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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
February 15, 2012

大学・企業の協業による学生の能力開発で、かえって学生の雇用情勢は悪化するかもしれない

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]

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 DHBR2012年3月号の論文のレビューに入る前に1つ記事を。巻頭に「若年者雇用の未来」というコラムがあって、若者の厳しい雇用情勢を改善する案が2つ提示されている。1つは「大学と企業の協業による学生の人材開発」であり、もう1つは「『準社員』という制度の創設」である。前者は、新卒社員の育成にかかるコストが企業にとって重荷となっていることから、大学と企業でコストシェアさせるという発想であり、後者は雇用が守られている正社員と、雇用の調整弁として何かと不利な立場に置かれる非正規社員の二極化を避けるための措置であるという。

 私見だが、後者に関しては、「準社員」の理想的な法的地位がコラム内には書かれていないし(「準社員」というカテゴリを実際に設けている企業はあるものの、その実態はまちまちである)、単に雇用形態を多様化したところで、結局は非正規社員と同じ道をたどるだけなのではないか?という疑問が消えない。

 前者に関しては、肯定的・否定的両面の見方ができそうだ。肯定的に捉えるならば、新卒社員のトレーニングのうち、業界を問わず共通のもの(それこそマナーやPCの基本操作など)は、各社が個別でやるよりもまとめて実施した方が効率的であるから、アウトソーシングした方がよいという考え方が成り立つ。ただし、アウトソーシング先が大学でいいのか?という論点は残る。大学の目的は新卒社員の育成ではないし、仮に国公立大学にアウトソーシングされれば、新卒社員の訓練に税金が投入されることになる。それが果たして税金の使い道として適切なのか?という議論は必ず生じるだろう。

 否定的に捉えると、人材育成のアウトソーシングは、人材育成を投資ではなくコストとみなす風潮に拍車をかける危険性があるように思える(今でもその風潮はあって、研修業界に身を投じているとよく解るものだ。不景気になり業績が悪化すると、研修費用は真っ先にカットの候補に挙がる)。人材育成に投じる金額は、確かに会計上はコストとして処理されるけれども、実際には将来的なリターンを期待した投資である。しかも、社員の経験が浅ければ浅いほど、投資がペイするまでに時間がかかるのは自明である。

 新卒社員のトレーニングには時間もお金もかかる。しばしば、入社後3年間はその社員から利益を期待することはできないとも言われる。だからこそ、その3年間に投じた金額を4年目以降に稼ぎ出してもらうために、現場は人事部の後押しを受けながらOJTを徹底的に行い、本人の能力を飛躍的に伸ばす仕事の機会を探り、簡単に離職しないように心理的なケアを欠かさないでおこうとするのではないだろうか?

 逆に、人材育成がコストとみなされ、さらにそのコストがアウトソーシングなどによって抑制されてしまうと、現場や人事部は先に述べたような人材育成のインセンティブを失い、たとえ離職者が相次いでも、「あいつにはそれほど金がかかっていないから、辞めても大した痛手にはならない」と考え始めるかもしれない。

 新卒社員の育成に対する熱意が冷めてしまった企業は、とどのつまり他企業などで既に十分なトレーニングを受けた経験者の採用に走るに違いない(中途採用も、本来は自社でやるべきトレーニングを他社でやってもらったわけであるから、一種のアウトソーシングと見ることもできる)。こうなってしまうと、「大学と企業の協業による学生の人材開発」という構想は、全くの逆効果である。個人的には、この負のシナリオの方が実現しそうで非常に怖いのだが、皆さんはどう思われるだろうか?
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