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March 09, 2012

【ドラッカー書評(再)】『経営者の条件』―組織を、世界を変えていく能動的なエグゼクティブ像にはあまり触れられずとの印象

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ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 『経営者の条件』に関する記事は今回で最後。本書は、エグゼクティブ個人が成果を上げるための能力・習慣を述べたものであるが、所々に企業・組織の視点から見た職務設計の原則も登場する。
 職務は客観的に構築しなければならない。人間の個性ではなく、なすべき仕事によって決定しなければならない。組織の中の職務について、その範囲や構造や位置づけを修正すれば、必ず、組織全体に連鎖反応が及ぶ。組織において、職務はお互いに依存関係にあり、連動している。1人の人間を1つの職務につけるために、あらゆる人たちの職務や責任を変えることはできない。
 業績は、貢献や成果という客観基準によって評価しなければならない。しかしそれは、職務を非属人的に定義し、構築して初めて可能となる。さもなければ、「何が正しいか」ではなく、「だれが正しいか」を重視するようになってしまう。そして人事も、「秀でた仕事をする可能性が最も大きな人間はだれか」ではなく、「自分が好きな人間はだれか」「みなに受け入れられるのはだれか」によって決定するようになってしまう。個人に合わせて職務を構築するならば、組織は確実に、情実となれないに向かう。
 ドラッカーの職務設計の原則を簡単にまとめてみるとこんな感じだろうか?まず、企業の外部に存在する顧客が、企業全体の成果を規定する。次に、企業全体の成果を、部門単位の成果にブレイクダウンする。さらに、部門ごとの成果を論理的に分解することで、各社員(≒エグゼクティブ)の成果を定める。その成果によって、それぞれのエグゼクティブの職務範囲が決まる。しかも、エグゼクティブの成果は、相互に依存関係にあり、協業を通じて初めて達成されるものである。こうした考え方は、後のMBO(Management by Objectives:目標管理制度)にも反映されているだろう。

 だが、この職務設計は2つの前提に基づいている。1つは「顧客の要求は合理的である」という前提である。実際、ドラッカーはしばしば、「顧客の要求を非合理だと受け取る企業もあるが、顧客の要求は常に合理的である」といった趣旨の発言を他の著書でも繰り返している。もう1つの前提は、組織構造や組織の慣例が、企業や部門の成果を適切な演繹的プロセスで各社員の成果に落とし込むことができる、というものである。

 しかし、前者の前提については、顧客の要求が常に合理的かどうかは、特に最近は怪しいところがある。社会通念的に見ると、どう考えても非合理的としか言えないような要求をしてくる顧客の存在も否定できないのではないだろうか?(※1)また、後者の前提に関しても、そこまで完璧に設計された組織や慣例はそうそうない。確かに、ある時期はそれでうまくいったのかもしれないが、時とともに変化する企業の外部・内部環境に適合できなくなっている可能性もある。

 こういう状況では、「顧客の要求は本来はこうあるべきだ」、「顧客にとって本当に望ましいのはこういうことだ」と企業側から逆提案を行うこと、さらに、本来の理想的な顧客の要求から出発して旧来的な組織構造やルールを破壊し、各エグゼクティブの職務を再定義することが要求される(※2)。これこそがリーダーシップである。ドラッカーはリーダーシップについても数多くの原理原則を残したが、本書に限って言えば、このリーダーシップの要素がやや弱いという印象がある。

 もちろん、部分的にはエグゼクティブがリーダーシップを発揮した事例が紹介されている。
 アメリカのある大手商業銀行では、証券代行部は、安定した利益はあげるが、単調な仕事と考えられていた。この部門は、手数料ベースで事業会社の株式の名義書き換えを代行していた。株主名簿の管理や、配当の小切手郵送など、雑多な事務手続きを行っていた。

 ある日、この部門を担当することになった副頭取が、「証券代行部はどのような貢献ができるか」と自問するまでは、そのような部門だった。しかし彼は、証券代行の業務が、事業会社の財務担当役員は、預金、貸し付け、投資、年金管理など、あらゆる銀行サービスに対する買い手として、意思決定を行う立場にあった。そこには、銀行のあらゆるサービスについての一大営業部隊となりうる可能性があった。
 株式が電子化された今では証券代行部など存在しないから、事例の古さは否定できないものの、要は副頭取が顧客である事業会社が自部門に明確に期待していることだけから出発せず、帰納的な思考を用いて、「事業会社は本当はこういうことを望んでいるのではないか?」という点から出発し、証券代行部の職務をガラリと変えてしまったところがポイントである。
 企業、政府機関、病院に働くエグゼクティブの多くは、自分にさせてもらえないことについてはよく知っている。彼らは、上司がさせてくれないことや、企業の方針がさせてくれないことや、政府がさせてくれないことについて、気にしすぎる。

