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November 07, 2012

「もっと大きなはずの自分を探す終わりなき旅」〜ブログは第2章へ

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 8月上旬から諸事情により本ブログを小休止していたが、あれから個人的にいろいろと考えるところがあり、本ブログには一旦ここでピリオドを打って、新しいブログを立ち上げようという結論に至った。本ブログは、私が最初の会社を退職する直前の2005年5月から書き始めたもので、初めの頃は今になって読み返すのが恥ずかしいぐらい拙い文章を世に曝け出し(それも「生きた証」みたいなものなので、消さずに残してある)、途中1年ぐらいブランクがありながら、それでも約7年間で1,100本近い記事を書いてきた。

 ただ、ふと立ち止まってこれまでの記事を振り返ってみると、(時折趣味の話に脱線しつつも、)マネジメントやリーダーシップに関する事柄を、割と教科書的・網羅的に書いてきたという印象があり、その書き方がかえって自分の書きたい内容に制約をかけてしまっているような気がしてきた。今はもっと異分野から学び、異分野について書くことが、自分の中にコツコツと積み上げてきた経営学に磨きをかけ、エッジの効いた豊かな思想を構築するための最善策なのではないか?と考えるようになった。

 よって、新しいブログでは、このブログならば書かなかったであろうこともどんどん書いていくつもりである。端的に言えば、新しいブログでは、私はもっと自由になるつもりだ。そんな意味も込めて、新しいブログのタイトルは"free to write WHATEVER I like"とした。これは「もっと大きなはずの自分を探す」新しい旅の幕開けである。「必然を 偶然を すべて自分のもんに」しながら進んで生きたいと思う。



 本ブログ最後の記事として、私が7年間で書いた記事の中から、お気に入りの記事を10本ほど紹介したいと思う。1,000本以上書いておきながら、お気に入りが10本しかない、つまり、1%しか自分が気に入っている記事がないというところが私の腕の未熟さを表しているのだが、1,000本ノックという言葉があるように、これも自分にとって必要な試練だったのだと割り切ることにしよう。読者の皆様、7年間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。よろしければ、新ブログも引き続き楽しんでいただければ幸いです。なお、本ブログは閉鎖せずに残しておきます。

 (1)何かを諦めざるを得ない時こそ、大切な価値観に気づく(2009年8月31日)
 アクセス解析をしてみるとあまり読まれていないのだが、個人的には結構気に入っている記事。別の媒体に同じ記事を掲載する機会があって、その時は読者からそれなりに反応があった。私自身も、今年に入って「何かを諦めざるを得ない」状況を体験し、自分の本当の価値観とは何かを内省する時間をもらった。

 (2)自分の「強み」を活かすのか?「弱み」を克服するのか?(2010年3月8日)
 ドラッカーが常々口にしていた「強みを活かせ」の意味を考察した記事。かつて転職活動の時に、人材育成の重要性について、ドラッカーのこの言葉を引用しながら熱弁をふるっていたところ、面接官から「なぜ、強みを活かすことが大切なのか?」と聞かれて答えに窮してしまった苦い経験が基になっている。

 (3)「やりたいこと」と「得意なこと」のどちらを優先すればいいんだろう―『リーダーへの旅路』(2010年12月23日)
 日本語には、「好きこそものの上手なれ」と「下手の横好き(物好き)」という、矛盾する慣用句が存在する。我々は、「自分が好きなことを仕事にできたらどんなに幸せだろうか」と考えるものの、好きなことと得意なことが一致する人はほんの一握りである。個人的な経験からすると、好きなことと得意なことが異なる場合は、後者を仕事にした方がよい、というのが私の見解である。「下手の横好き」で周囲に迷惑をかけている人(そして、迷惑をかけていることに気づいていない人)を私はたくさん見てきた。

