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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 02, 2011
【第16回】顧客の特定プロセスを代行する(2)―ビジネスモデル変革のパターン
拍手してくれたら嬉しいな⇒
(前回からの続き)
(D)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、低)
この分野の例としては、まずITの運用・保守が挙げられる。基幹システムが停止したら一大事なので、企業としては常に実施していなければならない重要な業務である。しかし、運用業務の中身は、サーバなどに問題が起きていないかどうかをモニタリングするだけなので、業務負荷はそれほど高くない。そうすると、よほど巨大なシステムを自社で抱えていない限り、その業務の専任担当者を置こうとは思わないものだ。したがって、この分野はアウトソーシングの対象となる。
具体的なアウトソーシングビジネスとしては、ITベンダーが自社で巨大なデータセンターを設立して、顧客企業に導入したシステムの運用・保守を一括で行う、というものがある。また、もっと踏み込んだ形態としては、以前IBMやアクセンチュアなどがさかんにやっていた「戦略的アウトソーシング」というのがある。これは、ITベンダーが顧客企業と共同でシステムの運用・保守会社を設立して、ITベンダーの社員と顧客企業の情報システム部門の社員を、その会社に異動させるというものである。
もっとも、「戦略的」という名前が意味するように、単に運用・保守業務を効率的に実施することだけを目的としているのではなく、運用・保守業務の中からシステムの課題を発見し、新システムの企画・構築を親会社である顧客企業に提案していく役割も担っている。
上記以外にも、収納代行ビジネスや、コールセンターのアウトソーシングビジネスなどは、この分野の業務を担当していると言える。顧客から代金回収ができなければ企業は潰れてしまうけれども、電気、電話、水道、ガス事業などのように顧客数が多いと、代金回収の回数が非常に多くなる。こういう場合には、収納代行ビジネスの出番となる。
収納代行企業は、自ら決済インフラを構築し、コンビニなどの支払窓口と決済インフラをつないでいる。例えばコンビニで電話代が支払われると、一部は事務手数料としてコンビニに流れ、さらに残りの金額の一部が決済インフラ利用料として収納代行企業に流れる。事務手数料と決済インフラ利用料を抜いた金額が、収納代行企業からNTTに支払われる、という流れになる。手数料は抜かれるけれども、NTTがわざわざ顧客の家に社員を派遣して代金を回収したり、督促状を送り続けたりするよりはずっと安上がりである。
(E)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、高)
この分野には、まず第一に、新卒採用、上場企業の決算発表など、一定の時期に仕事が集中する重要な業務が該当する。この分野には、新卒採用コンサルティングやIRコンサルティングなどのプレイヤーが参入している。
もう1つは、内部統制対応やIFRS対応など法規制への対応に関する業務、あるいは新規事業戦略の立案など、仕事の時期は読めないが、仕事をしなければならないと決まったら、一定期間の間に高い負荷が発生する分野である。この分野を担っているのは、会計コンサルティングや戦略コンサルティングなどのプレイヤーである。
これらの分野はそれなりに高度なノウハウが必要とされるが、頻度が少ないために自社内にノウハウを蓄積する機会に恵まれず、外部からノウハウを調達した方が早いという判断になりやすい。そのため、アウトソーシングの対象となる。
(F)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、低)
「企業にとっては重要だけれども、頻度も業務負荷もそれほどない仕事」というのはあまりないのだが、例えば会社設立の手続や、重要な契約書類のチェックなどはこの分野に該当するだろう。これらの業務は、行政書士や弁護士にアウトソーシングされている。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・受託対象業務の標準化・効率化
・標準化・効率化した業務を社員に浸透させるトレーニング
(これはアウトソーシングビジネスをやる上での大前提。顧客企業よりも効率的に業務ができなければ、お話にならない。なお、重要度が高い業務になると、非定型的な業務が増え、標準化が難しくなるけれども、この場合でも標準化・効率化の努力を怠ることはできない。例えば、大手のコンサルティングファームは、過去のプロジェクトの成果物をデータベース化し、他の類似プロジェクトで活用できるようにしていることが多い。)
・顧客に対するコストメリットを明確にした提案・営業活動
(アウトソーシングによって、どのくらいコストが削減できるのかを顧客に対し定量的に示すことは重要である。また、コストはそれほど変わらないが、従来よりも短時間で業務が遂行できるならば、それも顧客にとって価値がある。
手前味噌な話で恐縮だけれども、コンサルティング業界は実はあまりこの点が上手ではない気がする。だから、顧客企業からは「価格が高い」と思われてしまう。コンサルティングの場合、顧客企業がコンサル会社に依頼しようとしていた業務を自社でやった場合にかかる人件費と、コンサルティングフィーを天秤にかけて、コンサルを依頼すべきか否かを判断するのが本来の姿なのだろうが、コンサル会社は顧客企業がそういう意思決定を下せるようにうまく働きかけることができていないように感じる。
