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July 25, 2012
マーケティングも、ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションに限定されてはならない―『イノベーション実践論(DHBR2012年8月号)』
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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2012-07-10 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
前回の続き。前回はマーケティングとイノベーションの違いを私なりに述べてみたが、前回の記事の冒頭に書いた「イノベーションがマーケティングの領域を侵食している」というのは、例えば「資源配分の黄金比率 イノベーション戦略の70:20:10の法則」(バンシー・ナジー、ジェフ・タフ)の次の記述から感じ取れる。
我々の調査で浮き彫りになった、卓越したイノベーション実績を誇る企業は、イノベーションに対する明確な展望を理路整然と説明できる。そして「中核的イニシアティブ」(※既存の顧客向けに既存の製品を最適化する)「隣接イニシアティブ」(※既存の事業から「自社にとって新しい」事業へと拡大する)「転換的イニシアティブ」(※ブレークスルー製品を開発し、まだ存在しない市場に向けた創出を行う)のバランスを事業全体で適正に保ち、これらさまざまなイニシアティブを、まとまりのある全体の一部としてマネジメントするツールとケイパビリティを備えている。「転換的イニシアティブ」はまさしくイノベーションだと思う反面、「中核的イニシアティブ」や「隣接イニシアティブ」はマーケティングの話なのではないか?と思うわけだ。また、「過去の失敗にも技術やアイデアの種がある 低予算イノベーションのすすめ」(ランス・A・ベッテンコート、スコット・L・ベッテンコート)の著者は、
ほとんどの経営者は、イノベーションは100%新しいものでなければならない、と考える。理想的には世界中でだれも見たことがないものであり、最低でも、その企業にとって新しいものでなければならない。だが、たいていの企業では、過去の取り組みのなかにイノベーションや市場開拓の機会が眠っている。このイノベーション予備軍こそ、ことわざ「掌中の一羽は、叢中の二羽に値する」の一羽である。と述べ、具体的な方法として、(1)販売に至らなかった案件を振り返る、(2)実際に販売されたものの、その特徴が十分に市場に受け入れられなかった製品を再評価する、(3)販売データの想定外の動きに着目し、顧客への提案方法を見直す、(4)バンドリング(補完的な製品との組合せ)を分解し、要素を独立させる、(5)顧客のワークフローから、バンドリングの機会を探る、(6)標準ユーザ向けに過剰設計を見直す、という6つの方法を提案しているが、事例を含めてよく読むと新製品開発のヒント集のようなものであり、必ずしもイノベーションと呼べるものばかりではないと感じた。
要するに、自社にとって新しければ何でもイノベーションと呼んでいるだけのような気がしてならないのである。イノベーションに関する定義が私とDHBRで違うだけだと言ってしまえばそれまでなのだが、イノベーションにあまりにもいろんなものが流れ込んでしまっており、概念が希薄化する恐れがある。
新しいければ何でもイノベーションと呼ぶ傾向は、何に対しても「戦略的」という言葉をくっつける傾向に似ている。戦略的マネジメント、戦略的マーケティング、戦略的管理会計、戦略的チームビルディング、戦略的リーダーシップ、戦略的交渉術、戦略的コミュニケーション、戦略的コミットメント、戦略的イノベーション(!)といった具合だ。ここまで「戦略的」という言葉が多用されると、「戦略的」=「よく考え抜かれた」ぐらいの意味しか持たず、戦略が本来有する意味合い、すなわち、企業がどの顧客に対して、どんな価値を、どのような差別化された手段で提供するのか?という意味合いからかけ離れてしまう。
