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June 07, 2012

《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(9.エンバイロメント・スクール)

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 エンバイロメント・スクールは、外部環境が戦略を規定し、組織はあくまでも環境に従属する受動的な存在であるとする。この学派によれば、戦略の選択は環境が一義的に決定する、つまり組織による戦略的選択の余地はないことになる。10の学派のうち、この学派の説明が最も短く、ミンツバーグは「寄り道」と呼んでいる。それでもこの学派を敢えて1つのスクールとして切り出したのは、「このスクールが環境を、リーダーシップや組織と並んで(戦略形成)プロセスの中核となる3つの力の1つとして置いたために、バランスよく戦略形成全体を捉えることができるようになった」からだという。

 些細なことかもしれないが、このスクールが9番目にあるのは、個人的にはやや違和感を覚える。というのも、ミンツバーグは、第5学派のコグニティブ・スクールを、客観性を重視する第1〜第4学派と、主観性の比重が高まる第6学派以降の橋渡し的な存在として位置づけており、この流れに従えば、エンバイロメント・スクールはかなり主観面に入り込んだ学派でなければおかしい。

 ところが、エンバイロメント・スクールは以下で見るように、外部環境という客観的な世界を非常に重視しており、主観が全くと言っていいほど入っていないのである。環境重視の視点は、むしろ第3学派のポジショニング・スクールの基礎になっている考え方ではないだろうか?実際、エンバイロメント・スクールの出発点となった「条件適応理論」は1960年代に研究が始まっており、ポーターの「競争戦略論」(1980年代)、さらにBCGの「PPM(Product Portfolio Management)」(1970年代)よりも歴史が古い。

 ついでにもう1つ言うと、第4学派のアントレプレナー・スクールは、起業家や戦略家の主観面(ブラックボックスのままだが・・・)に焦点を当てているから、ミンツバーグが言うほど客観的なスクールではない。これらの点を総合すると、エンバイロメント・スクールを第3学派に持ってきて、その次にポジショニング・スクール、コグニティブ・スクールを並べ、第6学派以降をアントレプレナー・スクール、ラーニング・スクール、パワー・スクール、カルチャー・スクールとした方が、流れとしてはすっきりするように思える。

【第9学派:エンバイロメント・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)D・S・プーらの「条件適応理論」(環境の安定性や複雑性、市場の多様性、プレイヤー間の対立の激しさといった環境変数によって、組織の戦略が自ずと規定される)
(2)M・T・ハナン&J・フリーマンらの「組織エコロジー」(条件適応理論は環境への適応の余地を残しているが、組織エコロジーの論者=組織エコロジストは、組織の主だった特徴が学習や適応から生まれることは疑わしい、と明言する。組織エコロジストは、組織の基本的な構造や特徴は、組織が誕生してからすぐに環境によって定まる、と主張する)
(3)J・W・メイヤー&B・ローワンらの「制度理論」(組織がその環境下で直面する制度上の圧力によって、戦略が形成されるとする。具体的には、サプライヤ、競合他社、顧客、政府機関など、環境を構成する様々なプレイヤーの相互作用を通じて、組織の行動を支配する複雑で強力な基準が徐々に生み出されていく。その結果、同じ環境にいる組織は、似たような組織構造や行動に収斂していく。例えば、業界全体を対象とした規制、ベストプラクティスのベンチマーク[=一言で言えば模倣]などが、制度上の圧力として挙げられる[制度理論では、「制度上の異種同形」と呼ばれる])。

(※参考文献が海外の専門誌ばかりで、Amazonで見つからなかったため、書籍情報は省略)

<特徴>
(1)外部環境は、組織に対して”包括的な力の集団”として現れる。そして、戦略形成プロセスにおいて中心的な当事者となる。
(2)組織は、環境からの力に対応しなければならない。さもなければ、環境から「つまみ出されてしまう」(=組織が死滅してしまう)。
(3)したがってリーダーシップとは、環境を把握し、組織がそれに正確に順応していることを保証する役割を果たす。つまり、リーダーシップは環境に対して受動的である。
(4)組織は最終的に、生態学的なニッチに集まり、資源が乏しくなるか、もしくは生存条件が厳しくなるまでそこにとどまる。そして死滅する。アントレプレナー・スクールは、起業家はニッチ市場を目指す傾向があるとしたが、この場合のニッチとは競争を回避するためのニッチである。他方、生態学的なニッチとは、自然という組織体内での場所、すなわち生物社会で個体の占める位置を示すものであり、そこには競争が存在する。

<功績>
(1)エンバイロメント・スクール(特に組織エコロジー)には、後述するように問題が多く、ミンツバーグは功績らしい功績を挙げていない。強いて言うならば、冒頭で述べたことの繰り返しになるけれども、このスクールが環境をリーダーシップや組織と並んで、戦略形成プロセスの中核となる3つの力の1つとして置いたために、バランスよく戦略形成全体を捉えることができるようになった、ということだろう。
(2)また、戦略マネジメントに関わる人たちに対し、外的状況の力と要求を把握した上で、マネジャーが利用できる意思決定の力の範囲を認識するように求めた(もっとストレートに言えば、戦略家は全知全能の神ではないことを、はっきりとマネジャーに認識させた)。

<問題点>
(1)「環境」が具体的に何を指すのかは、必ずしも明らかでない。通常は、「外にある、実体がつかめない力の集合体」として扱われており、抽象的な次元の集合体として描写されることが多い。
(2)「組織には本当の意味での戦略的選択はなく、どこかに『環境の命令』が存在する」というこの学派の考え方では、非常に異なる戦略を持つ2つの企業が、似たような環境下で成功する理由を説明できない。
(3)言うまでもなく、現実世界の組織は、環境が課す制約を乗り越えて戦略的な画策により適応を試みたり、制度上の圧力に対し様々な形で抵抗したりしている。
(4)組織エコロジーはその主張を確立するまでに、長時間を必要とする。ハナンとフリーマンは、「最も大きく、最もパワフルな組織であっても、長期間にわたって生き残ることはできない」という仮説を立証するために、独立戦争まで遡っている(その当時に存在し、2人が調査を行った時期にも生き残っていた企業は、たった20しかなかった、と結論づけている)。だが、研究の対象期間は200年も必要なのだろうか?
(5)組織は、環境と呼ばれる抽象的なものによってではなく、組織自身による積極的な戦略的行動によっても死滅する可能性が無視されている。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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