また、コンサルフィーが高いとしても、短期間で高い成果が得られれば、その後のビジネスでは競合に先んじてチャンスをモノにできるから、高いコンサルフィーでも割に合うのだけれども、この点を訴求するのもあまり上手ではない。まぁ、あまりこの辺を露骨に示すと、顧客企業に嫌がられるという理由もあるけれどね。)
・自社社員の稼働率を一定に保つための仕組み
(ファウンドリやデータセンターなどを除けば、アウトソーシングビジネスの大半は労働集約的なビジネスである。よって、社員の稼働率をいかにして一定水準に保つかがポイントになる。特に、頻度が低い業務を受託する場合はこの点が重要だ。
最もオーソドックスな対策は、正社員以外に契約社員やアルバイトを活用して、需要の変動に応じて社員の数を増減できるようにすることである。ただ、この場合は、社員のモラルやサービス品質をどのように維持するかが別の問題として発生する。)
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
(D)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、低)
この分野の例としては、まずITの運用・保守が挙げられる。基幹システムが停止したら一大事なので、企業としては常に実施していなければならない重要な業務である。しかし、運用業務の中身は、サーバなどに問題が起きていないかどうかをモニタリングするだけなので、業務負荷はそれほど高くない。そうすると、よほど巨大なシステムを自社で抱えていない限り、その業務の専任担当者を置こうとは思わないものだ。したがって、この分野はアウトソーシングの対象となる。
具体的なアウトソーシングビジネスとしては、ITベンダーが自社で巨大なデータセンターを設立して、顧客企業に導入したシステムの運用・保守を一括で行う、というものがある。また、もっと踏み込んだ形態としては、以前IBMやアクセンチュアなどがさかんにやっていた「戦略的アウトソーシング」というのがある。これは、ITベンダーが顧客企業と共同でシステムの運用・保守会社を設立して、ITベンダーの社員と顧客企業の情報システム部門の社員を、その会社に異動させるというものである。
もっとも、「戦略的」という名前が意味するように、単に運用・保守業務を効率的に実施することだけを目的としているのではなく、運用・保守業務の中からシステムの課題を発見し、新システムの企画・構築を親会社である顧客企業に提案していく役割も担っている。
上記以外にも、収納代行ビジネスや、コールセンターのアウトソーシングビジネスなどは、この分野の業務を担当していると言える。顧客から代金回収ができなければ企業は潰れてしまうけれども、電気、電話、水道、ガス事業などのように顧客数が多いと、代金回収の回数が非常に多くなる。こういう場合には、収納代行ビジネスの出番となる。
収納代行企業は、自ら決済インフラを構築し、コンビニなどの支払窓口と決済インフラをつないでいる。例えばコンビニで電話代が支払われると、一部は事務手数料としてコンビニに流れ、さらに残りの金額の一部が決済インフラ利用料として収納代行企業に流れる。事務手数料と決済インフラ利用料を抜いた金額が、収納代行企業からNTTに支払われる、という流れになる。手数料は抜かれるけれども、NTTがわざわざ顧客の家に社員を派遣して代金を回収したり、督促状を送り続けたりするよりはずっと安上がりである。
(E)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、高)
この分野には、まず第一に、新卒採用、上場企業の決算発表など、一定の時期に仕事が集中する重要な業務が該当する。この分野には、新卒採用コンサルティングやIRコンサルティングなどのプレイヤーが参入している。
もう1つは、内部統制対応やIFRS対応など法規制への対応に関する業務、あるいは新規事業戦略の立案など、仕事の時期は読めないが、仕事をしなければならないと決まったら、一定期間の間に高い負荷が発生する分野である。この分野を担っているのは、会計コンサルティングや戦略コンサルティングなどのプレイヤーである。
これらの分野はそれなりに高度なノウハウが必要とされるが、頻度が少ないために自社内にノウハウを蓄積する機会に恵まれず、外部からノウハウを調達した方が早いという判断になりやすい。そのため、アウトソーシングの対象となる。
(F)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、低)
「企業にとっては重要だけれども、頻度も業務負荷もそれほどない仕事」というのはあまりないのだが、例えば会社設立の手続や、重要な契約書類のチェックなどはこの分野に該当するだろう。これらの業務は、行政書士や弁護士にアウトソーシングされている。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・受託対象業務の標準化・効率化
・標準化・効率化した業務を社員に浸透させるトレーニング
(これはアウトソーシングビジネスをやる上での大前提。顧客企業よりも効率的に業務ができなければ、お話にならない。なお、重要度が高い業務になると、非定型的な業務が増え、標準化が難しくなるけれども、この場合でも標準化・効率化の努力を怠ることはできない。例えば、大手のコンサルティングファームは、過去のプロジェクトの成果物をデータベース化し、他の類似プロジェクトで活用できるようにしていることが多い。)
・顧客に対するコストメリットを明確にした提案・営業活動
