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October 31, 2011
従来の「ソフト・パワー」は「知的パワー」として再構成できるのでは?(2/2)―『スマート・パワー』
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(前回の続き)
文化とは、映画や音楽、アートや文学作品が中心であるから、別の表現を使えば「コンテンツ」となるだろう。また、もっと広い意味で捉えれば、文化は国民の「知的な資産」であるとも言える。そこで、文化を含む第4のパワーを、ソフト・パワーではなく、「知的パワー」として再構成することが可能なのではないだろうか?「知的パワー」の中身を私なりに試みたのが下表である。
具体的な手段 | 資源 | 活用能力 |
(1)デファクトスタンダードの形成 | ・デファクトスタンダードそのものの有用性 | ・ステークホルダーを巻き込む交渉力 ・高度な機能よりも利便性を追求した規格・基準の策定能力 |
(2)知的財産の保護 | ・知的財産をグローバルレベルで保護する法体系 ・法律運用のための専門的人材 |
・知的財産に関する法体系に精通した人材を国家レベルで育成する能力 |
(3)文化の発信 (a)エリート層レベル=官僚の人材交流、留学生の受け入れなど (b)大衆レベル=映画・音楽・文学作品の輸出など |
・文化そのものの魅力 | (a)エリート層レベル ・相手国内で影響力を有するエリート層を特定し、自国の文化を売り込むマーケティング力 ・高等教育機関、およびその周辺地域における留学生の受け入れ体制の整備する能力 (b)大衆レベル ・コンテンツ産業の構造的な不備(劣悪な労働環境など)を是正する能力 ・文化の担い手を育成するために効果的な教育投資を行う能力 |
(4)経済・社会基盤の高度化を支援する具体的な技術・ノウハウの提供 | ・実績のあるノウハウ自体の有用性・魅力 ・上記の技術・ノウハウを蓄積する業界別/領域別専門組織 |
・自国の強みとなる技術・ノウハウを特定し、それを必要とする国へと売り込むマーケティング力 ・多様な国・地域で自国の技術・ノウハウを提供できるグローバル人材を国家レベルで育成する能力 |
文化は、相手国がそれを受け入れるかどうか自由であるという点で、ソフトな知的パワーと言える。それでは、知的パワーのハードな側面、すなわち、自国の知的資産を相手にも強制できる手段とは何か?その1つが「デファクトスタンダード」であろう(※12)。通常、デファクトスタンダードは、マイクロソフトのWindowsやブルーレイのように、市場での競争を通じて形成されるものだ。ところが、中には国策としてデファクトスタンダード化を進めるべきものもある。デジタルテレビ放送の規格は、その一例である。
デジタルテレビ放送の規格には、 DVB(欧州において開発され、50以上の国で採用)、ATSC(アメリカで開発された地上波用規格で、北中米地域や韓国で採用)、ISDB(日本で開発された規格で、採用は日本のみだが、南米諸国は派生規格SBTVD-Tを使用)、SBTVD-T(ブラジルをはじめとする南米諸国で採用されているほか、フィリピンでも採用が決定)、DTMB(中国方式のデジタル放送で、ラオスが採用)がある(※13)(※14)。
諸外国は、自国の規格を新興国や途上国に売り込もうと国を挙げて取り組んでいる。それに比べると、日本はどうも腰が重いように見えて仕方がない。一応、南米諸国を中心に日本の規格が導入されたことにはなっているものの、南米諸国が導入しているのは、ISDBを改良したSBTVD-Tであり、純粋にISDBを導入しているのは日本だけである。ここでもまた、ガラバゴス化の悪夢が脳裏をよぎる(※15)。
「βマックス VS VHS」や「ブルーレイ VS HD DVD」などの規格争いの歴史を振り返ると、技術的に優位な方が勝つとは限らず、使い勝手がよくてコストパフォーマンスに優れた規格が勝利することが多い。消費者にとって重要なのは、美しい画質を保つ技術などではなく、長時間録画できることなのである。規格争いにおいては、この点に留意する必要があるだろう。