 (4)会社を退職しました(2011年6月30日)
 タイトルの通り、1年前に会社を辞めた時に書いた記事。ジェームズ・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』に触れつつ、中小企業やベンチャー企業において採用活動がいかに重要であるかを説いた。大企業であれば、1人や2人ぐらい不適切な人材を採用してしまっても、全体に対する割合で見れば数%にも満たないから、影響は軽微であろう。これに対して、中小企業では、間違った採用をしてしまうと取り返しがつかない。

 (5)プロフェッショナルの条件とは「辞めさせる仕組み」があること(2010年1月6日)
 プロフェッショナルとアマチュアの違いとして、金銭的報酬の有無が指摘されることがあるが、私はそれだけでは不十分だと思う。プロフェッショナルとは、一定の能力基準・行動規範を満たしていることを証明する職業であり、逆に言えば、能力が落ちている者や行動規範に反する者は、その仕組みによって淘汰されなければならない(プロ野球選手などは最も解りやすい例の1つだろう)。この意味において、現在の会社員はプロフェッショナルとは言えない。最近の人事部は、「自社の社員をプロフェッショナル化したい」と目論んでいるようだが、それを実現するのは教育研修ではなく、解雇要件が組み込まれた人事考課制度だと考えている(もちろん、労働法に抵触しないことが前提だが)。

 (6)【水曜どうでしょう論(3/6)】外部のパートナーを巻き込んで「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」を形成する(2011年8月25日)
 (7)【水曜どうでしょう論(4/6)】素人さえも「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」に組み込んでしまう凄さ(2011年9月4日)
 7年間ブログを続けてきた中で、一番の収穫はこの「価値観連鎖(Values Chain)」という概念を得られたことかもしれない。しかも、経営学の書籍やビジネスの体験からではなく、私が好きな「水曜どうでしょう」というバラエティ番組が発端となっている。どうでしょうは偶然、運任せで成り立っているような番組だけれども、「価値観連鎖(Values Chain)」というコンセプトもまた偶然にして生まれたというのは、何とも因果な話である。

 (8)【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(5)〜イノベーションの7つの機会の原点(2012年5月1日)
 今年に入ってから始めた【ドラッカー書評(再)】シリーズの中で、今のところ一番のお気に入りがこの記事。20代の前半にドラッカーを読んだ時は、ドラッカーの主張を無批判的に受け入れていた。しかし、改めてドラッカーを読んでみると、ドラッカーの限界が見えてきた気がする。それは、ドラッカーのマネジメントは人間本位である(それゆえに、日本人受けしやすい)とされながら、実は人間の意志の力をあまり重視していないのではないか?ということだ。

 もちろん、ドラッカーは「変化は自ら作り出すものである」と述べて、人間の主体性を認めてはいる。だが、『すでに起こった未来』というタイトルの書籍があることからもうかがえるように、外部環境の変化の意味をいかに早く理解し実行に移すかに力点が置かれており、人間の意志に宿る主観的なビジョンを具現化することには消極的であるように感じる。【ドラッカー書評(再)】シリーズは新ブログでも継続するので、是非この点をもっと深く掘り下げてみたい。

 (9)個性を伸ばす前にやるべきことがある―『ゆとり教育が日本を滅ぼす』(2010年4月1日)
 (10)「ミスター文部省」寺脇氏の理想と現実のギャップが垣間見えた―『それでも、ゆとり教育は間違っていない』(2010年5月11日) 
 教育関係の書評の中で、割とよく書けた(と私が勝手に思っている)もの。寺脇氏の教育改革の穴を突いた記事と、保守派によるゆとり教育批判を取り上げた記事。興味深いことに、「子どもたちが、解のない社会規範や道徳、規律などについて考える力を伸ばす」という教育目的の面では、双方の立場は一致している。ところが、寺脇氏は、考える力の習得時間を確保するために学習内容を削ったのに対し、保守派の人々は、何かを考えるためには大量の情報を暗記する訓練を積まなければならないと、詰め込み型教育を擁護する立場をとっている。

