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May 24, 2012

高齢社会のビジネス生態系に関する一考(3)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

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 《これまでの記事》
 高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』
 高齢社会のビジネス生態系に関する一考(2)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

 前回の記事で示した2つのピラミッド組織を併存させるには、いくつかの条件がある。

<条件1:正社員の解雇要件を緩和する>
 これは、再雇用制度の強化、さらにその先に予測される定年延長という、ミドル・シニア層への”アメ”に対する”ムチ”として、また組織の新陳代謝を促し、若手の雇用がミドル・シニア層によって阻害されないようにするために不可欠な措置となる。

 国家公務員の場合、各省の課長、審議官、局長などのポストが限られているために、同期の中でポストに就けなかった者は退職を迫られる。いわゆる「肩たたき」である。これと似たようなことが、民間企業でも実施されるようになる。ただし、国家公務員には公益法人や民間企業などの再就職先=「天下り先」が確保されているのとは異なり、民間企業の場合はそうした保証はない。しかも、国家公務員の肩たたきが50代後半から始まるのに対し(※4)、民間企業では早ければ40代前半から肩たたきが始まる厳しいものになる。

 かつての年功序列型の人事制度では、40代まで緩やかな社内競争が行われ、40代でどの役職まで昇進できるかの”勝敗”が決まるとされた(※5)。しかし、昇進の見込みがなくなった社員でも、部課長”代理”、”担当”部課長などの役職をもらうか、子会社や関連会社に出向・転籍することで、グループ企業内にとどまることが可能であった。ところが、これからの企業にそのような余剰人員を抱え込む余裕はなく、40代〜50代で厳しい”勝敗”が決まる。だが、”負け”といっても、あくまでもその企業内の競争で負けたのであって、心機一転して新たな”勝利”を目指す環境が外には広がっているし、またそういう環境にしていかなければならない。

<条件2:若年層の雇用を義務づける法律を制定する>
 多分こういう法律を定めている先進国はないと思われるが(あったらスミマセン・・・)、将来的に若年層がマイノリティとなった場合、他のマイノリティ(例えば障害者など)の雇用を促進する法律が存在するのと同様に、若年層の雇用を義務づける法律が必要になるかもしれない。具体的には、

 (1)一定の社員数を超えた企業は、全社員数の何割かに相当する若手社員を採用する義務を負う
 (若手社員の年齢をどう定義するかが問題になるけれども、”高卒”から”大卒の第2新卒”あたりまでをターゲットとするならば、「18歳から25歳」といったレンジになるだろう。なお、大学院への進学者が増えている実態を考慮するならば、年齢の上限はもう少し上がるかもしれない)
 (2)やむを得ない事情のために若年層の雇用が困難である場合は、その理由を行政に届け出る

といった内容になる。ただし現実問題として、年度によっては、各企業が法律に従って確保すべき若年層を合計したところ、若年層の求職者数を上回る可能性もあるので、罰則のない努力義務となるに違いない。

<条件3:ミドル・シニア層の転職・能力開発を支援する機関を強化する>
 国家公務員の天下りの場合は、各省庁が天下り先の公益法人や民間団体をあらかじめ組織化しており、天下り先への斡旋機能も備えている。だが、余剰人員のためにポストや仕事を用意するのは、経済成長の原則に反する。初めに仕事ありきで、雇用が後からついてくるのであって、決してその逆ではない。

 よって、民間企業は<条件1>によって解雇要件が緩和されたとしても、再就職先を確保したり、再就職を斡旋したりする必要は全くない。仮に、再就職先の確保や再就職の斡旋が法律で義務化されれば、せっかく解雇要件が緩和されても、企業は解雇に踏み切れなくなる。とはいえ、ある日突然社員に対して退職を勧告するよりも穏便なやり方はある。

 例えば、他の企業と連携して各地域の新型ピラミッド企業の求人情報を共有し、それを社員に配信する。また、定期的に社員が自らのキャリアを検討する機会を設け、自社でキャリアを磨き続けるのか、他の企業にもキャリアのチャンスがあるのか、あるいはある日退職を勧告された時に、次の新しいキャリアへと踏み出す心構えができているか、などを熟考させるのも有効かもしれない。

 実際にミドル・シニア層の転職をサポートするのは、転職支援サービス会社やハローワークになる。特にハローワークは各地域に根差しており、期待が大きい。だが、現在のように「求人情報の数が日本一多い」ことを売り文句に、どんな求人情報でもほぼ無差別に掲載するだけでは不十分である。ハローワークには、各地の優良企業を発掘し、求人情報の質を高めていく努力が要求される。

 また、とりわけ地域密着型企業へ転職していくミドル・シニア層は、従来型ピラミッド企業で培ってきたものとは異なる能力や知識を習得しなければならない。もちろん、それぞれの企業が人材育成の仕組みを整備すべきではあるものの、地域密着型企業は規模が小さく、自社で全てのトレーニングを賄うことが困難であると予想される。そこで、ミドル・シニア層の職業訓練を行う公的機関を拡張するべきであろう。

<条件4:ミドル層、シニア層の起業を支援するインフラを整備する>
 ミドル・シニア層の中には、新型ピラミッド企業に転職するだけでなく、自ら起業する人たちも出てくるに違いない。彼らに対する資金援助、経営支援などの公的な仕組みを充実させる必要がある。現在でもベンチャー支援や中小企業支援の政策はあるが、どちらかというと製造業寄り、ハイテク寄りのものが多いとの印象である。製造業で起業するミドル・シニア層も少なくないだろうが、生活支援産業が広がるならば、ミドル・シニア層が立ち上げるベンチャーはローテク中心になる。この実態に合わせた税制優遇策、融資プラン、その他支援策を構築しなければならない。

 以上、かなり突飛で論理的に穴があるかもしれないシナリオを描いてみた。今回の記事の目的は最適解を示すことではなく、議論を提起することであり、私のシナリオはあくまでも取っ掛かりの材料にすぎない。この課題に対する最善策など誰も知らないのだから、こうしてアイデアを出し合いながら議論を深めていくことが大切だと思う。


(※4)総務省が2009年に公表した「『早期退職慣行の是正』をめぐる各省庁の取り組み状況」によると、最も早く退職が始まるのは経済産業省と公正取引委員会の55.5歳、逆に最も退職年齢が遅いのは防衛省の58.8歳で、環境省と金融庁の58.0歳が続く(2008年度実績)。なお、各機関の肩たたきの年齢は、2001年度に比べ平均2〜5歳上昇しているという(「国家公務員「肩たたき」年齢上がる、平均2〜5歳 総務省」朝日新聞、2009年4月30日)。

(※5)竹内洋著『日本のメリトクラシー―構造と心性』(東京大学出版会、1995年)

日本のメリトクラシー―構造と心性日本のメリトクラシー―構造と心性
竹内 洋

東京大学出版会 1995-07

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