 成果をあげるエグゼクティブも、自らに対する制約条件は気にしている。しかし彼らは、してよいことであって、しかも、する値打ちのあることを簡単に探してしまう。させてもらえないことに不満をいう代わりに、してよいことを次から次へと行う。しかもその結果、同僚たちには重くのしかかっている制約そのものが、彼らの場合は消えてしまう。
 これは、組織の慣行によって不適切に定義されているとエグゼクティブが感じている成果を自ら再定義し、新しい成果を追求するというリーダーシップの例である。こうしたエグゼクティブがあらゆる階層に存在すると、企業全体として変化に適応する能力が高まる。

 ただし、本書ではそこまでのエグゼクティブ像には踏み込んでいないような気がする。これは、エグゼクティブはまずは自分をマネジメントするのが先決であって、マネジメントができない人間にリーダーシップなど発揮できない、ということをドラッカーが暗示しているからなのかもしれない。


(※1)「勝つことが最大のファンサービスだ」と公言して、8年間勝利の追求に徹した中日の落合前監督は、まさに顧客=ファンの要求を書き換えた例だろう。それまでのプロ野球ファンは、選手やチームに対して「面白い野球」や「ファンサービス」を期待していた。しかし、落合氏はそうした余分な要求を全て取り払い、勝利のみをチームの目的とした。そして、勝つために個々の選手がどのような仕事をしなければならないかを考え、その仕事を1年間全うできるようなスキルとスタミナを身につけさせるための猛練習を選手に課したわけである。

《2012年5月6日追記》
(※2)「顧客の要求が非合理的であるかもしれない」ことに加えて、「顧客は自分が何を望んでいるのか解らない」というのも現実である。岩崎邦彦著『小が大を超えるマーケティングの法則』によると、「あなたの現在の生活で足りないと思う商品を1つ挙げてください」という質問に対し、消費者調査では1000人中668人が「特にない」と答えたという。だから、従来型の市場調査から何か斬新な製品やサービスを導くことは難しい。

 もし、「現在の企業に足りていないものを1つ挙げてください」と問われれば、顧客に対して「今まで考えたこともなかったけれど、言われてみればそういうモノやサービスがあったら嬉しい」と思わせるような新しい価値を解りやすく提案していくイノベーターの創造力と答えるだろう。


小が大を超えるマーケティングの法則小が大を超えるマーケティングの法則
岩崎 邦彦

日本経済新聞出版社 2012-02-25

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February 29, 2012

《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より

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 先日の記事「自分自身は信頼するが、未来への希望は下がり始めるミドル層―『ミドルの自己信頼が会社を救う(Works No.110)』」で、リクルートワークス研究所が新たに提唱している「自己信頼」という概念にいろいろと突っ込みを入れたわけだが、同号でも書かれているように、そもそも「自己信頼」と個人や企業の業績との関係はまだ検証されていないとのことである。
 この量的指標の扱いが、自己信頼の今後の課題でもあるという。たとえば、自己信頼の高い従業員は、上司による評価も高いのか、業績上の成果も上げているのかといった、自己評価ではない客観的指標との相関は、まだ検証されていない。
 ちなみに、同号で「自己信頼」と類似の概念として取り上げられている「自尊感情(自尊心)」に関しては、定量的に測定する方法が確立されているという。そして、個人の「自尊感情」が高すぎるのも組織にとっては問題であることが明らかになっているそうだ(うぬぼれが強い人は周囲から煙たがられるために、円滑な人間関係を構築できず組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことは、感覚的にも理解できるところである)。

 ところで、同号を読みながら、根本的な疑問として、「モチベーション」と「業績」はどのように関係しているんだっけ?と思い、本棚から『熱狂する社員』(デビッド・シロタ他著)を引っ張り出してきた。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 本書は、社員のモチベーションと業績に関する30年以上の実証研究に基づくものである。1994年以降だけで、89か国、237社におよぶ民間企業、公的機関、非営利団体に勤める250万人ものデータを収集したとのことである。これらのデータを分析した結果、社員の「正のモチベーション」(※「仕事をやりたくない」という「負のモチベーション」もあるので、敢えてこの表現にした。なお、正のモチベーションが強い社員を、本書では「情熱的」と呼ぶ)と企業の業績には強い相関関係が見られるという。