イノベーションによって領域が侵食されているマーケティングの方はというと、それはそれでまた1つ別の問題を抱えていると私は考える。AMA協会(アメリカマーケティング協会)は2007年にマーケティングの定義を改訂し、「マーケティングとは、組織とその利害関係者の利益となるように、顧客に価値を創造・伝達・流通し、顧客との関係を管理するための組織的な機能や一連の過程である」とした。ところが、その後のソーシャルメディアの登場によって、「顧客との関係を管理する」という部分が強調され、しかもソーシャルメディアを通じた「コミュニケーション」ばかりがクローズアップされる傾向があるように思える。
さらにそのコミュニケーションも、「顧客に価値を創造・伝達・流通」するというマーケティングの本質から外れて、ややもすると”奇をてらった”コミュニケーションがよしとされているようにも思える。別の言い方をすれば、多少の過剰演出をも恐れず、顧客の興味を引いた人が勝ち、という理屈が働いていると感じるのである。その代表的な手法を、私は勝手に「3”じょう”マーケティング」と名づけた。
例えば、アメリカのあるホテルは、パリス・ヒルトンが薬物所持で逮捕された際、同ホテルに彼女が立ち入ることを禁じる記事を自社ブログにアップした。すると、パリス・ヒルトンの逮捕を報じたネット上の記事のうち、約5,000本が同ホテルに言及し、ホテルの知名度が飛躍的に上がったというのである(田中正道著『ボイス―ソーシャルの力で会社を変える』[日本経済新聞出版社、2012年])。人々の関心が高いニュースに乗じて、自社のブランドや製品をPRするこの手法を、「便乗マーケティング」と呼ぶことにしよう。
ボイス ソーシャルの力で会社を変える 田中 正道 日本経済新聞出版社 2012-04-26 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
2つ目はネット上の炎上をわざと誘発して、人々の注目を集めると言う「炎上マーケティング」である。最近も、何かの映画の原作者が映画の出来を酷評したことで炎上が発生し、それがYahoo!で記事になっていた(面倒くさいのでどの記事だったか探すのは止めた。まぁ、Yahoo!に釣られた時点で私の負けなのだが・・・)。炎上マーケティングは、「そこまで酷いと評判ならば、試しに1度ぐらい買ってみようじゃないか」という心理に働きかける手法である。
炎上マーケティングが敵対的であるのに対し、3番目に取り上げる手法は同情的なものである。去年だったと思うが、客が全く入らないことをtwitterでつぶやいていたとあるエスニック料理店が、これもまたYahoo!に取り上げられて知名度が上がり、客が入るようになったという出来事があったと記憶している(すごいあやふやな記述・・・)。また、今年になってからは、あるIT系ベンチャー企業が自社の赤字決算をプレスリリースで公開し、このままではサービス停止になってしまうと赤裸々に告白したことが話題になった。
ゲーリー・スペンス著『議論に絶対負けない法』(三笠書房、2012年)によれば、人は相手が望んでいるものを率直に求められると、たいていの場合はノーと言いにくいのだという。同書では、著者がロンドン滞在中に訪れた市場で、ある農家の老人から「だんな、わしの野菜買ってくだせぇよ。お金が必要なんでさ」と言われ、思わずニンジンを1袋買ってしまったエピソードが紹介されている。エスニック料理店やIT系ベンチャー企業の例もこれと似ている。とどのつまり彼らは「うちの製品やサービスを買ってくれ」と切実にアピールしているのである。その切実さに胸を打たれた人たちは、エスニック料理店に足を運び、ITサービスを利用する。このように人の情に訴える手法を「人情マーケティング」と名づけよう。
議論に絶対負けない法: 欲しいものを手に入れる「必勝のセオリー」 ゲーリー・スペンス 松尾 翼 三笠書房 2012-02-17 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
