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February 26, 2010

株主重視VS「脱」株主重視で揺れるアメリカを見た−『経済の新秩序(DHBR2009年11月号)』

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 前回の記事「何だかんだで楽観的なアメリカ人と、パニック状態の日本人−『経済の新秩序(DHBR2009年11月号)』」は、実は書いているうちに違う方向へ行ってしまい、本来書きたい内容とは別の記事になってしまった(汗)。もともとは、同じ特集の中でも未だに株主重視の姿勢を捨てない著者と、株主重視経営からの脱却を勧める著者が入り混じっていて興味深いなぁ、といったことを書く予定だった。

 マッキンゼーがまとめた「近未来トレンド10選」という記事の中には、
 (企業が信頼を回復するためには、)「企業経営における唯一の目的は、株主価値を高めることである」という考え方をやめることである。

 信用を回復するうえで、主要なステークホルダーたちのリストを増やし、そこに、社員、顧客、サプライヤー、地域社会、マスコミ、労働組合、政府、そして市民社会を含めることが効果的である。
と書かれており、「脱株主価値」が明確に打ち出されている。

 まぁ、こんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど、コンサルティングファームも株主重視経営を推し進めてきた一員だったのではないのか?この手のひら返しは一体何なんだ??という疑念が払拭できずにいるのは、きっと私だけではないだろう・・・

 面白いデータを1つ紹介すると、DHBR2009年9月号のジョエル・M・ポドルニー「ビジネススクールの責任」という論文の中に、ハーバード・ビジネス・レビューの読者を対象にグローバルで実施されたアンケート結果が掲載されており、「2008年以降、コンサルタントへの信頼はどのように変わりましたか」という質問に対して実に43%が「減った」と回答しているのである。

 話がやや脱線してしまったが、一方でマッキンゼーの見解と全く逆の立場を取っているのが、「政府と企業の新しい関係」という論文を書いたロバート・B・ライシュであり、傍論部分においてではあるが次のように述べている。
 スタンダード・オイルの会長を務めたフランク・エイブラムスが51年のHBR誌に寄稿した論文の中で、CEOの仕事は「株主や従業員、顧客、そして社会全般の要求について、公平かつ実際的にバランスを図る」ことであると述べているが、50年代や60年代における産業人が再び現れることを、いまやだれもが期待していない。株主の利益を最大化することは、引き続き経営者が最優先すべき責務となる。
 このように、時として全く異なる見解の論文を同じ特集の中に入れてしまうのがDHBRらしさであると個人的には思う。この矛盾をどう解釈するのか、ダイヤモンド社は読者に対してある種の挑戦状を叩きつけているものだと私は受け取っている。

 とはいえ、その挑戦状を正々堂々と受け取って議論する力量がまだ自分にないのが非常に残念なんだなぁ・・・。ただ、私が1つ思うのは、アメリカが株主重視の経営を続けてきたのは、企業年金の存在が大きいのではないか?ということである。

 JALの再建問題でも、OBの企業年金の給付額削減が話題になったが、日本に比べてアメリカの企業年金ははるかに複雑で規模が大きな制度になっている。社員が拠出した原資を基に年金基金を設立し、その運用を銀行や証券会社などの機関投資家に委託する。機関投資家はアメリカをはじめとするさまざまな企業に投資を行い、社員が退職後に受け取る年金の給付額を稼いでいる。

 企業年金は将来的に社員が受け取るものであることを考えると、実は社員が機関投資家を介して間接的にアメリカ経済の株式を所有しているという見方もできる。ドラッカーの著書に『見えざる革命』という本があり、この点について詳細に論じている(『現代の経営』などに比べると『見えざる革命』の知名度は低いように感じるが、ドラッカー自身はこの著書を非常に気に入っていたらしい)。

P.F. ドラッカー
ダイヤモンド社
1996-11
おすすめ平均:
ドラッカーの異色作
年金基金社会主義
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 アメリカの労働者だけが、年金という名のもとに、企業の利益を手にすることができる。しかもアメリカの労働者だけが、年金基金を通じて、資本の法的所有者かつ供給者として、資本市場を支配する力をてにしつつある。(中略)アメリカこそ、経済構造上、あらゆる価値の源泉としての労働者が、生産活動のあらゆる成果を手にするという意味において、真の社会主義体制を実現している。
 「社会主義」という言葉まで使っているところがドラッカーの著書としては異色である。もし、企業年金制度がドラッカーの理想通りに機能しているのならば、株主の利害と社員の利害は一致する。株主の利益が優先されるのは当然であり、株主を重視することが社員自身の利益の確保にもつながる。