(アウトソーシングによって、どのくらいコストが削減できるのかを顧客に対し定量的に示すことは重要である。また、コストはそれほど変わらないが、従来よりも短時間で業務が遂行できるならば、それも顧客にとって価値がある。
手前味噌な話で恐縮だけれども、コンサルティング業界は実はあまりこの点が上手ではない気がする。だから、顧客企業からは「価格が高い」と思われてしまう。コンサルティングの場合、顧客企業がコンサル会社に依頼しようとしていた業務を自社でやった場合にかかる人件費と、コンサルティングフィーを天秤にかけて、コンサルを依頼すべきか否かを判断するのが本来の姿なのだろうが、コンサル会社は顧客企業がそういう意思決定を下せるようにうまく働きかけることができていないように感じる。
また、コンサルフィーが高いとしても、短期間で高い成果が得られれば、その後のビジネスでは競合に先んじてチャンスをモノにできるから、高いコンサルフィーでも割に合うのだけれども、この点を訴求するのもあまり上手ではない。まぁ、あまりこの辺を露骨に示すと、顧客企業に嫌がられるという理由もあるけれどね。)
・自社社員の稼働率を一定に保つための仕組み
(ファウンドリやデータセンターなどを除けば、アウトソーシングビジネスの大半は労働集約的なビジネスである。よって、社員の稼働率をいかにして一定水準に保つかがポイントになる。特に、頻度が低い業務を受託する場合はこの点が重要だ。
最もオーソドックスな対策は、正社員以外に契約社員やアルバイトを活用して、需要の変動に応じて社員の数を増減できるようにすることである。ただ、この場合は、社員のモラルやサービス品質をどのように維持するかが別の問題として発生する。)
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June 01, 2011
【第16回】顧客の特定プロセスを代行する(1)―ビジネスモデル変革のパターン
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【パターンの概要と適用できるケース】
今回はいわゆるアウトソーシングのビジネスモデルである。極論すれば、世の中のあらゆる製品やサービスは、顧客が自分自身ではできないことを企業に依頼することで生まれているという意味では、ビジネスというのは基本的に全てアウトソーシングとも考えられる。
「顧客はドリルを欲しがっているのではない。4分の1インチの穴を欲しがっているのだ」というマーケティングの格言があるけれども、ドリルメーカーは、日曜大工に励むお父さんたちの「穴を開ける」という仕事を代行しているのである。「破壊的イノベーション」の理論を提唱したクレイトン・クリステンセンは、「顧客の”ジョブ”を解決することが重要である」と常々主張しているが、これをドリルの例に当てはめれば、ジョブ=「穴を開ける」ということになる。
今回取り上げるパターンはそこまで極端なものではなく、BtoBビジネスにおけるオーソドックスなアウトソーシングビジネスが中心になるが、それらをいくつかに分類しながら説明してみたい。
【パターンが当てはまる事例】
《アウトソーシング》
企業には様々な業務があるけれども、「重要度」、「頻度」、「1回あたりの業務負荷」という3つの切り口で分類すると、どういう領域でどのようなアウトソーシングビジネスが成り立つのかが解りやすくなると思う。まず、(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、低)という業務は、そもそも企業内にほとんどないので、アウトソーシングの対象にならない。逆に、(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、高)という業務は、企業のコア業務であるから、これもまたアウトソーシングされることはない。アウトソーシングビジネスが成立するのは、残りの6つの分野である。
(A)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、低)
オフィスの清掃業務などはこの領域の典型である。今や、清掃担当の社員を雇っている企業はほとんどないだろう。ほぼ毎日必要な業務ではあるが、重要度も業務負荷も低い場合は、外部の企業にやらせてしまいたいと考えるのは自然な発想である。
個人的に「あったら面白いかもな?」と思うビジネスは、「共同社宅」、「共同社員食堂」かなぁ(完全にアイデアベースだけれども)。中堅・中小企業だと、自社で社宅を持つことは難しい。だが、とりわけ都市圏で働く新入社員や若手社員にとっては、家賃の負担がバカにならない。そこで、複数の企業が共同で利用する社宅を作るわけである。
社宅の運営会社は、それぞれの企業から一定の料金をもらうことで、入居者の家賃を周辺の賃貸物件よりも安く抑えることができる。しかも、各企業の採用計画がある程度解るわけだから、毎年何人ぐらいの入居希望者が出そうか予測しやすい。これは、社宅の稼働率を一定に保つ上では有利である。もちろん、異なる企業の社員が同じ建物に入居し、互いに知り合いになるので、社宅の運営会社は重要な情報の漏洩や社員同士のトラブルに注意する必要がある。
「共同社員食堂」も似たような発想である。企業が密集する地域に、広い店舗面積を有する食堂をオープンし、周辺の企業に社員食堂として指定してもらう。社員食堂に指定してくれた企業の社員には、会員証などを配布する。食堂で会員証を使うと、周辺のレストランよりも安い価格で食事を取ることができる、という仕組みである。
