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June 05, 2012

《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(6.ラーニング・スクール)

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ヘンリー ミンツバーグ ジョセフ ランペル ブルース アルストランド Henry Mintzberg

東洋経済新報社 1999-10

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 前回のコグニティブ・スクールが戦略家1人の認知に焦点を当てていたのに対し、ラーニング・スクールは組織全体の認知を扱っている。ミンツバーグ自身がこのラーニング・スクールと、最後のコンフィギュレーション・スクールに属しているため、この2つの学派には他の学派よりも多くのページが割かれている。

 なお、デザイン・スクールの記事の冒頭で書いたように、戦略論には2大アプローチ、すなわち外部環境アプローチと内部環境アプローチがあるが、ミンツバーグは前者を第3学派のポジショニング・スクールに分類する一方で、後者のうち、ゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードの「コア・コンピタンス」は今回のラーニング・スクールに、J・B・バーニーの「資源ベース論」は第8学派のカルチャー・スクールに敢えて分けている。その理由は次のように述べられている。
 資源基礎理論というのは、組織の発展段階において、企業の内的能力を根づかせることの重要性を強調している。これは実際には、カルチャーに根づかせることとも言える。一方、プラハラードとハメルの主張するダイナミック・ケイパビリティ・アプローチは、本質的には戦略的学習のプロセスを通じて開発していくものであると力説している。
 つまり、資源ベース論は、競争優位となる経営資源の”固定化”、あるいは社会構成主義の言葉を借りれば”沈殿化”を志向しているのに対し、コア・コンピタンスは、ハメルとプラハラードが指摘したもう1つの重要な要素である「戦略的意図(strategic intent)」に沿って、組織学習を通じて新たに獲得されるものである、ということなのだろう。

 私自身もラーニング・スクールに近い立場を取っており(もっとも、私の考えが理論と呼べるほどに高度化されていないのが問題なのだが、汗)、10の学派の中ではラーニング・スクールに最もポテンシャルを感じている。ただ、この記事の最後に列挙した問題点以外に、重大な問題が潜んでいるのも事実である。

 ラーニング・スクールには、第1〜第3学派の規範的スクールに浴びせられている批判、すなわち「戦略形成が現場から切り離された分析に頼りすぎている」という批判とは逆の批判が当てはまる。具体的に言えば、”現場”と”集合的思考”を重視・万能扱いしすぎている、ということである。確かに、戦略的に重要な示唆は、顧客との接点が多く、競合からのプレッシャーを感じている現場の方が敏感に感じ取るかもしれない。また、集合的思考が天才の思考をしのぐこともある(例えば、以前の記事「「みんなの意見」が案外正しくなるためには、個人が自立していないとダメ」を参照)。

 とはいえ、現場が日常業務に忙殺され近視眼的になっていると学習の時間など取れないし、集合的思考は「集団思考(グループ・シンキング)」の罠に陥ることがある。だから、組織学習の効果を高めるためには、逆説的だが”現場を離れて”、”1人で考える”機会を持つことも重要だと思うのである。

 アン・モロウ・リンドバーグは、『海からの贈物』の中で、「或る種の力は、我々が一人でいる時だけにしか湧いてこないものであって、芸術家は創造するために、文筆家は考えを練るために、音楽家は作曲するために、そして聖者は祈るために一人にならなければならない」と述べている。この文章の途中に、「ビジネスマンは戦略を練るために」という一節を加えることもできるだろう(以前の記事「孤独と闘う「準備ルーチン」が創造性を生む」を参照)。