 ただ、あくまでも”相関関係”であって、モチベーションと業績をめぐる関係はもう少し複雑である。著者は、モチベーションと業績に影響を与える、あるいはモチベーションと業績から影響を受ける他の因子との関係をまとめて、以下の「人材パフォーマンス・モデル」を提示している。

人材パフォーマンス・モデル(モチベーションと業績の関係)
(※本書より筆者作成)

 「社員の士気」が高まると、「社員のパフォーマンス」が向上⇒「顧客満足度」が向上⇒「顧客の購買行動」が向上⇒「企業の業績」が向上、という流れで業績向上につながる。さらに、「社員のパフォーマンス」、「顧客満足度」、「顧客の購買行動」、「企業の業績」は、いずれも「社員の士気」に対してブーメランのように跳ね返ってくる因子でもあり、これがフィードバック・ループと呼ばれる。

 また、「社員の士気」には、「リーダーシップ」や「経営慣行」が影響を与える。ここで、「リーダーシップ」と「経営慣行」については、それぞれ次のように述べられている。
 本書では基本的に、経営者や管理職による日々の経営慣行が、社員の士気にどんな影響を与えるか、それは企業の業績にどうつながるかについて論証している。しかし経営慣行は、社員のパフォーマンスに直接的にも作用する。チームワークを重んじる企業が高業績を上げるのは、仕事のほとんどが共同作業によってパフォーマンスを押し上げられるからであり、またチームワークにより連帯感が満たされ、社員のモチベーションや情熱といった「スピリット」が高まるからだ。(中略)このモデルにおいて、経営慣行は最も重要であり、社員の士気とパフォーマンスに大きく作用する。
 日々の経営慣行と同様、経営陣のリーダーシップも社員のパフォーマンスへ直接・間接の影響を与える。経営陣は、事業戦略を決定する。(中略)経営陣、特にCEOの能力と事業戦略の堅実性は、成功のための大きな要素である。事業戦略の堅実性は、ビジネスの成功を社員の士気とパフォーマンスにフィードバックすることで、企業の業績をさらに増幅させるのである。

 リーダーシップの威力は、企業文化を決定づけることでさらに拡大される。社員重視の度合いが管理職によって異なることはありえるが、たいてい経営陣の傾向と一致している。経営陣が社員を軽んじる企業では、社員を軽視する管理職の割合は跳ね上がる。
 換言すると、「リーダーシップ」とは戦略(引用文では事業戦略に限定されているものの、事業をまたぐ全社戦略も含んでよいと考える)や、企業文化の根幹をなす価値観・行動規範のことであり、「経営慣行」とは社員の職務デザイン、職場での人的ネットワークの形成、業務のモニタリングと支援、育成・教育機会の提供と評価などといった、社員との日常的な接点において生じる様々な具体的言動、ということになるだろうか?

 本書が面白いのは、
 社員から見て唯一最大のモチベーションが何かを突き止めようとするのは時間の無駄である。社員の「最大の」欲求は1つではないからだ。「とにかくお金」や「そのためならすべてを犠牲にできる」のように1つのものだけを追い求めるのは、心理学的には病気である。
と前置きをした上で、
 人が仕事をするうえでの3つのゴールを、我々はここに宣言する。それは、公平感、達成感、連帯感だ。これを仕事のモチベーションにおける3要素理論として提唱する。
 と断言している点である(※いずれも太字は原文ママ)。要するに、モチベーションを構成する要素は、「公平感」、「達成感」、「連帯感」の3つしかないのであり、社員のモチベーションアップを考えている企業は、この3つに効く施策を打つ必要がある(もちろん、先ほど登場した「リーダーシップ」や「経営慣行」も、この3要素に影響を与える。例えば、明確で正当な評価基準に基づく信賞必罰が風土として染みついている企業であれば、社員の「公平感」が刺激される)。

 ここで、「モチベーション」と「自己信頼」の構成要素を比較してみると、「連帯感」と「良好な人間関係」はぴったり重なると思う。「達成感」には、「過去の仕事の達成感」に加えて、「将来的に大きな仕事をやらせてもらえるかもしれない」という期待も含まれているので、この点では「未来への希望」と重なる部分がある(なお、先日の記事で述べたように、「未来への希望」と「自己への信頼」は部分的に重複している印象があるので、「達成感」と「自己への信頼」も重なる部分があると言えそうだ)。だが、「公平感」に関しては「自己信頼」と重なる要素がない。したがって、「自己信頼」と業績の間に相関関係が見られるかどうかは、個人的にはやや怪しいと推測している。
January 11, 2012

【通算1,000エントリー】自分を鍛える人脈 自分をダメにする人脈―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-01-10

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1,000エントリー達成!

