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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 24, 2012
部下へのフィードバック法「SBI(Situation-Behavior-Impact)法」ついての補足
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数年前の記事「効果的なフィードバックを行うための3つの要素」への補足。この記事では、部下に対する効果的なフィードバックの方法として、アメリカのCCL(Center for Creative leadership)が開発した「SBI(Situation-Behavior-Impact)法」という技法を紹介した。昔の記事にはCCLへのリンクがなかったので、以下に掲載しておく。
Feedback That Works: How to Build and Deliver Your Message (Executive Summary)
The SBI Observation Form
CCLから書籍も出ているけれども、上記リンクのエグゼクティブサマリでおおよその内容は理解いただけると思う。SBI法では、フィードバックの対象者に対し、"Situation(状況)"⇒"Behavior(行動)"⇒"Impact(影響)"の順番でフィードバックを行う。
(1)Situation: To capture and clarify the specific situation in which the behavior occurred. (フィードバックの対象となる行動が起きた時の状況を明確にする)
(2)Behavior: To Describe behavior. (その行動の具体的な中身を説明する)
(3)Impact: To relay the impact that the other person’s behavior had on you. (その行動が自分に与えた影響をリアルに伝える)
3番目の「相手の行動が”自分に”与えた影響を相手に伝える」というのがSBI法のミソであり、これによって上司は部下に対し、「部下と自分の関係を重視している」というメッセージを送ることになる。また、部下の立場からすると、「自分の行動は上司から見られている」というプレッシャーを受けると同時に、「上司は自分のことをよく見てくれている」という一種の安心感を感じ取ることができる。
ところが最近、このSBI法について考えを少し改めなければならないかも?と思うような出来事があった。ある診療所の待合室で、診察の順番を待っていた時のこと。待合室には1組の親子が座っていた。子どもは退屈しのぎのためか、診察室にあった置物でがちゃがちゃと音を立てながら遊び始めた。それを見た母親は、「やめてちょうだい!お母さんの頭が痛くなるでしょう?」と子どもを叱ったのである。
SBI法に従えば、(1)(2)のステップは省略されているものの(この場合、(1)(2)の内容は自明なので触れるまでもないのだが)、(3)のステップには忠実に従っている。だが、子どもの行為で影響を受けたのは母親だったのだろうか?確かに、その母親が深刻な頭痛持ちであったならば、子どもの音に不快感を示しても仕方なかろう。しかし、子どもの行為で一番影響を受けた、言い換えれば、一番迷惑を蒙ったのは、同じ待合室で待っていた(私を含む)他の人たちだったはずだ。それなのに、母親が自分の利害を最優先にして子どもを叱ったことに対して、(他の患者はどう感じたか知らないが、)少なくとも私は違和感を覚えたわけである。
冒頭に掲載した昔の記事の中で紹介している例も、読み返してみると「本当にこれでいいのかなぁ?」と自問自答したくなるようなものがある。
ただし、お客さんの心情をもう少し具体的に表現する必要はあるだろう。例えば、「君の作ったシステム構成図には何点か不備があった。お客さんは今回のシステムリニューアルに並々ならぬ情熱を注いでおり、君が開く要件定義の会議にお客さんは何度もつき合って、システムへの希望をモレなく伝えてくれた。今日の会議にしても、普段の会議にはなかなか顔を出さない部長クラスの方々が、忙しい業務の合間を縫って出席してくれた。それなのに、君のシステム構成図を見たら、『あの会議は無駄だった』、『あの人にシステム設計を任せて大丈夫なのか?』とがっかりしたかもしれない」といった具合である。