デファクトスタンダードは、自国の技術や製品を他国にも半ば強制的に使わせる手段(言い方に品がないが・・・)であるが、逆に自国の技術や製品を他国に勝手に使わせないようにする防衛策も用意しなければならない。それが2番目に挙げた「知的財産の保護」である。模倣品の製造や特許の無断使用など、知的財産の直接的な侵害に対しては断固たる措置を取るべきなのは論を待たないが、知的財産の”間接的な侵害”にも今後は注意を払う必要がありそうである。
先ほど登場した「ブルーレイ VS HD DVD」は、ソニー、パナソニック陣営のブルーレイが勝利を収め、東芝、ワーナー・ブラザーズ陣営のHD DVDの敗北で幕を下ろしたように見えたけれども、実はここで話が終わったわけではない。2008年8月、中国政府は中国独自のDVD規格である「CBHD」をスタートさせたが(※16)が、実はその裏で東芝のMr.DVDこと山田尚志氏とワーナーホームビデオ元社長ウォレン・リーバファーブ氏が動いていたという話もある(※17)。
さらに悪いことに、中国企業は東芝からHD DVD関連の部材や金型など一式を安く買い叩き、それを使って製造している上に、東芝で光ディスク関連の仕事をしていた技術者も大量に中国側に渡っており、部品だけでなく光ディスク関連の技術までかなり流出しているらしい(※18)。仮に、中国で安く生産されたCBHDおよびCBHD対応レコーダーが日本に大量に入ってきたら、ブルーレイは中国勢に太刀打ちできなかったかもしれない。
もっとも、最近ではテレビに最初から大容量のHDDがついており、わざわざDVDを買って録画する必要もなくなってきたので、その心配はなさそうである(※19)。ただ、DVDをめぐる規格争いから言えるのは、「勝者の知的財産だけでなく、敗者の知的財産も保護する仕組みを整えなければならない」ということである。規格が高度になればなるほど、敗者が抱える知的財産は膨大になる。敗者の知的財産が安易に他国(特に新興国)に流れないようにすることも、政府や法律の役割になるのかもしれない。
以上が「知的パワー」のハードな側面であったが、ソフトな側面としては、まず第一に、元々の「ソフト・パワー」から「政治的価値観」、「外交政策」を取り除いた「文化」が挙げられる。文化はさらに、エリート層で影響力を持つ文化と、大衆レベルで影響力を持つ文化に分けられる。大衆レベルでの文化は、基本的に市場でやりとりされる性質のものであるから、政府が関与できる余地は少ない。とはいえ、政府にもやらなければならない仕事がある。
日本のマンガやアニメは世界で高い評価を受けているものの、クリエイターの労働環境は劣悪であると言われる。また、クリエイターを積極的に育成する仕組みも乏しい。東京都がニューヨークに倣ってクリエイター育成事業を立ち上げたことはあるものの、全国的な動きにまでは発展していない。コンテンツ産業の構造的な欠陥の是正が、これからの政府や各地の自治体には求められるだろう。
「知的パワー」の最後に掲げた「経済・社会基盤の高度化を支援する具体的な技術・ノウハウの提供」は、以前の記事「「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』」で取り上げた「経済力パワー」に関して、「開発援助だけでは不十分だ」と述べた部分と関連している。
アフリカの子どもたちにワクチンを提供するための資金をポンと渡すだけではなく、衛生状態の改善や医療体制の整備、農業の生産性向上、食料品の安全性確保、子どもたちの疾病・栄養改善の状況をモニタリングする仕組みの導入など、先進国が持っているノウハウや技術と合わせて提供することが、「知的パワー」におけるソフト面になると考えられる(※20)。
(これで本当に終了。ここまでお付き合いいただいた読者の皆様、ありがとうございました)
(※12)市場の実勢によって事実上の標準となった規格を「デファクトスタンダード(de facto standard)」と呼ぶのに対し、公的機関や標準化団体が策定した標準規格を「デジュリスタンダード(de jure standard)」と呼ぶそうだが、今回の記事では特に区別をせずに「デファクトスタンダード」とした(「放送規格は市場が選択するデファクトスタンダードではなく、国策によるデジュリスタンダードである」を参照)。
(※13)中国のDTMB以外の規格については、「デジタルテレビ放送 放送技術の規格|Wikipedia」を参照。
