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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 22, 2011
【第19回】自社を介して2種類の顧客を持つ―ビジネスモデル変革のパターン
拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
結局、6月中に第20回まで全て終えるという目標は達成できませんでした。すみません。あと2回なので、7月中に何とかします!
今回のビジネスモデルは、一言で言えばマッチングビジネスであり、売り手と買い手の間に立って仲介役を担う。代表的なビジネスは、言うまでもなくテレビや雑誌、ネットの広告である。グーグルも、創業者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジの2人は、検索エンジンそのものを企業に販売しようとしていたが、エリック・シュミットの提案によって、現在のような広告モデルができ上がったと言われる。
広告ビジネスについてもう少し補足すると、膨大な顧客基盤を有する企業は、ほぼ例外なく広告ビジネスを展開できる。極端な話をすれば、食品メーカーは自社製品のパッケージの一部を広告枠にして、消費者の興味をそそるような広告を掲載することだってできるはずだ。
しかし、実際のところ、そこまでやらないのは、1つには過剰な広告を消費者が嫌がり、製品のブランドイメージを傷つけてしまうリスクがあるからであり、もう1つは食品メーカー自身が広告主を開拓する営業部隊を新たに設ける必要があり、新しいケイパビリティを獲得しなければならないためである。
広告ビジネス以外にも、業界内に売り手が数多く存在し、買い手へのアプローチが難しくなると、両者の橋渡しを行うプレイヤーが登場する。このプレイヤーにとって、売り手はサプライヤではなく、「何とかして製品・サービスを売りたい」というニーズを持った顧客と化す。こうして、仲介役のプレイヤーは、売り手と買い手の両方を自社の顧客にすることができるわけだ。
「お金を払ってでも売りたい」という売り手が存在する業界の1つに、出版業界が挙げられる。著名な作家であれば、出版社が出版権をめぐって争奪戦を繰り広げるものの、無名の人間が出版する場合には、出版社に対して百万円単位のお金を先に支払わなければならない。これはもちろん、本が売れないリスクを出版が作家に転嫁しているわけだが、見方を変えれば、「お金を払ってでも自分の作品を世に出したい」という作家のニーズに応えているとも捉えられる。
【パターンが当てはまる事例】
《サービス共同購入サイト[GROUPON、ポンパレなど]》
昨年から注目を集めているのが、このサービス共同購入サイトのビジネスである。製品の共同購入ビジネスは以前から存在したが、そのサービス版だ。アメリカでGROUPONが人気を博すようになってから、その人気が日本にも飛び火し、一気に多数のプレイヤーが参入してきた。
GROUPONを例にとってみよう。まず、サービス業者は、クーポン価格とクーポンの最低販売枚数を決定し、GRUPONに情報を掲載する。消費者は、ほぼ日替わりで更新される情報の中から、気に入ったサービスのクーポンを購入し、代金をGROUPONに支払う。販売枚数が最低ラインを超えれば取引が成立し、GROUPONからクーポンが発行される(取引が成立しなかった場合は払い戻し)。消費者は、クーポンの有効期限内にサービスを利用する、という流れになる。
GROUPONは、クーポンの販売総額に一定のパーセンテージをかけた金額を手数料として手元に残し、残りをサービス業者に支払う。このパーセンテージはサービス共同購入サイトの運営企業によってまちまちだが、GROUPONの場合は約30%のようだ。つまり、あるサービス業者が3,000円のクーポンを500枚販売した場合、サービス業者には3,000円×500枚×70%=105万円、GROUPONには3,000円×500枚×30%=45万円が入る計算になる。
サービス業者から見ると、クーポンの価格を通常の価格よりも低く設定しなければならない上に、GROUPONに約30%の手数料を持って行かれるため、たいていのクーポンはサービス業者にとって赤字になる。それでもサービス業者がGROUPONに情報を掲載するのは、クーポンを利用した消費者の一部がリピーターになってくれれば、赤字の分を取り戻せるからである。
ここで、このビジネスに向いているサービス業は何か考えてみよう。GROUPONやポンパレ、さらに他のサービス共同購入サイトも、飲食店のクーポンが目立つ。ポンパレはリクルートが主体であり、ホットペッパーなどで蓄積した飲食店向けの営業ノウハウを活用していると言える。