同時に、社員食堂に指定した企業からも一定の料金をもらう。安直な考えかもしれないが、社員が毎日安い料金で食事ができることになると、職場環境に対する満足度が上がり、総合的な社員満足度の向上につながる可能性がある(よって、人材の流出防止にもつながる)。その対価として、企業側から料金をいただくのである。
「共同社員食堂」の場合、競合のレストランなどもそれなりに低価格でバリエーションのある料理を提供しているので、それに負けない価格とバリエーションを実現しないと勝てない点がややネックである。バリエーションの問題はクリアできるとしても、価格を下げるためには規模の経済を働かせなければならない。そうすると、相当大規模な食堂をいくつもオープンさせる必要がある。都市圏でそれだけの土地が果たして確保可能かどうかは、議論の余地があるけどね。
(B)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、高)
月次の会計処理、給与計算など、特定の時期に定型的な事務作業が集中する分野である。業務負荷が高くなる特定の時期だけ社員を増やすわけにもいかないので、アウトソーシングの対象になりやすい。中堅・中小企業だと、これらの業務は税理士にアウトソーシングされている。大企業の場合は、「シェアードサービス」のような形で、グループ会社の事務作業を集約するケースが見られる。
(C)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、高)
この分野には、ノンコアの製造工程などが該当する。製造工程の一部を、賃金の安い海外工場にアウトソーシングするというのは、今では全く珍しくない話だ。極端なケースになると、製造工程をまるまるアウトソーシングすることもある。PCや半導体のように、アンバンドリングが進んでいる業界では、自社工場を一切持たず、製品の企画・デザインのみを行う「ファブレス」という形態の企業と、ファブレス企業から製造工程をごっそりと受託する「ファウンドリ」という形態の企業が存在する。PC業界では、台湾のファウンドリ企業が有名である。
(長くなりそうなので、ここで記事を分割します、汗)
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今回はいわゆるアウトソーシングのビジネスモデルである。極論すれば、世の中のあらゆる製品やサービスは、顧客が自分自身ではできないことを企業に依頼することで生まれているという意味では、ビジネスというのは基本的に全てアウトソーシングとも考えられる。
「顧客はドリルを欲しがっているのではない。4分の1インチの穴を欲しがっているのだ」というマーケティングの格言があるけれども、ドリルメーカーは、日曜大工に励むお父さんたちの「穴を開ける」という仕事を代行しているのである。「破壊的イノベーション」の理論を提唱したクレイトン・クリステンセンは、「顧客の”ジョブ”を解決することが重要である」と常々主張しているが、これをドリルの例に当てはめれば、ジョブ=「穴を開ける」ということになる。
今回取り上げるパターンはそこまで極端なものではなく、BtoBビジネスにおけるオーソドックスなアウトソーシングビジネスが中心になるが、それらをいくつかに分類しながら説明してみたい。
【パターンが当てはまる事例】
《アウトソーシング》
企業には様々な業務があるけれども、「重要度」、「頻度」、「1回あたりの業務負荷」という3つの切り口で分類すると、どういう領域でどのようなアウトソーシングビジネスが成り立つのかが解りやすくなると思う。まず、(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、低)という業務は、そもそも企業内にほとんどないので、アウトソーシングの対象にならない。逆に、(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、高)という業務は、企業のコア業務であるから、これもまたアウトソーシングされることはない。アウトソーシングビジネスが成立するのは、残りの6つの分野である。
(A)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、低)
オフィスの清掃業務などはこの領域の典型である。今や、清掃担当の社員を雇っている企業はほとんどないだろう。ほぼ毎日必要な業務ではあるが、重要度も業務負荷も低い場合は、外部の企業にやらせてしまいたいと考えるのは自然な発想である。
個人的に「あったら面白いかもな?」と思うビジネスは、「共同社宅」、「共同社員食堂」かなぁ(完全にアイデアベースだけれども)。中堅・中小企業だと、自社で社宅を持つことは難しい。だが、とりわけ都市圏で働く新入社員や若手社員にとっては、家賃の負担がバカにならない。そこで、複数の企業が共同で利用する社宅を作るわけである。
社宅の運営会社は、それぞれの企業から一定の料金をもらうことで、入居者の家賃を周辺の賃貸物件よりも安く抑えることができる。しかも、各企業の採用計画がある程度解るわけだから、毎年何人ぐらいの入居希望者が出そうか予測しやすい。これは、社宅の稼働率を一定に保つ上では有利である。もちろん、異なる企業の社員が同じ建物に入居し、互いに知り合いになるので、社宅の運営会社は重要な情報の漏洩や社員同士のトラブルに注意する必要がある。
「共同社員食堂」も似たような発想である。企業が密集する地域に、広い店舗面積を有する食堂をオープンし、周辺の企業に社員食堂として指定してもらう。社員食堂に指定してくれた企業の社員には、会員証などを配布する。食堂で会員証を使うと、周辺のレストランよりも安い価格で食事を取ることができる、という仕組みである。