(※14)中国のDTMBについては、「じじぃの「TD-LTE規格・中国の世界標準戦争!WBS」(老兵は黙って去りゆくのみ、2011年1月7日)」を参照。
(※15)Wikipediaでは、日本のデジタル放送規格は、すでにガラバゴス化扱いされている(「ガラパゴス化」の「デジタルテレビ放送」の項を参照)。
(※16)「中国版高精細光ディスク「CBHD」が始動」(日経BPnet、2008年8月1日)
(※17)「HD DVDの敗戦 後編」(Outsider-Bros.、2008年6月5日)
(※18)「中国独自次世代DVD規格「CBHD」用プレーヤーの正体」(ポケットニュース、2008年8月15日)
(※19)「特需終わったBDレコーダー、2カ月で1万円安も」(日本経済新聞、2011年9月20日)
(※20)参考までに、私が以前書いた記事「日本が生き残る道は世界に向けた「技術と文化の発信」ではないか?」のリンクを載せておく。
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◆ジョセフ・ナイ関連の記事一覧
《『ソフト・パワー』のレビュー記事》
映画や音楽などの大衆文化も外交上の重要なパワー源になる―『ソフト・パワー』
旧ソ連の共産主義が敗れたのは大衆文化を輸出しなかったせい?(1/2)―『ソフト・パワー』
旧ソ連の共産主義が敗れたのは大衆文化を輸出しなかったせい?(2/2)―『ソフト・パワー』
アメリカが全世界に資本主義を浸透させられる日は本当に来るのか?―『ソフト・パワー』
《『リーダー・パワー』のレビューに先立って試みた、主要なリーダーシップ論の個人的整理シリーズ》
【第1回】整理の軸と考え方&特性論・性格論偏
【第2回】ジョン・コッター、ウォーレン・ベニス、ジェームズ・コリンズ編
【第3回】ハーシー&ブランチャード、ジョセフ・バダラッコ編
【第4回】D・E・メイヤーソン、ピーター・センゲ編
《『リーダー・パワー』のレビュー記事》
「ハード・パワー」「ソフト・パワー」と、両者の橋渡し役「スマート・パワー」の整理―『リーダー・パワー』
ハード/ソフトのバランスが取れたリーダーシップ論―『リーダー・パワー』
リーダーのスキルの羅列にとどまらず、「倫理性」にまで踏み込んだ議論を展開―『リーダー・パワー』
【補足】「偉大なる脅迫者」に関する余談―『リーダー・パワー』
《『スマート・パワー』のレビュー記事》
あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』
新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』
「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』
従来の「ソフト・パワー」は「知的パワー」として再構成できるのでは?(1/2)―『スマート・パワー』
従来の「ソフト・パワー」は「知的パワー」として再構成できるのでは?(2/2)―『スマート・パワー』
October 28, 2011
従来の「ソフト・パワー」は「知的パワー」として再構成できるのでは?(1/2)―『スマート・パワー』
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前回「「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』」の続き。『スマート・パワー』のレビューは今回と次回でもう本当に最後(ナイは、「アメリカは21世紀にも最強国の地位を維持する可能性が高い」と強気な姿勢を崩していないけれども、国際政治の舞台におけるアメリカの相対的なパワーの弱体化は、ナイの予測よりも早い時期に始まるのではないか?という記事を書こうとしたが、もうキリがないのでやめました)。
前回の記事に2点ほど補足だが、経済力の手段の1つである「経済的制裁」は、実は直接的な効果が小さいという研究を、ナイは本書の中で紹介している。この研究では、「貿易制裁によって強制や相手国の政権転覆に成功することはほとんどなく、相手国を制約する効果は限られている」と結論づけられているそうだ。これを受けてナイは、「有名なキューバの『失敗』に戻ると、制裁でカストロ政権を転覆することはできず、国際的な影響力の行使を少し抑えただけであった」と指摘している。
