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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
April 16, 2011
「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案
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A.G.ラフリー 日本経済新聞出版社 2009-05-23 おすすめ平均: 気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。 『イノベーションと起業家精神』の現代実践版 イノベーションを中心とする経営の教科書 |
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先日の記事「P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない―『ゲームの変革者』」の最後で、P&Gの評価制度について引用したけれど、よく読んだらこれは業績評価のことであって、人事評価のことではなかったことに後から気づいたよ・・・。
残念ながら、本書はP&Gの人事制度に関する記述が少なかった。イノベーションに関するいろんな本や記事を読んでいると、「失敗を許容する風土を醸成するために、イノベーションに失敗した人を罰するのではなく、むしろ評価するべきだ」といった話がよく出てくる。アラン・ラフリー自身も、本書の中で10を超える自分の失敗を告白しているけれども、それでも確かにCEOにまで上り詰めている。もちろん、ただのボーンヘッドで失敗したのならば罰せられてしかるべきだが、「価値ある失敗」を経験した人であれば、高い報酬や地位が得られる可能性があることが本書から伺える。
では、ここで議論となるのは「価値ある失敗」とは何か?ということだ。個人的には、プロジェクトの失敗が企業にとって価値を持つのは、次の3つのケースではないかと思う。
(1)その失敗プロジェクトと同じ要因で、失敗への道をまさに今たどりつつある他のプロジェクトを早期に中止することで、予算や人材の無駄遣いを防止することができた。
(2)現在進行している、あるいは将来立ち上がるプロジェクトが、その失敗プロジェクトを教訓にして失敗要因をうまく回避することができたおかげで、プロジェクトの成功確率が高まった。
(3)失敗プロジェクトの中で残ったナレッジやノウハウ、あるいはプロジェクト内で開発した技術や外部から調達した知的財産が、実は他のプロジェクトでも使えるものであり、これらの無形資産を流用した他のプロジェクトは、製品開発リードタイムの短縮や市場シェアの迅速な拡大に成功した。(※)
(1)〜(3)は企業にとって経済的な価値を持つ。(1)はコスト削減を、(3)は売上拡大をもたらす。(2)は、失敗要因によってはコスト削減にも売上拡大にもなるだろう。失敗だからといって、全てが無駄になるわけではないのだ。もちろん、(1)〜(3)の経済価値を金額換算するのは容易ではない。しかし、失敗した人を高く評価するならば、それなりの根拠というものがなければならない。
(1)〜(3)を明確に評価するには、ハネウェルのVPM(Velocity Portfolio Management)のような「プロジェクト・データベース」が必要になるはずだ。しかも、単に現在進行しているプロジェクトの概要や収支予測といった情報だけでなく、過去のプロジェクトの成功要因や失敗要因、さらにはプロジェクトが残した無形資産のリストといった情報も管理するような、VPMよりさらに一歩進んだDBである。
各プロジェクトのリーダーは、過去のプロジェクトの中で参考になった情報をDBから引っ張ってきて、自分のプロジェクト情報と紐付ける。こうすると、(1)〜(3)の評価もある程度は可能になる(運用が煩雑だけど・・・)。P&Gが実際にどのように評価を行っているかは本書から解らないものの、何かしらこれに似た仕組みを持っているように思われる。
(※)P&Gには、「失敗プロジェクトが残した無形資産を全社的に有効活用する仕組みがある」という話をDHBRで読んだのだが、何年何月号だったか忘れた(汗)。現在調査中なので、判明したら情報を追記します。