ところが、このビジネスの成立条件は、前述したように「クーポンを購入した消費者の一部がリピーターになること」である。私の周りで飲食店、特に飲み屋関係のクーポンを購入した人に話を聞いてみると、「同じ店に2度は行かない」という人が多数を占めている。よく考えれば至極当然なのだが、よほどお気に入りの飲み屋でもない限り、同じ店に何度も足を運ぶことは考えにくい。
さらに、赤字覚悟でクーポンを販売していることを考えると、売れば売るほど損になるビジネス、すなわち変動費率が高いビジネスは危険である。飲食店のように、そもそも薄利多売のビジネスがむやみにクーポンに頼ると、自分で自分の首を絞めることになりかねない。むしろ、固定費率が高く、顧客が多少増えても追加コストがほとんど発生しないビジネスの方が向いている。
これらの点を総合すると、この手のビジネスに向いているサービス業とは、美容院やエステ、スパ、ネイルサロン、マッサージ、ゴルフの打ちっ放しなど、固定費率が高く、かつ一度利用した顧客がリピーターになりやすい(=顧客がロックインされやすい)業態であると考えられる。つまり、向いているサービス業はそれほど多くないのだ。アメリカでGROUPONが上場するかも?という情報が流れた時に、ビジネスモデルが脆弱で投資対象としては不適格だという声も聞かれた。サービス共同購入サイトの今後の動向が気になるところだ。
もう1つ、広告ビジネス以外で2種類の顧客を有するビジネスモデルを図示してみた。上図はショッピングセンター(SC)のビジネスモデルである。SCの運営会社には、テナント企業と消費者という2種類の顧客が存在する。SC運営会社は、消費者に対してはSCに来てもらうためのキャンペーンを実施し、テナント企業に対しては単なる場所貸しという枠を超えて、テナントの経営改善に向けたサポートなどを提供している。テナント企業は、毎月の家賃に加えて、売上の数%を手数料としてSC運営会社に支払う。これがSC運営会社の収益源になる。
SC運営会社にとって重要なのは、SC全体の来客数を増やすために、目玉となるテナント企業を誘致することである。魅力的なテナントが出店すれば、来場者が増加する。来場者が増加すれば、他のテナントも売上増の恩恵にあずかることができる。そして、「あのSCに出店すると、売上が伸びやすい」という評判が流れれば、出店を希望するテナント企業が増えていく。
今回のビジネスモデルは、自社の両側に2種類のネットワークが存在するとも言える。こうしたビジネスでは、ネットワークの外部性が働く。しかも面白いことに、片方のネットワークのプレイヤーが増加すると、そのネットワークのプレイヤーが増加するだけでなく、もう片方のネットワークのプレイヤーも増えていくのである。
先ほどのSCの例で言えば、目玉となるテナントが出店すると、そのテナントを目当てに消費者側のネットワークができ上がる。消費者側のネットワーク内に、口コミでSCの評判を広げてくれる人がいれば、消費者側のネットワークが増大する。すると今度は、消費者側のネットワークの大きさに惹かれて、新たに出店を希望するテナント企業が登場する。つまり、テナント側のネットワークが拡大するのである。
サービス共同購入サイトも同じである。まずは、目玉となるサービス業者にクーポンを発行してもらう。ポンパレがハーゲンダッツと組んで、1個100円のアイスのクーポンを100万枚販売しようとしたのを覚えている方も多いだろう(この仕掛けそのものは、悲惨な結果に終わったわけだが)。
サービス共同購入サイトの運営会社は、消費者側のネットワークを拡大するために、ほぼ例外なくtwitterやfacebookなどのソーシャルネットワークを活用している。クーポンを購入した消費者が、「あそこのお店のクーポンが○○円で買えたよ!」とtwitterでつぶやいてくれれば、フォロワーにもその情報が伝わるからである。
ソーシャルメディアの利用者の中に、芸能人など影響力の強い人がいれば、消費者側のネットワークが一気に広がる可能性がある。すると今度は、「あのサイトにクーポンを出せば、確実に取引が成立する」という評判がサービス業者に流れて、サービス業者のネットワークが広がっていくのである。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・膨大な顧客基盤を有すること
(広告ビジネスの場合は、これが必須)
・両方の顧客ニーズのマッチング精度を向上させる仕組み
(グーグルのAdSenseがよい例)
・ネットワーク拡大のカギを握るプレイヤーを押さえること
(サービス共同購入サイト、ショッピングセンターの事例より)
《参考》今回のビジネスモデルについては、トーマス・アイゼンマン他「「市場の二面性」のダイナミズムを生かす ツー・サイド・プラットフォーム戦略」(DHBR2007年6月号)が参考になる。
結局、6月中に第20回まで全て終えるという目標は達成できませんでした。すみません。あと2回なので、7月中に何とかします!
