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June 08, 2012

コンフィギュレーション・スクールに対するいくつかの疑問―『戦略サファリ』

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ヘンリー ミンツバーグ ジョセフ ランペル ブルース アルストランド Henry Mintzberg

東洋経済新報社 1999-10

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 これまで10の学派の概略を自分なりに整理してみたが、ミンツバーグが最後に紹介し、自らも属している「コンフィギュレーション・スクール」に関しては、ミンツバーグ自身が本書で指摘している問題点以外にも、個人的にいくつか疑問がある。今回の記事ではそれをまとめてみたい(私が本来書きたかったのはこの記事で、10の学派の整理はあくまで前置きでした。前置きに10本も記事を使ってスミマセン・・・)。

(1)ミンツバーグはコンフィギュレーションの種類として、「起業家的組織」、「機械的組織」、「専門的組織」、「多角的組織」、「革新的組織」、「伝道的組織」、「政治的組織」の7つを挙げている。また、R・E・マイルズ&C・C・スノーは、企業行動を「防衛型」、「探索型」、「分析型」、「受身型」の4タイプに分類している(ミンツバーグによると、この2人の研究は、「実践者だけでなく、研究者の中でもまさしく人気が高い」そうだ)。

 だが、それぞれのコンフィギュレーションは、どのような要素によって生まれるのだろうか?外部環境の影響なのか、業種・業界の特色なのか、過去の戦略の結果なのか、あるいは企業文化によって規定されるのか、それともトップ・マネジメントや強力なリーダーのビジョン・信念によって形成されるのか?この辺りの説明がなく、単に現実の世界で見られる組織をいくつかのパターンに分けただけの印象がある。

 この問題は特に、創業時のコンフィギュレーションを説明する際に重要である。というのも、この学派はコンフィギュレーションの形態によって、変化のパターンがある程度決まるとしているからだ。ミンツバーグは、自らの分類と組織変化のパターンを結びつけている。例えば、「機械的組織(職務が専門化され、仕事が高度に標準化された組織)」では、「周期的隆起(長期間の安定が時折革命によって遮断される)」が見られ、時々「方向転換」を目指す改革によって変化する、といった具合である。

 では、”最初の変化”である創業の際に、その組織が「起業家的組織」、「機械的組織」、「専門化組織」・・・のうち、どの形態(現実には、複数の形態の組み合わせになると思われる)になるのかは、一体何が決めるのであろうか?

(2)マイルズ&スノーの研究では、4つのコンフィギュレーションは、「選択した市場に関連のある戦略」を持っている、とされている。ということは、戦略を決めるのは自社が選んだ市場ということになる。これは、第9学派のエンバイロメント・スクールと類似する考え方であり、コンフィギュレーション・スクールが目指す各学派の統合という意図に反して、決定論的ではないだろうか?

 また、(1)でも述べたが、コンフィギュレーションとトランスフォーメーションのパターンには一定の関係があるとしている点にも疑問を感じる。確かに、組織によって、変革手法の得手・不得手があるのは事実である。トヨタのように、継続的な”カイゼン”が、ある日突然”量子論的飛躍”によって大きな変革を遂げることを期待し、実際にそれを実行している企業もある。あるいは逆に、現場が疲弊して力が落ちている企業では、ボトムアップによる継続的な変化は難しいかもしれない。

 とはいえ、コンフィギュレーションとトランスフォーメーションを簡単に結びつけてしまうのは、これもまた決定論的であるように思える。マイルズ&スノーの研究が、「外部環境による決定論」だとすれば、コンフィギュレーション―トランスフォーメーションの組み合わせは、「内部環境による決定論」ということになる。ここにも、戦略の自由度の狭さを感じずにはいられない。

(3)この学派は、「戦略形成のプロセスは、各スクールに代表される考え方、すなわち概念のデザイン、形式的プランニング、システマティックな分析、リーダーシップによって生み出されるビジョン、個人的認知への集中、組織学習、競争的影響力の行使、集合的共同化、または環境への単純な反応のいずれかである。しかし、それぞれが適切な時期と適切な状況の中に見いだされなければならない」と主張する。言い換えれば、時期と状況によって、組織が採用すべき学派は異なり、それは(太字の箇所をやや意地悪に解釈すれば、)通常1つに定まる、ということになる。