しかしながら、制裁の間接的な効果として、ナイが紹介した研究では、「国内外に向けたシグナルとしては成功することが多い」という点が挙げられている。ナイによると、キューバへの制裁は、「アメリカ国民や他国に対し、ソ連と同盟すれば高くつくというシグナルを送ることができた」という。
もう1つの補足は、これも経済力の手段である「開発援助」に関するものだが、ナイは「今日、経済学者は経済開発の明確な原則について合意できておらず、援助が役立つかどうかについてすら、意見が対立している。援助は、依存の文化や政府の腐敗などの原因になって逆効果だとする主張すらある」と述べており、開発援助もまた制裁と同様に、その効果に疑問が残るとしている。
多くの開発支援が狙い通りの成果を上げられない中で、例外的に目覚ましい成功を収めたマーシャル・プランについては、「ヨーロッパの経済はすでに発展していたので、必要なのは復興だけだった」とナイは分析している。言い換えれば、ヨーロッパには十分な経済基盤があったため、資金さえ与えればあとはヨーロッパ各国がそれをうまく活用すればOKだった、というわけだ。
裏を返せば、経済や社会の基盤が整っていないところに資金だけを与えても、大した効果は出ないということになる。日本は長年にわたってアフリカ諸国に多額の開発援助をしてきたが、世界的な反捕鯨の気運に対抗すべく、アフリカ諸国を味方につけることが援助の目的だったわけではない。
では、アフリカ諸国は、日本(を含む世界各国)から受けた開発援助の額に応じた発展を遂げているかというの問いに対して、自信を持って”Yes”と答えられる政府関係者や支援組織がどのくらいいるのであろうか?開発支援で重要なのは、資金の多寡ではなく、相手国の経済や社会の高度化を意図した具体的な支援策の提供ではないだろうか?
◆サイバー・パワー
サイバー・パワーについては、以前の記事「新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』」である程度述べたので、表の掲載と簡単な補足にとどめておく。
具体的な手段 | 資源 | 活用能力 |
(1)ネットワークの監視・検閲 |
※それぞれの主体が異なる資源を有する (a)主要国政府が有するネットワーク ・インフラ、教育投資 ・サイバー領域における法的規制 (b)大規模な企業・組織による高度なネットワーク ・独自ソフト、アプリケーション ・ブランドと名声 (c)結びつきが弱い個人によるネットワーク ・参入コストの低さ ・退出の容易さ |
・高度なIT・通信技術 |
(2)ネットワークへの物理的・論理的侵入、および破壊 |
||
(3)ネットワーク上でのコミュニティ形成 | ・自らの属性、思想、嗜好、個性などを他のコミュニティメンバーに訴求する能力 ・他のコミュニティメンバーから信頼を得る能力 |
|
(4)ネットワーク上でのネガティブキャンペーン (ネットワーク上での「名指し非難」) |
・信頼性のあるストーリーの構築能力 ・メッセージの内容が変質しないようにモニタリングする能力 |
本書では、「(a)主要国政府が有するネットワーク」、「(b)大規模な企業・組織による高度なネットワーク」、「(c)結びつきが弱い個人によるネットワーク」という3つのネットワークが有する資源がもっといろいろ記述されている。しかしながら、「これは資源と言えるのか?」と疑問に感じるものも含まれていたため(例えば、「主要国政府」の資源に「サイバー攻撃とサイバー防衛」とあるが、これは資源ではなくて、パワーを発揮する手段なのでは?など)、一部の資源にとどめた。
また、厳密に整理するならば、この3つのネットワークがそれぞれ固有の資源を有するので、「手段―資源―能力」の組合せは全部で12パターンになるのだが、そこまで細かく整理するのはもう大変。よって、上の表でご容赦いただきたい。
1点補足すると、(4)の「ネットワーク上でのネガティブキャンペーン」は、経済力の手段にあった「相手国や相手国企業の経済的不正・不備を名指しで非難」をネットワーク上で展開することである。経済力の場合は、公的な機関やマスコミを通じてメッセージを発信するから、メッセージの内容が変質することは少ない(もちろん、マスコミが情報操作していないかどうか注意を払う必要はあるが)。