要するに何を言いたいのかというと、(3)のImpactのステップでは、「部下の行動が自分に与えた影響」を伝えるのではなく、「部下の行動によって、最も被害を蒙った人々の気持ちを代弁すること」が重要ということだ(そんなの当たり前じゃないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが・・・)。これがアメリカと日本の文化の違いに起因するのかどうかはよく解らないけれども、上司がSBI法に素直に従ってフィードバックを行うと、日本では自己本位的と受け取られる可能性が高いのではないか?と思うのである。
Feedback That Works: How to Build and Deliver Your Message (Executive Summary)
The SBI Observation Form
![]() | Feedback That Works: How to Build and Deliver Your Message Sloan R. Weitzel Center for Creative Leadership 2008-08-30 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
CCLから書籍も出ているけれども、上記リンクのエグゼクティブサマリでおおよその内容は理解いただけると思う。SBI法では、フィードバックの対象者に対し、"Situation(状況)"⇒"Behavior(行動)"⇒"Impact(影響)"の順番でフィードバックを行う。
(1)Situation: To capture and clarify the specific situation in which the behavior occurred. (フィードバックの対象となる行動が起きた時の状況を明確にする)
(2)Behavior: To Describe behavior. (その行動の具体的な中身を説明する)
(3)Impact: To relay the impact that the other person’s behavior had on you. (その行動が自分に与えた影響をリアルに伝える)
3番目の「相手の行動が”自分に”与えた影響を相手に伝える」というのがSBI法のミソであり、これによって上司は部下に対し、「部下と自分の関係を重視している」というメッセージを送ることになる。また、部下の立場からすると、「自分の行動は上司から見られている」というプレッシャーを受けると同時に、「上司は自分のことをよく見てくれている」という一種の安心感を感じ取ることができる。
ところが最近、このSBI法について考えを少し改めなければならないかも?と思うような出来事があった。ある診療所の待合室で、診察の順番を待っていた時のこと。待合室には1組の親子が座っていた。子どもは退屈しのぎのためか、診察室にあった置物でがちゃがちゃと音を立てながら遊び始めた。それを見た母親は、「やめてちょうだい!お母さんの頭が痛くなるでしょう?」と子どもを叱ったのである。
SBI法に従えば、(1)(2)のステップは省略されているものの(この場合、(1)(2)の内容は自明なので触れるまでもないのだが)、(3)のステップには忠実に従っている。だが、子どもの行為で影響を受けたのは母親だったのだろうか?確かに、その母親が深刻な頭痛持ちであったならば、子どもの音に不快感を示しても仕方なかろう。しかし、子どもの行為で一番影響を受けた、言い換えれば、一番迷惑を蒙ったのは、同じ待合室で待っていた(私を含む)他の人たちだったはずだ。それなのに、母親が自分の利害を最優先にして子どもを叱ったことに対して、(他の患者はどう感じたか知らないが、)少なくとも私は違和感を覚えたわけである。
冒頭に掲載した昔の記事の中で紹介している例も、読み返してみると「本当にこれでいいのかなぁ?」と自問自答したくなるようなものがある。
<良い例>仮に<良い例>のようなフィードバックを受けたとすると、今の私ならばきっと、「お前の手柄のために仕事をしているんじゃない。お客さんのために仕事をしているんだ」と心の中で反発するに違いない。むしろ、<悪い例>のようなフィードバックの方が効くと思うのである。
「君の作ったシステム構成図には何点か不備があった。お客さんの期待に応えられなくて私は残念だ」
<悪い例>
「君の作ったシステム構成図には何点か不備があった。お客さんはそれを見て不満げだった」
