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May 22, 2012

高齢社会のビジネス生態系に関する一考(2)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-05-10

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 (前回の続き)

<前提3:2020年代には、定年は70歳まで延長される>
 NTTのニュースにあったように、政府は来年度から企業に対して、60歳以降も働き続けたい人の再雇用を義務づける方針である。2006年4月1日に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によると、企業は65歳までの安定した雇用を確保するために、

 (1)継続雇用制度の導入(労使協定により、継続雇用制度の対象となる基準を定めることができる)
 (2)定年年齢の65歳への引上げ
 (3)定年制の廃止

のいずれかの措置を講じなければならないとされているが、今回の政府方針は(1)を強化したものと言える。多くの大企業は(1)で対応し、自社が定めた人材条件を満たすシニア層(=言ってしまえば優秀なシニア層)を再雇用しているのが現状である。これが、希望者全員の再雇用の義務化となれば企業側のハードルが一気に上がることになるため、経団連は強く反発している。

 そもそも「改正高年齢者雇用安定法」は、厚生年金の支給が65歳から開始されるのに合わせて、年金受給の空白期間が生じないように定められたものである。ところが、おそらく年金制度の抜本的な改革を先送りにする政府は、将来的に年金の支給時期を70歳に引き上げると予想される。そして、これに伴って、2010年代の後半には「70歳定年制」導入の議論が始まり、2020年代には法律が制定される可能性はかなり高いと思われる。

<前提4:政府は移民政策を積極的に推進しない>
 高齢社会の到来による労働力不足を補うために、日本も欧米諸国のように移民を受け入れるべきだという主張がある。1995年の労働力人口(15〜64歳)=約8,720万人と同じ規模を維持するならば、2050年までには約3,350万人の代替移民が必要であると国連は指摘している(※1)。

 もっとも、前提3で見たように、労働力人口の年齢の上限が上がるので、実際には必要な代替移民の数は少なくなる。ただ、少なくなるといっても多少の規模にすぎず、1,000万人単位の代替移民が要求されることに変わりはない。もしこの数値をあと40年弱で達成しようとするならば、毎年25万人以上の移民を受け入れ続ける計算になる。毎年GEグループの全社員数(約33万人)に匹敵する移民を受け入れなければならないと考えると、気が遠くなりそうな数字である。

 現在、「ホワイトカラー」として日本で働く外国人(=「専門的・技術的分野の在留資格」を有する外国人)は約12万人である。政府は2020年までにこれを倍増させる計画であるが(※2)、このペースではとても前述の移民ニーズを満たせそうにない。そうなると、現在は認められていない「単純労働者」の移民を大量に受け入れるしか方法がない(※3)。しかしながら、制度面、文化面、心理面など様々な点で抵抗が大きく、実現は難しいと推測される。よって、移民増による労働力人口の増加は期待薄であろう。

 以上の前提条件を基に、20年後のビジネス生態系を私なりに予想してみた。平成22年と、20年後の平成42年の年齢5階級別人口をグラフ化すると以下のようになる。

<年齢5階級別人口(平成22年)>
年齢5階級別人口推移(平成22年)
統計局「平成22年国勢調査 抽出速報集計結果」より筆者作成)

<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」より筆者作成)

 非常に大雑把かつドラスティックな提案になるが、平成42年には2つのピラミッドが登場する。1つは高等教育を修了した20代の人口を底辺とし、70歳を頂点とする従来型のピラミッドである。もう1つは、40代のミドル層を底辺とし、70代〜80代を頂点とするピラミッドである。安定的に成長する組織の条件に従い、かつ労働力確保のために定年を延長し移民をほとんど受け入れないとすれば、20年後には2種類の組織が誕生すると推測される。

 従来型ピラミッドの企業は、グローバル戦略を積極的に進め、新興国企業の低価格製品とガチンコの価格競争に陥らないよう、高付加価値路線へシフトするか、イノベーションによる新市場の創出を担う。これに対し、新型ピラミッドの企業は、ローカルな製品やサービスに従事する企業になるだろう。従来型ピラミッド企業の国内販売・サービス拠点となるか、あるいは島田晴雄氏が提案する「生活支援産業」などの新たな地域密着型サービスの担い手となるのではないだろうか?