《参考》
ちょっと古いけれども、P&Gのマーケティングに関する論文が所収されているDHBRを2冊ほどご紹介。2007年7月号にはマーケターを対象に実施している各種トレーニングや、プロモーションの効果測定に用いているKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)などが、2006年8月号には「コネクト・アンド・ディベロップ(C&D)」が載っている。
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April 14, 2011
P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない―『ゲームの変革者』
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A.G.ラフリー 日本経済新聞出版社 2009-05-23 おすすめ平均: 気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。 『イノベーションと起業家精神』の現代実践版 イノベーションを中心とする経営の教科書 |
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(12ステップの内容をそれなりにまとめようとすると、やっぱ4つぐらい記事が必要なんだな・・・)
先日の記事の補足になるが、C&D(コネクト・アンド・ディベロップ)の成果について、本書の中で次のように述べられている。
(本書の執筆時点で、)C&Dは500ほどの案件を成功裡に終わらせている。平均して1週間に2つの割合だ。この成果として合計200以上の新商品が発売されている。2001年に設定した目標は達成した。2007年にP&Gが着手したものの50%以上(※)は、少なくとも1社の社外パートナーと協力している。P&Gは世界で選ばれるパートナーになるという目標を達成しつつあると言ってもよいだろう。(※)の部分は何だか曖昧な表現になっているけれども、別の箇所と合わせて総合的に判断すると、P&Gでは「新たなアイデアのうち、50%以上は社外パートナーとの協力によるものとする」という目標が設定されているようだ。C&Dは、この目標の達成に不可欠な存在となっている。
【Phase3:実行&評価】3-3.進捗管理
【Phase3:実行&評価】3-4.業績評価・人事評価
《プロセスの概要》
イノベーションを成果に結びつける最後のステップは、適切な指標管理である。指標管理は、日常業務における進捗管理と、四半期ごとの業績評価・人事評価の両方に必要だ。的確な指標を使っていれば、計画と現実のズレをすぐに発見することができるし、イノベーションを後から振り返った時に何が成功要因で、何が失敗要因だったのかを議論しやすくなる。
《プロセスを支える仕組み・施策》
本書では評価の原則が具体的にまとめられていたので、ちょっと長くなるが引用しておこうと思う。
1.イノベーションの評価を投資のポートフォリオと同様に考えること。投資では、株、債権、投信の個別利回りよりもトータル・リターンを気にかけるだろう。それと同じく、各プロジェクトを個別に評価して、勝ち負けの判断をしてはならない。一定期間の投資と成果を比較して評価するのが秘訣だ。そうすれば、高リスクと低リスクのプロジェクトの両方を混ぜ、抜け目なくチャンスをとろうという気にさせる。イノベーションは、既存の事業や業務の枠組みから外れることもあるから、既存の評価制度では評価できない。従来の評価制度で無理に評価すると、イノベーションを潰してしまうこともある。例えば、通常のマーケティング投資であれば短期間での投資回収が求められるのに対し、上記2のようにイノベーションに対する投資は回収期間が長くなる。投資回収期間の基準を既存事業とイノベーションで同じように用いると、イノベーションはきっと生まれなくなる。
2.製造工場を建ててからフル稼働できるまでには時間がかかるように、イノベーションでも結果は遅れて出てくる。
3.計測できるからといって、それが計測の価値があるものだとは限らない。難しくても、不正確であっても、重要なものは計測しなくてはならない。計測が正しくなくても、計測すべきものが間違っていなければ、将来正確になっていく。