ただし、お客さんの心情をもう少し具体的に表現する必要はあるだろう。例えば、「君の作ったシステム構成図には何点か不備があった。お客さんは今回のシステムリニューアルに並々ならぬ情熱を注いでおり、君が開く要件定義の会議にお客さんは何度もつき合って、システムへの希望をモレなく伝えてくれた。今日の会議にしても、普段の会議にはなかなか顔を出さない部長クラスの方々が、忙しい業務の合間を縫って出席してくれた。それなのに、君のシステム構成図を見たら、『あの会議は無駄だった』、『あの人にシステム設計を任せて大丈夫なのか?』とがっかりしたかもしれない」といった具合である。
要するに何を言いたいのかというと、(3)のImpactのステップでは、「部下の行動が自分に与えた影響」を伝えるのではなく、「部下の行動によって、最も被害を蒙った人々の気持ちを代弁すること」が重要ということだ(そんなの当たり前じゃないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが・・・)。これがアメリカと日本の文化の違いに起因するのかどうかはよく解らないけれども、上司がSBI法に素直に従ってフィードバックを行うと、日本では自己本位的と受け取られる可能性が高いのではないか?と思うのである。
May 04, 2010
逆説的だが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要(2)
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「個を活かす」ために組織が準備すべき3つのインフラ(続き)
(2)改善・アイデアを奨励するオープンなコミュニケーションの場
顧客の期待通りのサービスを続けているだけでは、いずれ顧客に飽きられる。顧客を虜にし、熱狂的なファンにするためには、顧客の期待を上回るクオリティを提供しなければならない。そのためには、従来のやり方を常に見直して改善を施し、アウトプットの質を向上させるためのオープンな議論の場が重要な役割を果たす。(1)を「一人前までの学習」と位置づけるならば、(2)は「一人前以降の学習」と言える。
ヤム・ブランズはかつてはお互いの揚げ足を取るようなぎすぎすした職場だった。だが、社員に根気強くコーチングの技法を習得させ、誰かが困っている時には一緒に解決策を導き出す前向きな企業風土へと変化させた。ヤム・ブランズのコーチングの特徴は、「誰からでもコーチングを受けられる」点にある。上司からだけでなく、同僚からも、組織図上何の関係もない人からも、そして部下からだってコーチングを受けることができる。こうしたコーチングを通じて、日々のオペレーションや人材活用に関わる問題の解決に努めているという。
マクドナルドもクルー間の密なコミュニケーションに力を入れている。マクドナルドが特徴的なのは、オープンなコミュニケーションが促進されるように、必然的にクルー同士の協業が求められる業務プロセスに変えてしまったことである。マクドナルドは、かつての作り置き方式を止めて、現在では注文を受けてから調理を始めるスタイルに変わっている。
昼間の混雑時などランダムにいろんな注文が入るケースでは、それぞれの顧客に対して最短時間でフードを提供するために、各工程の担当者が緊密に連携する必要性が生じる。この連携がうまくいかないと、ジュースとポテトはできあがっているのに、ハンバーガーだけが遅れてしまう、といった事態が起こる。こうした細かい調整方法は当然のことながらマニュアルには書かれていないから、クルー1人1人がアイデアを考えて意思疎通を図り、行動を取らなければならない。
私が京都に住んでいた頃だからもう7年ぐらい前のことだと思うが、昼間にマクドナルドに行くと、「注文から1分以内にフードを提供する」という取り組みをやっていた記憶がある(全てのマクドナルドでやっていたのか、その店だけでやっていたのか定かではないが)。注文が終わるとレジ担当のクルーが砂時計をひっくり返し、各クルーが協業しながら1分以内の完成を目指す。そして、フードを渡す時に砂時計を確認し、OKだったか時間オーバーだったかをバックヤードにフィードバックする、という感じだったと思う。
「1人前以降の社員」にとっては、「考える余地」が学習の機会となる。マクドナルドは、「注文を受けてから調理を開始し、かつ最短時間で提供する」という制約を敢えて課すことで「考える余地」が生まれ、クルーの建設的な議論を促していると言える。
(3)目標と現実がオープンに見える仕組み(組織・個人ともに)
(1)と(2)で「一人前まで」、「一人前以降」という区分を使ったが、そもそも各店舗や各社員が「一人前に達しているのか否か」を把握する仕組みがなければ(1)も(2)も機能しない。逆に、現状を正確に把握することができれば、次の目標が設定しやすくなる。個を活かす優れた組織は、透明な業績管理制度を持っている。