 昨年末までに達成する予定だった1,000エントリー、10日ほど遅れて達成。2005年5月のブログ開設以来、足掛け約7年でようやく到達しました。いつもブログを読んでくださっている皆様、ありがとうございます。私の記事は1本あたり平均で約1,500字(最近は2,000字超もざらにあるが、初期はもっと短かった)なので、これまでに約150万字書いた計算か。ハードカバーの本だと1ページ約700字、300ページで約21万字だから、150万字ということはハードカバー約7冊分。1年で1冊書いている計算なのね。次の目標は「2018年末に2,000エントリー」ということにしておこう。

本当の長所を見極め、さらなる高みを目指す リーダーシップ・コンピテンシー強化法(ジョン・H・ゼンガー他)
 リーダーに求められるコンピテンシーは多数あるが、弱いコンピテンシーを矯正するよりも、強いコンピテンシーをさらに強化した方が効果的であるという論文。ただし、著者は明確に述べていないものの、強みの強化が有効なのは、あくまでも「一定レベルに達したリーダー」である点に注意が必要だ。このことは、以下のマラソン選手の例えからもうかがえる。
 マラソンの初心者は、ストレッチ運動と週数回のランニングを重ねながら、徐々に走行距離を伸ばし、持久力とマッスル・メモリー(一度強化した筋肉は、しばらくトレーニングを休んでも、再開すれば復活すること)を高めていく。

 一方、ベテラン・ランナーになると、走る距離を伸ばしただけでスピードが目に見えて速くなることはない。もう一段高みに至るには、ウエート・トレーニング、水泳、サイクリング、インターバル・トレーニング、ヨガなどを通じて、既存のトレーニングを補うスキルを身につける必要がある。
 要約すれば、マラソンの初心者はまずは短所を鍛えるべきであり、ベテランになったら長所を伸ばすトレーニングに切り替えるとよい、ということになる。ビジネスパーソンも然り。ドラッカーが「長所を伸ばすべきだ」と頻繁に主張しているからといって、若手社員や新米リーダーにまでドラッカーの主張を当てはめようとすると、道を誤ると思う(以前の記事「自分の「強み」を活かすのか?「弱み」を克服するのか?」を参照)。

 さて、本論文で著者は、リーダーシップ・コンピテンシーを全部で16個挙げている(16個の中身はp31〜32を参照)。コンピテンシーの内容自体は、リーダーに必要なスキルをテーマとした他の書籍や論文とそれほど大差がない。この論文の特徴は、強いコンピテンシーをさらに強化する際に、強みそのものに焦点を当てるのではなく、そのコンピテンシーと補完関係にある他のコンピテンシーを鍛えた方がよいとしている点である(こうした補完関係を、著者は「リーダーシップ・コンパニオン」と呼ぶ)。これは、スポーツにおける「クロス・トレーニング(交差訓練法)」を取り入れた考え方である。

 だが、著者の補完関係の考え方には個人的にやや疑問を感じる。著者によると、それぞれのリーダーシップ・コンピテンシーには、リーダーシップ・コンパニオンを形成する他のリーダーシップ・コンピテンシーが12前後あるそうだが、強いリーダーシップ・コンピテンシーと補完関係にあるコンピテンシーとは、要するに”相対的に弱い”コンピテンシーであり、強みを強化すると言いながら、実は弱みの克服を狙っているようにも見受けられる。しかも、リーダーシップ・コンパニオンがどのコンピテンシーにも12前後あるならば、結局のところほぼ全てのリーダーシップ・コンピテンシーを鍛えよ、と言っているに等しい。

 スポーツにおけるクロス・トレーニングとは、先ほどの引用文にもあるように、マラソン選手がマラソンとは直接関係がなく、自らの専門外であるサイクリングや水泳、ヨガなどに取り組むことを指す。同様に、リーダー育成におけるクロス・トレーニングも、リーダーシップ・コンピテンシーの中で補完関係を探すのではなく、例えば「地域の子どもたちとよく遊ぶ」、「厚い宗教心を持つ」、「戦争の歴史を好んで勉強する」など(これらはあくまでも私の思いつきであり、リーダーのスキル向上に貢献するかどうかは不明)、一見するとリーダーシップとは無関係の活動に糸口を探さなければならないのでは?と思う。

