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September 13, 2011

やっぱり「世界への長期分散投資」が一番無難なのね―『投資信託はこの8本から選びなさい』

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中野 晴啓
ダイヤモンド社
2011-06-10
posted by Amazon360

 定期購読しているDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの広告に入っていたので、つい買ってしまった。いや実際問題ねぇ、独立して個人事業主をしていると、将来の生活資金のことはどうしても心配になるわけよ。自分の中では、ピーター・ドラッカーが90歳を超えてもカリフォルニア州のクレアモント大学で教鞭をとっていたのに倣って、90歳まで働くぐらいのつもりでいる(あぁ、笑いたい奴は笑えばいいさ)。だけど、80歳、90歳になったおじいちゃんのコンサルティングや研修サービスを必要としてくれる企業や組織があるかどうかなんて解らないし、そもそも病気になってしまったら元も子もない。

 国民年金は満額でも年間80万ぐらいしかないため、それだけではとてもじゃないが20年、30年という長い老後を支えることはできない。最近になってようやく資産運用の元手も多少できたし(といっても、数十万単位の世界ですよ・・・)、そろそろ真剣に資産運用を考えようかと思い、この本を購入した。

 本書の結論は至ってシンプル。現在、日本国内には約2,800本の投資信託があるけれども、一番無難なのは、言い換えれば、長期間にわたって着実に資産を増やすことができる可能性が高いのは、「世界中へ分散投資できるもの」に限るということ。本書では、「新興国株」、「新興国債券」、「外国株」、「外国債券」、「日本株」、「日本債券」、「世界REIT」、「コモディティ」、「分散ポートフォリオ(新興国株からコモディティまでの8つ全てに均等に投資する)」という9つの資産クラスについて、1996年から2010年までの15年間の運用実績をランキング化したデータが紹介されている。

 「新興国株」から「コモディティ」までの8つは、年によって運用実績にかなりのばらつきがあり、順位がめまぐるしく入れ替わる。これに対し、「分散ポートフォリオ」は変動が少なく(毎年4位〜7位にランクイン)、ほどほどの成績を残している。15年間の平均リターンを算出すると、「分散ポートフォリオ」は年6%になる。

 ちなみに、「新興国債券」(12%)、「世界REIT」(8%)、「新興国株」(7%)の平均リターンは「分散ポートフォリオ」を上回っているものの、新興国の債務がデフォルトしたり、経済成長が鈍化したりした瞬間に「新興国債券」と「新興国株」はやられてしまう。不動産についても、歴史を振り返れば何度もバブルとバブル崩壊を繰り返しているため、「世界REIT」も乱高下を繰り返す性質のものだ。

 本書のテーマは、30年とか40年といった”超長期的スパン”を見据えた投資である。よって、15年単位で見たら「新興国債券」、「世界REIT」、「新興国株」は確かに魅力的かもしれないけれども、その先も同じリターンをもたらしてくれるかどうかは、「分散ポートフォリオ」に比べるとはるかに不透明だ、というのが著者の見解である。

 本書のタイトルに「投資信託は、この8本から選びなさい」とあるが、その8本の名前をこの記事で書いてしまうとあまりにも露骨なネタばれになっちゃうんで、やめておくよ。ただ、著者の中野晴啓氏がセゾン投信代表取締役社長であることから容易に推察できるように、8本の中にはセゾン投信の商品が含まれているということだけ言っておこう(だって、自社商品のPRにならないんだったら、社長がわざわざ時間をかけて本を出版したりしないもん)。

 代わりにと言っては何だが、現在国内で取り扱われている約2,800本の投信から8本に絞り込んだ基準を引用しておく。下記の基準がどういう意味を持つのか?なぜ大事なのか?に関しては、「本書を読んでのお楽しみ」ということで、今回のレビューは終了〜(資産運用については、私より詳しい人が世の中にいっぱいいるから、私が長々とレビューを書いたところで意味がないし、汗)
長期投資に向いている投資信託の条件
 (1)信託期限が無期限であること。
 (2)分配金を全額再投資に回してくれること。
 (3)購入時手数料がかからないノーロード型で、信託報酬率が低いこと。
 (4)純資産残高が増え続けているもので、その残高があまりにも小さい場合は除外。
 (5)少額から自動積立ができて、自分の銀行口座から毎月引き落としが可能。
 (6)投資対象は「国際分散型」
August 23, 2010

現在のフードシステムでは誰も得をしていないんじゃないか?