これに対して、サイバー・パワーの場合は、ネットワーク上で不特定多数の人や組織が伝言ゲームのようにメッセージを伝えていく。その過程で、当初の狙いとは異なる内容にすり替わってしまったり、虚偽の情報が混じり込んだりする危険性がある。サイバー空間においては、こうした意図せぬ変質が起きていないかどうか、メッセージの発信者とコミュニティメンバーが綿密にモニタリングすることがより重要になると考えられる。
◆知的パワー
軍事力、経済力、そしてサイバー・パワーにハードとソフトの両面があることは、これまで何度も述べてきたが、ここで困った問題が生じる。それは、文化、政治的価値観、外交政策の3つを資源とする、元々の「ソフト・パワー」の位置づけである。ソフト・パワーが特定のパワーのソフトな面を指すのであれば、「ソフト・パワー」というカテゴリが独立して存在するのは、論理的には合点がいかない。言い換えれば、「ソフト・パワー」にはソフトな一面しかないというのでは、他のパワーとのつじつまが合わないのである。
そこで、私はこう考えることにした。文化、政治的価値観、外交政策のうち、「政治的価値観」は各パワーを発揮する手段に反映される考え方である。例えば、経済力を発揮して関税を高くしようとする国は、自国の保護主義を経済政策に反映している。逆に、最近話題になっているTPP(環太平洋経済連携協定)を積極的に推進する国々は、自国の開放的な市場原理を経済政策に反映させており、日本など保護主義的な政策をとる諸外国に対して圧力をかけていると言える。
また、軍事力を発揮して同盟関係の強化を求める国は、「どの国が自国にとって脅威であり、その脅威を防ぐためにはどの国との同盟を重視すべきか?」という政治的な構図を念頭に置いている。言うまでもなく、現在のアメリカにとって最大の脅威は中国であって、中国が日本の領海を通り越し、太平洋におけるアメリカの覇権を脅かすケースを常に想定している。そして、日本に対し”防波堤”としての役割をこれまで以上に要求しているのである(それを、民主党政権はぐちゃぐちゃにしてしまったわけだが)。したがって、「政治的価値観」は他のパワーに吸収させてしまって構わないのではないか?と考える。
「外交政策」に関しても、これを単独で切り出すというより、「軍事外交」、「資源外交」などという言葉があるように、軍事力、経済力、サイバー・パワーを発揮する手段と関連させて捉えた方が解りやすい。そうすると、残るのは「文化」となるわけだが、これをどう位置づけるかが次の論点になる。
(続く)
October 27, 2011
「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』
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再びジョセフ・ナイの『スマート・パワー』のレビュー。よく考えると、先月末から今月にかけて、ほとんどナイの著書に関する記事ばかりになっているな。いやぁ、そのぐらい書かないと、著書の内容を自分なりに咀嚼できなかったんですよ(苦笑)。
《『スマート・パワー』に関するこれまでの記事》
あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』
新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』
さて、これまで「パワーを発揮する」という表現を何度か使ってきたが、この言葉の意味をもう少し厳密にしておきたい。パワーを発揮するとは、ある具体的な「手段」を打つことである。そして、その手段を講じるには、何らかの資源が必要となる。ところが、資源があれば十分というわけではない。お金があれば事業が成功するわけではないのと同じだ。資源と手段の間には、資源をうまく活用するための「能力」が介在する。
これを端的に表すと、今回の記事タイトルにもあるように、「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」というモデルができ上がる。これが、「パワーを発揮する」という表現の意味するところである。ちなみにナイは、「資源⇒変換戦略⇒望む結果」というモデルを用いており、資源と変換戦略の間に「状況」、変換戦略と望む結果の間に「スキル」を介在させている。