(メモ書き)「530万人雇用創出プログラム」の概要―『「雇用を創る」構造改革』
ニーズはあるがお金はかけたくない」事業をどう成立させるかがカギ(1)―『「雇用を創る」構造改革』
ニーズはあるがお金はかけたくない」事業をどう成立させるかがカギ(2)―『「雇用を創る」構造改革』


 (あと1回続きます)


(※1,2)リクルートワークス研究所『201X年、隣の席は外国人(Works No.111)』

(※3)上記の『Works No.111』によると、日本よりも少子化が深刻な韓国は、「単純労働者」の受け入れを積極的に推進している。韓国に就業資格で在留している外国人は約56万人だが、そのうち「専門人力」と言われる高度人材は4万4,000人にすぎず、残りの51万人は単純労働者である。ただし、単純労働者の受入条件は厳しく、

 (1)製造業、建設業、サービス業など、韓国人だけでは労働力不足が生じる業種を限定
 (2)企業が外国人を雇用する場合、3か月間韓国人を求人したが採用できなかったことが許可申請の条件
 (3)韓国の公的機関が標準労働契約書を作成し、賃金や労働条件を定めた契約を締結
 (4)労働者の送出国は、韓国語試験などの資格審査を行った上で、合格者を求職者名簿にまとめ、韓国の雇用センターに送付

となっている。(2)の条件があるとはいえ、単純労働者の受け入れは当然のことながら韓国人の雇用を圧迫する。そこで韓国の各大学は、英語やITなどの資格を学生に習得させ、単純労働者と競合しないホワイトカラー職に就ける素地を持った人材の育成に注力している。
May 21, 2012

高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

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ダイヤモンド社 2012-05-10

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 先日の記事「アメリカ金融帝国主義が本当なら経営学は何のためにあるのか?―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』」で触れたポーターらの論文を基にもう1本記事を。

構造的な問題の克服への提言 それでもアメリカ経済は成長する(マイケル・E・ポーター、ジャン・W・リプキン)
 就労年齢の多くの国民が仕事を見つけられない、あるいは探そうともしない経済状況は、短期的には高い生産性をもたらすように見えても、競争力における本質的な問題をはらんでいる。国家の真の競争力を示すのは、現在雇用されている人材ではなく、雇用可能な人材一人当たりにつき、どれだけの生産高を生み出せるかである。

 競争力の向上は雇用の創出と同義ではない。政策立案者は、建築業など、国際競争にさらされていない地場の労働集約型産業の需要を人為的に高めることで、短期的に雇用を刺激することができる。しかし、生産性の向上がないまま雇用を創出しても、国家の生活水準を高める持続可能な雇用にはつながらない。
 アメリカは、1990年代後半から2000年代前半にかけて他の先進国よりも高い生産性を記録し、金融危機以降も生産性を維持してるものの、実は統計上のからくりが潜んでいる。生産性は「付加価値額÷労働力人口」で算出されるため、企業が人員を削減しながら高付加価値路線へと突き進めば、数字上は生産性を高めることができる。しかし、その一方で失業率が高止まりしているのは周知の事実である(随分昔にこのブログでも、アメリカと似たようなことが日本でも起きている可能性を指摘したことがあった[文章がかなりプアーだが・・・]⇒「労働生産性が向上しても労働力人口の割合が低下すれば1人あたりGDPは減少する」)。