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 日本の農産物は輸入品に比べると高いため、生産者はもっと努力して価格を下げるべきだという声が時折聞かれるが、実態はそんなに簡単な話ではない。生鮮品(野菜、果物、鮮魚、精肉)の流通構造は下図の通り非常に複雑である。農家が出荷した農産物は農協などの集出荷団体に集められ、そこから卸売市場に出荷される。卸売市場では、まず卸売業者が生鮮品を競り落とし、場合によってはさらに仲卸業者というもう1つの業者が仲立ちとなって、小売店に生鮮品を届けている。加工品も卸売業者が何段階にも重なって消費者の元に届く。おそらく、ここまで複雑な流通構造になっている業界は他にはあまりないだろう。

食品流通の構造

(農林水産省「流通コスト縮減の現状と課題」)

 農産物の市場は、生産段階では約12兆円であるが、消費段階では約80兆円に膨れ上がる。ということは、中間コストが非常に大きい産業だと言える。下図は流通コストの内訳を示したものでるが、生鮮品と加工品を見ると、いずれも卸売・小売経費という流通コストが約40%を占めていることが解る。

食糧供給コストの構造
(農林水産省「流通コスト縮減の現状と課題」)

 もちろん、これは平均値であるから、品目や土地によってその数値は異なってくる。ネットでいろいろと調べていたら、次のような調査結果を発見した。
 小売価格に占める生産者の受け取り価格の割合を主要8品目で見たところ、生産者の受け取り価格が5割を超したのはネギで51%〜59%、トマトが56%、キュウリが54%、リンゴが54%の4品目であった。
 また同受け取り価格が5割を大きく下回ったものは、ダイコンの24%、ハクサイで14%、キャベツ22%〜28%と発表されている。

 これをキャベツの場合を東京の例で見ると、キャベツ1kg(中玉1個)当り小売価格が約105円、仲卸価格(小売りの仕入価格)が約56円、卸価格(仲卸が荷受からの買付価格)が約50円、そして生産者の手に入る価格が約21円となっている。それぞれの段階で占める価格の構成割合を見ると小売が47%、仲卸が10%、卸が21%、生産者が21%となる。

 ミカンの場合を同じく東京に例で見て見ると、ミカン10kg1箱が、小売価格が3,545円、仲卸価格(小売りの仕入価格)約2,328円、卸価格(仲卸が荷受からの買付価格)が1,978円、そして生産者の手に入る価格が1,270円となっている。それぞれの段階で占める価格の構成割合を見ると小売が34%、仲卸が10%、卸が20%、生産者が36%となる。

 同じくミカンを大阪の例で見ると小売価格2,694円、仲卸価格1,870円、卸売価格1,574円、生産者価格1,099円となっており、価格構成の割合はそれぞれ31%、11%、18%、40%となっている。
http://www.mizuho-s.com/santyan58.htm
 消費者(および消費者の利益を代表する小売業者)は、輸入品との比較で少しでも安い食品を求める。流通コストは急激には変わらないため、価格が安くなれば生産者にしわ寄せがいく。農水省はフードシステム全体のコスト削減のために生産者にもコスト削減を求めているが、慢性的に赤字体質でぎりぎりの経営を強いられている生産者には、コスト削減の余地はほとんど残されていないと思われる。

 かといって、卸売業者や仲卸業者が儲けを出しているとも考えられない。これだけ流通段階に多数のプレイヤーが絡んでいれば、必然的に「超」薄利多売の世界となるからだ。実際、最近は生き残りをかけて卸売業者・仲卸業者が合併するケースも増えている。さらに、薄利多売と言えば小売業者も似たようなものだ。彼らもまた、現在のフードシステムで得をしているとは言えない。

