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June 18, 2012

中小企業白書(2012年)に対する疑問―中小企業の強み「短納期・小ロット」は海外展開では弱み

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 先週、中小企業診断士の理論政策更新研修に行ってきた。中小企業診断士は5年ごとに更新が必要で、更新要件の1つに「理論政策更新研修を5年間で5日受講する」というものがあるのだけれども、私は最初の3年間サボっていたツケが回ってきて、去年からの2年で5回も受けるハメに(先週で4回目)。診断士の皆様、ちゃんと1年に1回ずつコンスタントに受講しましょう。私みたいにえらいことになりますから・・・。

 研修では、今年度の「中小企業白書」の概要と中小企業関連施策に関する講義があった。まだ製本されておらず、中小企業庁のHPでPDFが公開されているだけなので、中小企業庁HPへのリンクを貼っておく(出版されたらリンクを貼り直す予定)。 6月末に出版されました。 ちなみに、昨年度は東日本大震災の影響で白書の書き換え作業が発生したため、白書の発表が7月にずれ込んでしまったが、今年度は例年とほぼ同じ時期の発表となった。

 中小企業白書(2012年版)の発表について(中小企業庁、2012年4月27日)

中小企業白書 2012年版中小企業白書 2012年版
中小企業庁

日経印刷 2012-06

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図解要説 中小企業白書を読む 2012年度対応版図解要説 中小企業白書を読む 2012年度対応版
安田武彦

同友館 2012-07-03

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 1点、第2部の冒頭の記述で気になった箇所があったので、その点について述べておきたい。
 中小企業が持つ潜在力とは、変化する社会環境において、何らかの障害があって利用されていない経営資源である。小ロット・短納期への対応、技術力、マーケティング力、充実したアフターサービス、高い社会意識等の潜在力を持つ中小企業が、東日本大震災からの復興に大きな役割を果たしていく姿を明らかにするとともに、国内外の成長機会を取り込むことで潜在力を発揮している、海外展開企業及び女性の事業活動について取り上げる。
 この文章を読むと、(私の邪推ではないと思うが、)「小ロット・短納期の対応」という中小企業の強みが、海外展開にも活かせるかのような印象を受ける。しかし、実際には、「短納期の対応」はいいとしても、「小ロット」は逆に弱みになるような気がするのである。つまり、海外展開をするためには、「大ロット、短納期」を実現しなければならない。

 理由は非常に簡単で、海外、特に新興国の市場は、日本とは比べ物にならないほど規模が大きい上に、成長スピードも速いからである。小ロットでしか納品できないメーカーは、海外企業から相手にされないだろう(相手にされたとしても、富裕層向けのニッチな市場に限定される)。

 以前、(普段は滅多に見ない)テレビ番組で見たのだが、ある竹の産地が生き残りをかけて海外市場に挑むという特集があった。この産地に集積している中小メーカーは、竹の弾力性と肌触りを活かして、通常の椅子とは座り心地が全く違う椅子を開発した。メーカーがこの椅子を海外の家具販売会社に提案したところ、製品のコンセプトやデザインはメーカーの思惑通りに受け入れられた。

 ここまでは順調だった。ところが、取引条件として、「いついつまでに、同じ椅子を△△個、同じ品質で納品してほしい」(詳しい時期と数は忘れてしまった(汗))という、非常に厳しいものを突きつけられてしまったのである。この条件は、どのメーカーの製造能力をもはるかに上回っていた。それでも、何とか地域の中小企業が力を合わせて納品にこぎつけたので、その販売会社で竹の椅子を取り扱ってもらえることになり、めでたしめでたし、というエンディングであった。

 しかもこの販売会社は、新興国ではなく、欧州の企業だったと記憶している。ヨーロッパ(EU)も、1つ1つの国は小さいものの、全体を合わせれば約5億人という、アメリカを上回る巨大市場である。しかも、EU加盟国は地理的にも近いため、EUの複数の国でビジネスを展開する企業も多い。その企業を相手にするならば、小ロット生産ではお話にならないのである。これが、人口10億を超える中国やインドが相手となれば、そこまで行かなくとも1億前後の人口を抱える国々が相手ならば、やはり大ロット・短納期を実現しない限り、持続的なビジネスにはならないと思うわけである。