今回のビジネスモデルは、一言で言えばマッチングビジネスであり、売り手と買い手の間に立って仲介役を担う。代表的なビジネスは、言うまでもなくテレビや雑誌、ネットの広告である。グーグルも、創業者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジの2人は、検索エンジンそのものを企業に販売しようとしていたが、エリック・シュミットの提案によって、現在のような広告モデルができ上がったと言われる。
広告ビジネスについてもう少し補足すると、膨大な顧客基盤を有する企業は、ほぼ例外なく広告ビジネスを展開できる。極端な話をすれば、食品メーカーは自社製品のパッケージの一部を広告枠にして、消費者の興味をそそるような広告を掲載することだってできるはずだ。
しかし、実際のところ、そこまでやらないのは、1つには過剰な広告を消費者が嫌がり、製品のブランドイメージを傷つけてしまうリスクがあるからであり、もう1つは食品メーカー自身が広告主を開拓する営業部隊を新たに設ける必要があり、新しいケイパビリティを獲得しなければならないためである。
広告ビジネス以外にも、業界内に売り手が数多く存在し、買い手へのアプローチが難しくなると、両者の橋渡しを行うプレイヤーが登場する。このプレイヤーにとって、売り手はサプライヤではなく、「何とかして製品・サービスを売りたい」というニーズを持った顧客と化す。こうして、仲介役のプレイヤーは、売り手と買い手の両方を自社の顧客にすることができるわけだ。
「お金を払ってでも売りたい」という売り手が存在する業界の1つに、出版業界が挙げられる。著名な作家であれば、出版社が出版権をめぐって争奪戦を繰り広げるものの、無名の人間が出版する場合には、出版社に対して百万円単位のお金を先に支払わなければならない。これはもちろん、本が売れないリスクを出版が作家に転嫁しているわけだが、見方を変えれば、「お金を払ってでも自分の作品を世に出したい」という作家のニーズに応えているとも捉えられる。
【パターンが当てはまる事例】
《サービス共同購入サイト[GROUPON、ポンパレなど]》
昨年から注目を集めているのが、このサービス共同購入サイトのビジネスである。製品の共同購入ビジネスは以前から存在したが、そのサービス版だ。アメリカでGROUPONが人気を博すようになってから、その人気が日本にも飛び火し、一気に多数のプレイヤーが参入してきた。
GROUPONを例にとってみよう。まず、サービス業者は、クーポン価格とクーポンの最低販売枚数を決定し、GRUPONに情報を掲載する。消費者は、ほぼ日替わりで更新される情報の中から、気に入ったサービスのクーポンを購入し、代金をGROUPONに支払う。販売枚数が最低ラインを超えれば取引が成立し、GROUPONからクーポンが発行される(取引が成立しなかった場合は払い戻し)。消費者は、クーポンの有効期限内にサービスを利用する、という流れになる。
GROUPONは、クーポンの販売総額に一定のパーセンテージをかけた金額を手数料として手元に残し、残りをサービス業者に支払う。このパーセンテージはサービス共同購入サイトの運営企業によってまちまちだが、GROUPONの場合は約30%のようだ。つまり、あるサービス業者が3,000円のクーポンを500枚販売した場合、サービス業者には3,000円×500枚×70%=105万円、GROUPONには3,000円×500枚×30%=45万円が入る計算になる。
サービス業者から見ると、クーポンの価格を通常の価格よりも低く設定しなければならない上に、GROUPONに約30%の手数料を持って行かれるため、たいていのクーポンはサービス業者にとって赤字になる。それでもサービス業者がGROUPONに情報を掲載するのは、クーポンを利用した消費者の一部がリピーターになってくれれば、赤字の分を取り戻せるからである。
ここで、このビジネスに向いているサービス業は何か考えてみよう。GROUPONやポンパレ、さらに他のサービス共同購入サイトも、飲食店のクーポンが目立つ。ポンパレはリクルートが主体であり、ホットペッパーなどで蓄積した飲食店向けの営業ノウハウを活用していると言える。
ところが、このビジネスの成立条件は、前述したように「クーポンを購入した消費者の一部がリピーターになること」である。私の周りで飲食店、特に飲み屋関係のクーポンを購入した人に話を聞いてみると、「同じ店に2度は行かない」という人が多数を占めている。よく考えれば至極当然なのだが、よほどお気に入りの飲み屋でもない限り、同じ店に何度も足を運ぶことは考えにくい。