 (11)「対話」という言葉が持つソフトなイメージへのアンチテーゼ(2011年9月8日)
 これは賛否両論がありそうな記事。近年、企業内のコミュニケーション不全が問題視されることが多くなり、「対話(ダイアローグ)」という手法が注目を集めている。「ワールド・カフェ」のように、オープンな話し合いの場を作る取り組みもあちこちに広がっているようだ。しかし、激しい意見の応酬が行われる「議論(ディスカッション)」に対して、ややもすると「対話」は、ざっくばらんに話すというソフトなイメージが定着しているように思える。「議論」の対極として「対話」を定義するならば、実は「対話」こそが本質的には暴力的なのではないか?という問題提起をした記事である。

 (12)「危ない中国製『割り箸』」より危ないのは日本人の思考か?(2007年8月24日)
 これも賛否両論がありそうな記事。しかも、これまでの11本に比べて昔の記事であり、文章にかなり拙さが表れている(恥)。サプライチェーンが長くなると、1次取引先、2次取引先ぐらいまでは本社・工場の目が行き届いても、それより先はブラックボックスになりやすい。東日本大震災で自動車メーカーのサプライチェーンが遮断された時、系列関係によって末端まで取引先を把握していると思われた自動車メーカーでさえ、実は2次下請ぐらいまでしかコントロールできておらず、末端部品の1つであるLSIがほとんどルネサスに集約されていることを初めて知ったぐらいである。

 国内におけるサプライチェーンですらこういう状況であるから、グローバル規模のサプライチェーンともなれば、事態が複雑になるのは自明である。そのサプライチェーンに、毒入り割り箸を作る中国メーカーのような問題児がいないかどうかをどのようにチェックすればよいか?また、そういうプレイヤーがいた場合にどういう対処法を取るべきか?今後、こうした問題が提起されることだろう。
May 24, 2012

高齢社会のビジネス生態系に関する一考(3)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-05-10

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 《これまでの記事》
 高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』
 高齢社会のビジネス生態系に関する一考(2)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

 前回の記事で示した2つのピラミッド組織を併存させるには、いくつかの条件がある。

<条件1:正社員の解雇要件を緩和する>
 これは、再雇用制度の強化、さらにその先に予測される定年延長という、ミドル・シニア層への”アメ”に対する”ムチ”として、また組織の新陳代謝を促し、若手の雇用がミドル・シニア層によって阻害されないようにするために不可欠な措置となる。

 国家公務員の場合、各省の課長、審議官、局長などのポストが限られているために、同期の中でポストに就けなかった者は退職を迫られる。いわゆる「肩たたき」である。これと似たようなことが、民間企業でも実施されるようになる。ただし、国家公務員には公益法人や民間企業などの再就職先=「天下り先」が確保されているのとは異なり、民間企業の場合はそうした保証はない。しかも、国家公務員の肩たたきが50代後半から始まるのに対し(※4)、民間企業では早ければ40代前半から肩たたきが始まる厳しいものになる。

 かつての年功序列型の人事制度では、40代まで緩やかな社内競争が行われ、40代でどの役職まで昇進できるかの”勝敗”が決まるとされた(※5)。しかし、昇進の見込みがなくなった社員でも、部課長”代理”、”担当”部課長などの役職をもらうか、子会社や関連会社に出向・転籍することで、グループ企業内にとどまることが可能であった。ところが、これからの企業にそのような余剰人員を抱え込む余裕はなく、40代〜50代で厳しい”勝敗”が決まる。だが、”負け”といっても、あくまでもその企業内の競争で負けたのであって、心機一転して新たな”勝利”を目指す環境が外には広がっているし、またそういう環境にしていかなければならない。

