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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 15, 2012
スタッフ部門はどこも現場の業務改革を支援すべき(1)―『日経情報ストラテジー(2012年6月号)』
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日経情報ストラテジー 2012年 06月号 [雑誌] 日経情報ストラテジー 日経BP社 2012-04-28 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
メインの特集は、スコラ・コンサルトの柴田昌治氏による「組織風土改革の方法と事例」。スコラ・コンサルトの本はたくさん出版されているけれども(そのうちの1冊について、以前の記事「「課題の洗い出しが上手」という社風は、実は「ビジョン欠如」の裏返し―『衰退産業・崖っぷち会社の起死回生』」で取り上げた)、本号の特集では同社のコンサルティングメソッドが簡単にまとめられているので、風土改革のアプローチを手っ取り早く知りたい方にはお勧めだろう。
本号を読んで私が気になったのは、特集の内容よりも、以下に引用する情報システム部門の責任者の言葉である。
CIOの役割はビジネス変革と業務改善に尽きます。情報システムはそのためのツールの1つです。情報システムを作ったり買ったりすることがCIOの役割だと考えると、ものすごく間違えます。企業のビジネスプロセスを上流から下流まで整理し、どこに物と情報の滞留があるか、どこがお客様に対して不満足な要因になっているかをとらえ、スルーで改善していかなくてはなりません。事業部門は縦割りになるので、それを貫けるのはCIOだけ。全体をスルーで見て、業務改善を進められなければなりませんね。
(トヨタ自動車 常務役員 事業開発本部本部長 IT本部本部長 友山茂樹氏)
これまでは日常業務に支障がないようにシステム管理をしていればよかったが、今後は業務プロセス改革にまで踏み込み、システム部門の存在意義を高める。一般的に組織は、ライン部門とスタッフ部門から構成される。スタッフ部門はさらに、「戦略の立案を担う部門」と「経営資源の投入・配分・最適化を担う部門」に分けられる。前者の代表は、経営企画部やマーケティング部である。ドラッカーの考え方によれば、事業戦略にはマーケティングとイノベーションの両面があることを踏まえると、本来はイノベーション部という部署もあった方がいいのではないか?と私は思うのだが、マーケティング部に比べるとまだまだマイナーな存在のようである。
(中央化学 情報システム部部長 菊池千春氏)
R&D部門は多くの企業に見られるものの、R&Dを統括し、R&Dで生まれた新技術からイノベーションを生み出す、あるいは、イノベーティブな製品コンセプトを先に構想し、それを具現化する新技術の研究・開発をR&Dに依頼する、といった役割を担う部隊としてのイノベーション部を設置している企業は、それほど多くないとの印象である。
後者の「経営資源の投入・配分・最適化を担う部門」については、「ヒト」を担うのが人事部門、「モノ」を担うのが購買部門、「カネ」を担うのが経理・財務部門、「情報」を担うのが情報システム部門だと言える。情報システム部門は、「システム」に責任を負っているのではなく、「情報」に責任を負っているのである。
私が知る限り、引用文のような主張はもう何年も前からずっとあるのだが(過去の自分の記事を振り返ってみたところ、7年前に「情報システム構築とは、ハードやソフトの導入ではなく『情報の流れの組織化』である」という記事を、当時の未熟な自分が、おそらくIT関連の記事をあれこれと参照しながら書いていたということは、少なくとも7年前から指摘されていたことであろう)、未だに「システムの構築・管理」が情シスのメインの仕事だと考えられているのかと思い、少し残念な気持ちになった。
情報システム部門は、現場のビジネスと社員間の業務のフローを十分に理解し、どこでどのような情報がやり取りされているかをつぶさに把握しなければならない。そして、ビジネスの成果を量・質の両面から改善し、業務プロセスの生産性を上げるためには、プロセスのどの部分にどういう情報を追加すればよいか、逆にどのような情報を削らなければならないか、また、どの情報の精度やインプットのスピードを上げるとよいか、などを検討する必要がある。
これこそが情シスの仕事である。引用文にある通り、システムは情報の流れを最適化するツールの1つにすぎない。ツールありきの発想ではなく、ビジネス・業務の視点に立つことが情シスには求められるのである。
実は同じことが他の部門にも言える。人事部門は、単に採用活動を行ったり、評価や昇進・昇給を決定したり、給与計算をしたり、研修を運営したりする部門にとどまってはならないと思う。人事部門も情シスと同様に現場のビジネスや業務を理解し、どのプロセスでどのような能力を持った人材が何人使われているのか、現状をよく認識する必要がある。それと同時に、現場が将来的に目指しているビジネスをよく理解し、それに従って新しい業務プロセスを設計した場合に、どういう能力を持った人材が何人ぐらい求められるのかをシミュレーションする。