以上、「便乗マーケティング」、「炎上マーケティング」、「人情マーケティング」の3つを合わせて、「3”じょう”マーケティング」と命名したわけである。ただし、「3”じょう”マーケティング」によって一時的に知名度を上げることはできても、その効果が長続きするかどうかはかなり不透明である。ソーシャルメディアを使ったマーケティングの本質は、もっと別のところにあるはずだ。さらに、根本に立ち戻れば、ソーシャルメディアを使ったマーケティングは、マーケティングのごく一部に過ぎないことを忘れてはならない(今回の記事の後半は、DHBRの内容とは全く関係ないな(汗))。
(続く)
February 16, 2012
「顧客コミュニティの活用」というビジネスモデル変革―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』
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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2012-02-10 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
今回から本格的に論文のレビュー開始。
顧客と企業のつながりをいかに強化するか 成功するSNS戦略(ミコワイ・ジャン・ピスコルスキ)
(ソーシャル・プラットフォームに参入している60社超を調査した結果、)うまくいっていない企業に共通していたのは、ソーシャル・プラットフォームに「デジタル戦略」を導入し、売らんがためのメッセージを発信し、顧客の反応を求めるというやり方であった。顧客はこのような提案は拒否する。なぜなら、ソーシャル・プラットフォームを利用する主たる目的は、だれか―それは企業ではない―とつながることだからである。著者によると、成功するSNS戦略は、「戦略上の効果」と「人間関係上の効果」という2軸で構成されるマトリクスを用いることで、次の4つに分類できるという(事例は、論文の内容を基に私がまとめたもの)。
それに引き換え、大きな利益を得ている企業は、新たな出会いを生み出し、人間関係をより良好なものにする「ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)戦略」を打ち出していた。夕食の例えで言えば、SNS戦略を採用している企業は、席に着くと、こう言ってくる。「どなたかご紹介いたしましょうか。それとも、いまのお友だちとの仲が深まるようなお手伝いをいたしましょうか」
(戦略上の効果, 人間関係上の効果)=個人的には、「コスト削減⇔購買意欲の促進」、「(既存の)人間関係の強化⇔(新しい)人間関係の創出」という区別は、それほど境界線が明確ではないような気がする。《ジンガ》の例で言えば、新規ユーザを勧誘したことで競争心に火が付き、お互いにバーチャルアイテムを購入し始めたとすれば、これは購買意欲の促進に該当するだろう。また、《イーベイ》の例も、「グループ・ギフト」の利用者の3分の1がペイパルユーザに加わったという点では、顧客獲得コストを節約したと言える。《アメックス》の例では、何もSNSに参加している小規模事業者が全て赤の他人とは限らない。以前から親交のあった小規模事業者同士が、同じアメックスユーザであることを知って、さらに交流を深めるというケースも十分にありうる。
(1)(コスト削減, 人間関係の強化)
《ジンガ》(※facebookで「ファームビル」や「シティビル」などのソーシャルゲームを提供する企業)
初期状態のユーザが所有する土地や運営できる事業数には限りがあり、これを引き上げるにはバーチャルの製品やサービスを購入する必要があるが(アイテムの購入金額が主たる収益源という、よくあるソーシャルゲームのビジネスモデル)、それ以外に友人の力を借りることで機能制限を取り払うことも可能である。プレイヤーは自分の友人を新たなプレイヤーとして勧誘し、ゲームを通じて交流を続ける。これはジンガ側から見ると、新規プレイヤーの獲得コストを削減したことになる。
(2)(コスト削減, 人間関係の創出)
《イェルプ》(※レビューサイト)