 あと、同じ引用文に関して、ものすごく細かいことを言うと、中小企業の強みの1つに「マーケティング力」が挙げられている一方で、「第2章 中小企業の経営を支える取組」では、中小企業の経営課題として「営業力・販売力の強化」が第1位になっている。これが、若干解せないんだけどね・・・。マーケティングは強いのに営業力は弱いってどういう状態なんだ??
June 10, 2012

《補足》ドラッカーはミンツバーグ『戦略サファリ』の10学派のどれに属するのか?

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 『戦略サファリ』を読みながら、「ところで、ピーター・ドラッカーはどの学派に属するのだろう?」という素朴な疑問が湧いてきた。一応、ミンツバーグは第4学派のアントレプレナー・スクールの中で、ドラッカーの名前を挙げている。
 K・E・ナイトは起業家精神を、重大なリスクや不確実性を取り扱うことと同義である、としている。そして経済界以外では、ピーター・ドラッカーがこの考えを進めて、起業家精神とマネジメントとを同一視している。「企業の中心は・・・起業家的行動、経済上のリスク負担行動である。そして、企業は起業家的な制度である・・・」(※"Entrepreneurship in Business Enterprise." Journal of Business Policy (1970))
 ドラッカーが経営戦略についてまとめた著書『創造する経営者』には、確かに似たような記述が登場する。
 未知なる未来のために、現在の資源を使うことこそ、本来の意味における企業家に特有の機能である。1800年ごろ、企業家なる言葉をつくったフランスの偉大な経済学者J・B・セイは、非生産的なものに固定された資本を使って、今日とは違う未来をつくるというリスクにかける者を、企業家と呼んだ。

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ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 ただ、ドラッカーの戦略論の基本は、以前の記事「ドラッカーの「戦略」を紐解く(4)〜外部環境/内部環境アプローチの両方を包含する戦略論―『創造する経営者』」でも述べたように、外部環境の機会と内部環境の強みを適合させることである。企業家的な行動によって未来を創るにしても、ミンツバーグのいうアントレプレナーが、直観や帰納的な推論によって新しいアイデアを生み出すのに対し、ドラッカーのいう企業家は、外部環境において「すでに起こった未来」をうまく活用する(=すでに起こった未来に適合するか、すでに起こった未来を利用して変化を起こす)、という違いがある(この点がアントレプレナー自身の意思や信条を考慮しておらず、やや決定論的ではないか?という疑問を、「ドラッカーの「戦略」を紐解く(5)〜イノベーションの7つの機会の原点―『創造する経営者』」で提起した)。したがって、ドラッカーは第1学派のデザイン・スクールの流れを汲んでいると言える。

 しかし一方で、デザイン・スクールとは異なり、戦略策定の役割をCEOに限定していない。むしろ、戦略構築という体系的な仕事を行うには、いわゆる経営戦略室のような専門組織を設ける必要があるとしている。
 本書において、ここまでずっと述べてきた、事業とその成果をもたらす領域や課題についての分析、および業績をあげるための計画にかかわる仕事は、企業において、常に、独立した活動として組織する必要のある仕事である。
 戦略形成のための専門スタッフを用意すべきという主張は、第2学派のプランニング・スクールと共通である。アンゾフのような「戦略計画」という言葉は使っていないものの、『創造する経営者』には「経営計画」という言葉も登場する。とはいえ、その計画策定のプロセスはプランニング・スクールほど形式化されておらず、また定量的な分析を重視しているわけでもない。
 一般的に言って(中略)、分析の緻密さと、分析結果の間には、むしろ逆の相関関係がある。したがって、「正しい結果を与えてくれる最も簡単な分析は何か。最も簡単な道具は何か」を問わなければならない。アインシュタインは、黒板よりも複雑なものは何も使わなかった。
 ドラッカーは同書の中で「分析」という言葉を多用している。だが、その際の分析とは、定量的な調査というよりも、多角的な視点から適切な「問い」を投げかけることによって、事象を複眼的に考察することを意味している。例えば、同書で挙げられているマーケティングに関わる9つの問いなどはまさにその典型例である。
(1)「ノンカスタマー(非顧客)」 なぜ彼らは当社のお客様ではないのか
(2)「お金と時間の使い方」 どんなものにお金と時間を使っているのか
(3)「顧客の好み」 お客様はよそから何を買っているか。それは当社と競合するか、当社は十分満足させているか
(4)「提供できる価値」 お客様は当社の何に満足しているか
(5)「当社の存在意義」 どうなると当社の商品はいらなくなるか
(6)「商品カテゴリ」 お客様は当社の商品・サービスをどう分類しているか
(7)「ライバル(競争相手)」 これからライバルとして現れてくるのはどこか
(8)「チャンス(潜在的な機会)」 当社はどこのライバルになれるのか
(9)「顧客の現実」 不自然に見えるお客様の行動は何か
(※)これら9つの問いは同書の要約であり、要約文は浅沼宏和著『ドラッカーが教えてくれた経営戦略策定シート』より引用した。

