※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 12, 2012

スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴

武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 バランス・スコア・カード(BSC)で有名なロバート・キャプラン&デイビッド・ノートンの著書。この本で言うシナジーとは、

 (1)スタッフ部門⇔ライン部門間のシナジー
 (2)事業部間のシナジー
 (3)外部のパートナー企業とのシナジー
 (4)取締役会と経営陣のシナジー

の4つであり、その中でも(1)がメインであると理解しているが、何とも読みにくい。というか、キャプラン&ノートンの本はなぜかどれも読みにくい。何年か前に『バランススコアカード−新しい経営指標による企業変革』を読んだ時も結構苦労したし、もう1冊の邦訳書『キャプラン&ノートンの戦略バランスト・スコアカード』も一応手元にあるけれども、つまみ読みしただけで終わっている(汗)。

バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革
ロバート・S. キャプラン デビッド・P. ノートン Robert S. Kaplan

生産性出版 1997-12

Amazonで詳しく見るby G-Tools

キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカードキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード
ロバート・S・キャプラン デビッド・P・ノートン 櫻井 通晴

東洋経済新報社 2001-08-30

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 この2人の著書は、どれも事例が豊富なのは嬉しいものの、守秘義務の関係により、BSCの中身やBSC作成プロジェクトの全てを公開しているわけではないのだろう。その一部の非公開情報のせいで、途中のロジックが不自然になっているのではないか?それから、BSCの各階層には、「定量的に測定可能な指標」、いわゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を記入すべきなのに(そうでなければ、BSCの達成度合いをモニタリングできない)、時に定性的な目標が混在しており、全体の構造を理解しづらくしている。いっそのこと、完全に情報を公開してもOKという企業を1、2社厳選して、そのBSCを詳細に解説する、というスタンスの方がいいのではないか?という気もする。

 なお、(3)外部のパートナー企業とのシナジーに関しては、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年11月号に所収されている2人の論文「戦略的提携を実現するバランス・スコアカード」の方がおそらく解りやすい。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2010-10-09

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 通常のBSCでは、最上位に「財務の視点」がくるが、パートナー企業とのBSCでは「両社への価値」が位置づけられる。また、第3の視点である「業務プロセスの視点」では、「コラボレーション」を意識した業務プロセス上の目標が設定され、最下層の「学習と成長の視点」では、「アライアンスを活かす環境づくり」(例えば、アライアンス活動を促進・評価する人事制度の構築など)を検討することになる。

 論文では、神経科学、心血管代謝、インフルエンザ、膵酵素補充療法などに関する医薬品を開発しているソルベイ社と、臨床試験など生物医学関連の各種サービスを提供するクインタイルズ社によるBSCの事例が紹介されている。

 話が逸れたけれども、ここからは、同書を読んで個人的に疑問に感じたことを列記したいと思う(といっても、(1)に該当する部分を読んで、残りを読む気が失せてしまったため、途中までの内容に関する疑問にとどまるが・・・)。ただ、かなり重箱の隅をつつくような細かい指摘もあるので、この本を読んでいない方にはさっぱり伝わらない内容になるかもしれない点はご容赦ください。

(p45)男性用作業靴の製造・販売からスタートしたアパレルメーカーであるスポーツマン社(仮名)のBSCの事例について。p45には、事業ラインと調達部門それぞれのBSCのリンクを示した図が掲載されている。このうち、調達部門のBSCに関して、「内部プロセスの視点」にある「注文履行の数」や「注文拒否数」といった指標は、調達部門の本来業務と密接に関連しているから理解できる一方、同じく「内部プロセスの視点」にある「製品イノベーションの数」や、「顧客の視点」にある「主要カテゴリーの浸透」(※)、「財務の視点」にある「海外成長」(※)などは、果たして調達部門が責任を負うべき指標なのだろうか?

 スタッフ部門(本書では「サポート・ユニット」という言葉で表現されている)とライン部門のBSCを関連づけるBSCのことを、キャプランとノートンは「リンケージ・スコアカード」と呼んでいる。著者によると、このスコアカードには、スタッフ部門が直接コントロールできない指標も含まれるという。人事部門の例に関する記述ではあるが、該当箇所を引用する。
 リンケージ・スコアカードの尺度は、人事部門が直接コントロールして影響を及ぼすことができない。たとえば、企業戦略として買収による成長戦略をとる場合、人事部門のリンケージ・スコアカードでは、「重要な従業員の流出防止」、「クロスセルによる売上の増大」、「買収メリットの享受」について測定する。(p183)
 「重要な従業員の流出防止」(本来は、「重要な従業員の”離職率”」といった指標で表現するのが適切)は、PMI(Post Merger Integration)プログラムなどによって、まだ人事部門がある程度影響を及ぼす余地もあるだろう。しかし、「クロスセルによる売上の増大」にまで、人事部門は責任を負うべきなのだろうか?コントロールが困難な指標にまで責任を持たせるのは、逆に無責任であるし、仮にその指標が目標値に届かなかった場合、責任の所在が曖昧になる可能性があるように思える。

 (続く)


(※)これが、文中で述べたように定性的な目標になっているため、定量的に測定可能な指標に変えるべきである。例えば、「主要カテゴリーの認知度」(定期的な市場調査、顧客アンケートによって測定)や「主要カテゴリの販売数」(店舗POSシステムから情報を取得)、「海外成長率」や「全社売上に占める海外売上の比率」(ともに財務データより算出)などといった指標にする必要がある。
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする