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June 05, 2012

《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(6.ラーニング・スクール)

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 前回のコグニティブ・スクールが戦略家1人の認知に焦点を当てていたのに対し、ラーニング・スクールは組織全体の認知を扱っている。ミンツバーグ自身がこのラーニング・スクールと、最後のコンフィギュレーション・スクールに属しているため、この2つの学派には他の学派よりも多くのページが割かれている。

 なお、デザイン・スクールの記事の冒頭で書いたように、戦略論には2大アプローチ、すなわち外部環境アプローチと内部環境アプローチがあるが、ミンツバーグは前者を第3学派のポジショニング・スクールに分類する一方で、後者のうち、ゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードの「コア・コンピタンス」は今回のラーニング・スクールに、J・B・バーニーの「資源ベース論」は第8学派のカルチャー・スクールに敢えて分けている。その理由は次のように述べられている。
 資源基礎理論というのは、組織の発展段階において、企業の内的能力を根づかせることの重要性を強調している。これは実際には、カルチャーに根づかせることとも言える。一方、プラハラードとハメルの主張するダイナミック・ケイパビリティ・アプローチは、本質的には戦略的学習のプロセスを通じて開発していくものであると力説している。
 つまり、資源ベース論は、競争優位となる経営資源の”固定化”、あるいは社会構成主義の言葉を借りれば”沈殿化”を志向しているのに対し、コア・コンピタンスは、ハメルとプラハラードが指摘したもう1つの重要な要素である「戦略的意図(strategic intent)」に沿って、組織学習を通じて新たに獲得されるものである、ということなのだろう。

 私自身もラーニング・スクールに近い立場を取っており(もっとも、私の考えが理論と呼べるほどに高度化されていないのが問題なのだが、汗)、10の学派の中ではラーニング・スクールに最もポテンシャルを感じている。ただ、この記事の最後に列挙した問題点以外に、重大な問題が潜んでいるのも事実である。

 ラーニング・スクールには、第1〜第3学派の規範的スクールに浴びせられている批判、すなわち「戦略形成が現場から切り離された分析に頼りすぎている」という批判とは逆の批判が当てはまる。具体的に言えば、”現場”と”集合的思考”を重視・万能扱いしすぎている、ということである。確かに、戦略的に重要な示唆は、顧客との接点が多く、競合からのプレッシャーを感じている現場の方が敏感に感じ取るかもしれない。また、集合的思考が天才の思考をしのぐこともある(例えば、以前の記事「「みんなの意見」が案外正しくなるためには、個人が自立していないとダメ」を参照)。

 とはいえ、現場が日常業務に忙殺され近視眼的になっていると学習の時間など取れないし、集合的思考は「集団思考(グループ・シンキング)」の罠に陥ることがある。だから、組織学習の効果を高めるためには、逆説的だが”現場を離れて”、”1人で考える”機会を持つことも重要だと思うのである。

 アン・モロウ・リンドバーグは、『海からの贈物』の中で、「或る種の力は、我々が一人でいる時だけにしか湧いてこないものであって、芸術家は創造するために、文筆家は考えを練るために、音楽家は作曲するために、そして聖者は祈るために一人にならなければならない」と述べている。この文章の途中に、「ビジネスマンは戦略を練るために」という一節を加えることもできるだろう(以前の記事「孤独と闘う「準備ルーチン」が創造性を生む」を参照)。

【第6学派:ラーニング・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)チャールズ・リンドブロムの「非連結的漸進主義」(政治における戦略形成。政策立案は連続的で改善的であるが、細かく分断された非連結的である。意思決定は周辺部で行われ、機会の開拓よりも問題の解決に注力する)
(2)ジェームズ・ブライアン・クインの「論理的漸進主義」(リンドブロムの非連結的プロセスには同意せず、論理的に物事をつなぎ合わせていく漸進主義であるとした)
(3)R・Rネルソン&S・G・ウィンターの「進化論」(組織は複数のサブシステムから構成されており、サブシステムのルーチンが新しい状況に反応して変更されるとにより、その変化が他のサブシステムにも及ぶ)
(4)ロバート・バーゲルマンの「戦略的起業化」(アントレプレナー・スクールにおける起業化とは異なる。ビジネスの前線とミドルマネジャーの活動から「出現」する戦略のイニシアチブを扱う)
(5)ヘンリー・ミンツバーグの「創発的戦略」(学習を強調した戦略形成プロセスであり、様々活動を通じて、何が最も重要な経営意図であるかを理解するプロセスと捉える。ただし、計画的戦略との組合せが必要)
(6)カール・ワイクの「回顧的意味づけ」(まず行動する。そしてうまく機能するものを選択する。つまり、行動を振り返ってその行動に意味づけを行う)
(7)野中郁次郎の「知識スパイラル(SECIモデル)」
(8)ゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードの「コア・コンピタンス」
(9)ピーター・センゲの「学習する組織」