【第6学派:ラーニング・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)チャールズ・リンドブロムの「非連結的漸進主義」(政治における戦略形成。政策立案は連続的で改善的であるが、細かく分断された非連結的である。意思決定は周辺部で行われ、機会の開拓よりも問題の解決に注力する)
(2)ジェームズ・ブライアン・クインの「論理的漸進主義」(リンドブロムの非連結的プロセスには同意せず、論理的に物事をつなぎ合わせていく漸進主義であるとした)
(3)R・Rネルソン&S・G・ウィンターの「進化論」(組織は複数のサブシステムから構成されており、サブシステムのルーチンが新しい状況に反応して変更されるとにより、その変化が他のサブシステムにも及ぶ)
(4)ロバート・バーゲルマンの「戦略的起業化」(アントレプレナー・スクールにおける起業化とは異なる。ビジネスの前線とミドルマネジャーの活動から「出現」する戦略のイニシアチブを扱う)
(5)ヘンリー・ミンツバーグの「創発的戦略」(学習を強調した戦略形成プロセスであり、様々活動を通じて、何が最も重要な経営意図であるかを理解するプロセスと捉える。ただし、計画的戦略との組合せが必要)
(6)カール・ワイクの「回顧的意味づけ」(まず行動する。そしてうまく機能するものを選択する。つまり、行動を振り返ってその行動に意味づけを行う)
(7)野中郁次郎の「知識スパイラル(SECIモデル)」
(8)ゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードの「コア・コンピタンス」
(9)ピーター・センゲの「学習する組織」

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チャールズ・E. リンドブロム エドワード・J. ウッドハウス Charles E. Lindblom

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<特徴>
(1)組織を取り巻く環境の複雑さと予測不可能な性質は、しばしば戦略に必要な基礎的知識の拡散とともに、計画的なコントロールを不可能にする。戦略作成は、まず時間の経過にしたがって学習するプロセスの形を取り、最終的に策定と実行の境界の区別がなくならなければならない。
(2)リーダーも学習しなければならず、時として学習者の中心となるが、通常の場合、学習するのは集合的なシステムである。すなわち、ほとんどの組織に戦略家となる可能性を秘めた多くの人が存在する。
(3)こうした学習は創発的な形をとる。まず行動から始まり、そして回顧し、思考が刺激され、新たに行動の意義づけが行われていく。
(4)リーダーシップの役割は、あらかじめ計画的な戦略を作り上げることではなく、新たな戦略が出現するように、戦略的学習のプロセスをマネジメントすることである。
(5)戦略は最初に過去からのパターンとして現れ、後に場合によっては将来へのプランとなり、最終的に全般的な行動を導くパースペクティブへと進化する。

<功績>
(1)ポジショニング・スクールが、複雑な問題に当たり前の解決策しか提示しないのに比べ、新たな戦略を必要とする組織では、集合的に学習する以外に選択の余地がないことを示した。
(2)集合的学習は、特に病院や議会のような専門的組織で必要であるとした。なぜなら、これらの組織では、戦略創造に必要な知識が広範囲分散しているからだ。そのため、組織の様々な関与者が、相互に調整を行いながら、努力して戦略を形成しなければならない。
(3)これまでに触れてきた他のスクールに欠けていた、戦略形成の研究に現実性を与えた。記述的な調査に基づき、組織が何をすべきかというより、複雑でダイナミックな状況に直面した時に組織が実際どう動くのかを示した。記述的ではあるけれども、よい記述は規範ともなりうる。

<問題点>
(1)危機が非常に明確であり、忍耐強い学習に頼っていられない場合もある。そこで組織は、危機を救えるような戦略的ビジョンをすでに持った、強力なリーダーを必要とする。また、もっと安定した状況であっても、組織によっては拡散した学習よりも、中央集権的な起業家精神が生み出す力強い戦略的ビジョンを必要とすることもある。
(2)学習を強調しすぎると、筋の通った実行可能な戦略を摩滅させてしまうことにもなりかねない。人々は、うまく機能するものから離れて、新しいとかもっと面白そうだからという理由で学習と付き合う危険性がある。
(3)恒常的な変化が必要かどうかは別の問題である。秘訣は、いつも全てを変えるのではなく、いつ何を変えるべきかを知ることである。効果的なマネジメントとは、うまく機能する戦略を追求しながら学習を維持することであることを忘れてはならない。
(4)学習は高くつく。時間がかかるし、果てしない会議や溢れんばかりの電子メールを生み出す。組織は、「何について学ぶか」を知る必要がある。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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April 11, 2012