同時に、社員食堂に指定した企業からも一定の料金をもらう。安直な考えかもしれないが、社員が毎日安い料金で食事ができることになると、職場環境に対する満足度が上がり、総合的な社員満足度の向上につながる可能性がある(よって、人材の流出防止にもつながる)。その対価として、企業側から料金をいただくのである。
「共同社員食堂」の場合、競合のレストランなどもそれなりに低価格でバリエーションのある料理を提供しているので、それに負けない価格とバリエーションを実現しないと勝てない点がややネックである。バリエーションの問題はクリアできるとしても、価格を下げるためには規模の経済を働かせなければならない。そうすると、相当大規模な食堂をいくつもオープンさせる必要がある。都市圏でそれだけの土地が果たして確保可能かどうかは、議論の余地があるけどね。
(B)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、高)
月次の会計処理、給与計算など、特定の時期に定型的な事務作業が集中する分野である。業務負荷が高くなる特定の時期だけ社員を増やすわけにもいかないので、アウトソーシングの対象になりやすい。中堅・中小企業だと、これらの業務は税理士にアウトソーシングされている。大企業の場合は、「シェアードサービス」のような形で、グループ会社の事務作業を集約するケースが見られる。
(C)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、高)
この分野には、ノンコアの製造工程などが該当する。製造工程の一部を、賃金の安い海外工場にアウトソーシングするというのは、今では全く珍しくない話だ。極端なケースになると、製造工程をまるまるアウトソーシングすることもある。PCや半導体のように、アンバンドリングが進んでいる業界では、自社工場を一切持たず、製品の企画・デザインのみを行う「ファブレス」という形態の企業と、ファブレス企業から製造工程をごっそりと受託する「ファウンドリ」という形態の企業が存在する。PC業界では、台湾のファウンドリ企業が有名である。
(長くなりそうなので、ここで記事を分割します、汗)
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May 30, 2011
【第15回】特定プロセスを顧客にやらせる―ビジネスモデル変革のパターン
拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
業界が成熟して、顧客が製品やサービスに対して一定の知識を身につけるようになると、企業が全てのプロセスを自社でまかなうよりも、プロセスの一部を顧客自身にやらせた方が得策となるケースがある。いわば、顧客に対するアウトソーシングである。企業側にとってはコスト削減メリットがあり、その分を値下げという形で顧客に還元すれば、顧客の満足度向上につながる。企業のプロセスを肩代わりする顧客は、負荷が増えることになるけれども、「融通の利かない企業に任せるより、自分でやった方が早い」と感じれば、むしろ満足度が上がる。
古典的な例は、銀行のATMだろう。銀行の窓口に行かなければ現金の引き出しも預け入れもできなかった時代に比べると、ATMは非常に便利である。顧客はATMの操作に慣れる必要があるものの、銀行で長時間待たされるのに比べれば、はるかに苦労も少ない。もっとも、ATMはすでに40年以上の歴史があり、どの金融機関でも当たり前のように導入されているから、ATMが差別化につながることはない。今では、単にビジネスを展開する上での必須条件の1つにすぎない。
「自社のビジネスのうち、顧客自身にやらせた方がいい部分があるのではないか?」については、議論してみると意外と面白い結論が出てくると思う。特にサービス業には、プロセスの一部に顧客が参加する、あるいは企業と顧客が一緒になってサービスを形成する、という側面がある。例えば、スターバックスでは顧客の好みに応じて味を変えることができるが、見方を返れば「顧客がスターバックスの店員に対して製造指図を出している」とも言える。そうすると、コーヒーの製造工程を全て顧客に任せてしまって、「完全セルフサービスのカフェ」という新しい業態が成立する余地があるのかもしれない(全くの思いつきだが)。
【パターンが当てはまる事例】
《IKEA》
IKEAは、家具の組立プロセスを顧客にやらせている。これによって、IKEAは組立工場を持つ必要がなくなり、製品価格をぐっと押し下げることに成功している。また、IKEAはアフターサービスもほとんどやっていない。これは、「組立の際に発生した問題は、お客様自身で解決してくださいね」というメッセージになっている。
IKEAの製品を購入したことがある人なら解ると思うが、IKEAの組立説明図は非常に乱暴である。簡単な図がついているだけで、文章の説明すらない。文章の説明をつけると各国の言語に対応する必要があり、コストがかさんでしまうという理由もあるが、それよりも重要なのは「この説明図で組み立てられないような人は、IKEAの顧客にならないでください」という暗黙のメッセージになっている点である。
IKEAのターゲット顧客は、「頻繁にインテリアを入れ替えるのが好きな人たち」、「完全なDIYはできないけれども、ちょっとしたDIYならやってみたいと思っている人たち」と言える。こういう人たちは、大塚家具のように、入店すると担当の販売員がついて、ショールームをぐるぐると回りながら出来合いの製品の説明を受けるよりも、とりあえず使えそうな家具をたくさん買って、自宅で試行錯誤しながら家具を組み立てて、配置していくのが好きなのである。