ヤム・ブランズでは、「CHAMPS運動」と呼ばれる店舗のクオリティチェックがある。CHAMPSとは顧客が期待する品質水準を独自に定めたもので、各店舗がこの水準をどの程度達成しているかを定期的に採点して回る。そして、その結果は店舗間で共有される。各店舗は自らの現状を客観的な視点から把握し、次の目標を定めて改善策を練る。
マクドナルドでは、個人の目標設定と現状把握を手助けする制度が整っている。保有スキルでクルーのランクが決まるシステムがそれである。長く勤めているクルーの方が偉いという年功序列的な考えはない。クルーは、各スキルの到達基準をクリアするとシールを獲得することができる。このシールには、最初の目標となる規定枚数の「シール」と、さらに上のランクの「エキスパートシール」という2種類のシールがある。しかも、シールの数や種類によってユニフォームが変わるため、お互いのスキルレベルが認識できる。
こうした業績管理制度は透明であればあるほど社員は公平感を覚え、組織に対する信頼を強める。さらに、社員同士、店舗同士がよきライバルとなって適度な内部競争が生まれ、能力やサービスの質の向上につながっていく。
一時期、人材育成の分野で「個の活性化」が話題になったが、どうも「個人の強みを伸ばす」というミクロな視点ばかりが強調されていて、個を支える組織をどのようにデザインするかというマクロな視点が欠けていたように思う。その理由の1つとしては、人材育成のエキスパートを名乗る企業の大半が研修会社であるため、研修でアプローチ可能な個人に焦点が当たってしまった、ということが考えられる。
だが、これではまるで、道路建設を抜きにして、暴走する自動車ばかりを製造しているようなものである。これまで見てきたように、「個の活性化」と「組織の一体感」は両輪である。この2つに同時にアプローチできるケイパビリティを、人材育成の専門家は身につける必要があると思う(自社への自戒も込めて)。
(2)改善・アイデアを奨励するオープンなコミュニケーションの場
顧客の期待通りのサービスを続けているだけでは、いずれ顧客に飽きられる。顧客を虜にし、熱狂的なファンにするためには、顧客の期待を上回るクオリティを提供しなければならない。そのためには、従来のやり方を常に見直して改善を施し、アウトプットの質を向上させるためのオープンな議論の場が重要な役割を果たす。(1)を「一人前までの学習」と位置づけるならば、(2)は「一人前以降の学習」と言える。
ヤム・ブランズはかつてはお互いの揚げ足を取るようなぎすぎすした職場だった。だが、社員に根気強くコーチングの技法を習得させ、誰かが困っている時には一緒に解決策を導き出す前向きな企業風土へと変化させた。ヤム・ブランズのコーチングの特徴は、「誰からでもコーチングを受けられる」点にある。上司からだけでなく、同僚からも、組織図上何の関係もない人からも、そして部下からだってコーチングを受けることができる。こうしたコーチングを通じて、日々のオペレーションや人材活用に関わる問題の解決に努めているという。
マクドナルドもクルー間の密なコミュニケーションに力を入れている。マクドナルドが特徴的なのは、オープンなコミュニケーションが促進されるように、必然的にクルー同士の協業が求められる業務プロセスに変えてしまったことである。マクドナルドは、かつての作り置き方式を止めて、現在では注文を受けてから調理を始めるスタイルに変わっている。
昼間の混雑時などランダムにいろんな注文が入るケースでは、それぞれの顧客に対して最短時間でフードを提供するために、各工程の担当者が緊密に連携する必要性が生じる。この連携がうまくいかないと、ジュースとポテトはできあがっているのに、ハンバーガーだけが遅れてしまう、といった事態が起こる。こうした細かい調整方法は当然のことながらマニュアルには書かれていないから、クルー1人1人がアイデアを考えて意思疎通を図り、行動を取らなければならない。
私が京都に住んでいた頃だからもう7年ぐらい前のことだと思うが、昼間にマクドナルドに行くと、「注文から1分以内にフードを提供する」という取り組みをやっていた記憶がある(全てのマクドナルドでやっていたのか、その店だけでやっていたのか定かではないが)。注文が終わるとレジ担当のクルーが砂時計をひっくり返し、各クルーが協業しながら1分以内の完成を目指す。そして、フードを渡す時に砂時計を確認し、OKだったか時間オーバーだったかをバックヤードにフィードバックする、という感じだったと思う。
「1人前以降の社員」にとっては、「考える余地」が学習の機会となる。マクドナルドは、「注文を受けてから調理を開始し、かつ最短時間で提供する」という制約を敢えて課すことで「考える余地」が生まれ、クルーの建設的な議論を促していると言える。