2つの介在要因に関しては、ある資源を活用した変換戦略は状況によって規定され、変換戦略が望む結果につながるかどうかはスキルによって決まることを意味していると考えられる。しかしながら、個人的に解りにくいモデルだったので(今こうして文章にしてみても、自分で何を書いているのかよく解らないので)、前述のように単純なモデルを使うことにした。
先ほどの「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」というモデルを用いて、軍事力、経済力、サイバー・パワーの具体的な内容を私なりに整理してみたいと思う。ただ、この整理の過程で、文化、政治的価値観、外交政策を資源とする「ソフト・パワー」が宙ぶらりん状態になってしまうことに気づいた。この点をどう解消すればよいかも含めて、以下順番にパワーの中身を見ていきたいと思う。
◆軍事力
軍事力に関しては、前述のモデルに近い形でナイが整理をしている。本書より引用した表が下表である。
行動のタイプ | 形式 | 戦略的成功の鍵となる資質 | 使用される資源 |
(1)物理的強制 | 物理的破壊 | 能力 | 人員、武器、戦略 |
(2)強制するとの脅し | 威嚇外交 | 能力と信頼性 | 機敏な外交 |
(3)保護 | 同盟と平和維持 | 能力と信用 | 軍隊と外交 |
(4)支援 | 援助と訓練 | 有能さと善意 | 組織と予算 |
ただ、ちょっとこの表はいくら何でも乱暴なんじゃないかなぁ、ナイ教授・・・。「戦略的成功の鍵となる資質」に「能力」という言葉が頻繁に登場するけれども、あまりにモヤっとしすぎている。そりゃ、何をやるにしても何かしらの能力は必要だろうが、具体的にどういう能力なのかもう少し踏み込んでほしかった。というわけで、私が個人的に整理し直したのが下表である(もちろん、これでも十分とは言えないだろうが、多少は解りやすくなったはず)。
具体的な手段 | 資源 | 活用能力 |
(1)戦闘 | ・戦闘のための人員、武器、戦略 | ・戦略・戦術の構築力 ・戦略・戦術の遂行力 ・戦闘の状況に応じて戦略・戦術を変更する能力 |
(2)威嚇外交 | ・状況の変化に機敏に対応する外交機関 ・軍事資源 |
・信頼性のあるメッセージを発信する能力 |
(3)同盟と平和維持 | ・同盟国のキーパーソンを結ぶネットワーク ・平和維持活動のための軍隊 |
・相手からの信用を引き出す交渉能力 ・同盟の条件を確実に遵守する能力 |
(4)援助と訓練 | ・組織と予算 ・過去の援助・訓練のノウハウ |
・状況や相手の事情に応じて、効果的な援助・訓練を計画・実施する能力 |
「威嚇外交」にあった「機敏な外交」という資源は、「状況の変化に機敏に対応する外交機関」と書き変えた。これでも大して中身は変わらないのだが、要するに「機敏な外交(状況の変化に機敏に対応する外交機関)」とは、相手国の動きに素早く反応し、即座にメッセージを発信できる外交(あるいは外交機関)のことを指している。
例えば、民主党政権に代わってから、新政権に十分な外交能力がないと見るや、ロシア(※7)、韓国(※8)、中国(※9)が立て続けに日本の領土を脅かしているのは、「機敏な外交」の一例であろう。また、こうした「機敏な外交」においては、中国が尖閣諸島付近に海洋調査船を送り出したり、尖閣諸島の上空に軍機を飛ばしたりするように、軍事資源を併用して威嚇のメッセージを強化することもある。そのため、資源の欄には「軍事資源」を追加している。
「援助と訓練」の資源には、「過去の援助・訓練のノウハウ」を追加したが、これは、以前の記事「あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』」で取り上げた「COINマニュアル」や、9月にオバマ大統領がリビアの反カダフィ派議長と会談を行い、食料や医療品の提供をはじめ、治安維持や選挙態勢の構築について、イラクやアフガニスタンで培ったアメリカのノウハウを活用しながら復興を支援することを約束したという記事を踏まえたものである(※10)。
◆経済力
ナイが表による整理を施しているのは、実は軍事力だけなので、それ以外のパワーについては、完全に自力で表を作成しなければならなかった。本書では、経済力を発揮する手段として、「金銭的報酬の提供、または剥奪」が中心に据えられているが、それ以外にも「市場構造の変容」、「スマートな制裁」、「相手国や相手企業の経済的不正・不備を名指しで非難」といった手段が指摘されている(『ソフト・パワー』では、経済力は「金銭的報酬の提供、または剥奪」に限定されていた)。