逆に言うと、そういうのが苦手な人たちにIKEAに来られても困るし、それでコールセンターにあれこれと難癖をつけられても、IKEAにとってはビジネスの邪魔にしかならない。だから、敢えてそういう人たちを排除するような工夫がされているのである。
以前、日経ビジネスで顧客満足度に関する特集が組まれていたが、IKEAのアフターサービスに対する顧客満足度は非常に低く、大塚家具などの日本企業に大きく差をつけられている。しかし、総合的な顧客満足度では、IKEAは高いスコアをたたき出している(※)。
IKEAのアフターサービスは顧客を満足させることができていないけれども、そもそもIKEAの顧客は、アフターサービスに対する期待値が低いと考えられる。なぜなら、先ほど挙げたIKEAのターゲット顧客は、「組立は自分の責任」と思って製品を購入しているからである。
だから、仮にうまく組み立てられない家具や使えない家具、すぐに壊れてしまう家具があっても、顧客はIKEAのことをあまり責めない。むしろ、「あぁ、自分の選択が間違っていたんだな」と思うのである。でも、「またIKEAに行けばいいか。あそこならたくさん商品があるし、安いからね〜」といった感じで、IKEAのリピーターになっていく。IKEAの総合的な顧客満足度が高い理由は、ここにあるのだろう。
《Salesforce.com》
SaaS(Software as a Service)の代表格であり、先日もトヨタ自動車との提携が発表されたSalesforce.comも、このパターンに当てはまる。SaaSは、企業がIT資産の「所有」から「利用」へとシフトしていく上で欠かせないサービスとして位置づけられており、その意味では以前取り上げた「【第10回】製品を売るのではなく貸す―ビジネスモデル変革のパターン」にも該当する。しかし個人的には、SaaSビジネスの本質は「IT資産を貸す」というよりも、「ITの構築・運用を顧客にやらせる」という点にあるような気がする。
Salesforce.comを導入している企業の方々であればご存知だと思うが、Salesforce.comでは、入力項目やデータ処理手順の設定、禁則処理の定義、レポート(帳票)のデザイン、アラートの発信、ユーザの設定と権限付与・グルーピングなどがかなり自由にできる。
こうした仕事は、もともとはSIerの範疇にあった。コンサルタントやSEを何人も顧客企業に常駐させて、人月単価で何百万円というお金を顧客企業からいただいていたのである。Salesforce.comは、これらの作業を顧客企業に任せることで、従来のSIerに比べて圧倒的に安い価格を実現している。
Salesforce.comもIKEAと同じで、「ITの設計・開発や運用が自社である程度できる顧客」がターゲットであり、そういう能力に乏しい顧客を暗に排除している。以前の記事「クラウド導入を見送る本当の理由はセキュリティ面の不安じゃないと思うね」でも述べたように、当初は中小企業の方が前向きに導入すると思われていたSaaSが、むしろ大手企業に広く受け入れられているのはこのためである。
大手企業は自社の情報システム部門がしっかりとしているし、システム構築を何度も経験しているので、セキュリティ面さえしっかりしていれば、SaaSを自分たちで利用することにそれほど抵抗がない。逆に、中小企業は、システム導入を経験しているとしても、たいていはSIerに丸投げ状態であるから、いざSaaSを自分たちで使おうという段階になって、どうしていいか解らなくなってしまうのである。
先日の記事で紹介した調査では、SaaS導入を見送る理由の第一位に「セキュリティ面の不安」が挙げられているけれども、これは建前であって、本音は自社のIT活用能力の不足にあると私は考えている。よって、中小企業向けのSaaSに商機を見出したいベンダーは、中小企業のIT活用能力を上げる手段を用意しなければならない。とはいえ、1社1社懇切丁寧に対応していたら、SaaSの単価からして全く儲からないから、多数の企業に一気にアプローチできる効率的な方策をひねり出す必要がある。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・一定の製品知識・能力がある顧客のターゲティング
・(上記と関連するが、)逆に、製品知識・能力に乏しい顧客をうまく排除する仕掛けづくり
(IKEA、Salesforce.comのターゲティングより)
・顧客が企業の業務を肩代わりすることで削減されたコストが、顧客に十分に還元されていると解るような、既存製品・サービスに比べて圧倒的に安い価格設定
・顧客の裾野を広げたい場合は、顧客の製品知識・能力向上を効率的に行う仕組みを構築
(IKEAの巨大なショールームは、実はこの役割を果たしていると思う。自分で完全にインテリアをデザインできない人たちでも、ショールームに展示されたいくつかの例を見ていくうちに、ある程度イメージが湧いてくる。あとは、そのイメージに基づいて、1階の倉庫から製品をピックアップしていけばよい。
また、インテリアデザインが面倒な人たち[=本当は、IKEAがあまりターゲットにしたくない顧客]は、ショールームと全く同じ家具を購入する、という手段に出ることもできる。
SaaSを本格的に中小企業にも広げていくためには、こうした仕組みが不可欠になる。会員企業限定のサイトをオープンしてSaaSの導入・運用手順を細かく紹介したビデオを流す、中小企業のIT担当者をターゲットとした100人単位のセミナーを開催してその場で自社のSaaSの設定をしてもらう、といった方策がありうるのではないだろうか?)