4.一定期間に発売された新製品の割合など、イノベーションでも正確に数量化できるものがある。その一方で、相対的な比較でしか評価できないものもある。たとえば、消費者の求めるものを探り出し、効果的に意思決定に反映しているかどうかを10段階で表わすと、チームAは「9」だが、チームBは「3」でしかない、といった具合だ。質的な評価は、成否を分かつもっとも重要なポイントに焦点を合わせることが多い。
5.試作品を開発するスピード、「ボス」である消費者にくり返しテストする回数など、やがて財務面に跳ね返ってくる数字も評価される。
6.イノベーションは各フェーズで、厳しく成果をはかり、到達目標と比較しなくてはならない。たとえば、100のアイデアにゴーサインを出したとしよう。そのうちのいくつが育成の段階までいくだろうか。いくつが市場までたどりつくか。そして、消費者に受け入れられて成功し、業績目標を達成できるものはいくつあるだろうか。
7.イノベーションの結果は、段階ごと、フェーズごとに行なわれる一連の意思決定によって決まってくる。したがって、数値評価がよく行なわれるほど、各フェーズでよい決定を下すことができ、プロセス全体の効果もあがる。各段階できっちり見直すことは、イノベーションの結果に大きな影響を与える。
8.イノベーション・プロセスで経験を踏んで、昇進候補にあがっている人の数を計測すること。とくに総合的経営のポジションに候補となっている人の数は重要である。
ただ、今までになかった新しい取り組みを何らかの指標で評価するのは、結構な荒業である。指標管理というのは、何が成功要件なのかが初めからある程度解っているからこそできるのである。例を挙げると、プロ野球でバッターの出塁率や長打率が重視されるのは、この2つの指標がチームの得点と密接に関係していることが統計的に明らかになっているからである。
イノベーションを成功に導くカギを特定することは難しい。しかし、引用文を読む限り、P&Gでは「消費者が求めているものを意思決定に反映させた割合」、「試作品の開発スピード」、「消費者=ボスへのテスト回数」など、いくつかの指標が全てのイノベーション・プロジェクトに適用されているように感じられる。これらの指標は、P&Gが無数のイノベーションを経験する中で、「ここだけは外してはいけない!」というポイントを指標化したものなのかもしれない(もちろん、P&Gではもっと重要な指標を複数設定しているに違いないのだろうけど、さすがにそこは企業秘密なので本書には書かれていなかった・・・)。
April 13, 2011
P&Gは「数打ちゃ当たる」でイノベーションを乱発しない―『ゲームの変革者』
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A.G.ラフリー 日本経済新聞出版社 2009-05-23 おすすめ平均: 気付きを促してくれる本。Consumer is boss この言葉を心に刻みたい。 『イノベーションと起業家精神』の現代実践版 イノベーションを中心とする経営の教科書 |
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(前回からの続き。「長ぇよ!」と言わずにお付き合いくださいな)
【Phase2:事業化検討】2-2.試作品の製造・販売
【Phase2:事業化検討】2-3.フィージビリティスタディ
《プロセスの概要》
この辺からは、通常の新製品開発や新規事業立上げのプロセスとあまり変わらない。試作品を何種類か実際に作ってテスト販売し、事業化に向けたチェックポイントを1つ1つ検証していく。例えば、
・想定していた機能・性能を実現できているか?
・原材料を的確なタイミングで調達できるか?調達先に問題はないか?
・製造上の障害はないか?(生産ライン、生産技術、品質管理などの面で)
・目標原価をクリアできるか?
・顧客に対して製品価値を訴求できるデザインになっているか?
・店頭に並べた時に、製品の特徴が顧客にちゃんと伝わるか?
・競合他社の製品と一緒に並んでも、P&Gの製品だと識別可能か?
・新製品の製造・販売にはいくらぐらいの投資が必要か?
・新製品はどのくらいの販売が見込めるか?投資回収までどのくらいの期間がかかるか?