 「競争力の向上は雇用の創出と同義ではない」という部分を読んで、最近のNTTのニュースを思い出した。
 NTTグループの主要各社が来年度から、30代半ば以降の社員の賃下げを計画していることがわかった。浮いた人件費を、新たに導入する65歳までの再雇用制度に回す。政府は来年度から、企業に60歳以降も働き続けたい人の再雇用を義務づける方針で、人件費の総額を抑えるために追随する動きが広がりそうだ。
(「NTT、30代半ば以降の賃下げ計画 再雇用費に充当」毎日新聞、2012年4月22日)
 未曽有の高齢社会の突入に向けて、政府は高齢者の雇用を確保しようと法案を準備しているが、その結果がこれである。企業はシニア層のために新たに仕事を創り出すのではなく、社員全員で痛みを少しずつ分け合って、シニア層の給与を捻出しようというのだ。企業が富の再配分機関になってしまっては、競争力の向上は見込めない。富の再配分はあくまでも政府の役割であって、企業の役割は富を”創出”することである。

 こうした動きが他の企業にも広がると、企業はシニア人材の雇用維持を優先するために、賃金の再配分に加えて、若手社員の採用も抑制するようになるだろう。現在、多くの企業で社員の年齢構成をグラフ化してみると、バブル期に大量採用したミドル層が膨れ上がった「ひし型」になる。ところが、数十年後にはそのミドル層がシニア層へ移行し、さらに若者の採用が削減されれば、年齢構成のグラフは「逆三角形」になるに違いない。数十年後の社会は、高齢者がマジョリティ、若者がマイノリティになるのである。だが、歴史を振り返ると、社会を不安と混乱に陥れるのは、マジョリティではなく、マイノリティが声を上げた時であることを忘れてはならない(最近の例で言えば、2006年にフランスで起きた若者の暴動や、ニューヨークを中心に世界中に広がった昨年の「格差社会反対キャンペーン」はその典型例だ)。

 では、来たるべき高齢社会には、どういうビジネス生態系が望ましいのだろうか?かなり極端で乱暴な論法かもしれないけれども、ここで1つのシナリオを示してみたいと思う。その前に、前提条件を整理しておく。前半2つは組織の基本的な原則であり、後半2つは今後予想される政策に関するものである。

<前提1:組織は年功序列的なピラミッド型が最も安定する>
 どんなに組織のフラット化が進んでも、階層が完全になくなることはない。なぜならば、業務や役割の難易度によって序列が作られるし、また一定数の社員をマネジメントして、彼らの成果に対して責任を負うべき人間が不可欠だからだ。

 しかも、そのピラミッド構造は年功序列的である方が安定する。もっとも、私自身は年功序列の人事制度には消極的な立場を取っている。事業環境の変化によって、年上の社員の能力よりも年下の社員の能力の方が重要になれば、年下の社員を上司として、その下に年上の社員がつく、という人員配置が今後は増えると考える(以前の記事「これからの人事制度は「上を下への人事異動」が必要になる?」を参照)。とはいえ、社内のあちこちで、例えば30代の上司の下に50代、60代の部下ばかりがずらりと並ぶという組織は考えにくいし、よくも悪くも封建的な精神を受け継いでいる日本人には合わないようにも感じる。

<前提2:企業が成長するためには、ピラミッドの下層の人員を増やす必要がある>
 これは敢えて補足するまでもないだろう。ピラミッドの形を維持したまま組織の規模を大きくするには、ピラミッドの下層、すなわち若手社員を増やし続ける必要がある。バブル崩壊後に新卒採用を絞った企業では、バブル期に大量採用した現在のミドル層が十分な数の部下を持つことができず、長い間プレイヤー中心で働いてきたために、マネジメント能力が不足していると言われる。その結果、数少ない若手社員さえもうまく育成できず(最悪の場合、彼らの成果をミドル層が横取りする、などということまで起こる)、若手社員のモチベーションを阻害してしまう。モチベーションの低下は組織全体に伝播しやすく、業績の足を引っ張るリスクが高まる。

