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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 04, 2012

《要約》『戦略サファリ』―ミンツバーグによる戦略の10学派(3.ポジショニング・スクール)

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ヘンリー ミンツバーグ ジョセフ ランペル ブルース アルストランド Henry Mintzberg

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 戦略論の中で最もよく世の中に知られているものは、ほぼ間違いなくこのポジショニング・スクールの理論であろう。だが、この最も規範的で、最も分析的で、最も決定論的な戦略論を、ミンツバーグは最も痛烈に批判している(ポーターが読んだら涙目になるんじゃないか?というぐらいに)。

 ポーターは、とにかく定量的に分析することを勧める。「業界分析のポイントは、業界が魅力的か否かを表明することではなく、競争を支える基盤と収益性の主要因を理解することである。分析者は、定性要因を列挙することでよしとするのではなく、できる限り定量的に業界構造を調べるべきである。実際、(ファイブ・フォーシズ・モデルの)5つの競争要因に関する要素の多くが定量化できる」と述べている(「競争の戦略」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 06月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2011-05-10

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 ポーターが開発した「ファイブ・フォーシズ・モデル」や「バリューチェーン分析」といったフレームワークは、それ自体は単純明快とはいえ、分析のためにそれを上手く使いこなせる人は、さほど多くないのではないか?と感じている(かく言う私自身も、他人のことをとやかく言えるレベルではない。もっとも、ミンツバーグにしたら、そういう人が少ない方が吉報なのかもしれないけれども・・・)。

 仕事柄、いろんな人が作ったファイブ・フォーシズ・モデルやバリューチェーン分析を見てきたが、よくある過ちは、各ボックスに外部環境や内部環境の情報を(部分的に定量データを交えるものの、)定性的に記入するところで終わってしまうことである。もちろん、定量データが取れない情報を定性的に補うことは、ポーターの主張には反するけれども、実際の戦略構想では非常に重要だ。問題なのは、フレームワークを埋めることが目的と化していることである。

 これでは、環境の概観を把握して、「ふーん、そうだね」で思考停止する。ファイブ・フォーシズ・モデルの目的は、自社を有利なポジションへとシフトさせるために、買い手、売り手、競合他社、新規参入者、ならびに代替品の脅威に対して、どのような打ち手を打つべきか?を検討することである。また、バリューチェーン分析も、各プロセスが生み出している付加価値を算出し、競合他社に比べて生産性が高いところと低いところを特定して、全体の付加価値額を上げるために何をすればよいのか?を導くことが狙いである。

 この”フレームワークの罠”は、ファイブ・フォーシズ・モデルなどに限った話ではない。例えば、デザイン・スクールが開発した古典的なツールである「SWOT分析」に関しても、S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)の4つを埋めることに一生懸命になっている人をたまに見かける。しかし、SWOT分析は戦略策定ツールである。よって、S×O、S×T、W×O、W×Tと”クロス”させることで、想定される戦略オプションを幅広く洗い出さなければならない(この点で、デザイン・スクールは規範的ではありながら、戦略家が創造力を働かせる余地が比較的大きいと言える)。

 前置きが長くなったが、そろそろ本題に。といっても、ポジショニング・スクールはもう有名なので、説明は短めにしておく。

【第3学派:ポジショニング・スクール】
<代表的な論者・理論>
(1)BCGの「PPM(Product Portfolio Management)」、「経験曲線」
(2)マイケル・ポーター『競争の戦略』
(3)孫子『兵法』、クラウセヴィッツ『戦争論』(※ミンツバーグによると、孫子やクラウセヴィッツは、それぞれの戦闘局面に応じた最適解があることを前提としており、この考え方が(1)や(2)につながっているという)

競争の戦略競争の戦略
M.E. ポーター 土岐 坤

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<特徴>
(1)産業・市場構造が戦略を規定し、戦略が組織構造を規定する(産業構造論における「SCP(Structure-Conduct-Performance)パラダイム」に基づく)。
(2)どんな産業であってもカギとなる重要な戦略は、市場におけるポジションの確立につながる、ごく限られたものである(デザイン・スクールやプランニング・スクールが、いかなる状況下でも戦略は無限にあると主張したのとは対照的)。
(3)戦略形成プロセスとは、産業構造、市場競争原理に関する分析的な計算に基づいて、いくつかの限定的なポジションの中から1つを選択することである(※)。
(4)戦略形成プロセスでは、分析者(アナリスト)が重要な役割を果たす。彼らは、戦略的な選択をコントロールするマネジャーに、計算結果を報告する役割を持つ。

<功績>
(1)プロセスだけでなく、戦略そのものの重要性を強調した。そして実際に、規範的な戦略を提示した。
(2)プランニング・スクールに中身を付加し(ミンツバーグによれば、それはほとんど成功していないそうだが・・・)、同時にプランナーの役割を分析者(アナリスト)へと移行させた。
(3)プランニングの技法が戦略作成においてうまく発揮されたことはないが、分析のテクニックは、戦略策定プロセスを大いに活性化させた。

<問題点>
 ポジショニング・スクールは、デザイン・スクールやプランニング・スクールの流れをさらに深く追究しているため、同じ問題点が当てはまる。それ以外の問題点は以下の通り。

(1)経済(しかも定量化が可能な経済)的な側面に集中しすぎており、社会的、政治的、あるいは定量化できない経済の側面が軽視されている(「政治的」や「政治」という言葉は、ポーターの『競争の戦略』の目次にも索引にも出てこない)。
(2)戦略形成にあたりハード・データを重視するため、データが揃っている大企業の戦略の研究に偏っている。したがって、ニッチ市場や多数乱戦業界の戦略は研究されない(不安定な業界では、どうやって市場シェアを把握すればよいというのか?)
(3)業界や競合という外部環境に目を向けすぎており、内的能力を犠牲にしている(両者のバランスは、デザイン・スクールやプランニング・スクールによって大事に守られていた)。そもそも、業界はどのように定義され、分類されるのか?政府の統計による業界の区分と、戦略を構想するマネジャーの業界の区分は異なる。
(4)戦略のプランナーと実行者が分離されている。分析者(アナリスト)による計算は、実行者のやる気を阻害する可能性がある。自分たちで戦略を作ること、そして自分たちで戦略を実行することが、その戦略をよくするものである。
(5)戦略そのものが決定論的で狭い。勝利する戦略は、ナポレオンのように、常識にとらわれず、確立されていたカテゴリを打ち破ることで生まれる。


(※)ミンツバーグは『戦略サファリ』の中で、「”包括的な”ポジションの中から戦略を選択する」という表現を多用しているけれども、”包括的”という言葉からは、戦略オプションが多岐に渡っているかのような印象を受ける。ところが実際には、ポーターは基本戦略として、差別化、コストリーダーシップ、集中の3つ”しか”挙げていないことから、選択肢の幅は非常に狭い。この点で、”包括的”というのはやや誤解を招く表現だと思う。

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 《10学派一覧》
 第1学派:デザイン・スクール
 第2学派:プランニング・スクール
 第3学派:ポジショニング・スクール
 第4学派:アントレプレナー・スクール
 第5学派:コグニティブ・スクール
 第6学派:ラーニング・スクール
 第7学派:パワー・スクール
 第8学派:カルチャー・スクール
 第9学派:エンバイロメント・スクール
 第10学派:コンフィギュレーション・スクール
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