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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
August 06, 2010
地位パワーがなくてもリーダーシップは発揮できる(2)−『静かなる改革者』
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(前回の続き)
(2)ダイバーシティマネジメント、女性活躍推進の担当者
この本はリーダーシップの本ではあるが、企業でダイバーシティマネジメントを推進している担当者にとっても有益な情報が含まれている。というのも、同書で分析の対象となっているリーダーは、女性社員を始めとして、黒人やアジア人などの有色人種、さらにはゲイやレズビアンといったマイノリティに該当する人々だからである(おそらく、同性愛者を取り扱ったリーダーシップの本は、日本ではこの本以外にほとんどないだろう)。
本ブログでも、これまで何度かダイバーシティマネジメントについて論じてきた。日本の場合、まずは女性社員の活用からスタートすることが多い。しかしながら、ワークライフバランスを考慮した働きやすい職場作りや、ワーキングマザーのコミュニティ形成などで止まっているケースが多く、欧米に比べると大きく出遅れていると言わざるを得ない。
本気で女性活用するならば、コミュニティ形成だけではなく業務改革すべき
法定の育休と時短制度を整備して満足してるようじゃ女性活用は進まない
マイノリティが社内で活躍の場を広げるためには、単に福利厚生をいじったりネットワークを構築したりするだけでなく、日常業務のあり方を構造的に変える必要がある。マジョリティの価値観に沿って構築されている職務分担、権限配分、業務プロセス、意思決定の方法、仕事のルール、慣行、人事評価の基準などを洗いざらい点検し、マイノリティの価値観と共存できるように再構築していかなければならない。
本書には、そのような日常業務の改革事例が多数登場する。例えば、ある企業はハードワークが当たり前とされる職場であり、毎週土曜日に経営会議が開かれる慣行があった。ところが、仕事と家庭のバランスを大切にする役員が加わったことがきっかけで、会議日程のルールの見直しが始まる。
この問題は、平日に経営会議をずらせば済むような簡単なものではなかった。平日に会議を開催すると、今度は役員が部下とコミュニケーションする時間を失い、平日の業務に支障が出るからだ。
前述の新しい役員も、毎週子どもと遊ぶ必要があるとまでは思っていなかった。そこで、月に1回は平日開催とし、その際には会議の途中で数時間の休憩を挟むことにした。この休憩時間中に、各役員が部下と電話やメールのやり取りを行うことで、日常業務をストップさせずに経営会議を進めることが可能になったという。
この事例からも解るように、ダイバーシティマネジメントの実践にあたっては、日常業務のかなり細かいところまでメスを入れる必要がある。本書で取り上げられている数多くの事例は、日本企業でダイバーシティマネジメントに取り組む人々にとって大きなヒントとなるに違いない。
(3)日業業務に対する怒りや不満がいっぱいで、今にも爆発しそうな人たち
日々仕事をする中で、組織の論理に押しつぶされそうになっている人たちは少なくないだろう。組織に譲れない価値観があるのと同じように、社員にも譲れない価値観がある。両者の価値観がせめぎ合う時、社員は強いフラストレーションを感じるものだ。
だからといって、怒りに任せて何か行動を起こしても、あまりいい結果は得られない。最悪の場合、今までの成功を棒に振ることになる。過去の記事「果たして意思決定に感情は不要なのか?」でも書いたように、怒りは合理的な意思決定を歪める副作用がある。反射的な行動は表面的な問題を解決するかもしれないが、実はその場しのぎで終わる可能性が高い。
ただし、怒りが合理的な意思決定を妨げるということは、怒りが全く無用であることを意味するわけではない。またしても過去の記事の紹介で恐縮だが、「感情は問題提起のサインである」で述べた通り、怒りは表層的な事象の裏に隠れている構造的な問題の存在を知らせるサインである。本書の著者は次のように助言している。