さらに、赤字覚悟でクーポンを販売していることを考えると、売れば売るほど損になるビジネス、すなわち変動費率が高いビジネスは危険である。飲食店のように、そもそも薄利多売のビジネスがむやみにクーポンに頼ると、自分で自分の首を絞めることになりかねない。むしろ、固定費率が高く、顧客が多少増えても追加コストがほとんど発生しないビジネスの方が向いている。
これらの点を総合すると、この手のビジネスに向いているサービス業とは、美容院やエステ、スパ、ネイルサロン、マッサージ、ゴルフの打ちっ放しなど、固定費率が高く、かつ一度利用した顧客がリピーターになりやすい(=顧客がロックインされやすい)業態であると考えられる。つまり、向いているサービス業はそれほど多くないのだ。アメリカでGROUPONが上場するかも?という情報が流れた時に、ビジネスモデルが脆弱で投資対象としては不適格だという声も聞かれた。サービス共同購入サイトの今後の動向が気になるところだ。
もう1つ、広告ビジネス以外で2種類の顧客を有するビジネスモデルを図示してみた。上図はショッピングセンター(SC)のビジネスモデルである。SCの運営会社には、テナント企業と消費者という2種類の顧客が存在する。SC運営会社は、消費者に対してはSCに来てもらうためのキャンペーンを実施し、テナント企業に対しては単なる場所貸しという枠を超えて、テナントの経営改善に向けたサポートなどを提供している。テナント企業は、毎月の家賃に加えて、売上の数%を手数料としてSC運営会社に支払う。これがSC運営会社の収益源になる。
SC運営会社にとって重要なのは、SC全体の来客数を増やすために、目玉となるテナント企業を誘致することである。魅力的なテナントが出店すれば、来場者が増加する。来場者が増加すれば、他のテナントも売上増の恩恵にあずかることができる。そして、「あのSCに出店すると、売上が伸びやすい」という評判が流れれば、出店を希望するテナント企業が増えていく。
今回のビジネスモデルは、自社の両側に2種類のネットワークが存在するとも言える。こうしたビジネスでは、ネットワークの外部性が働く。しかも面白いことに、片方のネットワークのプレイヤーが増加すると、そのネットワークのプレイヤーが増加するだけでなく、もう片方のネットワークのプレイヤーも増えていくのである。
先ほどのSCの例で言えば、目玉となるテナントが出店すると、そのテナントを目当てに消費者側のネットワークができ上がる。消費者側のネットワーク内に、口コミでSCの評判を広げてくれる人がいれば、消費者側のネットワークが増大する。すると今度は、消費者側のネットワークの大きさに惹かれて、新たに出店を希望するテナント企業が登場する。つまり、テナント側のネットワークが拡大するのである。
サービス共同購入サイトも同じである。まずは、目玉となるサービス業者にクーポンを発行してもらう。ポンパレがハーゲンダッツと組んで、1個100円のアイスのクーポンを100万枚販売しようとしたのを覚えている方も多いだろう(この仕掛けそのものは、悲惨な結果に終わったわけだが)。
サービス共同購入サイトの運営会社は、消費者側のネットワークを拡大するために、ほぼ例外なくtwitterやfacebookなどのソーシャルネットワークを活用している。クーポンを購入した消費者が、「あそこのお店のクーポンが○○円で買えたよ!」とtwitterでつぶやいてくれれば、フォロワーにもその情報が伝わるからである。
ソーシャルメディアの利用者の中に、芸能人など影響力の強い人がいれば、消費者側のネットワークが一気に広がる可能性がある。すると今度は、「あのサイトにクーポンを出せば、確実に取引が成立する」という評判がサービス業者に流れて、サービス業者のネットワークが広がっていくのである。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・膨大な顧客基盤を有すること
(広告ビジネスの場合は、これが必須)
・両方の顧客ニーズのマッチング精度を向上させる仕組み
(グーグルのAdSenseがよい例)
・ネットワーク拡大のカギを握るプレイヤーを押さえること
(サービス共同購入サイト、ショッピングセンターの事例より)
《参考》今回のビジネスモデルについては、トーマス・アイゼンマン他「「市場の二面性」のダイナミズムを生かす ツー・サイド・プラットフォーム戦略」(DHBR2007年6月号)が参考になる。