 しかし、現実にはどんな企業でも、戦略形成プロセスや戦略実行による変化をたどる段階で、ほとんど全ての学派を通過しなければならないのではないだろうか?もちろん、時期と状況によって、活用される学派に濃淡は生じる。創業して間もない企業には、第2学派のプランニング・スクールが要求するような緻密な戦略計画は不要であろう(それでも、簡単な事業プランは必要だろうが)。(※)

 ここで、ミンツバーグが好む「創発的戦略」が現場から生まれるケースを考えてみる。まず、環境の変化に気づいた現場のある社員が、第5学派のコグニティブ・スクールの考えに従って環境の再解釈を試み、環境をイナクト(想造)する。その社員が内外の環境に関して独自に入手した情報を吟味し、組み合わせ、戦略コンセプトを導くにあたっては、第1学派のデザイン・スクールの方法を用いるに違いない。

 そして、環境に対する新しい解釈を組織全体に広め、戦略コンセプトを洗練させていく段階では、第6学派のラーニング・スクールが提唱する組織学習によって、他の社員に染みついている古いメンタルモデルを書き換えなければならない。その際には、第7学派のパワー・スクールが推奨するように、ある種の政治的行動に出ることも必要だろう。

 トップマネジメントの方はというと、現場とは別の次元で事業環境を観察しており、独自のビジョンを持っている。それは、第5学派のアントレプレナー・スクールが重視する直観や帰納的推論によるものかもしれない。現場から上がってきた戦略コンセプトと、トップのビジョンを擦り合せることによって、戦略コンセプトはさらに高度化されていく。時には、トップのビジョンも、新しい現実に適合するよう修正されるかもしれない。

 戦略の実行フェーズになると、トップは起業家的な精神(第5学派のアントレプレナー・スクール)と、権限に付属するパワー(第7学派のパワー・スクール)を用いて、新しい戦略を組織全体に根づかせようとする。その際、戦略を画鋲に終わらせないために、第10学派のコンフィギュレーション・スクールが整理した様々な変革マネジメント手法の中から、適切なものを選択し、組み合わせる。

 新しい戦略コンセプトの妥当性は、第3学派のポジショニング・スクールが用意した、戦略の妥当性を評価する枠組みによって検証され、戦略の実行プランは、第2学派のプランニング・スクールが整備したプロセスを通じて具体化されていく。数年の実行を経て戦略が地に足のついたものとなれば、その戦略は企業文化となり、将来の戦略を方向づけるようになるだろう(第8学派のカルチャー・スクール)。このように、現実の戦略形成と実行は、各学派の複合体なのである。

(4)結局のところ、コンフィギュレーション・スクールにとって戦略とは何なのかが最後まで判然としない印象を受ける(これはこの学派に限らず、他の学派にも当てはまる。例えば、第8学派のカルチャー・スクールも、企業文化が変革を阻止する点を強調するが、企業文化が戦略の形成にどのような影響を与えるのか?また企業文化を通じて生まれる戦略とは何なのか?は必ずしも明らかでない(例外的に戦略的変化を説いたスウェーデン学派の中身をじっくりと検証していないので、本当はそうではないのかもしれないが)。

 乱暴な表現かもしれないけれども、総じてコンフィギュレーション・スクールは、組織の形態の分類を示し、ある形態を別の形態に変化させるためのマネジメント手法をマッピングしただけのように見える。しかし、組織は戦略を実行するための手段であり、逆に戦略を規定する1要素でもある。では、組織と紐づいている戦略とは一体何なのだろうか?

 また、変革マネジメントの手法は、それぞれが目的を持って実行される必要がある。その目的=戦略とは果たして何なのだろうか?その戦略はどこから、どうやって生じるのだろうか?これらの疑問に対して、コンフィギュレーション・スクールは明確な答えを持っていないように感じた。


(※)余談だが、ジェームズ・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー』の中で、ヒューレット・パッカードの創業者は、創業時に明確なプランがなかったことを素直に認めている。最初の頃は、カネになるものは何でもやってみたという。ボーリングのファイルライン表示器、望遠鏡のクロック・ドライブ、便器に自動的に水を流す装置、減量のためのショック装置など、パソコンとは全く無関係のものを販売していた。
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