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(※)『日経ビジネス』(2009年8月3日号)
業界が成熟して、顧客が製品やサービスに対して一定の知識を身につけるようになると、企業が全てのプロセスを自社でまかなうよりも、プロセスの一部を顧客自身にやらせた方が得策となるケースがある。いわば、顧客に対するアウトソーシングである。企業側にとってはコスト削減メリットがあり、その分を値下げという形で顧客に還元すれば、顧客の満足度向上につながる。企業のプロセスを肩代わりする顧客は、負荷が増えることになるけれども、「融通の利かない企業に任せるより、自分でやった方が早い」と感じれば、むしろ満足度が上がる。
古典的な例は、銀行のATMだろう。銀行の窓口に行かなければ現金の引き出しも預け入れもできなかった時代に比べると、ATMは非常に便利である。顧客はATMの操作に慣れる必要があるものの、銀行で長時間待たされるのに比べれば、はるかに苦労も少ない。もっとも、ATMはすでに40年以上の歴史があり、どの金融機関でも当たり前のように導入されているから、ATMが差別化につながることはない。今では、単にビジネスを展開する上での必須条件の1つにすぎない。
「自社のビジネスのうち、顧客自身にやらせた方がいい部分があるのではないか?」については、議論してみると意外と面白い結論が出てくると思う。特にサービス業には、プロセスの一部に顧客が参加する、あるいは企業と顧客が一緒になってサービスを形成する、という側面がある。例えば、スターバックスでは顧客の好みに応じて味を変えることができるが、見方を返れば「顧客がスターバックスの店員に対して製造指図を出している」とも言える。そうすると、コーヒーの製造工程を全て顧客に任せてしまって、「完全セルフサービスのカフェ」という新しい業態が成立する余地があるのかもしれない(全くの思いつきだが)。
【パターンが当てはまる事例】
《IKEA》
IKEAは、家具の組立プロセスを顧客にやらせている。これによって、IKEAは組立工場を持つ必要がなくなり、製品価格をぐっと押し下げることに成功している。また、IKEAはアフターサービスもほとんどやっていない。これは、「組立の際に発生した問題は、お客様自身で解決してくださいね」というメッセージになっている。
IKEAの製品を購入したことがある人なら解ると思うが、IKEAの組立説明図は非常に乱暴である。簡単な図がついているだけで、文章の説明すらない。文章の説明をつけると各国の言語に対応する必要があり、コストがかさんでしまうという理由もあるが、それよりも重要なのは「この説明図で組み立てられないような人は、IKEAの顧客にならないでください」という暗黙のメッセージになっている点である。
IKEAのターゲット顧客は、「頻繁にインテリアを入れ替えるのが好きな人たち」、「完全なDIYはできないけれども、ちょっとしたDIYならやってみたいと思っている人たち」と言える。こういう人たちは、大塚家具のように、入店すると担当の販売員がついて、ショールームをぐるぐると回りながら出来合いの製品の説明を受けるよりも、とりあえず使えそうな家具をたくさん買って、自宅で試行錯誤しながら家具を組み立てて、配置していくのが好きなのである。
逆に言うと、そういうのが苦手な人たちにIKEAに来られても困るし、それでコールセンターにあれこれと難癖をつけられても、IKEAにとってはビジネスの邪魔にしかならない。だから、敢えてそういう人たちを排除するような工夫がされているのである。
以前、日経ビジネスで顧客満足度に関する特集が組まれていたが、IKEAのアフターサービスに対する顧客満足度は非常に低く、大塚家具などの日本企業に大きく差をつけられている。しかし、総合的な顧客満足度では、IKEAは高いスコアをたたき出している(※)。
IKEAのアフターサービスは顧客を満足させることができていないけれども、そもそもIKEAの顧客は、アフターサービスに対する期待値が低いと考えられる。なぜなら、先ほど挙げたIKEAのターゲット顧客は、「組立は自分の責任」と思って製品を購入しているからである。
だから、仮にうまく組み立てられない家具や使えない家具、すぐに壊れてしまう家具があっても、顧客はIKEAのことをあまり責めない。むしろ、「あぁ、自分の選択が間違っていたんだな」と思うのである。でも、「またIKEAに行けばいいか。あそこならたくさん商品があるし、安いからね〜」といった感じで、IKEAのリピーターになっていく。IKEAの総合的な顧客満足度が高い理由は、ここにあるのだろう。