<条件2:若年層の雇用を義務づける法律を制定する>
 多分こういう法律を定めている先進国はないと思われるが(あったらスミマセン・・・)、将来的に若年層がマイノリティとなった場合、他のマイノリティ(例えば障害者など)の雇用を促進する法律が存在するのと同様に、若年層の雇用を義務づける法律が必要になるかもしれない。具体的には、

 (1)一定の社員数を超えた企業は、全社員数の何割かに相当する若手社員を採用する義務を負う
 (若手社員の年齢をどう定義するかが問題になるけれども、”高卒”から”大卒の第2新卒”あたりまでをターゲットとするならば、「18歳から25歳」といったレンジになるだろう。なお、大学院への進学者が増えている実態を考慮するならば、年齢の上限はもう少し上がるかもしれない)
 (2)やむを得ない事情のために若年層の雇用が困難である場合は、その理由を行政に届け出る

といった内容になる。ただし現実問題として、年度によっては、各企業が法律に従って確保すべき若年層を合計したところ、若年層の求職者数を上回る可能性もあるので、罰則のない努力義務となるに違いない。

<条件3:ミドル・シニア層の転職・能力開発を支援する機関を強化する>
 国家公務員の天下りの場合は、各省庁が天下り先の公益法人や民間団体をあらかじめ組織化しており、天下り先への斡旋機能も備えている。だが、余剰人員のためにポストや仕事を用意するのは、経済成長の原則に反する。初めに仕事ありきで、雇用が後からついてくるのであって、決してその逆ではない。

 よって、民間企業は<条件1>によって解雇要件が緩和されたとしても、再就職先を確保したり、再就職を斡旋したりする必要は全くない。仮に、再就職先の確保や再就職の斡旋が法律で義務化されれば、せっかく解雇要件が緩和されても、企業は解雇に踏み切れなくなる。とはいえ、ある日突然社員に対して退職を勧告するよりも穏便なやり方はある。

 例えば、他の企業と連携して各地域の新型ピラミッド企業の求人情報を共有し、それを社員に配信する。また、定期的に社員が自らのキャリアを検討する機会を設け、自社でキャリアを磨き続けるのか、他の企業にもキャリアのチャンスがあるのか、あるいはある日退職を勧告された時に、次の新しいキャリアへと踏み出す心構えができているか、などを熟考させるのも有効かもしれない。

 実際にミドル・シニア層の転職をサポートするのは、転職支援サービス会社やハローワークになる。特にハローワークは各地域に根差しており、期待が大きい。だが、現在のように「求人情報の数が日本一多い」ことを売り文句に、どんな求人情報でもほぼ無差別に掲載するだけでは不十分である。ハローワークには、各地の優良企業を発掘し、求人情報の質を高めていく努力が要求される。

 また、とりわけ地域密着型企業へ転職していくミドル・シニア層は、従来型ピラミッド企業で培ってきたものとは異なる能力や知識を習得しなければならない。もちろん、それぞれの企業が人材育成の仕組みを整備すべきではあるものの、地域密着型企業は規模が小さく、自社で全てのトレーニングを賄うことが困難であると予想される。そこで、ミドル・シニア層の職業訓練を行う公的機関を拡張するべきであろう。

<条件4:ミドル層、シニア層の起業を支援するインフラを整備する>
 ミドル・シニア層の中には、新型ピラミッド企業に転職するだけでなく、自ら起業する人たちも出てくるに違いない。彼らに対する資金援助、経営支援などの公的な仕組みを充実させる必要がある。現在でもベンチャー支援や中小企業支援の政策はあるが、どちらかというと製造業寄り、ハイテク寄りのものが多いとの印象である。製造業で起業するミドル・シニア層も少なくないだろうが、生活支援産業が広がるならば、ミドル・シニア層が立ち上げるベンチャーはローテク中心になる。この実態に合わせた税制優遇策、融資プラン、その他支援策を構築しなければならない。