(3)目標と現実がオープンに見える仕組み(組織・個人ともに)
(1)と(2)で「一人前まで」、「一人前以降」という区分を使ったが、そもそも各店舗や各社員が「一人前に達しているのか否か」を把握する仕組みがなければ(1)も(2)も機能しない。逆に、現状を正確に把握することができれば、次の目標が設定しやすくなる。個を活かす優れた組織は、透明な業績管理制度を持っている。
ヤム・ブランズでは、「CHAMPS運動」と呼ばれる店舗のクオリティチェックがある。CHAMPSとは顧客が期待する品質水準を独自に定めたもので、各店舗がこの水準をどの程度達成しているかを定期的に採点して回る。そして、その結果は店舗間で共有される。各店舗は自らの現状を客観的な視点から把握し、次の目標を定めて改善策を練る。
マクドナルドでは、個人の目標設定と現状把握を手助けする制度が整っている。保有スキルでクルーのランクが決まるシステムがそれである。長く勤めているクルーの方が偉いという年功序列的な考えはない。クルーは、各スキルの到達基準をクリアするとシールを獲得することができる。このシールには、最初の目標となる規定枚数の「シール」と、さらに上のランクの「エキスパートシール」という2種類のシールがある。しかも、シールの数や種類によってユニフォームが変わるため、お互いのスキルレベルが認識できる。
こうした業績管理制度は透明であればあるほど社員は公平感を覚え、組織に対する信頼を強める。さらに、社員同士、店舗同士がよきライバルとなって適度な内部競争が生まれ、能力やサービスの質の向上につながっていく。
一時期、人材育成の分野で「個の活性化」が話題になったが、どうも「個人の強みを伸ばす」というミクロな視点ばかりが強調されていて、個を支える組織をどのようにデザインするかというマクロな視点が欠けていたように思う。その理由の1つとしては、人材育成のエキスパートを名乗る企業の大半が研修会社であるため、研修でアプローチ可能な個人に焦点が当たってしまった、ということが考えられる。
だが、これではまるで、道路建設を抜きにして、暴走する自動車ばかりを製造しているようなものである。これまで見てきたように、「個の活性化」と「組織の一体感」は両輪である。この2つに同時にアプローチできるケイパビリティを、人材育成の専門家は身につける必要があると思う(自社への自戒も込めて)。
May 03, 2010
逆説的だが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要(1)
拍手してくれたら嬉しいな⇒
「組織の一体感」と「個の活性化」を両立させる
2007年3月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「2010 年を展望する 人事戦略・人事制度に関する調査」の中には、現在(※調査実施時の2006年)および3〜5年後において、経営方針として「組織的に一体化をもって、力を発揮することを重視する」ことと「個人が活性化し個々の力を発揮することを重視する」ことのどちらを重視するか?という設問がある(p16)。この設問に対して、「現在、『組織的な一体感を重視する』と回答した企業の比率は66%と、『個人の活性化を重視する』と回答した企業34%を大きく上回り、さらに3〜5年後には、その傾向が一層強くなる」という結果になった。
だが、これはきっと回答しづらい設問だったに違いない。なぜならば、「組織の一体感」と「個の活性化」は二律背反的な課題ではなく、できれば両立したいと考える企業が多いからだ。その証拠に、社団法人日本能率協会が同じく2007年に公表した「2007年度(第29回)当面する企業経営課題に関する調査結果」のp8を見ると、「『組織と個人の両立』の達成状況」という設問項目があり、46.2%の企業が「組織としての一体感は高いが、反面、個性を発揮しにくい面がある」と回答している。これを裏返せば、約半数の企業は「組織の一体感と個の活性化を両立させたい」と考えていることになる。
「組織の一体感」と「個の活性化」−確かにこの2つはトレードオフの関係で捉えられてもおかしくはない。組織をさながら軍隊のようにルールや制度でがちがちに固めれば結束は高まるかもしれないが、個人は窒息してしまう。また、個人が自分の気の向くままに仕事をすれば、組織は空中分解を起こす。とはいえ、逆説的ではあるが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要だと私は思うのである。
KFCとマクドナルドはマニュアル人間を作り出していない