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>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へJuly 20, 2011
戦略とビジネスモデルの違いが解る特集―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』
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8月号のレビューはこれで最後。「戦略」と「ビジネスモデル」は非常に紛らわしい言葉であるが、個人的には次のように解釈している。
<戦略>
自社がどの顧客に対して、どのような価値を提供するのか?そして、競合とどのように差別化を図るのか?という問いに対する答え。言い換えれば、市場における自社のポジショニング、立ち位置を示すコンセプト。
<ビジネスモデル>
・戦略を実現するためのビジネスプロセス(=社員の行動の束、時に取引先や提携先の企業の行動を含む)、およびビジネスプロセスに対する経営資源の投入の仕組み(IT基盤、人材の採用・育成・配置・評価に関するルール、ナレッジやノウハウ、重要な技術や知的財産を蓄積・共有する仕組み、予算配分の制度、およびこれらの経営資源を全体的にコントロールする意思決定のメカニズム)を含むビジネスの全体像であり、かつ売上や利益の創出、コストの発生を示すシナリオ。
ちょっと前に『ストーリーとしての競争戦略』という本が流行ったけれども、この本でいう「ストーリー」がほぼビジネスモデルに該当する(実際のところ、『ストーリーとしての競争戦略』の著者は、ビジネスモデルとストーリーを厳密に区別しているが)。
「(※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています―『ストーリーとしての競争戦略』」
「既存企業が戦略ストーリーを再構築することは不可能なのか?―『ストーリーとしての競争戦略』」
「戦略」や「ビジネスモデル」という語句と関連して、「戦略を再構築する」とか、「戦略的打ち手を打つ」といった文言が使われることがある。「戦略の再構築」とは、自社のポジショニングの変更であり、「戦略的打ち手」とは、ビジネスモデルを修正する各種施策であると言えるだろう。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
【再掲】コンセプトのあいまいさが失敗を招く ビジネスモデルの正しい定義(ジョアン・マグレッタ)
ビジネスモデルとは、端的に言えば「物語」、つまりどうすれば会社がうまくいくかを語る筋書きである。優れたビジネスモデルは、ピーター・ドラッカーの古くて新しい質問である「顧客はだれで、顧客価値は何か」という質問に答えるものだ。また、マネジャーが避けては通れない基本的な質問である「どのようにこの事業で儲けるか、どのような論理に基づいて適切なコストで顧客に価値を提供するか」にも答えてくれるだろう。この論文は今月号の最後から2番目に所収されているのだが、最初に読んだ方が他の論文を理解しやすくなるように思える。戦略とビジネスモデルの違いを説明するにあたって、著者はウォルマートとデルの違いに言及している。つまり、「サム・ウォルトンは戦略を描き、マイケル・デルはビジネスモデルを描いた」と言うのである。
ウォルマートと言えば、徹底的に標準化された店舗オペレーション、厳格な在庫管理システム、緻密な需要予測に基づく大量発注の実現、大幅なディスカウントなどを想起するが、これらはビジネスモデルを構成する要素である。ウォルマートはビジネスモデルを徹底的に磨き上げることで競争優位を築いている。とはいえ、個別の要素自体は、実はウォルマートよりも前に登場しているものばかりである。
サム・ウォルトンは、すでに大型スーパーがしのぎを削っている大都市部を避け、敢えて郊外に出店した。こうした地域では、車で何時間もかけてスーパーに行かなければならない。自らも田舎町の出身であったサム・ウォルトンは、郊外での買い物の大変さを肌身で感じていた。そこで、田舎町に住む人々にとって身近なスーパーを作り、かつ手ごろな価格で製品を提供しようと考えたのである。これはまさしくポジショニングの問題であり、この点でサム・ウォルトンは戦略を描いた、というわけだ。