《Salesforce.com》
SaaS(Software as a Service)の代表格であり、先日もトヨタ自動車との提携が発表されたSalesforce.comも、このパターンに当てはまる。SaaSは、企業がIT資産の「所有」から「利用」へとシフトしていく上で欠かせないサービスとして位置づけられており、その意味では以前取り上げた「【第10回】製品を売るのではなく貸す―ビジネスモデル変革のパターン」にも該当する。しかし個人的には、SaaSビジネスの本質は「IT資産を貸す」というよりも、「ITの構築・運用を顧客にやらせる」という点にあるような気がする。
Salesforce.comを導入している企業の方々であればご存知だと思うが、Salesforce.comでは、入力項目やデータ処理手順の設定、禁則処理の定義、レポート(帳票)のデザイン、アラートの発信、ユーザの設定と権限付与・グルーピングなどがかなり自由にできる。
こうした仕事は、もともとはSIerの範疇にあった。コンサルタントやSEを何人も顧客企業に常駐させて、人月単価で何百万円というお金を顧客企業からいただいていたのである。Salesforce.comは、これらの作業を顧客企業に任せることで、従来のSIerに比べて圧倒的に安い価格を実現している。
Salesforce.comもIKEAと同じで、「ITの設計・開発や運用が自社である程度できる顧客」がターゲットであり、そういう能力に乏しい顧客を暗に排除している。以前の記事「クラウド導入を見送る本当の理由はセキュリティ面の不安じゃないと思うね」でも述べたように、当初は中小企業の方が前向きに導入すると思われていたSaaSが、むしろ大手企業に広く受け入れられているのはこのためである。
大手企業は自社の情報システム部門がしっかりとしているし、システム構築を何度も経験しているので、セキュリティ面さえしっかりしていれば、SaaSを自分たちで利用することにそれほど抵抗がない。逆に、中小企業は、システム導入を経験しているとしても、たいていはSIerに丸投げ状態であるから、いざSaaSを自分たちで使おうという段階になって、どうしていいか解らなくなってしまうのである。
先日の記事で紹介した調査では、SaaS導入を見送る理由の第一位に「セキュリティ面の不安」が挙げられているけれども、これは建前であって、本音は自社のIT活用能力の不足にあると私は考えている。よって、中小企業向けのSaaSに商機を見出したいベンダーは、中小企業のIT活用能力を上げる手段を用意しなければならない。とはいえ、1社1社懇切丁寧に対応していたら、SaaSの単価からして全く儲からないから、多数の企業に一気にアプローチできる効率的な方策をひねり出す必要がある。
【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
・一定の製品知識・能力がある顧客のターゲティング
・(上記と関連するが、)逆に、製品知識・能力に乏しい顧客をうまく排除する仕掛けづくり
(IKEA、Salesforce.comのターゲティングより)
・顧客が企業の業務を肩代わりすることで削減されたコストが、顧客に十分に還元されていると解るような、既存製品・サービスに比べて圧倒的に安い価格設定
・顧客の裾野を広げたい場合は、顧客の製品知識・能力向上を効率的に行う仕組みを構築
(IKEAの巨大なショールームは、実はこの役割を果たしていると思う。自分で完全にインテリアをデザインできない人たちでも、ショールームに展示されたいくつかの例を見ていくうちに、ある程度イメージが湧いてくる。あとは、そのイメージに基づいて、1階の倉庫から製品をピックアップしていけばよい。
また、インテリアデザインが面倒な人たち[=本当は、IKEAがあまりターゲットにしたくない顧客]は、ショールームと全く同じ家具を購入する、という手段に出ることもできる。
SaaSを本格的に中小企業にも広げていくためには、こうした仕組みが不可欠になる。会員企業限定のサイトをオープンしてSaaSの導入・運用手順を細かく紹介したビデオを流す、中小企業のIT担当者をターゲットとした100人単位のセミナーを開催してその場で自社のSaaSの設定をしてもらう、といった方策がありうるのではないだろうか?)
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(※)『日経ビジネス』(2009年8月3日号)