『1分間マネジャー』や『1分間リーダーシップ』の著者であり、リーダーシップのSL理論でも知られるケン・ブランチャードの最新作『カスタマー・マニア!』は、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)、ピザハットなど5つのレストランチェーンを傘下に持つヤム・ブランズ(※)の再生物語である。そこには、体系的なトレーニング、明確な目標設定とフィードバックの制度、賞賛の文化、透明な業績管理の仕組みといった組織的に整備されたインフラの上で、各国からやってくる多種多様な従業員が自らの能力を如何なく発揮している様子が描かれている。
また、日本に目を向けてみると、リクルートワークス研究所の見館好隆氏が「顧客接点アルバイトが基礎力向上に与える影響について−日本マクドナルドに注目して−」という興味深い論文を発表している。マクドナルドのようなファストフードチェーンは、マニュアル対応しかできない機械的な人間を生み出しているとしばしば批判される。しかし、この論文を読むと、昨今注目を集めている「社会的基礎力」の向上に、マクドナルドの組織的な要素が深く関係していることが解る。しかも、クルー(マクドナルドの従業員)の能力は決して画一化されているわけではなく、各々が固有の成長ヒストリーを持って仕事に取り組んでいることもうかがえる。
「個を活かす」ために組織が準備すべき3つのインフラ
「組織の一体感」と「個の活性化」の両立についてさらに詳細に分析した本として、クリストファー・A・バートレット『個を活かす企業』が挙げられる。同書の詳しい紹介は別の機会に譲るとして、上記のヤム・ブランズやマクドナルド、そして『個を活かす企業』で取り上げられている事例から、「個を活かす」ために組織が準備すべき必須のインフラを3つ整理してみたいと思う。
(1)スキルを平準化・底上げする十分なトレーニング
社員が一人前になるまでは、徹底的にトレーニングを行う。マクドナルドには詳細なマニュアルが存在することはよく知られている。しかもこのマニュアルには、行動の背景まで詳細に規定されている。例えば、「なぜビーフパティを扱うために抗菌ウェットワイパーで手を拭かなくてはいけないのか?」、「なぜ挨拶から再来の挨拶までの最長秒数が決められているのか?」といった、非常に細かいことまでクルーは学習する。標準マニュアルは、クルーに基礎的な能力を習得させると同時に、行動の背後にあるマクドナルドの考え方や価値観を浸透させる役割を担っている。
ヤム・ブランズには、「ヤム・ユニバーシティ」という企業内大学がある。その中の「オペレーション・カレッジ」では、本社の社員とフランチャイズ店の現場社員が、レストランの運営方法、リーダーシップ、人材教育、採用のベストプラクティスなどを1週間で学習する。もちろん、マクドナルドでもヤム・ブランズでも、こうした研修に加えて現場では日々上司や先輩によるOJTが実施されている。こうした手厚いトレーニングを通じて、全ての社員が顧客に対して最低限の品質を提供することを約束する。
(長くなったので、記事を分割します。(2)へ続く)
(※)ヤム・ブランズの"YUM"は、英語で「うまい」を意味すると同時に、"You Understand Me"([顧客の側から見て]ヤムは顧客のことをよく解っている)の頭文字を取ったものでもあり、顧客視点を強調する同社の姿勢をも表している。
2007年3月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「2010 年を展望する 人事戦略・人事制度に関する調査」の中には、現在(※調査実施時の2006年)および3〜5年後において、経営方針として「組織的に一体化をもって、力を発揮することを重視する」ことと「個人が活性化し個々の力を発揮することを重視する」ことのどちらを重視するか?という設問がある(p16)。この設問に対して、「現在、『組織的な一体感を重視する』と回答した企業の比率は66%と、『個人の活性化を重視する』と回答した企業34%を大きく上回り、さらに3〜5年後には、その傾向が一層強くなる」という結果になった。
だが、これはきっと回答しづらい設問だったに違いない。なぜならば、「組織の一体感」と「個の活性化」は二律背反的な課題ではなく、できれば両立したいと考える企業が多いからだ。その証拠に、社団法人日本能率協会が同じく2007年に公表した「2007年度(第29回)当面する企業経営課題に関する調査結果」のp8を見ると、「『組織と個人の両立』の達成状況」という設問項目があり、46.2%の企業が「組織としての一体感は高いが、反面、個性を発揮しにくい面がある」と回答している。これを裏返せば、約半数の企業は「組織の一体感と個の活性化を両立させたい」と考えていることになる。