 以上、かなり突飛で論理的に穴があるかもしれないシナリオを描いてみた。今回の記事の目的は最適解を示すことではなく、議論を提起することであり、私のシナリオはあくまでも取っ掛かりの材料にすぎない。この課題に対する最善策など誰も知らないのだから、こうしてアイデアを出し合いながら議論を深めていくことが大切だと思う。


(※4)総務省が2009年に公表した「『早期退職慣行の是正』をめぐる各省庁の取り組み状況」によると、最も早く退職が始まるのは経済産業省と公正取引委員会の55.5歳、逆に最も退職年齢が遅いのは防衛省の58.8歳で、環境省と金融庁の58.0歳が続く(2008年度実績)。なお、各機関の肩たたきの年齢は、2001年度に比べ平均2〜5歳上昇しているという(「国家公務員「肩たたき」年齢上がる、平均2〜5歳 総務省」朝日新聞、2009年4月30日)。

(※5)竹内洋著『日本のメリトクラシー―構造と心性』(東京大学出版会、1995年)

日本のメリトクラシー―構造と心性日本のメリトクラシー―構造と心性
竹内 洋

東京大学出版会 1995-07

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September 02, 2011

最後の論文「Cスイートの新たな役割」は管理職にこそお奨め―『偉大なるリーダーシップ(DHBR2011年9月号)』

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 (これで9月号は終了です)

過去10年の調査が明らかにする Cスイートの新たな役割(ボリス・グロイスバーグ他)
 「Cスイート」とは、「CXO(CなんとかO)」という肩書を持つ経営幹部のこと。日本企業であれば、「X分野担当常務」とか、「Y分野担当取締役」とかが、Cスイートに該当する。この論文は、将来のCスイートに求められると予測される役割や能力をまとめたものである。

 調査方法を読むと、かなり手の込んだやり方をとっている。まず、企業の人材募集要項がまとめられた文書を10年分分析している。例えば、CIOについては、募集企業が作成した100以上の職務記述書を分析している。調査の過程で著者が特に重視したのは、各記述書のテーマと、そこに列記されている能力が「必須」から「あれば望ましい」まで、どのようにランクづけされているかという、能力の優先順位である。

 こうして、過去10年間におけるCスイートの人材要件の変化を踏まえた上で、次に、各ポストの能力要件が今後どのように変化していくかを、それぞれの職能を専門とする人材コンサルタントに予測してもらっている。例えば、CIOについては、サーチ会社でIT人材の案件を担当しているコンサルタントを集め、技術革新の動向から見て、人材に対するニーズがどのような変化するかを話し合ったという。

 このような調査を経て、7つのCスイートについて、あるべき将来像を明らかにしたものが以下の一覧である。もっとも、著者が論文の内容を一覧化したサマリなので、かなり簡素化されている点は留意していただきたい(補足が必要な箇所には、青字斜体で追記した)。

 なお、この論文は「Cスイートに求められる役割」に焦点が当たっているけれども、個人的には、(1)30代〜40代の管理職と、(2)彼らの人材育成を担っている人事・人材育成担当者にこそ読んでもらいたいと思っている。言うまでもなく、誰もがある日突然Cスイートになれるわけではなく、何十年もかけて知識とスキル、経験とノウハウを積んでCスイートへと昇進するものだ。だから、以下に列記した役割は、それぞれの職能で現在管理職のポジションにいる人たちが、中長期的に開発目標とすべき能力なのである。

 人事部は、以下の一覧を参考にしつつ、自社を取り巻く事業環境の変化と戦略の方向性を踏まえて、自社のCスイートにはどのような役割や能力が求められるのかを具体化する。そして、現在の管理職全員を対象に、それぞれのスキルが現在どのレベルにあるのかを評価する。

 評価内容は人事部が管理職本人と共有し、会社の重要な戦力として今後どのような価値を発揮してほしいのか?今はまだ十分でない能力や経験は何か?といった点についての人事部の考えを共有する。一方で、管理職本人にもキャリアの展望やニーズがあるはずだから、本人がどのようなキャリアを望んでいるのか?本人が自覚しているキャリア上の課題は何か?を聞き出す。