身近な出会い(※ここでは、自分の価値観やアイデンティティを脅かす他者の言動を意味する)の背後にある、より大きな問題やその他の手法を追求する努力があれば、広範囲にわたる学習機会をもたらすことができただろう。そのためには、交渉を行うときと同じような広い視野や影響力を手にするための意識的なプロセスが必要である。怒りを感じたらいきなり条件反射で感情をぶちまけるのではなく、一旦深呼吸して今起こっていることをよく観察し、多少なりとも時間を稼いで本質的な解決策を導くよう精神をコントロールすることが必要と言える。
(中略)加えてこれは、対立する利害や立場、懸念、影響力の源泉、問題の別の観点からの意味づけなどを考えることでもある。交渉には規律と行動が必要だ。つまり、人々は問題が展開するプロセスに関与しなくてはならない。
仕事のフラストレーションが溜まって爆発寸前の人たちにこの本を読む時間的余裕があるのかどうかちょっと疑わしいが、もし何かのきっかけでこの本を見つけたら、頭と心を整理するためにも是非一度読んでほしいと思う。1回の不満爆発でキャリアが台無しになるとしたら、それはあまりにもったいないことだ。
August 04, 2010
地位パワーがなくてもリーダーシップは発揮できる(1)−『静かなる改革者』
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副題の「『しなやか』に『したたか』に組織を変える人々」を見て、田中康夫氏がかつて長野県知事に就任した際に掲げた「しなやかな県政」というスローガンが曖昧すぎると批判されていたことを思い出した。田中県政の実態について私はよく知らないのだが、この本は実例が豊富なので、著者が副題で言わんとする意味は読者に十分伝わるのではないかと思う。
以前の記事「大事なのはリーダーシップのスタイルじゃないということ−『静かなリーダーシップ』」で紹介したジョセフ・バダラッコの著書と同様、この本もトップダウンのリーダーシップではなく、ボトムアップのリーダーシップに焦点を当てている。ただし、『静かなリーダーシップ』がトップと現場の板ばさみの中で倫理、道徳に関わる意思決定を求められるミドルマネジャーを扱っているのに対し、同書のターゲットはもっと広く、組織のありとあらゆる階層(非管理職も含む)で観察される草の根的なリーダーシップを論じている。
著者はトップダウンのリーダーシップを否定してはいない。むしろ、トップダウンとボトムアップのリーダーシップは補完関係にあると断言する。同様の主張は『静かなリーダーシップ』を含む他のリーダーシップの著書でも見られるものだ。このように2つのリーダーシップが重なり合って組織が発展して行く様子は、「デュアル・スタンダード・リーダーシップ」とでも名づけることができるのではないだろうか?
この本は、下記の3つのカテゴリに該当する人たちに有益なアドバイスを提供してくれると私は思う。
(1)役職に就いていないとリーダーシップは発揮できないと思っている若手社員
リーダーシップをめぐる誤解の1つに、「リーダーシップは役職や地位に紐づいている」というものがある。もちろん、役職や地位によって与えられる権限や権力が、変革を推進する上で重要なリソースとなることは否定できない。しかし、リーダーになるためには必ずしも地位や役職が必要ではないこと、極端な話をすれば新入社員だってやろうと思えばリーダーシップを発揮できることを本書は教えてくれる。
著者は、地位や役職を持たない人たちがリーダーとなるための5つの戦略を整理している。(A)から順番に影響力の範囲が広くなるが、その分、難易度も高くなる((A)〜(E)のタイトルは同書から引用、補足説明は同書の内容を基に私がまとめた)。
(A)自己に忠実に、静かに抵抗する(残り2つのカテゴリについてはその2で)
組織の価値観に同調しつつも、自分の価値観や信念、アイデンティティを表す言動によって静かに抵抗する。例えば、長時間のハードワークが当たり前の職場で働く人が、自分のデスクの上に家族の写真を飾るなど(「自分は仕事と家庭を両立したい」と願っていることをひそかにアピールしている)。
(B)個人の危機をチャンスに変える
自分の価値観やアイデンティティを脅かす周囲の侮辱的、攻撃的な言動を、双方にとっての学習機会に変える。例えば、ある男性社員と女性社員が同じように高い成果を上げているのにもかかわらず、男性は優秀と評価され、女性は傲慢とレッテルを貼られる現状に対して、女性側が評価のダブルスタンダードの存在を指摘し、男性・女性がお互いに納得のいく評価を行うといったケースが該当する。
(C)交渉を通じて影響力を拡大する