「イェルパー」と呼ばれるレビュアー(多くは教育水準の高い30代〜40代)の中でも特に熱心なレビュアーには、特別な出会いの場が提供される。具体的には「エリート・スクワッド」への招待状が届き、美術館でのカクテルパーティーや、サンフランシスコのバブル・ラウンジでの大宴会などのイベントに参加できる。参加者はここで新しい交友関係を築くと同時にイェルプへのロイヤルティを強め、今後もレビューを投稿する気になる。これはイェルプ側にとっては、イベントへの支出だけで、良質なレビューの継続的な獲得に成功したことになる。
(3)(購買意欲の増進, 人間関係の強化)
《イーベイ》
2010年末から始まったサービス「グループ・ギフト」では、何人かでお金を出し合って友人へのプレゼントを購入することができる。仕組みは簡単で、プレゼントを贈りたい人は、イーベイのページで贈り物を選択し、facebookの友人にカンパを呼び掛けるというものだ。このサービスによって、贈り主と受取人の人間関係だけでなく、カンパした贈り主同士の人間関係も深まる。また、イーベイ側から見ると、1人ではなかなか買えない高価な贈り物をイーベイで買ってもらえる機会が増えたことになる。さらにイーベイによると、グループ・ギフトの利用者の3分の1がペイパルの口座を開き、3分の1が1か月以内にイーベイでまた別の製品を購入しているという。
(4)(購買意欲の増進, 人間関係の創出)
《アメリカン・エキスプレス》
同社の会員制サイト「コネクトデックス」は、カード会員の継続を前提に加入することができるSNSである。同SNSは1万5,000人以上の小規模事業者が利用している。年商10万ドル以上の小規模事業者の半数近くは、他の事業者から何かを学びたいと思っているという調査結果もあり、「コネクトデックス」はまさしくこのニーズに応えるネットワークとなっている。また、アメックス側から見ると、このSNSはユーザのカード離反率を下げるとともに、カードの利用率を上げる効果もある。
SNS戦略のポイントは、既存のビジネスモデルによって提供されている顧客価値が、顧客同士のコミュニティによって強化されるか否か?であると思う。SNS戦略で成功している企業は、顧客コミュニティの活用を通じて、顧客価値を強化することに成功した企業と言い換えることができる。これは新しいビジネスモデル変革のパターンだと思った。だから、昨年書いた連載モノ「【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回)」に、21個目の変革パターンとして「顧客コミュニティを活用する」というのを追加した方がいいのかもしれない。
《アメックス》のクレジットカードがもたらす顧客価値は、基本的には「小規模事業者の資金調達ニーズを満たす」ことである。だが、小規模事業者の資金調達ニーズとは、もっと深く掘り下げていくと、単なる資金獲得にとどまらない。現在の事業収入でどこまでクレジットを使っても大丈夫なのか?返済計画はどのように練ればよいのか?他の資金調達方法はないのか?といったことも彼らの関心事である。
そして何より重要なのは、小規模事業者は小規模であるがゆえに孤独であり、そういう悩みを気軽に相談できる人が周囲に少ないということである。「コネクトデックス」はまさに、小規模事業者の孤独を解消するソリューションであり、「小規模事業者の資金調達ニーズを満たす」という本来の顧客価値を強化するのに役立っていると言えるだろう。
このビジネスモデル変革のもう1つのポイントは、顧客コミュニティの活用によって本来の顧客価値が強化されるのであれば、そのネットワークがバーチャルかリアルかは関係ないということである。バーチャルとリアルのどちらが顧客価値の強化に効果的なのかは、ケースバイケースである。顧客コミュニティの活用と言うと、どうしても流行のソーシャル・メディアばかりに目が向きがちであるけれども、敢えてリアルのコミュニティを選択した方がよいケースもあるはずだ(※)。
事実、引用文で紹介した《イェルプ》の事例は、バーチャルではなくリアルのコミュニティである。また、「ビジネスモデル変革のパターン」シリーズの「【第2回】高級志向の顧客を狙う」で取り上げたハーレー・ダビッドソンも、リアルのコミュニティを重視している。バイク好きの人には、バイクメーカーに忠誠を誓うだけでなく、同じバイクを乗り回している人たちとも密接につながっていたいという心理があるようだ。同社のライダーコミュニティは、そうした心理的欲求を満たすのに一役買っている。