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数だけが重要ではない ハイ・パフォーマーの人脈投資法(ロブ・クロス、ロバート・トーマス)
 明石家さんまさんの「ほんまでっか!?TV」で、「facebookで管理できる人脈の最大数は150ぐらい。最近は300人ぐらいまで増えたが、それでも人数に限界があるのは間違いない」という話があったと記憶している(数字は間違っているかもしれないが、規模感は合っているはず)。だが、著者によると、コアとなる人脈の数はもっと少なく、一般的に12〜18人だそうだ。しかも、人数よりも人脈の質の方が重要であり、次のような人脈構築は「間違った人脈投資」だと断言している。
間違った人脈
(A)形式主義のマネジャーは、会社の正式な職位に重きを置くあまり、非公式の関係がもたらす効率性や機会を見過ごしてしまう。
(B)抱え込みすぎるマネジャーは、同僚や外部の人脈とのつき合いが多すぎて、自分自身が進捗の妨げとなり、燃え尽きてしまう。
(C)孤立したエキスパートは、新しいスキルの獲得へと背中を押す人よりも、完全な既存の専門能力に集中させてくれる人に固執する。
(D)偏見にとらわれがちなリーダーは、十分な情報に基づいた意思決定をするために、部外者に意見を求めるべき場面でも、自分の偏見を助長するような、自分とよく似た(仕事の分野、勤務地、価値観などが同じ)助言者に頼ろうとする。
(E)見せかけネットワーカーは、人脈が大きいほどよいと誤解し、できるだけ多くの人と表面的につき合おうとする。
(F)カメレオンは、人脈のなかで自分がどのグループを相手にするかに合わせて、自分の興味や価値観や性格を買え、結局どのグループとも関係を維持できない。
 反対に、著者がハイパフォーマーを観察する中で発見した「有益な人脈」とは、次の6タイプである。
高業績者が頼りにしている6タイプの人々
(1)新しい情報や専門知識をもたらしてくれる人。
(2)助言や意識づけを行い、政治的に支援し、リソースを提供してくれる公式の権力者(※1)。
(3)ためになるフィードバックを与え、意思決定に異議を唱え、よい方向へと後押しする人々。
(4)個人的にサポートしてくれる人。調子が悪い時に軌道修正を手伝ってくれる仲間や、一緒にいると自分らしさを取り戻せる友人など。
(5)新たな目的意識や価値観をもたらす人々。自分の仕事を認めてくれる上司や顧客、仕事にもっと広い意味があることを気づかせてくれる家族やその他の関係者など。
(6)ワーク・ライフ・バランスを促進し、体の健康、知的意欲、精神的な幸福を改善する活動に責任を持つように促す人々。
 こうして見てみると、facebookなど仮想空間における人脈は、せいぜい(1)や(4)(あとは(6)か?)を補完してくれるに過ぎないように感じる。にもかかわらず、いたずらに人脈の数を増やすと、やり取りの時間ばかりが増えて、「間違った人脈投資」にあったパターン(B)(F)にはまってしまうのだろう。


(※1)女性社員向けのメンタリングが失敗する要因は、メンター(同じく女性社員であることが多い)が人事面であまりパワーを発揮しないからだとされる。男性社員のメンターは、折に触れてメンティー(=メンタリングの対象者のこと)のスキルを人事部門にアピールし、昇進や配置転換を打診してくれるが、女性社員のメンターにはそのような活動が見られない。ゆえに、しばしば女性のマネジャーを増やす目的で導入されるメンタリングは、途中で頓挫するという。

 詳しくは、2011年3月号の「ジェンダー調査機関「カタリスト」がデータに基づいて指摘 メンタリングでは女性リーダーは生まれない」(ハーミニア・イバーラ他)を参照(その時のレビュー記事は、「トリの論文は何と「マネジメントはプロフェッショナル職でない!」―『プロフェッショナル「仕事と人生」論(DHBR2011年3月号)』」)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 03月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 03月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2011-02-10

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(※2)なお、一般的な人脈ではなく、営業活動における人脈管理をテーマとしたものとして、2006年10月号に「営業人脈を組織的に管理する」(チュバ・ウスチュナー、デイビッド・ゴーズ)という論文があるので、参考までに。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 10月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 10月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2006-09-09

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