具体的な手段 | 資源 | 活用能力 |
(1)金銭的報酬の提供、または剥奪 (開発援助、経済制裁など) |
・GDPの規模と質 ・国民1人あたりのGDP ・技術のレベル ・天然資源や人的資源 ・市場に関する政治制度と法律制度 ・貿易、金融、競争などの個別の領域で形成される資源 |
・相手が自分に依存する度合いを大きくする能力 |
(2)市場構造の変容 (自国市場への参入を制限する割当制度、為替レートの操作、天然資源のカルテルなど) |
||
(3)スマートな制裁 (エリート層の特定人物の渡航禁止、海外資産の凍結など) |
||
(4)相手国や相手国企業の経済的不正・不備を名指しで非難 (ネガティブキャンペーン) |
・信頼性のあるストーリーの構築能力 |
資源に関しては、本来であれば各手段と特定の資源をきちんと紐づけるべきなのだが、だんだんこっちも疲れてきたので(汗)、本書で「ハード・パワー、ソフト・パワーに共通している資源」として、ナイが列挙しているものをそのまま記載した。また、能力についても同様に、個別の能力を整理するのではなく、ナイが本書で頻繁に触れている「経済的相互依存」という言葉を参考に、「相手が自分に依存する度合いを大きくする能力」という大きな括りでまとめてみた。
相手が自分に依存する度合いが大きくなると、相手に対してより強いパワーが発揮できるようになるという点については、マイケル・ポーターの「5 Forces Model」を思い返してみるとよく解る。買い手(顧客)に対してパワーを発揮しようとする企業は、買い手を囲い込み、他社製品へのスイッチングコストが高くなるようにする(携帯電話のキャリアがとってきた戦略がまさにそう)。
また、企業が売り手(仕入先)に対するパワーを強化するには、売り手の売上のうち、自社の仕入高が占める割合を大きくすればよい。売り手はこの企業を失うと一気に経営基盤が揺らいでしまうため、企業側から多少の無理難題を押しつけられても従わざるを得ない。自動車業界では、完成品メーカーが原価を下げてくれと言えば、系列の部品メーカーは要求を呑むしかなかったのがその例である。
(1)〜(3)についてはハード・パワーの側面が強いが、(4)の「ネガティブキャンペーン」は、批判対象となった国や組織が素直に非難を受け入れるかどうかが不明であるという点で、ソフト・パワーに属する。ネガティブキャンペーンでは、メッセージに信頼性・一貫性があることが重要だ。昨今の世界経済危機をめぐって、アメリカはEUに対し、「EU圏内の金融危機を早く何とかしてくれ」と訴えているものの、アメリカ自体も財政危機状態にあるから、EUも「おたくも財政赤字を何とかしなさいよ」とでも言わんばかりに、アメリカからの声を聞く耳を持っていない(というよりも、外野の声を聞いている暇などない、というのが双方の本音だろうが)。(※11)
(サイバー・パワーとソフト・パワーについては次回の記事で)
(※7)
「ロシア副首相が北方領土訪問 震災後初の要人、4閣僚も」(MSN産経、2011年5月15日)
「北方領土訪問は「国内問題」 露外務省」(MSN産経ニュース、2011年9月13日)など。
(※8)
「韓国、竹島ヘリポート改修に着手実効支配強化狙う」(MSN産経、2011年3月31日)
「韓国が竹島の樹木復元を本格化へ 実効支配強化の一環 」(MSN産経ニュース、2011年4月3日)
「鬱陵島に海軍基地建設へ韓国、竹島の実効支配強化」(MSN産経ニュース、2011年)など。
(※9)
「尖閣周辺EEZに中国海洋調査、約9時間後に離れる 今年初、昨日の漁業監視船に続き」(MSN産経ニュース、2011年7月31日)
「中国軍機が尖閣上空に飛来、空自が緊急発進6月下旬」(MSN産経、2011年8月22日)
「尖閣周辺に中国の海洋調査船今年2回目、事前通報とは別の海域で調査」(MSN産経ニュース、2011年9月26日)など。
(※10)「 復興支援を約束 オバマ米大統領、反カダフィ派議長と初会談」(MSN産経ニュース、2011年9月21日)
(※11)「経済危機対応に目立つ足並みの乱れ 米など欧州に「資本増強せよ!!」」(MSN産経、2011年9月25日)