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April 12, 2012

「イノベーションのジレンマ」の誤解(?)が見られるので、その点だけ補足―『日経情報ストラテジー(2012年5月号)』

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日経情報ストラテジー 2012年 05月号 [雑誌]日経情報ストラテジー 2012年 05月号 [雑誌]
日経情報ストラテジー

日経BP社 2012-03-29

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 今月号の『日経情報ストラテジー』に関しては、あんまり書くことがないな・・・。本号で紹介されていた事例を基に、昔の記事にちょこっと加筆したぐらい。

 部門のミッションに合ったKPIを設定しよう

 あと、特集名が「”オリンパス化”を防げ」となっているものの、記事の内容は「トップの戦略と現場の業務の整合性をどのように取るのか?」が中心であり、オリンパスのような内部統制に関わる話ではない。取締役会は会社法の規定に従って内部統制システムの整備義務を負うわけだが、私の友人の弁護士に言わせると、「当の取締役会のメンバーが腐敗している場合は、いくら内部統制システムがしっかりしていても、不正の防ぎようがない」らしい。

 一部の余計なことをしてくれる企業のせいで、「じゃあ、内部統制をもっと厳しくしましょう」、「大企業は、新しいルールに従って、従来の内部統制システムを見直してください」、「ITベンダーも、頑張ってシステムを再構築してください」みたいな流れになると、社会的コストばかりが膨れ上がって誰も得しないと危惧したけれども(ITベンダーは多少なりとも得するかもしれないが・・・)、今のところそういう動きにはなっていないようで一安心である。

 今月号の記事で1点、冒頭のシャープ・片山幹雄会長(4月に社長から会長へ就任)へのインタビューで引っかかる部分があったので、そこだけ言及しておこうと思う。
 知らない方も多いのですが、当社は複写機事業も持っています。中国では高い実績を誇るなど欠かせない事業です。先ほどBIG PAD(※タッチパネル式のホワイトボード)の話で「紙を無くして生産性を高める」と言いましたが、同じ社内にはコピー機を推進している部隊もいる。つまりジレンマを抱えている。

 産業研究として有名な(成功体験を持つ企業ほど次の革新を起こしにくくなる)「イノベーションのジレンマ」が日常的に起きているわけです。しかし考えようです。ジレンマに陥らないように「テレビ事業だけではいけない」という声が社内で高まってくるのです。多様な事業を1つの社内に持つからこそ、多角的な視点で議論して、次の市場を見据えることができます。
 この記述には、クレイトン・クリステンセンンの「イノベーションのジレンマ」に対する若干の誤解が感じられる。イノベーションのジレンマとは、企業(特に大手企業)が技術的なイノベーションによって、要求水準の高いハイエンド市場のニーズを満たす高付加価値製品を作っているにもかかわらず、ある日突然、技術水準はあまり高くないが、その代りに利便性の高いローエンド市場向け製品が破竹の勢いで市場を”駆け上がり”、ハイエンド市場までをも取り込んでしまうことを指していたように思う。

 つまり、既存の大手企業からすれば、「ハイエンド市場に存在する重要顧客のニーズに耳を傾ける」というマネジメントの定石を踏んでイノベーション(クリステンセンの言葉では、持続的イノベーション)に励んでいるのに、技術的には劣位の製品による破壊的イノベーションが、自社のビジネスをズタボロにしてしまうから、「イノベーションのジレンマ」と呼ばれるわけである。クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』には、
 簡単にいうと、優良企業が成功するのは、顧客の声に鋭敏に耳を傾け、顧客の次代の要望に応えるよう積極的に技術、製品、生産設備に投資するためだ。しかし、逆説的だが、その後優良企業が失敗するのも同じ理由からだ。顧客の声に鋭敏に耳を傾け、顧客の次代の要望に応えるように積極的に技術、製品、生産設備に投資するからなのだ。ここにイノベーターのジレンマの一端がある。
という記述がある。インタビュー記事にあるような、「成功体験を持つ企業ほど次の革新を起こしにくくなる」という説明は、「イノベーションのジレンマ」の補足としては不十分だし、ましてやシャープが一方で紙を必要とする複写機事業を展開し、他方で紙を不要にするBIG PADを販売しているという、一見矛盾する事業を持っていることをジレンマと呼ぶわけではない(中国で販売している複写機が、日本国内のものよりも技術的には劣るが利便性が高く、国内市場の複写機に取って代わる可能性があるというのなら話は別だが)。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン 玉田 俊平太

翔泳社 2001-07

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 シャープは「イノベーションのジレンマ」を意識しているようで、実は自ら破壊的イノベーションを呼び込むようなことをしでかしているような気がしてならない。それが次の記述である。
 32インチとか40インチのテレビは儲からなくなってきている。ただ60とか70インチはまた別の状況があります。米国では家庭の大型テレビでスポート(※原文ママ)やドラマを観るのが好きという方が多い。だから大型液晶テレビが売れています。特に40インチから70インチなどに買い替えるお客さんも多い。大型というジャンルを絞ってみれば商機はあるのです。
 日本の液晶テレビは韓国・台湾メーカーの価格攻勢でボロボロになっている中、シャープはアメリカで大型テレビという残された一部の市場に望みをかけているようだ。しかし、『イノベーションのジレンマ』を読んだ方ならお解りのように、ハイエンド市場に主戦場を移すことは、それだけローエンド市場が大きくなるということであり、破壊的イノベーションの呼び水になる。

 韓国・台湾メーカーが日本製よりも低価格の液晶テレビで攻勢をかけてくるというシナリオもさることながら、液晶テレビよりも技術的には劣るものの、利便性は高く、しかも液晶テレビより格段に低価格という製品が仮に出てきたとしたら、シャープなどは一発でやられてしまうかもしれない(そういう意味で、8,800円というアップルTVが今後どういう展開を見せるのかは非常に興味深い)。
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