他方、マイケル・デルはPCの直販事業を作り上げた。これは、従来のPC業界には存在しなかったビジネスモデルである。ただし、マイケル・デルは、決して戦略を無視したわけではない。マイケル・デルは、個人向けPCの市場を捨てて、大口の法人顧客のみにターゲットを絞った。
法人顧客はある程度PCに詳しいので、面倒な製品説明やアフターサービスをしなくてもよい。デルは、法人顧客向けのビジネスモデルを十分に練り上げた後で、個人向けPC市場に進出している(ただし、デルは法人顧客を相手にしていたせいでカスタマーサポートのノウハウが溜まらなかったため、しばしば個人顧客から対応の悪さを批判されてきたが)。
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優位性を高める選択がカギ 優れたビジネスモデルは好循環を生み出す(ラモン・カサデサス=マサネル、ジョアン・E・リカート)
我々の調査からは、ビジネスモデルの要素として欠かせないものの1つが、オペレーションのやり方に関わる選択であることがわかる。ここで言う選択とは、報酬慣行、調達契約、施設の立地、垂直統合の度合い、営業・マーケティングの施策などである。(中略)わかりやすく概念化すれば、ビジネスモデルは、経営上の選択と、その選択がもたらす結果から成り立っている。この論文では、格安航空会社であるラインエア社のビジネスモデルが図示されている。だが、その図をよく見ると、実はM・ポーターがサウスウェスト航空を例にとって、同社における「アクティビティ」の関係を図示したものと酷似している。本論文の著者は、「優れたビジネスモデルは、正のフィードバックループによって自己強化される」と主張しているが、それはちょうど、ポーターが「各アクティビティが”フィット”していることが重要である」と説いたのと同じである気がした。
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=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-新規事業研究の第一人者が語る よいビジネスモデル 悪いビジネスモデル(リタ・ギュンター・マグレイス)
(自社のビジネスモデル変革を検討する前に、)まず、自社のビジネスモデルに組み込まれている前提を疑ってみるプロセスが必要です。(中略)私がみなさんにお勧めするのは、「どのようなデータがあれば、これとは違う意思決定を下すだろうか」と自問することです。既存の信条を裏づける情報ばかりを集めないように気をつけてください。そうすれば、求めなければならない、これまでとは違った情報について考えられるようになります。要約すれば、「例外」について検討する場を設けることが、ビジネスモデル再構築のスタートになるということ。ただ、「例外」を発見するためには、「標準」が定められていなければならない。そういう意味では、明快な戦略とそれを実現する業務プロセスや仕組み、さらにプロセスや仕組みの成果を測定する指標をきちんと定義しておく必要がある。この辺りの話については、以下の記事もご参照ください。
「実行を通じて戦略を修正するフィードバックループが欠けてるよな−『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』」
「「業務プロセスがイノベーションの原動力」というのは別の意味で一理あり―『イノベーションの新時代』」
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衰退が始まってからでは遅すぎる 持続的成長のS字曲線(ポール・ヌネシュ、ティム・ブリーン)
修復の必要がだれの目にも明らかになる前に再構築に取り組むことは、たやすいことではない。多くの場合、企業は衰退し始める直前に、最も輝いて見えるものだ。既存のビジネスモデルからの収入は急増し、利益は堅調で、株価はとんでもなく割高に取引されているからである。しかし、それこそマネジャーが手を打つべき時なのである。この論文を読んでいて、誰が言っていたかは忘れてしまったけれど、「お笑いは、ネタが一番ウケている時に、次のステップを考えておかなければならない。それを怠ると一発屋で終わってしまう」というタレントの話を思い出した。お笑いと経営には、意外なところで共通点があるものだ。