(毎度のようにレビューは続きますよ)
(※)ラリー・クレイマー著「フランス企業に学ぶ優良顧客との関係構築法 ネットワークよりリレーション」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年3月号)によると、フランス企業は安易にバーチャルのソーシャル・メディアに飛びつかず、古典的なリアルのコミュニティを重視する傾向があるという。
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2011-03-10 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
March 18, 2011
【第10回】製品を売るのではなく貸す―ビジネスモデル変革のパターン
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【パターンの概要と適用できるケース】
BtoCの世界では自動車、CD、DVD、ウェディングドレスなどのレンタルビジネスがずっと前から存在するし、BtoBにおいても「所有からサービスへ」、「資産を持たない経営」といったキャッチフレーズとともに、リースやSaaSなどのビジネスが急速に拡大している。個人にしても企業にしても、身の回りにモノがあふれてくると、それらの管理が非常に煩雑になる。そこで、使いたい時だけ使えればいいモノに関しては、「買う」のではなく「借りる」という判断を下すようになってきている。
【パターンが当てはまる事例】
この変革パターンに該当する事例は前述のように日常的によく知られたものが多く、ここで改めて紹介するのもナンセンスなので、今回の記事はレイチェル・ボッツマン著『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』を基に、ちょっと違う視点から書いてみたいと思う。
著者は20世紀が過剰な消費社会であったことを述べた上で、我々は必要以上にモノを所有しすぎていると指摘する。そんな中、極めてシンプルなニーズを持った人たちが登場する。「余っているモノを他人に貸したい」というニーズである。一昔前であれば、借り手を見つけようとしても、知人のつてなどを使うしか方法がなかった。しかし、インターネットによって、貸し手と借り手を迅速にマッチングすることが可能になっている。
こうしたシェアビジネスは、最初は「余っているモノを貸したい」という個人的なニーズが発端ではあったが、社会全体の価値観が大量生産・大量消費に対する反省、環境保護や地球資源の節約を重視する方向に傾くにつれて、急速に拡大している。同書で紹介されているシェアビジネスの一部を以下にまとめておこう。
《エアビーアンドビー》
「余っている部屋(または部屋の一部)を特定の期間だけ貸したい」という貸し手が集まっている。借り手となるのは、観光シーズンでホテルに泊まれなかった人や、ホテルよりも安い料金での宿泊を望む人が中心。
《ビクシー(BIXI:バイクとタクシーを組み合わせた造語)》
モントリオールの自転車シェアサービス。地下鉄の近くにセルフサービスステーションを配置し、住民が自宅と駅の往復に自転車を使えるようにしてある。スマートフォーンやインターネットを使えば、自転車の空き具合や乗降ステーションの場所をリアルタイムで確認することも可能。
《テックショップ》
カリフォルニアにある「作業場」。製品開発をする人や趣味でモノ作りをする人、アーティスト、カーマニア、エンジニアたちに必要な場所と道具や材料を貸し、専門家のサポートも提供する。創業者のジム・ニュートンは、モノを作りたくても道具や設備を買う余裕がなかったり、それをしまう場所がない人が多いことに着目してこのビジネスを始めたという。
《ヤードシェア》
農作物を育てたくても土地がない人と、農地は持っているが休耕地となって困っている人とをマッチングする。地主からは「庭を持っているのですが、ただの荒地になりつつあります。野菜やその他何か育てたい方はいませんか。できたものを分けていただければそれで結構です」といったメッセージがサイトにアップされる。