 その両者を擦り合わせて、管理職本人のキャリア開発の目標と、能力開発の計画を、人事部と管理職本人が共同で策定する。こうした一連のサイクルを定期的に回すことができれば、いざCスイートを任命しなければならないという局面に直しても、潤沢なCスイート候補者のプールから、適材を配置することが可能になるに違いない。
CIO(最高IT責任者)
 ・機能、部門、地域の違いを超えて、ビジネスを包括的にとらえられる。
 ・プロセス志向で、組織設計になじんでいる。
 ・情報分析の知識があり、会社が情報を整理し活用するのを支援できる。
 ・投資配分の専門知識があり、ROIに基づいて将来のIT支出に関する決断を下せる。

CMSO(最高マーケティング・営業責任者)
 ・その分野内での経験が豊富にある。
 ・新しいチャネルがもたらしたマーケティング関連の課題や機会に取り組んだ経験がある(例えば、Web販売チャネルの構築や、フランチャイズ網の強化など)
 ・CEOのために、マーケティング、営業、eコマースを一括して扱う窓口になれる。
 ・チャネルにとらわれない流通が増えているので、高度な技術に関するノウハウがある。営業部門と技術部門の経営幹部との関係をうまく管理できる(「チャネルにとらわれない流通」というのが解りにくいが、同じ製品が営業担当者による直販、コールセンター経由、Web通販チャネル経由、代理店経由など、様々なチャネルで販売されるため、それぞれのチャネルでどのような顧客価値・経験価値を訴求し、どのようなプロモーションを実施し、顧客とどのように対話するのかについて、部門横断的に検討することが要求される、という意味だと考えられる)
 ・リスク・マネジメントとレピュテーション(評判)管理のスキルがある(ここでのリスク・マネジメントとは、この後のCFOで出てくるリスク・マネジメントとはやや異なり、顧客からのクレームや製品・サービスの不備に対して適切な対応を行うことを指す。また、自社の製品価値やブランドを損ないかねない、不当なネガティブメッセージが市場に蔓延しないようにすることも含まれる[レピュテーション・マネジメントに近い])
 ・透明性を高め、顧客コミュニティーや一般消費者との対話を管理できる。

CFO(最高財務責任者)
 ・会社の現在のニーズに合った経験を持っている(成長期の企業ならM&Aの経験、財務諸表の修正や収支報告の違反経験がある企業なら強力な統制手腕など)。
 ・会計スキルは以前ほど重視されず、むしろ戦略的思考に重点が置かれる。
 ・会計と新しいビジネスモデルや戦略との関連性を見つけられる。
 ・リスクと、それを業績とバランスさせる方法を理解している。
 ・特にIR(投資家向け広報)面で社外をはっきりと認識している(ただし、会計面ではCFOは今後も優秀な監督者でなければならない)。
 ・自国のことだけを考えるのではなく、グローバルな視点で財務に取り組んでいる。

GC(最高法務責任者)
 ・ビジネス感覚がある(こう書くと「そりゃ当たり前だろ?」という気もするけれども、要するに単なる契約書等のリーガルチェック機能を超えて、契約段階で自社に有利な条件やスキームを形成する能力が重要になるということ)
 ・取締役会と対話ができる(これもこの項目だけ読むと意味不明だが、取締役の役員報酬に関する規定や、報酬額の算出方法の妥当性について、取締役会で議論することが求められる、ということ)
 ・企業の法務部門を率いた経験がある。
 ・規制当局や監視機関と交渉できる。
 ・強力な社外ネットワークを持っている。
 ・適切かつ費用効率のよいかたちで法務をアウトソースするために必要な判断力を備えている(最初の2つの箇条書きとも関連するが、法務部門がより高度な業務に集中できるよう、それこそ契約書のリーガルチェックといった、それほど専門知識を要しない定型業務をアウトソーシングすることになるだろうと著者は予測している)
 ・新しい環境規制や環境配慮に詳しい。
 ・CMSOと連携したリスク・マネジメント、レピュテーション・マネジメントの実施(CMSOは顧客の声に真摯に耳を傾け、顧客に適切な情報を提供し、迅速な対策を打つことで自社の信頼を回復することに集中するが、GCは製品・サービスの不備による被害者が出た場合に、法的観点から損害賠償のスキームを構築し、企業、顧客双方の合意を早期に形成する役割を担うことになる)。

