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May 28, 2012
製造プロセスを国内に戻し、熟練労働者の育成に回帰するアメリカ―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』
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今月号で強く主張されていたのは、「アメリカは、失われた製造業の雇用(特に、熟練労働者の雇用)を取り戻すべき」というものであった。アメリカの製造業は、グローバル競争の中で価格優位性を保つために製造プロセスのアウトソーシングを推し進め、さらにリーマンショック後のダウンサイジングなどによって、多数の雇用を手放してきた。ITIF(情報技術・イノベーション財団)は、2007〜09年のリセッション時に、アメリカ製造業では全体の約16%に当たる200万人の雇用削減が行われたと指摘している(※1)。
ところが、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、主たるアウトソーシング先であった中国の人件費が高騰しており、アメリカの人件費の方がかえって安くなるケースが増えているという。その結果、製造拠点をアメリカ国内に戻そうという「リショアリング」が進行しているそうだ。「リショアリング」を検討している企業の割合が高かったのは、ゴム製品やプラスチック製品のメーカーである(コンピューター機器や金属製品の分野ではその傾向が低かった)(※2)。
ここで、アメリカの人材育成の歴史を少し遡ってみると、1980年代には、急速に台頭してきた日本の製造業を意識して、新技術の創造とその商業利用や保護を担う人材の育成が課題となった。レーガン政権時代の産業競争力委員会が1984年にまとめた『ヤング・レポート』では、「MOT(Management of Technology:技術経営)」と、「プロパテント政策」という2つの打ち手が提案されている(※3)。
しかし、それから20年後の2004年の12月に公開された『パルサミーノ・レポート』では、「イノベーションによる競争力強化」がテーマとなった。この頃になると、日本の製造業はかつての勢いを失い、「知恵づくりは米国、モノづくりは中国、日本は試作品づくり」というジョークまで出るようになっていたのだが、『パルサミーノ・レポート』はまさに「知恵づくり」を担う人材を育成して、イノベーションを起こし続けることにより、アメリカの競争力を強化することを狙いとしていた(※4)(※5)。
換言すると、80年代には高い技術力を持つ人材の育成にフォーカスが当たり、簡単な製造プロセスは中国などの新興国にアウトソーシングすることにした。だが、受託先の新興国メーカーが実力を蓄え、アメリカの製造業とほぼ同等の機能や性能を持った製品を安価で製造できるようになって、アメリカの優位性が崩れ始めた。そこで2000年代に入ると、アメリカは技術ではなく、製造プロセスのより上流にあたる、イノベーティブな製品コンセプトの開発にシフトし、新興国とは異なる土俵を自ら作り出して、先行者利益の獲得を目指すことにした、ということだろう(※6)。そのアメリカが、今度は逆に製造プロセスをアメリカ国内に取り戻し、熟練労働者の育成を重視している、というのは何とも興味深い。
これは、高止まりしているアメリカの失業率を下げる、という経済政策的な面ももちろんあるけれども、もう少し掘り下げれば、「イノベーションは、コンセプト開発と製造プロセスが隣接している方が成功しやすい」という仮説が隠れているように思える。ブランド価値で世界一に輝いたアップルは、もっぱら製品のデザインに注力し、製造はほとんど全てアウトソーシングしているが、そのようにしてイノベーションに成功するのは、実は例外的なのではないか?という疑問を、今月号に寄稿しているマイケル・ポーターやゲイリー・ピサノは抱いているのかもしれない(ゲイリー・ピサノは、安易な製造プロセスのアウトソーシングはイノベーションを阻害する、とはっきり述べている。この点については次回の記事で)。
(続く)
(※1,2)「〔焦点〕米製造業が「メードインUSA」に回帰、中国の人件費高騰などで海外生産の魅力減退」(ロイター、2012年4月20日)
(※3,4)妹尾堅一郎著『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』(ダイヤモンド社、2009年)
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(※5)イノベーション人材の育成は、『パルサミーノ・レポート』で初めて提言されたわけではない。実は、『ヤング・レポート』の前年に、同じくレーガン政権下で発表された『危機に立つ国家』("A Nation at Risk")には、「我々は国際的な地位をかけて、あるいは市場で、生産物だけでなく実験室や職場から出るアイデアの面でも諸外国との競争にさらされている。世界におけるアメリカの立場は、以前は、例外的によく訓練された男女により支えられて安定したものだったかも知れない。しかしもはやそうではない」(※太字は著者)とあり、アイデア、つまりイノベーションの種を生み出す人材の必要性が説かれている(以前の記事「アメリカの『危機に立つ国家』が指摘する学力低下、教育の質の低下」を参照)。
(※6)余談になるが、2000年代に急増したのはイノベーションを担う人材だけではなかった。今月号に収録されているロビン・グリーンウッドらの論文「成果と失敗から検証する 金融システムを正常化する処方箋」には、「アメリカのGDPに占める金融部門の割合は、1980年代の5%未満から2007年には8%超まで拡大した」とあり、金融部門の人材が急増したことを示している。
しかし、グリーンウッドらは、金融部門がアメリカ経済の成長に貢献したかどうか、やや懐疑的な立場を取っている。著者たちの推計によると、「金融部門の対GDP比が拡大した理由の大部分は、単純に80年から2006年にかけての株価の上昇で説明がつく」という。金融部門の報酬は、運用資産(=大半は株式)の規模の何%という形で定められていることが多い。だから、株価が上昇すれば、金融部門の付加価値額も自動的に上昇することになる(もっとも、金融部門の働きがなければ、株価が上昇しなかったかもしれない可能性もあるわけで、グリーンウッドらの指摘はちょっと意地悪なのだが)。
グリーンウッドらは、金融部門の報酬が他の業種よりも高いため、優秀な人材が必要以上に金融部門に流れてしまうことを危惧している。「投資手数料が高すぎるのだとすれば、金融は他の産業から人材を奪い取ることで非効率をもたらし、経済全体の生産性向上の妨げとなる」。
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