 この「プレイヤーとしては優秀かもしれないが、マネジャーとしては中途半端」な状態のミドル層に企業は手を焼いているから、「【企業幹部が激白】クビにしたい40代の特徴」(日刊SPA!、2012年4月23日)などという穏やかでない記事まで出る始末なのである(←まぁ、ここでネタ系雑誌の記事を持ってくるのもいかがなものかと自分でも思うわけだが・・・)。

 (残りの2つの前提条件は次回の記事で)
May 16, 2012

スタッフ部門はどこも現場の業務改革を支援すべき(2)―『日経情報ストラテジー(2012年6月号)』

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日経情報ストラテジー

日経BP社 2012-04-28

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 (前回の続き)

 製造プロセスの改革にあたって、購買部門が重要な役割を果たすことを教えてくれる事例を、『日経情報ストラテジー』2012年2月号から紹介したい。冷蔵庫や製氷機、食器洗浄機・給茶機などの業務用厨房機器を製造するホシザキ電機は、2003年から開始した製造プロセス改革によってジャスト・イン・タイムの生産体制を目指し、部品発注にかんばん方式を導入することにした。かんばん方式の導入によって生じた問題と、その解決策について、以下やや長くなるが引用する。
 かんばん方式を進めると課題も出てきた。部品メーカーは毎日配送しなければならなくなるのだ。部品メーカーはホシザキ電機に納入する部品を自社便や路線便を使って配送していた。外装などの板金部品や樹脂部品などもともと毎日運ぶだけの荷量があれば、部品の内訳が変わるだけだが、荷量が少ないと週1〜2回だった納品が毎日になり、物流コストが増えてしまう。部品メーカーは増加した物流コストを負担してまで毎日納品をしたくない。もちろんホシザキもかんばん方式のために物流費が増えた分だけ購入単価をアップするつもりはなかった。(中略)

 (その解決策として、)一般に牛乳メーカーが毎日牧場を巡回して牛乳を集荷するさまになぞらえて「ミルクラン」と呼ばれる仕組みを構築することを目標とした。ホシザキ電機が物流業者に依頼して、近隣の部品メーカーを毎日1回以上決められたルートで回り部品を集荷するのだ。(中略)

 これを拡大するなかで苦労したのは部品メーカーの説得だった。ホシザキ電機がいまどのような取り組みをしているのか、ミルクランは部品メーカーにとってもメリットがある、などを理解してもらった。物流業者が集配するので、部品メーカーは配達の負担を減らせる。一方で、ホシザキ電機は必要に応じて適量の部品を受け取れるようになった。
日経情報ストラテジー 2012年 02月号 [雑誌]日経情報ストラテジー 2012年 02月号 [雑誌]
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日経BP社 2011-12-28

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 ホシザキ電機の事例は、ジャスト・イン・タイムの原則に沿った製造プロセスへの転換に向けて、購買部門が各工程に投入する「モノ」、すなわち部品の量やタイミングを、「ミルクラン」方式の調達方法によって調整した、と言えるだろう。製造現場のプロセス改革は、購買部門の支援なしには実現しえないのである(引用文では特に触れなかったが、IT部門ももちろん、新しい生産管理システムの構築を通じて、ジャスト・イン・タイムの実現を支援している)。前回の記事で情シスや人事部門について述べたことの繰り返しになるけれども、「モノ」という経営資源を担う購買部門もまた、現場の実情を熟知し、業務プロセスの生産性を上げるにはどうすればよいか?という視点から、「モノ」の調達を最適化する必要がある。

 「知識」という、新しくて重要な経営資源についてはどうだろうか?なお、ここで言う知識とは、R&D部門などに蓄積されている技術にとどまらず、各部門が日常業務の中で活用している様々なナレッジやノウハウを含む幅広い概念である。製造現場には手先の微妙な感覚に埋め込まれた熟練技能が、営業現場には優れたセールストークのハウツーや提案書作成のノウハウが、物流現場にはITだけでは調整が難しい細かい配送スケジュールを引くテクニックが、コールセンターには顧客にクロスセルを行うための製品知識が、アフターサポート部門には自社製品の複雑なメンテナンスのやり方がある。