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<特徴>
(1)組織を取り巻く環境の複雑さと予測不可能な性質は、しばしば戦略に必要な基礎的知識の拡散とともに、計画的なコントロールを不可能にする。戦略作成は、まず時間の経過にしたがって学習するプロセスの形を取り、最終的に策定と実行の境界の区別がなくならなければならない。
(2)リーダーも学習しなければならず、時として学習者の中心となるが、通常の場合、学習するのは集合的なシステムである。すなわち、ほとんどの組織に戦略家となる可能性を秘めた多くの人が存在する。
(3)こうした学習は創発的な形をとる。まず行動から始まり、そして回顧し、思考が刺激され、新たに行動の意義づけが行われていく。
(4)リーダーシップの役割は、あらかじめ計画的な戦略を作り上げることではなく、新たな戦略が出現するように、戦略的学習のプロセスをマネジメントすることである。
(5)戦略は最初に過去からのパターンとして現れ、後に場合によっては将来へのプランとなり、最終的に全般的な行動を導くパースペクティブへと進化する。

<功績>
(1)ポジショニング・スクールが、複雑な問題に当たり前の解決策しか提示しないのに比べ、新たな戦略を必要とする組織では、集合的に学習する以外に選択の余地がないことを示した。
(2)集合的学習は、特に病院や議会のような専門的組織で必要であるとした。なぜなら、これらの組織では、戦略創造に必要な知識が広範囲分散しているからだ。そのため、組織の様々な関与者が、相互に調整を行いながら、努力して戦略を形成しなければならない。
(3)これまでに触れてきた他のスクールに欠けていた、戦略形成の研究に現実性を与えた。記述的な調査に基づき、組織が何をすべきかというより、複雑でダイナミックな状況に直面した時に組織が実際どう動くのかを示した。記述的ではあるけれども、よい記述は規範ともなりうる。

<問題点>
(1)危機が非常に明確であり、忍耐強い学習に頼っていられない場合もある。そこで組織は、危機を救えるような戦略的ビジョンをすでに持った、強力なリーダーを必要とする。また、もっと安定した状況であっても、組織によっては拡散した学習よりも、中央集権的な起業家精神が生み出す力強い戦略的ビジョンを必要とすることもある。
(2)学習を強調しすぎると、筋の通った実行可能な戦略を摩滅させてしまうことにもなりかねない。人々は、うまく機能するものから離れて、新しいとかもっと面白そうだからという理由で学習と付き合う危険性がある。
(3)恒常的な変化が必要かどうかは別の問題である。秘訣は、いつも全てを変えるのではなく、いつ何を変えるべきかを知ることである。効果的なマネジメントとは、うまく機能する戦略を追求しながら学習を維持することであることを忘れてはならない。
(4)学習は高くつく。時間がかかるし、果てしない会議や溢れんばかりの電子メールを生み出す。組織は、「何について学ぶか」を知る必要がある。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(5.コグニティブ・スクール)

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 アントレプレナー・スクールでは踏み込めなかった「起業家の心の中」を、認知心理学の知見を踏まえながら分析しようとするのが今回のコグニティブ・スクールである。コグニティブ・スクールはさらに、「客観性重視」と「主観性重視」の立場に分かれる。ミンツバーグは、第4学派までの比較的客観的なスクールと、第6学派以降のもっと主観的なスクールへの橋渡し的な存在として、このスクールを5番目に位置づけている。

【第5学派:コグニティブ・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)【客観性重視】ハーバード・サイモンの「限定的合理性」、「情報処理モデル」
(2)【主観性重視】グレゴリー・ベイトソンらの「社会的構成主義」

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<特徴>
(1)戦略形成は、戦略家の心の中(mind)で起こる認知プロセスである。
(2)戦略家の心の中には、知識を系統づける心的構造=フレーム(スキーマ、コンセプト、スクリプト、プラン、マップ、メンタル・モデルといった用語もほぼ同じ意味)が存在する。フレームは、環境からのインプットをどのように処理するのかを決める。戦略は、このフレームを通じてパースペクティブとして出現する。
(3)「客観性重視」の立場によれば、環境からのインプットは、フレームによって解読されるまでに、あらゆる種類のフィルターによって歪曲される可能性がある。一方、「主観性重視」の立場によれば、そもそも分離した対象としての環境は存在しない。世界は、人間の行動やその行動の意味を理解しようとする知的努力によって「イナクト(enact:想造)」される。
(4)概念としての戦略はそもそも達成することが難しく、実際達成されたとしても、最善であったとは言い難い。さらに、もはや実行不可能になったとしても、変更するのは難しいものである。