ドラッカーが教えてくれた経営戦略作成シートドラッカーが教えてくれた経営戦略作成シート
浅沼 宏和

中経出版 2011-08-05

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 9つの問いの中にはもちろん定量的に調査可能なものもあるが、多くは現実の世界に対するリアルな知覚を通じて明らかにされる。そして注目すべきは、外部環境の分析をできるだけ定量的に行う必要があるいう主張を貫き通したマイケル・ポーターとは異なり、ドラッカーはこれらの問いに答えるための定量調査はほとんど提案していないことである。

 とはいえ、(議論がだんだん堂々巡りのようになってきたが、)ドラッカーは定量的な分析が不要だと言っているわけでもない。ちょうど今、『現代の経営(上)』を呼んでいるところだけれども、第3学派のポジショニング・スクールに立脚していると思わせる箇所がある。
 マーケティングにかかわる目標としての市場における地位は、市場の潜在性との対比において評価測定するとともに、直接および間接の競争相手の仕事ぶりとの対比において評価測定する必要がある。「売り上げが伸びていれば、マーケットシェアは気にしない」という言葉をよく聞く。それはもっともに聞こえる。しかしそのような考え方は、検討にさえ値しない。

ドラッカー名著集2 現代の経営[上]ドラッカー名著集2 現代の経営[上]
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 この記述は、BCGのPPM(Product Portfolio Management)に通ずるところがある。また別の箇所では、マーケティングの目標を立てる際には、「市場における地位」を重視しなければならない、とも述べている。市場における地位とは、とどのつまり市場シェアのことである。市場シェアを重視する姿勢は、PIMS(Profit Impact of Market Strategies)の研究がずっと大切にしてきたものである(市場シェアが高いほど、利益率が高くなる、という考え方。しかしながら、最近では、PIMSの調査には限界があることが明らかになっている)。

 ドラッカーは同書を出版した後も、市場シェアには長い間こだわりを持っていたようだ。GEの元CEOジャック・ウェルチに対し、ドラッカーは「市場シェアが1位か2位でない事業からは撤退すべき」とアドバイスしたと言われる。この辺りも踏まえると、第3学派にも少し足を突っ込んでいるように感じる。

 以上をまとめれば、ドラッカーは基本的に第1学派の考え方に立ちながら、第2・第3・第4学派の考え方を少しずつ取り入れている、ということになるだろう。もちろん、特定の論者が必ず特定の学派に分類されなければならない、というわけではないし(『戦略サファリ』を書いたミンツバーグ自身も第6・第10学派にまたがっており、さらに他の学派に関する論文も何本か出している)、『戦略サファリ』がそれぞれの学派の統合を意図していることからも、複数の学派にまたがっているということは、それだけホログラフィックな戦略論である、と言えるのではないだろうか?(それを、1960年代に書き上げていたことがどれだけすごいことか!)
June 08, 2012

コンフィギュレーション・スクールに対するいくつかの疑問―『戦略サファリ』

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ヘンリー ミンツバーグ ジョセフ ランペル ブルース アルストランド Henry Mintzberg