効率一辺倒ではなく「冗長性」を取り込んだBPR(業務改革)の必要性

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 以前の記事「BPR(Business Process Re-engineering:業務改革)の火付け役=マイケル・ハマーの誤算」への補足。同記事では、マイケル・ハマーが後年の著書"Beyond Reengineering: How the Process-Centered Organization Is Changing Our Work and Our Lives"(『リエンジニアリングを超えて』)の中で、自身の行き過ぎた手法を反省していることを述べたが、たまたま野中郁次郎教授の同じタイトルの論文を見つけたので読んでみた。

Beyond Reengineering: How the Process-Centered Organization Is Changing Our Work and Our LivesBeyond Reengineering: How the Process-Centered Organization Is Changing Our Work and Our Lives
Michael Hammer

HarperBusiness 1996-07-04

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リエンジニアリングを超えて(野中郁次郎)リエンジニアリングを超えて
野中郁次郎

白桃書房 1994-09-20

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 野中氏によると、「官僚制の『逆機能』を排除し、階層・分業・専門化の縦型組織から、境界横断的な横型組織の運営を開発する試み」であるリエンジニアリングは、実は日本的経営と共通点が多いという。
 日本企業の組織図は表層的には、階層・分業・専門化されていて、それなりの職務分掌規定もあるが、実際には組織性インはそのような原理に則って仕事をしているというよりは、職務の幅を柔軟に変化させながら自在なプロセスで仕事を行なっている。さらに(リエンジニアリングの特徴の1つである)コンカレント・エンジニアリングは、日本企業では、とりわけ新製品開発においてほとんどの企業が行なっているのである。
 しかし一方で、リエンジニアリングと日本的経営の決定的な違いの1つが「冗長性の有無」である。冗長性とは、異なる成員が似たような仕事をしていたり、当面は必要のない情報を持っていたりすることを意味する。野中氏は、こうした冗長性を許容しないリエンジニアリングの下では、新しい知識の創造を通じたイノベーションが生まれないのではないか?と指摘している。
 リエンジニアリングは顧客をリサーチし、他社をベンチマークしながら、最短のプロセスを情報技術を最大限に活用して設計するため、論理的にはきわめて効率的であるといえる。これに対し日本型のビジネス・プロセスは、いかにも冗長性が高い。しかし一方で、市場は分析的に把握できるという前提から、一切の冗長性を切り捨てたリエンジニアリングでは、市場に適応できてもより主体的な市場創造ができるかどうかは疑問である。
 私もコンサルタントとして多少なりとも戦略策定プロジェクトや業務改革プロジェクトに携わってきたけれども、極限まで合理化された戦略策定プロセスやBPRは、様々な冗長性を排除してしまう。イノベーションに向けた現場レベルでのアイデアの創出や実験、(特に若手社員の)人材育成、戦略の前提となるビジョンや組織文化の共有などは、真っ先に排除されるタスクの代表例である。しかし、中長期的な視点で見ればこういう仕事が重要であることを、多くの人は頭の中で理解しているものである。

 だから、敢えてこういった冗長性を最初から組み込んだ戦略策定プロセスやビジネスプロセスデザイン、組織デザインの方法を考え出す必要があると思う。あくまでもアイデアベースだが、1つには戦略策定の段階で、コアとなるターゲット顧客層に加えて、サブとなる小規模の顧客セグメントをいくつか定め、そのセグメントに対するマーケティングや製品開発・販売などを通じて若手社員や新人マネジャーの育成を狙う、というアプローチがあり得るだろう。

 また、ドラッカーはイノベーションを起こすためには「非顧客を観察せよ」と繰り返し説いていることから、例えば営業担当者に本来の担当顧客とは全く異なる属性を持つ顧客をわざと訪問させ、自社の製品を見せたらどういう反応を見せるのか?彼らはどういう潜在ニーズを持っているのか?などを探ってもらうタスクを追加する、というのも1つの手かもしれない。
October 20, 2010