などといった感じだろう。この段階まで来ると、【Phase1-4.アイデアの取捨選択】で列挙した論点よりもずっと厳しい条件をクリアすることが求められる。試作品&フィージビリティ検証のステップ自体は至って一般的なものであるが、P&Gの場合はこの段階でも消費者や小売業者を徹底的に巻き込む点に特徴がある。
《プロセスを支える仕組み・施策》
(1)イノベーション・センター
イノベーション・センターは世界中に設けられ、家庭や小売店の様子を再現している。プロジェクトチームはこのセンターをカルフールやコストコなどといった小売業者と共同で使用する。モニターとなる消費者には、模擬店舗の中で普段通りに買い物をするよう指示を与える。そして、P&Gと小売業者は、消費者が陳列棚の製品を目にし、手に取った時の反応をじっくりと観察しながら、改善点を見つけていくのである。
【Phase2:事業化検討】2-4.Go/No Goの意思決定
《プロセスの概要》
試作品ができて事業計画が完成したら、いよいよ本格的に事業化するか否かの意思決定を行う。この意思決定を下せるのは、相応の権限を有し、心情的にプロジェクトと距離のある人となる(通常は、複数のイノベーション・プロジェクトをモニタリングしているシニアマネジャーや事業部門長)。
《プロセスを支える仕組み・施策》
(1)プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント
P&Gのシニアマネジャーや事業部門長は、自部門で進行している数多くのプロジェクトをポートフォリオで管理している。本書では縦軸に「リスク・リターン」を、横軸に「期間」を取り、さらに縦軸を「低リスク・低リターン」、「中リスク・中リターン」、「高リスク・高リターン」の3つに、横軸を「短期(1〜2年)」、「中期(3〜5年)」、「長期(6年以上)」の3つに分けて、9つのボックスに各プロジェクトを分類する、という簡単な方法が紹介されている(実際には、もっと複雑な運用をしていると思う)。
シニアマネジャーや事業部門長は、それぞれのプロジェクトがモノになるかどうかを絶えず見極める必要がある。そして、最低でも年に4回は全てのプロジェクトを精査し、在庫整理をしている。見込みがないプロジェクトは打ち切られ、予算とチームメンバーは他のプロジェクトに再配分される。
プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントを通じて、シニアマネジャーや事業部門長は、ポートフォリオ上のプロジェクトのバランスを最適化し、自部門に課せられたイノベーション目標を達成するのに十分な数のプロジェクトが動いているかどうかをチェックしている。
(2)VPM(Velocity Portfolio Management)
これはハネウェルで導入されているオンラインツール。各プロジェクトの詳細情報を閲覧することが可能だ。VPMには、それぞれのプロジェクトが将来的に見込んでいる売上・利益や、現時点で想定されるリスク、およびそのリスクが収益に及ぼす影響まで克明に記録されている。事業部長は個別プロジェクトの情報を見ながら、事業全体の売上・利益目標の達成に向けて、どのプロジェクトにテコ入れしなければならないかを判断している。
【Phase3:実行&評価】3-1.実行組織立上げ&予算付与
【Phase3:実行&評価】3-2.新規ケイパビリティの獲得
《プロセスの概要》
ここからはもう、通常の戦略実行とほとんど同じプロセス。新しい組織やチームを立ち上げて適材をかき集め、戦略実行に必要な予算を再度与える。自社でまかなえない能力や技術、知的財産などのケイパビリティについては、社外から調達する。
《プロセスを支える仕組み・施策》
(1)コネクト・アンド・ディベロップ(C&D)
新規ケイパビリティの獲得にあたって重要な役割を果たしているのがC&Dである。先日の記事でも述べたように、C&DはP&Gと社外の研究者や企業をつなぐネットワークであるが、単なる情報交換網ではなく、技術ライセンスなどの取得に向けた交渉といったアグレッシブな仕事もこなしている。本書で紹介されている例をいくつか紹介。
・OLAYリジェネリスト
シワを防ぐ技術を研究していたP&Gは、フランスの小企業セダーマ社が「ペンタペプチド」という成分を持っていることを知った。ペンタペプチドは、細胞の活性化と傷の回復に効果がある。そこでP&Gは、C&Dを通じてセダーマ社からペンタペプチドを購入し、P&Gが既に持っていた老化防止成分と組み合わせて、OLAYリジェネリストを開発した。
・マジック・イレイサー(「ミスタークリーン」ブランドで販売されている)
日本の「激落ちくん」というスポンジからヒントを得て開発されたスポンジ。P&Gは主要取引先であるドイツのBASF社からスポンジの技術ライセンスを取得して、「マジック・イレイサー」を販売した。マジック・イレイサーは、子どもが残した壁のシミや床の靴跡など、硬い表面の汚れなら何でも落とせるのが特徴である。
(次で最後ね)