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July 24, 2012

マーケティングとイノベーションの違いが曖昧?―『イノベーション実践論(DHBR2012年8月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-07-10

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 今月号のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューはイノベーション特集。ただ、今月号のDHBRに限らず最近感じるのは、マーケティングとイノベーションの境目が曖昧になっている、もう少し具体的に言うと、イノベーションがマーケティングの領域を侵食しているのではないか?ということである。

 ドラッカーは『現代の経営(上)』の中で、企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションの2つであるとしているが、同書の中で両者の違いは必ずしも明確に記述されていない。ドラッカーが同書で提唱した「目標管理」を構成する”マーケティングに関する目標”と”イノベーションに関する目標”の内容の違いから、間接的に知ることができるのみである。

ドラッカー名著集2 現代の経営[上]ドラッカー名著集2 現代の経営[上]
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 私はこの2つの違いを次のように説明することにしている。すなわち、マーケティングとは既知の市場における顧客の獲得活動であり、イノベーションとは未知の市場の創出活動である。ただし、未知の市場と言っても、自社と他社、さらに顧客の三者にとって完全に未知の市場だけでなく、既知の市場が代替品に取って代わられるケースも、イノベーションに含めて考えてよい。

 例えば、使い捨てカメラがデジタルカメラに置き換わり、デジタルカメラが携帯電話やスマートフォンのカメラに置き換わる、紙の書籍が電子書籍に置き換わる、据置機型のゲームがソーシャルゲームに置き換わる、といったケースがこれに該当する。なぜならば、これらの代替品の登場によって市場の構造が大きく変質し、競争のルールががらりと変わるからである。つまり、大きな目で見た場合の市場そのものは既知(先ほどの例で言えば、カメラ、書籍、ゲームという市場の存在自体は既知)だが、戦い方が未知なのである。

 もう少し話を続けると、家電業界の関係者の方には怒られるかもしれないが、液晶テレビはブラウン管テレビに取って代わったとはいえ、私の定義からすればイノベーションではない。液晶テレビは、ブラウン管テレビよりも画質や性能がよくなり、機能が多様化したというだけであり、テレビ市場における競争のルールが劇的に変化したとは言えないからだ(同じ理由で、有機ELテレビも現在のところイノベーションではない)。確かに、サムスンが台頭し、1週間ほど前に”家電敗北”という見出しのニュースがYahoo!にも出て、市場における戦い方が変わったかのように見えるけれども、その本質はグローバル競争の激化であって、市場固有のルールが変容したわけではない。

 一方で電気自動車は、これまでの自動車に取って代わり、さらに業界の構造を根本から覆す可能性を持っているから、イノベーションと言える。電気自動車は部品点数が従来の自動車に比べて圧倒的に少なく、日本企業が得意としてきた擦り合わせ技術を使わなくとも、モジュールの組立のみで製造可能である。また、ガソリンスタンドに代わる充電ポイントが、交通システムや利用者の生活圏内に新しく張り巡らされる。さらに、電気自動車は”動く家電”であり、将来的には家電量販店で販売されることも考えられる。そうすると、自動車メーカー各社が長年に渡って形成・維持してきた系列関係が、川上・川下の両方でガラガラと崩れ、新しいビジネスモデルが模索されることになるのである。

 イノベーションの定義でもう1つ重要なのは、技術の新規性はイノベーションとは関係がない、ということだ。イノベーションを技術革新と訳すのは誤訳である。新しい技術を使わなくとも、既存の技術の組合せで新しい市場を創り出せることは、アップルが実証済みである。イノベーション理論の先駆者であるオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と表現した。イノベーションにおいてポイントとなるのは、技術単体の新しさではなく、その組合せ方の新しさなのである。

 (続く)
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