コルブの経験学習モデルの欠点を補った実証研究−『経験からの学習』

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松尾 睦
同文舘出版
2006-06-23
おすすめ平均:
あらゆる組織人にオススメ!
プロフェッショナルの育成への実践的視点
経験から学習するメカニズムを解明!
posted by Amazon360

 営業担当者、システムエンジニア、コンサルタントといった、顧客との密なリレーションの中で仕事をするプロフェッショナルに焦点を当てて、経験学習のメカニズムを明らかにした実証研究。研究のベースになっているのは、経験学習の代表的なモデルであるコルブの学習サイクルである。
具体的経験(Concrete Experience)
 その人自身の状況下で、具体的な経験をする。
省察(Reflective observation)
 自分自身の経験を多様な観点から振り返る。
概念化(Abstract Conceptualization)
 他の状況でも応用できるよう、一般化、概念化する。
試行(Active Experimentation)
 新しい状況下で実際に試してみる。
 著者によると、コルブの経験学習モデルは個人単位で完結しており、個人を取り巻く「環境要因」の影響が考慮されていない。また、4つのプロセスは比較的表面的な認知活動を指しており、それらを背後からつかさどる「メタ認知」の視点が抜けているという。

 そこで、著者は新たに「環境要因」と「メタ認知(同書の中では、「信念」という言葉に置き換えられている)」という2つの要因を付け足して、経験学習モデルを再構築している。その上で、営業担当者らを対象とした定性・定量調査を通じ、プロフェッショナルの経験学習を促進する環境要因と信念を分析している。

 結論は至ってシンプルなものであり、経験学習を促進するのは(a)健全な内部競争、(b)顧客志向の風土という2つの環境要因と、(c)目標達成志向、(d)顧客志向という2つの信念であるという。結論だけを見れば、おそらく多くのビジネスパーソンにとってそれほど目新しいことはないように思われるが、我々の経験則が統計的解析によって実証されたことに価値があるだろう。

 しかしながら、本書で論じられているのは「単一の職種における現場社員の経験学習」である。言うまでもなく、多くの社員は複数の職種の間を渡り歩くし、現場から管理職への昇進も経験する。その意味では、本書の研究対象は「最小単位の経験学習」にとどまっている。

 本書の研究からさらに論点を広げるとすれば、

<別の職種への異動に関して>
 ・別の職種に異動した後、目覚しい成果を上げる人とそうでない人の間には、どのような経験学習の違いがあるか?
 ・別の職種に異動した後、前の職種での経験学習は新しい職種での経験学習にどのように影響するか?

<同一職種内における管理職への昇進に関して>
 ・管理職の経験学習プロセスは、現場社員の経験学習プロセスとどのような相違点が見られるか?
 ・同一の職種で現場社員から管理職に昇進した後、管理職として目覚しい成果を上げる人とそうでない人の間には、どのような経験学習の違いがあるか?
 ・同一の職種で現場社員から管理職に昇進した場合、昇進前の経験学習は管理職としての経験学習にどのように影響するか?

<未経験職種の管理職への昇進に関して>
 ・未経験職種の管理職に昇進した場合、同一職種内で管理職に昇進した人の経験学習プロセスとどのような相違点が見られるか?
 ・未経験職種の管理職に昇進した後、目覚しい成果を上げる人とそうでない人の間には、どのような経験学習の違いがあるか?
 ・未経験職種の管理職に昇進した場合、昇進前の経験学習は管理職としての経験学習にどのように影響するか?

などといった論点が挙げられる。これらの実証研究が進むと、かなり面白い結果が得られるような気がする。

 もう1点付け加えるならば、著者による修正版の経験学習モデルは、組織から個人に対する一方的な影響のみを取り上げており、個人から組織への影響は考慮されていない。特定の社員の進取的な活動が、組織の旧来的な風土を破壊し、時代と環境に適合した新たな価値観や規範を組織内に構築することもある。個人と組織の間に見られるこうした相互作用を、経験学習の枠組みに取り入れる余地もあるように思える。