<功績>
(1)コグニティブ・スクールは、戦略形成の特定のステージに注目した。特に、戦略の最初の着想段階、既存の戦略の再考段階、認知に固執するがために組織が既存の戦略に執着する段階に注目している。
(2)人間の認知の限界に注目したことで、かえって戦略作成の創造的な側面が後押しされた。
(3)とりわけ主観性重視の立場は、戦略がメンタルなプロセスであるがゆえに、戦略に行き着くまでに重大な誤りが起こりうることに気づかせてくれる。一方で、戦略家の認知スタイルは変化するものであり、その変化が戦略に重大な結果をもたらすことにも気づかせてくれる。

<問題点>
(1)客観性重視の立場は、「成功体験に引きずられる」など、意思決定が歪曲されるパターンを指摘している。ところが、経験による知恵、創造的な洞察力、直観的統合など、意思決定を歪めやすいとされる要素が、逆に戦略形成にプラスの影響も及ぼしうる点を軽視すると、戦略の理解自体も歪曲される可能性がある。
(2)客観性重視の立場に立つと、環境が複雑すぎて完全には理解できないために、環境にもてあそばれるリスクがある(もっとも、それを乗り越えられれば、<功績>で指摘したように、創造性の発揮が可能となる)。
←これらの問題については、主観性重視の立場が克服を試みている。その試みも含めて、ミンツバーグはこのスクールのポテンシャルに注目したいと述べている。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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June 04, 2012

《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(4.アントレプレナー・スクール)

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 前回までのプランニング・スクールやポジショニング・スクールのように、毎回長々と補足を書いていたら私の体力が持たないので(汗)、今回からは(学派の扱いが不平等になるかもしれないが、)短めの文章にとどめておこうと思う。第1〜第3学派は”規範的”なスクール、すなわち望ましい戦略を追求する学派であったのに対し、第4学派以降は”記述的”なスクールである。つまり、戦略自体の良し悪しよりも、戦略がどのように形成されるのか?を議論の中心に据える。

【第4学派:アントレプレナー・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーション理論(「創造的破壊」、「新結合」)
(2)O・コリンズ&D・G・ムーア、L・W・ブセニッツ&J・B・バーニーらの「起業家的人格」(起業家特有の性格や思考・行動パターンを[時に幼少期における人格形成の影響も含めて]研究する)
(3)ウォーレン・ベニス、バート・ナナスらの「ビジョナリー・リーダー」

資本主義・社会主義・民主主義資本主義・社会主義・民主主義
J.A. シュムペーター Joseph Alois Schumpeter

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<特徴>
(1)戦略はリーダーの頭の中にある。それはパースペクティブ(展望)であり、長期的な方向性に対する感覚であり、組織の将来像でもある。
(2)戦略形成のプロセスは、リーダーの経験や直観に基づくものであり、実際に戦略を思いつくこともあるが、そうでなければ他社の戦略を取り入れて、自分自身の行動に吸収してしまうこともある。
(3)リーダーは、一心不乱に取りつかれたかのようにビジョンを推進し、実行に関して深く関わり、必要があれば内容の修正を行う。
(4)ビジョンは順応性を持つため、起業家の戦略は計画的でありながら、創発的でもある。全体的なビジョンに関しては計画的であるが、ビジョンを詳細に落とし込む点に関しては創発性を持ちうる。
(5)組織も順応性を持ち、リーダーの指示に応えるシンプルな構造をとる(企業の規模や設立年数を問わない)。大企業の場合は、通常の業務手順や力関係などを一時的に棚上げし、ビジョンを持ったリーダーに自由裁量を与える。
(6)起業家的戦略は、ニッチ戦略を取ろうとする傾向がある。

<功績>
(1)1人のリーダーの直観、判断、知恵、経験、洞察といった、人間の知的活動に焦点を合わせた。
(2)(a)創業時の組織、(b)困難な状況に直面し、方向転換が求められる組織、(c)成長過程にある小規模組織に必要な戦略を明らかにした。

<問題点>
(1)戦略形成がたった1人のアントレプレナーの意識や行動、すなわちブラックボックスの中で行われており、他人からはその中身が見えない。
(2)ビジョナリー・リーダーは素晴らしく精力的だと描かれる反面、病的なまでに他者を追い詰めてやる気をそぐ一面がある。
(3)ビジョンは、マネジャーたちをある一定の方向に過度に縛りつけてしまう。新しくはあっても破滅的なアイデアを追求するように、マネジャーたちを仕向けてしまうことがある。
(4)アントレプレナーのビジョンは、社員が学習による試行錯誤や、写真同士の切磋琢磨を通じて、不確実な未来を切り拓いている時に、彼らの注意をそこから逸らしてしまうことがある。
(5)ビジョンを持っているだけのリーダーに頼るよりも、ビジョンある組織を構築するべきである。『ビジョナリー・カンパニー』のジェームズ・コリンズらは、「時を告げる」カリスマリーダーに頼るのではなく、「時計を作る」必要があると述べている。すなわち、リーダーがいなければ時間が解らないような組織では不十分であり、組織がいつでも時刻を把握できる状態にすることが重要である。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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