この将来像と現状のギャップを埋めるために、採用によって人員を外部調達するのか、異動や昇格によって内部調整するのか、それともトレーニングによって現有戦力の底上げを図るのか、などを意思決定しなければならない。言い換えれば、採用、異動、昇格、研修などは、ギャップを埋める手段にすぎないのである。
《参考》
戦略とリンクした人材育成計画を作成するための5ステップ(1)
戦略とリンクした人材育成計画を作成するための5ステップ(2)
人材育成計画の立案時に陥りやすい4つの落とし穴(1)
人材育成計画の立案時に陥りやすい4つの落とし穴(2)
購買部門も同じである。製造現場を例にとると、設備投資を行うにあたってまず考えるべきは、望ましい製造プロセス・製造手順である。その上で、自動化できそうなプロセス、人間よりも機械の方が早く正確に実行できるプロセスを特定して、適切な設備を購入する(以前の記事「工場でもまず考えるべきは『人の動き』、次に設備投資」)(※脚注参照)。
原材料の調達にあたっては、製造現場からの発注依頼に受動的に応じるだけでは不十分である。また、製造原価を抑制するべく、取引先メーカーとの価格交渉に奔走するだけでも不十分である。製造プロセス全体の生産性を向上させ、各工程の在庫を最小限に抑えるには、どの部品をどのタイミングでどの程度発注すべきかを製造現場に提案できるくらいにならないといけないだろう。購買部門がこうした能動的な提案を行うには、製造プロセスに対する深い理解と、理想的な製造プロセスをデザインする能力が不可欠である。
(続く)
《2012年6月11日追記》
(※)通常、購買部門はライン部門に分類されるが、個人的には、スタッフ部門を、(1)全社的な戦略の立案・実行をサポートする部門(よくあるのが経営企画部やマーケティング部。これに加えて、イノベーション部も必要と考える[まだ一般的ではないが・・・])、(2)経営資源の調達・投入・価値の増大を担う部門(「カネ」に関わる財務部、「ヒト」に関わる人事部が典型)と定義している。したがって、ここでは「モノ」という経営資源を扱う購買部門もスタッフ部門と捉えている。
(※)通常、購買部門はライン部門に分類されるが、個人的には、スタッフ部門を、(1)全社的な戦略の立案・実行をサポートする部門(よくあるのが経営企画部やマーケティング部。これに加えて、イノベーション部も必要と考える[まだ一般的ではないが・・・])、(2)経営資源の調達・投入・価値の増大を担う部門(「カネ」に関わる財務部、「ヒト」に関わる人事部が典型)と定義している。したがって、ここでは「モノ」という経営資源を扱う購買部門もスタッフ部門と捉えている。
April 11, 2012
効率一辺倒ではなく「冗長性」を取り込んだBPR(業務改革)の必要性
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以前の記事「BPR(Business Process Re-engineering:業務改革)の火付け役=マイケル・ハマーの誤算」への補足。同記事では、マイケル・ハマーが後年の著書"Beyond Reengineering: How the Process-Centered Organization Is Changing Our Work and Our Lives"(『リエンジニアリングを超えて』)の中で、自身の行き過ぎた手法を反省していることを述べたが、たまたま野中郁次郎教授の同じタイトルの論文を見つけたので読んでみた。
野中氏によると、「官僚制の『逆機能』を排除し、階層・分業・専門化の縦型組織から、境界横断的な横型組織の運営を開発する試み」であるリエンジニアリングは、実は日本的経営と共通点が多いという。
だから、敢えてこういった冗長性を最初から組み込んだ戦略策定プロセスやビジネスプロセスデザイン、組織デザインの方法を考え出す必要があると思う。あくまでもアイデアベースだが、1つには戦略策定の段階で、コアとなるターゲット顧客層に加えて、サブとなる小規模の顧客セグメントをいくつか定め、そのセグメントに対するマーケティングや製品開発・販売などを通じて若手社員や新人マネジャーの育成を狙う、というアプローチがあり得るだろう。
また、ドラッカーはイノベーションを起こすためには「非顧客を観察せよ」と繰り返し説いていることから、例えば営業担当者に本来の担当顧客とは全く異なる属性を持つ顧客をわざと訪問させ、自社の製品を見せたらどういう反応を見せるのか?彼らはどういう潜在ニーズを持っているのか?などを探ってもらうタスクを追加する、というのも1つの手かもしれない。
Beyond Reengineering: How the Process-Centered Organization Is Changing Our Work and Our Lives Michael Hammer HarperBusiness 1996-07-04 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
リエンジニアリングを超えて 野中郁次郎 白桃書房 1994-09-20 booknestで詳しく見るby G-Tools |