シェアビジネスは、インターネットを活用した新しいビジネスのように見えるけれども、その原動力となっている原則は非常にアナログなものである。一昔前であれば、余ったモノを近所の人におすそ分けしたり、1つのモノをみんなで共有したりするということは、コミュニティの中で当たり前に行われていた。実際、同書では、シェアビジネスに対して両親世代は当惑した表情を見せるが、祖父世代は特に抵抗を示さない、といった話も出てくる。昔のコミュニティを支えていた共有意識が、単に場所を変えて復活しただけなのである。
私が知りうる限りの情報で話を一般化するのは乱暴かもしれないが、アメリカでは「コミュニティの復興」を目的として新しいビジネスが立ち上がるケースが少なくないように思える。すでに何十年も前から、アメリカはコミュニティの分裂という問題を抱えていた。70年代のメディアは、国家から家族に至るまで大小様々なコミュニティが分断されているアメリカの現状を憂い、次代のリーダーにコミュニティの回復を強く期待していた。
よく知られているように、スターバックスのビジネスモデルは、ハワード・シュルツがイタリアを訪れた際に、現地のカフェが地場のコミュニティの役割を担っていることに着想を得たものである。また、アメリカはNPOが多いことでも有名であり、政府や企業の手が十分に行き届かないコミュニティの領域をNPOがカバーするという構図ができ上がっている。
NPO=非営利団体は、決して利益の追求を放棄しているわけではない。エイズ患者の救済、薬物中毒者の社会復帰支援、離婚を経験した母子家庭のサポートなどといった社会的な使命を第一とするのはもちろんだが、同時に組織の存続要件として利益を確保することは、むしろ合理的であると見られている。
スターバックスやNPOがリアルの世界で人と人とをつないできたのに加え、最近ではfacebookに代表されるように、インターネットがバーチャルの世界に続々とコミュニティを誕生させている。しかも、そのスピードは爆発的だ。コミュニティ復興の道をずっと模索してきたアメリカが、インターネットという最強の武器を得て、積年の課題を一気に解決しようとしているようにも感じる。
翻って日本に目を向けてみると、本書で紹介されているようなビジネスはそれほど多くない。ただ、アメリカとは別の意味でコミュニティの危機を抱えているのは事実だろう。子育てに対する不安から子どもを生まないことを選択する夫婦が増加し、過疎化の影響で住民サービスを十分に受けられない地域も出てきている。
これらのコミュニティの危機は、「ちょっとした需給バランスの崩れ」によって引き起こされている。子どもを生まない夫婦は、もしかしたら、子育てに疲れた時にちょっと家事を手伝ってくれる人がいたり、保育園への送り迎えをしなくても子どもの面倒を見てくれる人がいたりすれば、子どもを生んでもいいと考えるかもしれない。こうしたニーズはどれも突発的で些細なことであるから、自治体や企業はどうしても軽視しがちだ。とはいえ、些細なことでも積み重なっていけば、やがてはコミュニティの崩壊という大きな問題になってしまう。
先日の東日本大震災の際には、海外メディアがこぞって日本の協調性、譲り合いの精神を賞賛した。もしこの精神が一過性のものではなく本物であるならば、日本にも今後こうしたシェアビジネスが根づいていくのかもしれない(だいぶ話が脱線しちゃいました・・・)。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
同書では、シェアビジネスを成り立たせるための条件として、(1)クリティカル・マスの存在、(2)余剰キャパシティの活用、(3)共有意識の尊重、(4)他者との信頼という4つを指摘している(「クリティカル・マスの存在」とは、例えば前述の《ビクシー》であれば、提供される自転車やセルフサービスステーションの数が一定規模を超えないと、借り手にとっては魅力的なサービスに映らないことを指す)。ただ、この4つはあくまでもビジネス”そのもの”を成立させる要件である。ビジネスに参加するプレイヤー、とりわけ、貸し手と借り手の仲介をするプレイヤーにとっての成功要件を列挙してみるとこんな感じだろうか?
