで、自社製品にこだわらず顧客にとって最適なシステムを構築することによって、「eビジネス」を実現する。
(3)価値観
ガースナーは、IBMの新しい企業文化の基礎となる「8つの原則」を掲げた。
1.市場こそが、すべての行動の背景にある原動力である。
2.当社はその核心部分で、品質を何よりも重視する技術企業である。
3.成功度を測る基本的な指標は、顧客満足度と株主価値である。
4.起業家的な組織として運営し、官僚主義を最小限に抑え、つねに生産性に焦点を合わせる。
5.戦略的なビジョンを見失ってはならない。
6.緊急性の感覚をもって考え行動する。
7.優秀で熱心な人材がチームとして協力し合う場合にすべてが実現する。
8.当社はすべての社員の必要とするものと、事業を展開するすべての地域社会に敏感である。
もちろん、経営者の仕事はビジョンの浸透で終わりではない。ビジョンは大まかな方向性にすぎないから、ビジョンを実現するための戦略が必要となる。世界中の組織にインテグレーションサービスを提供するといっても、実際にはもっとフォーカスを絞らなければならない。
・市場はどのようなセグメントから構成されるのか?それぞれのセグメントは成長しているのか、衰退しているのか?
・各セグメントにおける自社のポジションはどうか?競合他社に比べて有利か不利か?
・自社の強みを活かしてさらに優位に立てそうなセグメントはどこか?逆に、競合他社に急速に攻め入られているセグメントはどこか?
・上記のセグメントにおける自社のポジションを強化・回復するのに必要なコア技術および組織能力は何か?
・それらのコア技術および組織能力は、競合他社に比べてどのような状態にあるか?
・競争に打ち勝つためには、それらのコア技術および組織能力をどの水準まで押し上げる必要があるか?
などなど、様々な問いに答えていく。こうしてできあがるのが戦略である。ガースナーは、ビジョンと戦略の違いについて興味深い記述を行っている。
ビジョンを開発するのはじつに簡単だ。ベーブ・ルースがフェンスを指さしたのと変わらない。過去二十年間に、ベーブ・ルースを真似てフェンスを指さした選手が何人いただろう。そして、そのなかで一分以内にそこに本塁打を打った選手が、はたして何人いただろうか。
ビジョンをまとめると、自信と安心感が生まれるが、これはじつはきわめて危険なことだ。ビジョンは大部分、志を表明するものであり、社内に熱意と興奮を作り出す役割を果たす。しかしその性格上、志を現実に変えるための道筋を示す点では役に立たない。
すぐれた戦略は大量の数量分析から始まる。現実をとらえる困難な分析であり、これを知恵と英知、リスクをとる姿勢と組み合わせる。(中略)ガースナーは、マッキンゼー時代にビジョンと戦略を混同している経営者が実に多いことに気づかされたと述懐している。そのガースナー自身が経営者となり、ビジョンと戦略を明確に峻別して経営を行った姿勢からは、学ぶところが非常に大きい。
製品を分解して、コスト、特徴、機能性を検討する。損益計算書と貸借対照表のすべての項目にわたって、客観的に競争相手との比較を行う。競争相手の物流コストはどの水準にあるのか。営業担当者を何人抱えているのか。営業担当者の給与はどう決められているのか。競争相手と比較して、自社は販売会社にどう見られているのか。こうした問いを数百立てて事実を分析し検討し、競争環境の深い評価にまとめる必要がある。
August 19, 2009
ウェブに続く営業活動も見据えたプロセスを設計しよう−『ウェブ営業力』
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株式会社パワーインタラクティブ 渥美 英紀 翔泳社 おすすめ平均: 現代のあるべき会社像を見せる一冊である “ウェブ営業のいろは”と“発想からクロージングまで”の両方が分かる WEBサイトの営業機能カタログ |
powerd by Amazon360
さすがマーケティングの本だね(上から目線…)。普通の本だと、「はじめに」のところで想定している読者層に言及したりするものだが、この本では裏表紙にターゲット顧客と想定ニーズがはっきりと書かれている。
こんな悩みを解決します!私は■の部分に当てはまった。その中でも、「ウェブと営業の連動」について最近ちょうどあれこれと考えをめぐらせていたところだったので、読んでみた。
□ウェブ問合せに営業担当がなかなか動いてくれない!
□ウェブには自信があるのに狙った顧客から問合せが来ない!
□ウェブにどんなコンテンツを載せればよいのか分からない!
□問合せフォームでどんな設問を聞くべきか知りたい!
■限られた予算でもウェブで出来ることを探したい!
■差別化の難しい商品をウェブで売らなければならない!
■販路が限られておりウェブを活用しきれていない!
□事例が出せずに魅力的なコンテンツがウェブにない!
□集客方法で何から手をつけてよいのか分からない!
□企業サイトのウェブマーケティングの基礎をつかみたい!
こんな人におススメです!