 しかも年金の積立・支払が非常に長い時間軸の中で行われることを考えれば、株式は中長期的に運用するのが筋である。年金基金から運用を委託される機関投資家は中長期的な視点を持って、投資先の企業に対し持続的な成長を要求する。そのような「企業年金社会主義」の出現をドラッカーは期待していた。

 ところが、実際にはそうならなかった。プリンシパルである社員とエージェントである機関投資家の利害はいつしか切り離されてしまい、どこかのタイミングで何かのきっかけにより、機関投資家は短期的な利益ばかりを追求するようになってしまった。その「どこかのタイミング」と「何かのきっかけ」は今の私にはよく解らない。とりあえず『なぜGMは転落したのか−アメリカ年金制度の罠』という本が面白そうだったので、これを読んでもう少しアメリカの年金制度を調べてみることにしよう。企業経営において「株主」という存在をどのように位置づければよいのか、何かヒントが得られるかもしれない。

ロジャー ローウェンスタイン
日本経済新聞出版社
2009-02
おすすめ平均:
「今日のGMは、明日の日本」膨大なレガシーコストは他人事ではない
GMは転落するべくして転落した
労働組合の際限なき要求と経営陣の妥協が招いた顛末記 GMは蛇足
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April 28, 2008

日本電産のあきれた弁明

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 波紋を呼んでいる日本電産・永守社長の「休みたいなら辞めろ」発言。
 「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」
(2008年4月24日朝日新聞朝刊)

 これに対して、連合(日本労働組合総連合会)の高木会長が「言語道断」と憤りをあらわにすれば、舛添厚労相も「きちんと調査し、指導すべきは指導する」と発言している。

 騒動から4日経った今日、日本電産が自社HP上でこの件に初めて言及した。が、その内容があまりにもいただけない。

8日前までは存在しなかった経営理念を「でっち上げ」?
 説明文の中にはこんなくだりがある。
 「当社は雇用の創出こそが企業の最大の社会貢献であるとの経営理念のもと、安定的な雇用の維持が、社員にとっても最重要であると考えております。
 このような考え方に基づき、これまで経営危機に瀕し、社員の雇用確保の問題に直面していた多くの企業の再建を、一切人員整理することなく成功させて参りました」

 確かに、経営理念のページを見ると、「日本電産グループ 三つの経営基本理念」の最初に「1.最大の社会貢献は雇用の創出であること」と書かれている。

20080428_日本電産経営理念

 が、そう簡単に騙されてたまるものか!Googleの力を侮る無かれ。4月20日時点でのキャッシュを見てみると、

20080420_cache

 「日本電産グループ 三つの経営基本理念」の項目は存在しないのである。この項目が厳密にいつ追加されたのかは定かではないが、経営理念のページなど頻繁に更新するはずがないため、ここ数日の間に「でっち上げられた」可能性が高い。

 後から「実はHPに書いてなかっただけで、社内ではずっと前から浸透していたものだ」などと見え透いた嘘をつかなければいいが。

「休日は2日増えている」と苦し紛れの弁明
 もう1つお粗末なのが、「年間休日を前年比2日増加させている」というもの。2日なんて、カレンダーの巡り会わせ次第でどうとでも変わる範囲である。それをさも誇らしげに実績として書くあたりが痛い。言い訳が苦しいほど、それを聞く側の心理は1つに収束していく。それはつまり、

 「あ、やっぱり言ったんだね…」

 それにしても、組織の不祥事やトップによる不適切な発言が相次いでいるのに、組織の謝罪や説明の仕方はちっともレベルアップしていないんだな、と改めて感じた一件だった。

発言内容は一部理解できるものの…
 さて、釈明の方法に対する批判はこの辺にしておき、永守社長の発言内容そのものをどう捉えるか?

 個人的には、経営者の気概としては分からないでもない。他社との競争に勝つためには、永続的に成長するためには、そのぐらい社員には一生懸命働いてほしいと経営者が願うのは自然なことだろう。ただ留意すべきは、「願う」ことと「全員に強制する」こととは違うということだ。

 社員にはいろんなタイプの人がいる。ずっと働きづめでも大丈夫な人、プライベートを大事にする人、何らかの身体的・精神的事由により、負荷のかかる仕事は避けたいと思う人。そして、持っている能力や創出しうる成果の大きさも様々である。これまでの人事管理の大きな問題の1つは、社員を一律ルールの基に管理してきたことである。

 仕事以外の場面を考えて欲しい。会社を離れれば、我々は一消費者として、企業の差別的マーケティング戦略の基に個別のニーズを充足してもらえる。ところが、会社では全員同じ扱いを受けてしまうのだ。これはどこか歪んだ構造であるとは言えないか?