東洋経済新報社 1999-10

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 これまで10の学派の概略を自分なりに整理してみたが、ミンツバーグが最後に紹介し、自らも属している「コンフィギュレーション・スクール」に関しては、ミンツバーグ自身が本書で指摘している問題点以外にも、個人的にいくつか疑問がある。今回の記事ではそれをまとめてみたい(私が本来書きたかったのはこの記事で、10の学派の整理はあくまで前置きでした。前置きに10本も記事を使ってスミマセン・・・)。

(1)ミンツバーグはコンフィギュレーションの種類として、「起業家的組織」、「機械的組織」、「専門的組織」、「多角的組織」、「革新的組織」、「伝道的組織」、「政治的組織」の7つを挙げている。また、R・E・マイルズ&C・C・スノーは、企業行動を「防衛型」、「探索型」、「分析型」、「受身型」の4タイプに分類している(ミンツバーグによると、この2人の研究は、「実践者だけでなく、研究者の中でもまさしく人気が高い」そうだ)。

 だが、それぞれのコンフィギュレーションは、どのような要素によって生まれるのだろうか?外部環境の影響なのか、業種・業界の特色なのか、過去の戦略の結果なのか、あるいは企業文化によって規定されるのか、それともトップ・マネジメントや強力なリーダーのビジョン・信念によって形成されるのか?この辺りの説明がなく、単に現実の世界で見られる組織をいくつかのパターンに分けただけの印象がある。

 この問題は特に、創業時のコンフィギュレーションを説明する際に重要である。というのも、この学派はコンフィギュレーションの形態によって、変化のパターンがある程度決まるとしているからだ。ミンツバーグは、自らの分類と組織変化のパターンを結びつけている。例えば、「機械的組織(職務が専門化され、仕事が高度に標準化された組織)」では、「周期的隆起(長期間の安定が時折革命によって遮断される)」が見られ、時々「方向転換」を目指す改革によって変化する、といった具合である。

 では、”最初の変化”である創業の際に、その組織が「起業家的組織」、「機械的組織」、「専門化組織」・・・のうち、どの形態(現実には、複数の形態の組み合わせになると思われる)になるのかは、一体何が決めるのであろうか?

(2)マイルズ&スノーの研究では、4つのコンフィギュレーションは、「選択した市場に関連のある戦略」を持っている、とされている。ということは、戦略を決めるのは自社が選んだ市場ということになる。これは、第9学派のエンバイロメント・スクールと類似する考え方であり、コンフィギュレーション・スクールが目指す各学派の統合という意図に反して、決定論的ではないだろうか?

 また、(1)でも述べたが、コンフィギュレーションとトランスフォーメーションのパターンには一定の関係があるとしている点にも疑問を感じる。確かに、組織によって、変革手法の得手・不得手があるのは事実である。トヨタのように、継続的な”カイゼン”が、ある日突然”量子論的飛躍”によって大きな変革を遂げることを期待し、実際にそれを実行している企業もある。あるいは逆に、現場が疲弊して力が落ちている企業では、ボトムアップによる継続的な変化は難しいかもしれない。

 とはいえ、コンフィギュレーションとトランスフォーメーションを簡単に結びつけてしまうのは、これもまた決定論的であるように思える。マイルズ&スノーの研究が、「外部環境による決定論」だとすれば、コンフィギュレーション―トランスフォーメーションの組み合わせは、「内部環境による決定論」ということになる。ここにも、戦略の自由度の狭さを感じずにはいられない。

(3)この学派は、「戦略形成のプロセスは、各スクールに代表される考え方、すなわち概念のデザイン、形式的プランニング、システマティックな分析、リーダーシップによって生み出されるビジョン、個人的認知への集中、組織学習、競争的影響力の行使、集合的共同化、または環境への単純な反応のいずれかである。しかし、それぞれが適切な時期と適切な状況の中に見いだされなければならない」と主張する。言い換えれば、時期と状況によって、組織が採用すべき学派は異なり、それは(太字の箇所をやや意地悪に解釈すれば、)通常1つに定まる、ということになる。