□何回もリニューアルしたが売上げにならなかった経営者
□展示会やルート営業に限界を感じている営業部長
■ウェブと営業をうまく連動したいマーケティング担当者
□ウェブからの売上げを効率的に上げたい営業担当者
□何から手をつけて良いか分からない新任ウェブ担当者
法人営業はウェブだけで完結しない
企業サイトのインパクトと重要性は今さら言うまでもない。しかし、BtoBの企業の場合(研修やコンサルティングを行っている私の会社もしかり)、ウェブだけで受注ができない点がBtoCのECサイトと決定的に異なる。ウェブサイトでできることと言えば、「資料請求」や「問合せ」といった名目でリード顧客を作るところまでである。そこからは営業担当者の世界であり、リード顧客を訪問して商談を発掘し、提案書や見積書を作成して顧客の購買意思決定を促すのは営業担当者の役割だ。
となれば、当然ウェブサイトだけを最適化すればいいというわけにはいかず、ウェブと営業を一体として捉える必要がある。
ウェブサイトからの受注を伸ばしたいと思うとき、一般的にはウェブサイトのリニューアルやSEO対策などを想像する人が多いと思います。しかし、それらは営業力活性化の観点からすれば一部であって全体ではありません。まずは受注までのストーリーを見越した全体像の把握が必要となります。全体像を見渡し、ブロックを分けて考えることで、課題と対策が明確になってきます。ここで「受注までのストーリー」と言っているのがこれ。
(※同書を基に作成)
受注までのステップは大きく分けて、「集客」「コンテンツ」「営業フック」「訪問・提案」「受注」の5つのプロセスで整理することができます。SEO対策やリスティング広告では主に「集客」のプロセスにしかインパクトを与えることができません。ウェブサイトリニューアルでは、主に「コンテンツ」、及び問合せやアドレスを獲得するための「営業フック」の2つのプロセスにしかインパクトを与えることができません。さらに、ウェブサイトから営業に引渡し、「訪問・提案」を行なって「受注」に繋がります。仮に広告とリニューアルがうまくいったとしても、営業と連係をとり効果的な提案ができなければ受注にはなりません。だからこそ、今一度受注までの流れを振り返り、各プロセスにおいてパフォーマンスをアップさせる策を練る必要があります。受注までには5つのプロセスがあることを認識した上で、
・それぞれのプロセスにおいて顧客が何を知りたがっているのか?
・次のステップに進むためには顧客のどんなニーズが満たされ、どんな障害が取り除かれる必要があるのか?
を十分に分析する必要がある。その結果を踏まえて、各プロセスで提供する情報やツールを整備しなければならない。これはマーケティング担当者と営業担当者の協力なしにはできないことだ。
ウェブがリッチすぎると、営業担当者がショボく見えるというジレンマ
法人営業は最初のコンタクトから受注までに時間のかかる長いプロセスである。売り手は顧客が知りたがっている情報を一つ一つ丁寧に紐解き、それに対して適切な情報を提供する。この繰り返しで営業活動は進んでいく。当たり前だが、受注までのプロセスが進むに従って顧客が知りうる情報は増えていく。先ほどの図を見ながら私が思ったのは、「各プロセスで提供する情報は、プロセスの後半になればなるほど増えていくように設計しなければならない」ということだ。
この情報量のバランスを誤ると、とんでもないことになる。ウェブで問合せをして営業担当者に来てもらったら、ウェブの内容をコピーしたような提案書を持ってきたとか、ウェブで資料請求をしたら、届いた製品パンフレットの内容がウェブよりもしょぼかった、というのはよくある話だと思う。とりわけ、先走ってウェブであれもこれも情報提供しようとすると、こうした罠にはまる危険性は高くなる。ウェブだけをリッチにすればいいというわけではないのだ。かといって、あまりに簡素化してしまうと何も伝わらないウェブになってしまう。後に続く営業活動を見据えながら、ウェブコンテンツの量と内容を最適化することがマーケティング担当者には求められる。そして、ウェブに続く営業活動において、営業担当者が顧客の期待に応えられる情報を提供できるよう、必要なツールやサポートを用意することもマーケティング担当者の重要な仕事である。
ウェブがリッチであることを堂々と宣言している企業は、自社の営業担当者がウェブ以上に強力で有益な情報を顧客に対して提供できることを約束していることになる。この本にはたくさんの事例が紹介されているが、中でも印象的だったのはIBMの事例だ。ウェブ訪問者が自社の課題を選択し、導入時期や導入予定人数(ソリューション対象人数)などのシステム導入条件を指定すると、自社に合ったソリューションや料金例が記載された提案書が自動的に作成される。課題や導入条件もかなり細かく指定することができる。(※)
http://www-06.ibm.com/jp/press/20061130001.html
通常であれば、顧客の課題や導入条件を聞き、顧客に合った提案書を作成するのは営業担当者の役割である。それをウェブで実現してしまうということは、IBMの営業担当者は顧客の課題をもっと深く理解し、ソリューションをもっときめ細かく顧客視点で設計することができるのだと暗に訴えているようにも感じられる。
話が長くなったが、私もこの本を参考に自社の営業プロセス全体を見直してみよう。
(※)1ヶ月ぐらい前まではこの機能が使えた(私も使ってみた)のだが、残念ながらこの記事を書いている時点(8月19日)では該当ページが見当たらないようだ。