 経営者の役割は、仕事に対する様々なニーズを持つ社員がいることを前提に、彼らが持てる能力以上の成果が出せるようマネジメントすることである。決して、何が何でも全員を休日出勤させることではない。もしそれをしたければ、休日出勤を望む社員のみを最初から採用すればよい。
July 03, 2006

【ミニ書評】『ドイツ 株主価値経営のジレンマ(DHBR2006年7月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 07月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 07月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2006-06-09

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《収録されている主な論文》
 ワールドカップにあわせてハーバード・ビジネス・レビューまでもドイツ特集。

 「戦略テーマ」:BSCの新ツール(ロバート・S・キャプラン、デイビッド・P・ノートン)
 「財務」「顧客」「社内プロセス」「学習と成長」という4つの視点から価値創造の方法を探るバランス・スコア・カード(BSC)は、これまで事業部門の業績改善のために用いられてきた。しかし近年、BSCを全社戦略にも応用し、企業価値の増大に努める動きが見られる。全社戦略の場合、BSCに「戦略マップ」という新しいツールが加わる。

 とはいうものの、この「戦略マップ」、論文を読んでも正直よく解らない(汗)。「全社的に重要な複数の戦略的テーマ」ぐらいの意味で使われているようにしか思えず、「戦略マップ」を用いると部門間の利害関係を超えて全社的なシナジーが発揮できるとするキャプランらの主張はやや理解しがたい。

 共同決定方式の岐路(コーネリア・ガイスラー他)
 ドイツと日本の経済や企業は非常によく似ていると言われる。製造業と輸出を中心に経済成長を遂げたこと、資金調達は間接金融が主で、銀行の影響力が大きいこと、企業は株主だけでなく(あるいはそれ以上に)従業員などのステークホルダーを重視することなど。意思決定の方式も例外ではない。日本の場合、多くの関係者を意思決定のプロセスに加え、時間をかけて決定を下す稟議制度が特徴的だが、ドイツでは従業員を企業の重要な意思決定に参加させる「共同決定方式」が法的に整備されている。

 ところが、ややもすると意思決定に時間がかかりすぎる稟議制度と同様、共同決定方式も企業の意思決定のスピードを損ねるとして、近年論争を呼び起こしている。経済効果の面からすると、共同決定方式が企業業績に対してプラスにはたらくという研究結果もあるそうだが、グローバル経済のスピーディーな競争に日々さらされている経営者は、そう簡単には納得してくれないようだ。

 社会システムをターンアラウンドせよ(ローランド・ベルガー)
 ドイツ出身のコンサルタントで、ローランド・ベルガー・ストラテジー・コンサルタンツ会長でもあるローランド・ベルガーのインタビュー記事。

 インタビューの要点は次の通り。「ホワイトカラーの生産性を高める必要がある」「規制緩和や民営化を恐れてはならない」「人口減少の問題に対処しなければならない」ローランド・ベルガーの名が伏せられていたら、ピーター・ドラッカーの生前のインタビュー記事と勘違いしてしまっていたかもしれない。

 ドイツの「隠れたチャンピオン」に学ぶ(ハーマン・サイモン、シュテファン・リッベルト、仲井間滋之)
 「隠れたチャンピオン」というのはハーマン・サイモンが1992年に発表したコンセプトで、参入している業界において50%を超えるシェアを持ち、グローバルな事業展開をし、高収益を誇るマーケット・リーダーであるにもかかわらず、一般的にあまり知られていない中小企業のことを指す。「隠れたチャンピオン」に共通するのは、(1)野心的な目標設定、(2)集中戦略、(3)高付加価値の提供、(4)慎重に計画されたグローバル化、(5)意欲の高い従業員の5点である。

 個人的な見解だが、「隠れたチャンピオン」が要求する条件の厳しさを考えると、この5つの要素だけでは到底足りないように思われる(紙面に限りがあるから仕方がないか?)。

 ドイツ、イノベーションの源流(坪井賢一)
 歴史的にみると、ドイツは初めから一つの国家だったわけではない。ドイツは多数の領邦国家から成る緩やかな連合体だった。歴史を経る中で領邦国家は整理され、その数は減少したが、それぞれの領邦国家が大学を創っていたこともあって、19世紀後半のドイツ・オーストリアには多数の大学が存在していた。これらの大学が学生の確保のためにしのぎを削って知識の質を高めた結果、19世紀後半から20世紀初頭のドイツ・オーストリアはイノベーションの王国になったという。

 つまり、ドイツでは大学の激しい競争がイノベーションの原動力になったということになる。もしこれが本当ならば、今後日本で予想される大学の生存競争が、新たなイノベーションを生み出すことになる。しかし、そうした事態はちょっと考えにくい。ドイツのイノベーションは、大学の競争激化も一つの要因だったかもしれないが、他にも重要な要素がたくさん絡んでいると考えた方がよさそうである。