野中氏によると、「官僚制の『逆機能』を排除し、階層・分業・専門化の縦型組織から、境界横断的な横型組織の運営を開発する試み」であるリエンジニアリングは、実は日本的経営と共通点が多いという。
日本企業の組織図は表層的には、階層・分業・専門化されていて、それなりの職務分掌規定もあるが、実際には組織性インはそのような原理に則って仕事をしているというよりは、職務の幅を柔軟に変化させながら自在なプロセスで仕事を行なっている。さらに(リエンジニアリングの特徴の1つである)コンカレント・エンジニアリングは、日本企業では、とりわけ新製品開発においてほとんどの企業が行なっているのである。しかし一方で、リエンジニアリングと日本的経営の決定的な違いの1つが「冗長性の有無」である。冗長性とは、異なる成員が似たような仕事をしていたり、当面は必要のない情報を持っていたりすることを意味する。野中氏は、こうした冗長性を許容しないリエンジニアリングの下では、新しい知識の創造を通じたイノベーションが生まれないのではないか?と指摘している。
リエンジニアリングは顧客をリサーチし、他社をベンチマークしながら、最短のプロセスを情報技術を最大限に活用して設計するため、論理的にはきわめて効率的であるといえる。これに対し日本型のビジネス・プロセスは、いかにも冗長性が高い。しかし一方で、市場は分析的に把握できるという前提から、一切の冗長性を切り捨てたリエンジニアリングでは、市場に適応できてもより主体的な市場創造ができるかどうかは疑問である。私もコンサルタントとして多少なりとも戦略策定プロジェクトや業務改革プロジェクトに携わってきたけれども、極限まで合理化された戦略策定プロセスやBPRは、様々な冗長性を排除してしまう。イノベーションに向けた現場レベルでのアイデアの創出や実験、(特に若手社員の)人材育成、戦略の前提となるビジョンや組織文化の共有などは、真っ先に排除されるタスクの代表例である。しかし、中長期的な視点で見ればこういう仕事が重要であることを、多くの人は頭の中で理解しているものである。
だから、敢えてこういった冗長性を最初から組み込んだ戦略策定プロセスやビジネスプロセスデザイン、組織デザインの方法を考え出す必要があると思う。あくまでもアイデアベースだが、1つには戦略策定の段階で、コアとなるターゲット顧客層に加えて、サブとなる小規模の顧客セグメントをいくつか定め、そのセグメントに対するマーケティングや製品開発・販売などを通じて若手社員や新人マネジャーの育成を狙う、というアプローチがあり得るだろう。
また、ドラッカーはイノベーションを起こすためには「非顧客を観察せよ」と繰り返し説いていることから、例えば営業担当者に本来の担当顧客とは全く異なる属性を持つ顧客をわざと訪問させ、自社の製品を見せたらどういう反応を見せるのか?彼らはどういう潜在ニーズを持っているのか?などを探ってもらうタスクを追加する、というのも1つの手かもしれない。
April 28, 2011
(補足)業務プロセス整理に役立つ本を2冊ほど
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今週は『上流モデリングによる業務改善手法入門』に関する記事を2本書いたけれども(「QCサークルを工場以外の業務にも広げたいんだよね」、「業務デザインの”定石”+組織の”価値観”=模倣困難な業務プロセス」)、もう少し細かい粒度で業務プロセス整理を行いたい場合に役立つ本を2冊ほど載せておくよ。ご参考までにどうぞ。
本の内容そのものは特段難しいものではなくて、情報システム部門の社員やITベンダーのSE、さらには社内業務をドキュメント化しなければならない内部統制プロジェクトのメンバーならば必須の内容であろう。それよりも、情シスやITベンダー、内部統制プロジェクトから”業務ヒアリングを受ける現場の方々”に読んでいただくといいかもね。
そうすると、彼らがどんな資料を作るためにヒアリングをしているのかが解るし、質問の意図もつかみやすくなるように思える。少なくとも、「何でそんな細かいことまで聞かれるんだ?」とか、「何で杓子定規に自分の仕事を整理して説明しなければならないんだ?(何と融通の利かない奴らなんだ!)」などといった些細な不満を抱かなくて済むようになるんじゃないかなぁ?
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本の内容そのものは特段難しいものではなくて、情報システム部門の社員やITベンダーのSE、さらには社内業務をドキュメント化しなければならない内部統制プロジェクトのメンバーならば必須の内容であろう。それよりも、情シスやITベンダー、内部統制プロジェクトから”業務ヒアリングを受ける現場の方々”に読んでいただくといいかもね。
そうすると、彼らがどんな資料を作るためにヒアリングをしているのかが解るし、質問の意図もつかみやすくなるように思える。少なくとも、「何でそんな細かいことまで聞かれるんだ?」とか、「何で杓子定規に自分の仕事を整理して説明しなければならないんだ?(何と融通の利かない奴らなんだ!)」などといった些細な不満を抱かなくて済むようになるんじゃないかなぁ?