 収入の少なさがネックとなって生産者が減少し、かつ流通を担うプレイヤーが疲弊すれば、最後に影響を受けるのは消費者である。消費者は国産の農産物を手に入れられなくなるかもしれない。そうした事態を回避するためには、

 (1)消費者が農産物に対してもっとお金を払うことを許容する(政府がエコポイントならぬ「フードポイント」を発行して、国産農産物の消費を促す??)
 (2)多段的な流通構造を簡素化し、流通コストを圧縮する(地産池消の推進によって流通コストを削減し、その分を生産者に還元する。もっとも、中抜きされた流通業者の雇用をどうするかという別の論点についての議論も必要)
 (3)農家に対する補助金をもっと厚くする(農産物の輸出国であるフランスなどでは、農家に対する補助金が日本よりずっと手厚いという。そのため、農家が農産物を大量に生産するインセンティブが働き、結果として自給率が100%を超えるに至っている。もちろん、票集めのためのバラマキだと有権者の目に映らないようにしなければならないが…)

などといった様々な打ち手を複合的に組合せることが必要になるだろう。
February 24, 2010

何だかんだで楽観的なアメリカ人と、パニック状態の日本人−『経済の新秩序(DHBR2009年11月号)』

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 タイトルから察しがつくように、金融危機後の世界経済の方向性について論じた特集。読んでいて特に印象深かった(というか驚かされた)のは、ニーアル・ファガーソンの「2013年のアメリカ」という論文。

 過去の金融史を参考に、3年後の未来を予測しているのだが、「アメリカの実質成長率が予想に反して1%台に落ち込む」とか、「アメリカ国債の買い手がいなくなって金利が値上がりし、激しいインフレが起こる」といったネガティブなシナリオが描かれている一方で、「ドルに代わる基軸通貨は存在せず(IMFが提唱するSDR[特別引出権]への移行は困難である)、アメリカは世界経済において依然として影響力を持つ」とか、「世界各国で経済危機に端を発する政治不安が頻発すれば、実はアメリカが最も安全な国家であることが示されるであろう」といった非常に楽観的なシナリオも併記されている(後者のシナリオは、あまりにポジティブだったためにびっくりしてしまった)。

 こうしたアメリカのポジティブさは一種の国民性なのかもしれない。リーマン・ショックの直後にアメリカなどを訪問したある中小企業の社長が、「アメリカ人は皆、『何とかなるよ』と言っていた。中国人もシンガポール人も意外と冷静に受け止めているみたいだ」と言っていたのを思い出した。実際、サブプライム問題の震源地であるアメリカは、何だかんだ言って実需が回復傾向にあるのに対し、当初サブプライム問題の影響はあまり受けないであろうと言われていた日本が現在、需要増の見込めないデフレ経済に引きずり込まれている(ヨーロッパはギリシャの財政危機があるので、また別の問題を抱えているわけだが)。

 今や多くの日本人は、出口が見えない経済状況の中で非常に悲観的になっているように思える。トヨタのリコール問題もあって、経済面の明るいニュースをすっかり耳にしなくなった。その経済を後押しするはずの政治に目を向けても、「政治とカネ」の問題にほとんどの時間が費やされ、肝心の経済・財政政策や雇用対策の議論は棚上げ状態になっている。ガス抜き程度に提供される明るい話題と言えば、10代や20代の若いアスリートが世界で活躍する姿ぐらいである。こんなのははっきり言って異常だ。政治家とマスコミがグルになって国民を愚民にしようとしているのではないか?と思うほどである。

 そんなグルに惑わされた国民は、自民党がダメだから民主党に投票して政権交代を実現させたにもかかわらず、早くも最近の地方選で民主党離れを起こしているぐらいであり、国民の判断軸もブレブレ状態なのである。

 個人的には、アメリカ人のポジティブさを見習おうとは思わない。悲観的な気持ちを跳ね除けて前進するパワーに変えることができることを知っているからだ。だが、今の私たちは悲観的である上に混乱している。もう少し冷静になって、1人ひとりが企業の中で、あるいは政治に対してどうすればいいのか考えた方がいい気がするなぁ。