・リアルタイムで貸し手と借り手をきめ細かくマッチングする仕組みの構築
(例えば一般的な賃貸マンションの仲介ビジネスでは、契約時期・年数に従って部屋の空き状況がある程度読めるのに対し、この手のシェアビジネスでは、貸し手のニーズも借り手のニーズも突発的に発生する。両者のニーズを素早く組み合わせる仕組み[たいていはネット]が重要)
・借り手も貸し手も信頼に足る人物であることを証明する仕組みの構築
(「(4)他者との信頼」を充足するもの。ヤフーオークションで入札者、落札者を互いに評価する仕組みが市場の信頼性を高めるのに役立っている点をイメージすると解りやすい)
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
BtoCの世界では自動車、CD、DVD、ウェディングドレスなどのレンタルビジネスがずっと前から存在するし、BtoBにおいても「所有からサービスへ」、「資産を持たない経営」といったキャッチフレーズとともに、リースやSaaSなどのビジネスが急速に拡大している。個人にしても企業にしても、身の回りにモノがあふれてくると、それらの管理が非常に煩雑になる。そこで、使いたい時だけ使えればいいモノに関しては、「買う」のではなく「借りる」という判断を下すようになってきている。
【パターンが当てはまる事例】
この変革パターンに該当する事例は前述のように日常的によく知られたものが多く、ここで改めて紹介するのもナンセンスなので、今回の記事はレイチェル・ボッツマン著『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』を基に、ちょっと違う視点から書いてみたいと思う。
レイチェル・ボッツマン 日本放送出版協会 2010-12-16 おすすめ平均: SNSが「共有」という古くて新しい活動をつむぎだしている 新しい経済社会の出現を実感させてくれる 進化した”お裾分け” |
posted by Amazon360
著者は20世紀が過剰な消費社会であったことを述べた上で、我々は必要以上にモノを所有しすぎていると指摘する。そんな中、極めてシンプルなニーズを持った人たちが登場する。「余っているモノを他人に貸したい」というニーズである。一昔前であれば、借り手を見つけようとしても、知人のつてなどを使うしか方法がなかった。しかし、インターネットによって、貸し手と借り手を迅速にマッチングすることが可能になっている。
こうしたシェアビジネスは、最初は「余っているモノを貸したい」という個人的なニーズが発端ではあったが、社会全体の価値観が大量生産・大量消費に対する反省、環境保護や地球資源の節約を重視する方向に傾くにつれて、急速に拡大している。同書で紹介されているシェアビジネスの一部を以下にまとめておこう。
《エアビーアンドビー》
「余っている部屋(または部屋の一部)を特定の期間だけ貸したい」という貸し手が集まっている。借り手となるのは、観光シーズンでホテルに泊まれなかった人や、ホテルよりも安い料金での宿泊を望む人が中心。
《ビクシー(BIXI:バイクとタクシーを組み合わせた造語)》
モントリオールの自転車シェアサービス。地下鉄の近くにセルフサービスステーションを配置し、住民が自宅と駅の往復に自転車を使えるようにしてある。スマートフォーンやインターネットを使えば、自転車の空き具合や乗降ステーションの場所をリアルタイムで確認することも可能。
《テックショップ》
カリフォルニアにある「作業場」。製品開発をする人や趣味でモノ作りをする人、アーティスト、カーマニア、エンジニアたちに必要な場所と道具や材料を貸し、専門家のサポートも提供する。創業者のジム・ニュートンは、モノを作りたくても道具や設備を買う余裕がなかったり、それをしまう場所がない人が多いことに着目してこのビジネスを始めたという。
《ヤードシェア》
農作物を育てたくても土地がない人と、農地は持っているが休耕地となって困っている人とをマッチングする。地主からは「庭を持っているのですが、ただの荒地になりつつあります。野菜やその他何か育てたい方はいませんか。できたものを分けていただければそれで結構です」といったメッセージがサイトにアップされる。
シェアビジネスは、インターネットを活用した新しいビジネスのように見えるけれども、その原動力となっている原則は非常にアナログなものである。一昔前であれば、余ったモノを近所の人におすそ分けしたり、1つのモノをみんなで共有したりするということは、コミュニティの中で当たり前に行われていた。実際、同書では、シェアビジネスに対して両親世代は当惑した表情を見せるが、祖父世代は特に抵抗を示さない、といった話も出てくる。昔のコミュニティを支えていた共有意識が、単に場所を変えて復活しただけなのである。