CSMO(最高サプライチェーン・マネジメント責任者)
 ・サプライチェーンをすみずみまで熟知している。
 ・業務をアウトソースするか社内で行うかを、コストを意識しながら検討できる。
 ・CIOと協力して、顧客やサプライヤーとの交流を改善できる。技術に精通している。
 ・事業部門の運営、損益管理、顧客対応の経験がある。
 ・あらゆる事業部門、グローバル機能、サポート部門と連携できる。
 ・グローバルレベルに及ぶ長距離・大規模のサプライチェーン全体を管理し、各国で発生する政治・経済的リスクに素早く対応する。
 ・自社の戦略の変化に伴い、サプライチェーン全体を迅速に再構築し、社内外の組織との関係や連携のあり方をデザインし直す。
http://www.syncr.com/

CHRO(最高人事責任者)
 ・商業的なセンスがある(これは、《A》自社のビジネスの方向性をよく理解し、そのビジネスを実現するのに必要なスキル・ノウハウを持った人材を、どのように採用・育成するか?という点について、中長期的に考えることをCHROに要求しているとも読めるし、《B》最後の「最高人事責任者という立場を組織全体に売り込むことができる」と関連して、自分自身を組織全体に売り込む商業的センスを指しているとも解釈できる。ただ、どちらもCHROにとって重要なタスクであるのは間違いない)
 ・文化の違いや人口統計の変化を理解している。
 ・チェンジ・マネジメントのスキルがある。企業文化を変える取り組みを円滑に進められる。
 ・CEOや取締役会で社内アドバイザーの役割を果たせるという信頼を得ている(自社の戦略とリンクさせて、次世代リーダーの育成プランを作成し、CEOや取締役と共有する必要が出てくるという意味。プランの進捗具合と次世代リーダーの候補者数、育成をめぐって新たに発生した課題などについて、定期的にボードと議論しなければならない)
 ・取締役会と連携しながら、サクセッション・プラン(=経営幹部の後継者育成計画のこと)を推進できる。
 ・技術に推進している。
 ・ガバナンス構造に報酬と業績を組み込める専門知識がある。
 ・最高人事責任者という立場を組織全体に売り込むことができる(「なぜCHROだけこんな売込みが必要なのか?」と思われるかもしれないが、日本企業では人事部が聖域と呼ばれるほど強い権限を持つのに対し、アメリカ企業はライン部門でも採用や育成を行い、人事部は基本的な採用ステップの整備と基礎的なトレーニングの提供ぐらいしかできないことも多い。必然的にCHROの立場が弱くなるため、こういう売り込みが必要になるというわけ)
CEO(最高経営責任者)
 CEOに関しては、著者も「どういうCEOが望ましいかは、もう皆さんも十分に知っていることだろう」といった感じで、一切言及していない。代わりに、P&GのCEOアラン・ラフリーがDHBR2009年9月号に「CEOにしかできない仕事」という論文を寄せているので、そちらを参照するとよいかも。

 ちなみに、ラフリーの論文を含むDHBR2009年9月号についてのレビュー記事はこちら。
 何でもコラボすりゃいいってもんじゃないんだよ(前半)−『信頼学(DHBR2009年9月号)』

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