(B)が個人間の関係におけるリーダーシップであるのに対し、(C)はもう少し組織的な意味合いが強くなる。つまり、時間をかけて戦略を練り、その場での最善の対応はもとより、多くの社員に対して幅広い学習機会を生み出すリーダーシップである。同書では、フェアトレードのプロジェクトを進める社員が、R&D部門・購買部門と交渉する事例が登場する。
この社員は、プロジェクトの優先度を低く見ている両部門に対し、経営陣の肝煎りだからと押し付けるのではなく、両部門にとっての阻害要因を探る話し合いの場を持ちかけた。すると、R&D部門はフェアトレードで購入する原料に保存料が使われておらず、品質や消費期限が読めないため、製品開発に活用したがらないこと、また購買部門の社員は調達コストの低さで評価されるため、一般の原料よりも割高なフェアトレードはやりたがらないことが判明した。
そこでこの社員は、両部門と協力して製品開発プロセスや社員の評価基準を見直すことにした。1つのプロジェクトが他部門の従来の業務や制度の中身までも変えてしまったという例である。
(D)小さな勝利を活用する
簡単に言うと、表面的には組織の論理に従いながら、実際には組織の規範からは逸脱する既成事実を積み上げ、最終的には組織の論理をひっくり返すというものである。著者は、従来の(=白人重視の)採用プロセスにのっとりながら優秀なマイノリティを20年に渡って積極的に採用し、結果的に全社的なダイバーシティマネジメントを実現させた人事担当者の例などを紹介している。
(E)集団行動を組織する
これはちょっとリスキーな戦略である。危機やチャンスが差し迫っている時、また共通の利害を有するメンバーの組織化が見込める時は、思い切って集団行動に出ることが有効であると著者は言う。
同書には、MITで性差別に悩む女性研究者が結束し、学長に直談判して性差別の実態解明に向けた委員会の発足を求めるという事例が取り上げられている。この事例では、訴訟などの敵対的な手段が用いられることなく、学長と女性研究者の双方が前向きに問題解決に当たった。この経験を活かして、MITは2001年1月に「科学とエンジニアリング分野における女性研究者」をテーマに、他大学の関係者を招いてサミット会議を開催したそうだ。
July 14, 2010
大事なのはリーダーシップのスタイルじゃないということ−『静かなリーダーシップ』
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我々が抱いている「理想のリーダー像」は非常に華々しいものである。リーダーは大胆で勇気があり、人々を惹きつける魅力を持ち、情熱的でリスクをものともせず、時に自分を犠牲にしてまでもビジョンや目標に向かって猪突猛進する、そんなリーダーを我々は待ち望んでいる。しかし、本書で取り上げられているリーダーは、我々が通常イメージしているような英雄型リーダーとは全く違うものである。
臆病で慎重、自分の利益やキャリアは守りたい、カリスマ性もないし特に頭がいいわけでもない、強い使命感や理想はなく自分の価値観で生きている、できるだけ時間を稼いで時機をうかがう…同書に登場するのはそんなリーダーたちである。
ビジネスパーソンは、過去の経験や知識から得られた原則、あるいはその人が属する組織が長年採用してきた慣例や公式のルールなどを演繹的に適用することで事業や組織をマネジメントする。しかし、それらの演繹的推論が当てはまらない例外的なケースに出くわすことがある。そんな時はリーダーシップの出番になる。リーダーシップの重要な役割の1つは、例外的な事象をつぶさに観察してこれまでとは違う別のパターンを見出し、新しい仮説を帰納的に設定することである。そして、その仮説に従って人々を巻き込み、組織を正しい方向へと導く。
著者のジョセフ・バダラッコが注目しているのは、一般的なリーダーシップ論が焦点を当てる組織のトップ層ではなく、ミドル層の人たちである。ミドルマネジャーは組織が定めた、あるいは自分がこれまで従ってきたマネジメントのルールを用いて業務を処理する。ところが、現場の最前線で変化を身近に感じている部下は、日々新しい情報を自分のところに持ち込んでくるし、自らもプレイングマネジャーとして現場に立つ中で、旧来のやり方だけでは処理できない問題に直面する。
そういう意味では、ミドルマネジャーこそが最も「例外的なケース」に出くわしやすく、リーダーシップを発揮すべき存在だとも言える。ミドルが扱う問題は、組織全体から見ればそれほど重要ではないことが多い。また、ミドルのリーダーシップは、英雄型のそれとは違ってものすごく「静か」である。だが、彼らがリーダーシップを発揮して日常的な問題を解決してくれるからこそ、組織は全体として前進することができるのである。重要なのはリーダーシップの機能であって、スタイルではないのだ。ドラッカーもインタビューの中で次のように述べている。