私が知りうる限りの情報で話を一般化するのは乱暴かもしれないが、アメリカでは「コミュニティの復興」を目的として新しいビジネスが立ち上がるケースが少なくないように思える。すでに何十年も前から、アメリカはコミュニティの分裂という問題を抱えていた。70年代のメディアは、国家から家族に至るまで大小様々なコミュニティが分断されているアメリカの現状を憂い、次代のリーダーにコミュニティの回復を強く期待していた。
よく知られているように、スターバックスのビジネスモデルは、ハワード・シュルツがイタリアを訪れた際に、現地のカフェが地場のコミュニティの役割を担っていることに着想を得たものである。また、アメリカはNPOが多いことでも有名であり、政府や企業の手が十分に行き届かないコミュニティの領域をNPOがカバーするという構図ができ上がっている。
NPO=非営利団体は、決して利益の追求を放棄しているわけではない。エイズ患者の救済、薬物中毒者の社会復帰支援、離婚を経験した母子家庭のサポートなどといった社会的な使命を第一とするのはもちろんだが、同時に組織の存続要件として利益を確保することは、むしろ合理的であると見られている。
スターバックスやNPOがリアルの世界で人と人とをつないできたのに加え、最近ではfacebookに代表されるように、インターネットがバーチャルの世界に続々とコミュニティを誕生させている。しかも、そのスピードは爆発的だ。コミュニティ復興の道をずっと模索してきたアメリカが、インターネットという最強の武器を得て、積年の課題を一気に解決しようとしているようにも感じる。
翻って日本に目を向けてみると、本書で紹介されているようなビジネスはそれほど多くない。ただ、アメリカとは別の意味でコミュニティの危機を抱えているのは事実だろう。子育てに対する不安から子どもを生まないことを選択する夫婦が増加し、過疎化の影響で住民サービスを十分に受けられない地域も出てきている。
これらのコミュニティの危機は、「ちょっとした需給バランスの崩れ」によって引き起こされている。子どもを生まない夫婦は、もしかしたら、子育てに疲れた時にちょっと家事を手伝ってくれる人がいたり、保育園への送り迎えをしなくても子どもの面倒を見てくれる人がいたりすれば、子どもを生んでもいいと考えるかもしれない。こうしたニーズはどれも突発的で些細なことであるから、自治体や企業はどうしても軽視しがちだ。とはいえ、些細なことでも積み重なっていけば、やがてはコミュニティの崩壊という大きな問題になってしまう。
先日の東日本大震災の際には、海外メディアがこぞって日本の協調性、譲り合いの精神を賞賛した。もしこの精神が一過性のものではなく本物であるならば、日本にも今後こうしたシェアビジネスが根づいていくのかもしれない(だいぶ話が脱線しちゃいました・・・)。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
同書では、シェアビジネスを成り立たせるための条件として、(1)クリティカル・マスの存在、(2)余剰キャパシティの活用、(3)共有意識の尊重、(4)他者との信頼という4つを指摘している(「クリティカル・マスの存在」とは、例えば前述の《ビクシー》であれば、提供される自転車やセルフサービスステーションの数が一定規模を超えないと、借り手にとっては魅力的なサービスに映らないことを指す)。ただ、この4つはあくまでもビジネス”そのもの”を成立させる要件である。ビジネスに参加するプレイヤー、とりわけ、貸し手と借り手の仲介をするプレイヤーにとっての成功要件を列挙してみるとこんな感じだろうか?
・リアルタイムで貸し手と借り手をきめ細かくマッチングする仕組みの構築
(例えば一般的な賃貸マンションの仲介ビジネスでは、契約時期・年数に従って部屋の空き状況がある程度読めるのに対し、この手のシェアビジネスでは、貸し手のニーズも借り手のニーズも突発的に発生する。両者のニーズを素早く組み合わせる仕組み[たいていはネット]が重要)
・借り手も貸し手も信頼に足る人物であることを証明する仕組みの構築
(「(4)他者との信頼」を充足するもの。ヤフーオークションで入札者、落札者を互いに評価する仕組みが市場の信頼性を高めるのに役立っている点をイメージすると解りやすい)
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