 R&D部門の技術についてはR&D部門自身や知財部門が責任を持つとして、ノウハウやナレッジと呼ばれる「知識」にはどの部門が責任を持てばよいだろうか?これらの「知識」は、ITによって移転や共有が可能なものと、社員の頭(あるいは身体)の中にしかとどめておくことができないものに分けられる。前者については情シスが、後者については人事部門が責任を持つとよいだろう。

 先ほど例示した「知識」をもう少し丁寧に分類すると、

 (1)形式知化が可能で、しかも習得にそれほど時間がかからないもの(コールセンターの製品知識や、営業現場で使われる比較的簡単な提案書など)
 (2)形式知化が可能だが、習得には訓練が必要なもの(営業現場のセールストークや大規模商談の提案書など)
 (3)暗黙知であり、習得するのに非常に長い時間がかかるもの(製造現場の熟練技能やアフターサポート部門のメンテナンス技法など)

 の3つに分けられると思う。(1)は「情報」の性質に近いので、情シス部門が責任を持つ。ナレッジマネジメントシステムによる事例の共有や、iPadなどの端末を利用したリアルタイムでの製品知識の提供などはその例である。(2)については、人事部門が責任を持ち、研修という形で社員のノウハウを平準化・底上げする。

 (3)については、通常は現場による自主的な勉強会などに委ねられていることが多いようである。だが個人的には、(3)についても人事部門が責任を持つべきではないか?と考える。すなわち、プロセスのスピードアップやアウトプットの品質向上に大きく寄与する重要な暗黙知を人事部門が特定し、その暗黙知を部署内の他の社員、さらには部署を超えて共有するためのコミュニケーションの場を、人事部門が率先して設定・運営するのである。現場による自主的な運動に任せておくと、どうしても現場によって温度差が生じ、せっかくの暗黙知が局地的にしか広まらない。各部門の業務を幅広く見ている人事部門の方が、暗黙知の全体最適化には向いていると思うのである。

 情シスと人事は連携しながら現場を観察して、現場のプロセスを支えている重要な「知識」を発掘し、また現場のプロセスを高度化するのに必要な「知識」を特定する。そして、その知識の性質に応じて、どちらの部門がその知識の伝搬・共有・精緻化に責任を持つのかを決定する。責任を引き受けた部門は、適切な仕組みを構築してその知識を組織に配分する。「知識」という経営資源をめぐっては、情シスと人事の両部門の間でこうした協業作業が求められるに違いない。

 「カネ」を担う経理・財務部門の話が最後になってしまったけれども、「カネ」は、それ以外の経営資源「ヒト」、「モノ」、「情報」、「知識」を動かす上で常に必要となる経営資源である。その意味で、経理・財務部門には人事、購買、情シスとの緊密な連携が求められる。経理・財務部門は、各部門の予算を「前年比○○%増、あるいは減」といった慣習的な方法で調整したり、各部門から上がってくる投資案件に資金をあてがったりするだけの部門であってはならない(もちろん、帳票を処理するだけの部門であってはならない)。

 経理・財務部門は、それぞれの稟議案件の投資対効果を厳しく検証する必要がある(もっとも、稟議を上げる部門の方も投資対効果を試算するのが望ましいわけだが)。ただし、コストと効果の金額や回収期間といった数字だけを見て決断を下すのは早まった行動であろう。

 その案件によって現場のビジネスや業務プロセスはどのように変わるのか?望ましいビジネスや業務プロセスを実現するにあたって、この案件がベストな選択肢と言えるのか?もっと高い投資対効果が得られる別の選択肢があるのではないか?あるいはもっと踏み込んで、「稟議を上げてきた現場が考える望ましいビジネスや業務プロセス」よりも望ましいビジネスや業務プロセスがあるのではないか?といった視点から案件を吟味する役割を、経理・財務部門が積極的に引き受けるべきだと思うのである。

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