優秀な経営者、優秀なリーダーとは、どのような存在なのでしょうか?先にもお話しした通り、私は70年に及ぶ長い歳月で、幾人ものリーダーたちと交わってきました。彼らの誰もが個性的で、誰一人として似ている人はいませんでした。この経験から私が理解したのは、「人はリーダーに生まれない」という事実です。生まれついてのリーダーなど存在せず、リーダーとして効果的にふるまえるような習慣を持つ人が、結果としてリーダーへと育つのだ、と。(ピーター・ドラッカー著、窪田恭子訳『ドラッカーの遺言』)
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バダラッコのリーダーシップ論の最大の特徴は、リーダーシップを発揮する上で「個人の動機」が重要な役割を果たすという点である。我々が想像する英雄型リーダーは、個人的な動機など二の次で、常に組織全体のため、社会のためという使命感に溢れているものだ。だが、バダラッコは全く正反対の主張をしている。
先行き不透明で常に状況が変化している場合、または実践と倫理で何が重要なのか明確ではない場合、複雑な動機があると非常に有利に働く。難題に直面して、さまざまな方向性があると思っても、自分が混乱しているとも、自分の力が不十分であるとも考えるべきではない。動機が複雑なのは、状況を本当に理解しているということであり、先に進む際に、動機が役に立つガイドになり得る。同書で取り上げられているケンドラー・ジェファーソンを紹介しよう。彼女は、エレクトロニクス企業に勤める製造部長である。ある時、副社長がジェファーソンを呼び、彼女の部下であるアリスが困った状態にある、一番よいのはアリスをクビにすることだと忠告してきた。
(※太字は原文のまま)
確かに、アリスの業績は芳しくなかった。しかし、ジェファーソンがここで簡単にアリスを解雇すれば、管理職としての自分の手腕に傷がつくことになるし、部下からの信頼を失いかねない。一方で、アリスの仕事ぶりに腹を立てているメンバーがいることも事実であるし、何よりも副社長からの忠告はほぼ命令に近いものであり、それがジェファーソンにとっては重荷であった。
あれこれと考えをめぐらせた結果、ジェファーソンはアリスのことをもっとよく理解することに決めた。ジェファーソンもアリスも離婚経験があり、それが仕事にどのように影響するか共感できる部分があった。しかも、アリスの2人の子どもには学習障害があったから、彼女の精神状態は並のものではなかったはずだ。
ジェファーソンは幼少時代のことも思い出していた。両親はジェファーソンに、「決意を持って一生懸命働けば、自分の望みを達成できる」と教えた。アリスにも成功の機会を与えれば、ひょっとしたらこれまでの業績不振を挽回してくれるかもしれない。これがジェファーソンの結論であった。最終的には、ジェファーソンの狙い通りアリスの業績が向上し、副社長もアリスを辞めさせろとは言わなくなった。
著者のバダラッコは、ジェファーソンの動機は「支離滅裂」だと評している。しかし、支離滅裂であったからこそ、アリスをクビにするか否かという紋切り型の解決策に走ることなく、現状を多角的な視点から捉えることができた。ジェファーソンは回り道をしたが、最後にはアリスの業績向上という最高の結果をもたらしたのである。
ミドルマネジャーの「静かなリーダーシップ」は組織の前進を陰ながら支えている。この例えでうまく伝わるかどうか自信がないが、英雄型リーダーの組織は「円錐体」であり、静かなリーダーが集まる組織は「多面体」である。円錐の頂点には英雄型のリーダーがどっしりと構えており、それゆえに組織は安定する。しかし、円錐は横から強風が吹きつけると簡単に倒れてしまう。組織が前に動こうとしても、倒れた円錐は頂点を中心としてグルグルと回るだけで、自力では立ち上がることができない。
一方、多面体型の組織は、各頂点に静かなリーダーがいる。この組織は非常に不安定ではあるが、横から強風が吹きつけてもゴロゴロと転がりながら動くことが可能だ。そして、頂点の数が多ければ多いほど、その動きは早くなる。もちろん、この例えは極端であり、英雄型リーダーの存在を全否定する気は毛頭ない。だが、本当に優れた組織には両方のリーダーが存在するものである。