お笑いの場合は、「ネタでブレーク⇒フリートークのゲスト、またはロケタレントとして多くの番組に出演⇒冠番組で司会を担当」というのが出世の王道のように思える。ネタでブレークしている間に、例えば雑誌のインタビューなど、話が滑ってもあまり痛手を負わない場面でフリートークの技術を身につけ、いろんな番組に出演しながら司会業の技を盗むことが重要なのだろう。
ただし、お笑いと違って経営の場合は、お笑いの出世街道に該当するはっきりとした筋道など存在しない。それを見つけられるマネジャーとそうでないマネジャーの間に出世スピードの差が生まれるし、それを見つけられる企業とそうでない企業の間に成長スピードの差が生じる。
July 17, 2011
インド企業の発展は宗教や歴史と結びついている―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』
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早速8月号のレビューに突入。今月号を読んでいて目立ったのは、インド企業の事例の多さだった。しかも、インド企業の成長の根底には、インドで最も信者が多いヒンドゥー教の教えや、ガンジーの独立運動を通じてインド人に根付いていった価値観があることを示唆している点で、非常に興味深い特集だった。
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インド企業に学ぶ 「ガンジー主義」イノベーションの知恵(C・K・プラハラード、R・A・マシェルカ)
賢いインド企業は、新しい技術と先鋭的なビジネスモデルを考え出し、国内のマス市場に浸透している。SCMから人材採用まで、バリューチェーンのほぼあらゆる要素を変革し、新たなビジネス生態系を創造することで、これをなし遂げたのだ。『コア・コンピタンス経営』、『ネクスト・マーケット』などの著者であり、BOPビジネスの実践家でもあったC・K・プラハラードの遺稿。インドのイノベーションは、新興国でよく見られる高付加価値路線とは異なり、限られた資源を最大限に活用しながら、割安な価格で多くの人々に製品やサービスを広く提供することを目指している。そして、こうしたインドの起業家の方向性は、ガンジーの思想に通じるところがある、と著者は指摘しているわけだ。
この現象を「ジュガード」(jugaad)というインドの伝統の延長だとする者もいる。ジュガードとは、資源の不足を克服し、一見解決不能な問題を解決するために代替的、即興的、臨時的な策を講じることをいう。
だが、ジュガードという言葉には、質の面で妥協するという含意がある。それよりも好ましいのは「ガンジー主義」イノベーションである。このタイプのイノベーションは、マハトマ・ガンジーという偉大なる指導者の2つの信条がその中核をなしているからだ。その1つは「みんなのためになる発明なら何でも尊重する」、もう1つは「この地球は、すべての人の(欲望ではなく)必要を満たすだけのものを提供してくれる」である。入手しやすさと持続可能性は、60年前にガンジーが基準とした条件であり、インド企業はここへきてその力を認識した。
本論文では、「バーティ・エアテル」と「EMRI」の事例が詳細に述べられている。バーティ・エアテルは、通話時間1分あたり1セントという低価格を実現している通信業者である(ちなみに、中国は2セント、アメリカは8セントぐらい)。EMRIは、救急医療そのものが未だにインドに浸透していないという状況の中で(急病になっても、インド人の多くは、どこに連絡をすればよいのか解らないらしい)、無料に近い救急サービスをインド全土で提供している。
この2社のビジネスモデルは、全く正反対である点でも注目に値する。バーティ・エアテルはIBMなどのグローバル企業と連携し、アウトソーシングをフル活用している。他方、EMRIは基本的に垂直統合型のビジネスモデルであり、各州に設置されているコールセンターを自社社員で運営するのは当然のこと、救急車の設計も自社で手掛けるほどである。
「ビジネスモデル変革のパターン」の連載記事でも取り上げたように、業界全体のバリューチェーンを分解して顧客接点のみに特化するパターンと、これとは逆にバリューチェーン全体を垂直統合するパターンの両方があるわけだが、本論文は、どちらのパターンであっても、低価格のサービスを多くの顧客に提供することが可能なことを示している。
「【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する」