 しかし、現実にはどんな企業でも、戦略形成プロセスや戦略実行による変化をたどる段階で、ほとんど全ての学派を通過しなければならないのではないだろうか?もちろん、時期と状況によって、活用される学派に濃淡は生じる。創業して間もない企業には、第2学派のプランニング・スクールが要求するような緻密な戦略計画は不要であろう(それでも、簡単な事業プランは必要だろうが)。(※)

 ここで、ミンツバーグが好む「創発的戦略」が現場から生まれるケースを考えてみる。まず、環境の変化に気づいた現場のある社員が、第5学派のコグニティブ・スクールの考えに従って環境の再解釈を試み、環境をイナクト(想造)する。その社員が内外の環境に関して独自に入手した情報を吟味し、組み合わせ、戦略コンセプトを導くにあたっては、第1学派のデザイン・スクールの方法を用いるに違いない。

 そして、環境に対する新しい解釈を組織全体に広め、戦略コンセプトを洗練させていく段階では、第6学派のラーニング・スクールが提唱する組織学習によって、他の社員に染みついている古いメンタルモデルを書き換えなければならない。その際には、第7学派のパワー・スクールが推奨するように、ある種の政治的行動に出ることも必要だろう。

 トップマネジメントの方はというと、現場とは別の次元で事業環境を観察しており、独自のビジョンを持っている。それは、第5学派のアントレプレナー・スクールが重視する直観や帰納的推論によるものかもしれない。現場から上がってきた戦略コンセプトと、トップのビジョンを擦り合せることによって、戦略コンセプトはさらに高度化されていく。時には、トップのビジョンも、新しい現実に適合するよう修正されるかもしれない。

 戦略の実行フェーズになると、トップは起業家的な精神(第5学派のアントレプレナー・スクール)と、権限に付属するパワー(第7学派のパワー・スクール)を用いて、新しい戦略を組織全体に根づかせようとする。その際、戦略を画鋲に終わらせないために、第10学派のコンフィギュレーション・スクールが整理した様々な変革マネジメント手法の中から、適切なものを選択し、組み合わせる。

 新しい戦略コンセプトの妥当性は、第3学派のポジショニング・スクールが用意した、戦略の妥当性を評価する枠組みによって検証され、戦略の実行プランは、第2学派のプランニング・スクールが整備したプロセスを通じて具体化されていく。数年の実行を経て戦略が地に足のついたものとなれば、その戦略は企業文化となり、将来の戦略を方向づけるようになるだろう(第8学派のカルチャー・スクール)。このように、現実の戦略形成と実行は、各学派の複合体なのである。

(4)結局のところ、コンフィギュレーション・スクールにとって戦略とは何なのかが最後まで判然としない印象を受ける(これはこの学派に限らず、他の学派にも当てはまる。例えば、第8学派のカルチャー・スクールも、企業文化が変革を阻止する点を強調するが、企業文化が戦略の形成にどのような影響を与えるのか?また企業文化を通じて生まれる戦略とは何なのか?は必ずしも明らかでない(例外的に戦略的変化を説いたスウェーデン学派の中身をじっくりと検証していないので、本当はそうではないのかもしれないが)。

 乱暴な表現かもしれないけれども、総じてコンフィギュレーション・スクールは、組織の形態の分類を示し、ある形態を別の形態に変化させるためのマネジメント手法をマッピングしただけのように見える。しかし、組織は戦略を実行するための手段であり、逆に戦略を規定する1要素でもある。では、組織と紐づいている戦略とは一体何なのだろうか?

 また、変革マネジメントの手法は、それぞれが目的を持って実行される必要がある。その目的=戦略とは果たして何なのだろうか?その戦略はどこから、どうやって生じるのだろうか?これらの疑問に対して、コンフィギュレーション・スクールは明確な答えを持っていないように感じた。


(※)余談だが、ジェームズ・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー』の中で、ヒューレット・パッカードの創業者は、創業時に明確なプランがなかったことを素直に認めている。最初の頃は、カネになるものは何でもやってみたという。ボーリングのファイルライン表示器、望遠鏡のクロック・ドライブ、便器に自動的に水を流す装置、減量のためのショック装置など、パソコンとは全く無関係のものを販売していた。