「組織の一体感」と「個の活性化」−確かにこの2つはトレードオフの関係で捉えられてもおかしくはない。組織をさながら軍隊のようにルールや制度でがちがちに固めれば結束は高まるかもしれないが、個人は窒息してしまう。また、個人が自分の気の向くままに仕事をすれば、組織は空中分解を起こす。とはいえ、逆説的ではあるが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要だと私は思うのである。
KFCとマクドナルドはマニュアル人間を作り出していない
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posted by Amazon360
『1分間マネジャー』や『1分間リーダーシップ』の著者であり、リーダーシップのSL理論でも知られるケン・ブランチャードの最新作『カスタマー・マニア!』は、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)、ピザハットなど5つのレストランチェーンを傘下に持つヤム・ブランズ(※)の再生物語である。そこには、体系的なトレーニング、明確な目標設定とフィードバックの制度、賞賛の文化、透明な業績管理の仕組みといった組織的に整備されたインフラの上で、各国からやってくる多種多様な従業員が自らの能力を如何なく発揮している様子が描かれている。
また、日本に目を向けてみると、リクルートワークス研究所の見館好隆氏が「顧客接点アルバイトが基礎力向上に与える影響について−日本マクドナルドに注目して−」という興味深い論文を発表している。マクドナルドのようなファストフードチェーンは、マニュアル対応しかできない機械的な人間を生み出しているとしばしば批判される。しかし、この論文を読むと、昨今注目を集めている「社会的基礎力」の向上に、マクドナルドの組織的な要素が深く関係していることが解る。しかも、クルー(マクドナルドの従業員)の能力は決して画一化されているわけではなく、各々が固有の成長ヒストリーを持って仕事に取り組んでいることもうかがえる。
「個を活かす」ために組織が準備すべき3つのインフラ
「組織の一体感」と「個の活性化」の両立についてさらに詳細に分析した本として、クリストファー・A・バートレット『個を活かす企業』が挙げられる。同書の詳しい紹介は別の機会に譲るとして、上記のヤム・ブランズやマクドナルド、そして『個を活かす企業』で取り上げられている事例から、「個を活かす」ために組織が準備すべき必須のインフラを3つ整理してみたいと思う。
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| クリストファー A. バートレット ダイヤモンド社 2007-08-31 おすすめ平均: ![]() ![]() ![]() |
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(1)スキルを平準化・底上げする十分なトレーニング
社員が一人前になるまでは、徹底的にトレーニングを行う。マクドナルドには詳細なマニュアルが存在することはよく知られている。しかもこのマニュアルには、行動の背景まで詳細に規定されている。例えば、「なぜビーフパティを扱うために抗菌ウェットワイパーで手を拭かなくてはいけないのか?」、「なぜ挨拶から再来の挨拶までの最長秒数が決められているのか?」といった、非常に細かいことまでクルーは学習する。標準マニュアルは、クルーに基礎的な能力を習得させると同時に、行動の背後にあるマクドナルドの考え方や価値観を浸透させる役割を担っている。
ヤム・ブランズには、「ヤム・ユニバーシティ」という企業内大学がある。その中の「オペレーション・カレッジ」では、本社の社員とフランチャイズ店の現場社員が、レストランの運営方法、リーダーシップ、人材教育、採用のベストプラクティスなどを1週間で学習する。もちろん、マクドナルドでもヤム・ブランズでも、こうした研修に加えて現場では日々上司や先輩によるOJTが実施されている。こうした手厚いトレーニングを通じて、全ての社員が顧客に対して最低限の品質を提供することを約束する。
(長くなったので、記事を分割します。(2)へ続く)
(※)ヤム・ブランズの"YUM"は、英語で「うまい」を意味すると同時に、"You Understand Me"([顧客の側から見て]ヤムは顧客のことをよく解っている)の頭文字を取ったものでもあり、顧客視点を強調する同社の姿勢をも表している。