「【第14回】プロセスを垂直統合する」
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インフォシスが実践する 非線形のイノベーション・モデル(ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル)
企業が存続するためには、「維持:ボックス1」「破壊:ボックス2」「創造:ボックス3」の3つの力を適正なバランスに保たなければならない。このバランスを取ることがCEOの最重要任務だが、ほとんどの企業は極端にボックス1を重視する。まず、3つのボックスを用意し、自分が今取り組んでいる仕事を1つずつカードに書き出してみる。次に、それぞのれカードを、該当するボックスに入れていく。そうすると、多くの企業では、ボックス1ばかりがいっぱいになり、ボックス2と3にはほとんどカードが入らないものだ、と著者は指摘する。
既存事業の維持ばかりだと頭打ちになるのは目に見えているから、同時並行で新規事業の種をまく必要がある、というのは別に珍しい主張でも何でもなくて、この論文以外にも多くの著者が言っていることなのだけれども、実際にはなかなか難しいものである。
この論文が面白いのは、この3つのボックスの区分をヒンドゥー教と紐づけている点である。
ヒンズー教にはさまざまな神が登場するが、主要なのは三神のみである。維持の神であるビシュヌ(ボックス1)、破壊の神のシバ(ボックス2)、創造の神のブラフマー(ボックス3)である。(中略)ヒンズー教の原理によれば、この三神の間のバランスの取れた相互作用から、「維持」「破壊」「創造」の連続的サイクルが生まれる。つまり、インドでは、既存事業の維持を図りながら、不要な製品やサービス、業務やシステムを破壊し、新しい事業を創造していくというサイクルが、ごく自然な価値観として人々の心に刻まれているのである。宗教観とビジネスの論理を結びつけて捉えることは、各国のマネジメントのスタイルをよく理解する上で有効だと私は考える。「宗教観や社会の基本的価値観が、マネジメントとどのように関連しているのか?」という論点は、私が最近大いに関心を寄せているものである。
例えば、アメリカは一神教の国であるのに対し、日本は多神教の国である。この違いが、両国のリーダーシップ像に影響を与える。すなわち、アメリカでは1人の強力なリーダーが求められるのに対し、日本ではそれほど目立たない多数のリーダーたちが社会を動かそうとするのである。
また、日本人には、長年かけて1つの分野を極める姿勢をよしとする精神がある。柔道、剣道、書道、武士道といった言葉に含まれる「道」の考えがそれに該当する。さらに、吉田兼好の徒然草には「完成と同時に崩壊が始まる」という考えが記されている(※)。よって、何事も永遠に完成することはなく、刻々と変化する状況に常に適応していかなければならない。こうした価値観は、日本が誇るマネジメント手法「トヨタ生産方式」と無縁ではないように感じる。
話がだいぶ逸れてしまったけれど、本論文では、インドのITアウトソーシング業界でリーダー的存在にある「インフォシス」の取り組みが紹介されている。インフォシスが3つのボックスのバランスをとるために行っていることを以下に列記しておく。
・同社の長期的な前提条件に異議を唱えたり、将来の成長に向けた大胆な提案を行ったりする場として、一部のクライアントにグループ会議や一対一の打ち合わせに直接参加してもらう。
・「ボイス・オブ・ユース」と呼ぶ若手社員のパネルを編成し、年8回、経営幹部の会議に出席させる。
・戦略に関して議論する時には必ず、創造的で過去に縛られない30歳未満の参加者を30%入れるという「30・30ルール」を適用する。
・何千名もの若手社員を継続的に戦略策定プロセスに引きつけるために、「ストラテジック・グラフィティ・ウォールズ」(戦略を落書きのように壁に描く)、「ジャム・セッション」(同社が新興国市場で勝つためにはどうすればよいかといった質問に対し、参加者がわずか1分という持ち時間で回答していく円卓会議)、「ナレッジ・カフェ」、「スピード・マニア」など、様々な名称の創造的な仕組みを新設した。
(※)日光東照宮の陽明門を支える柱のうち、1本だけ他の柱とは逆の模様が描かれている(逆柱と呼ばれる)。これは、「建物は完成と同時に崩壊が始まる」という伝承を逆手にとったものである。
(続く)