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January 10, 2012
人間は利他的だとしても、純粋な利他的動機だけで富は生まれぬ―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』
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【999本目】1,000エントリーまであと1。
今月号は特集のタイトルだけ見ると自己啓発がテーマのように感じるものの、編集局が時流を意識したのか、「絆」をテーマとした論文が多かった。今日取り上げる論文がまさにそうだし、他にも後日紹介する「数だけが重要ではない ハイ・パフォーマーの人脈投資法」、「社員の積極性と生産性を高める6つのルール 職場に『真実の協力』を生み出す」、「コラボレーションや創造性を生み出す 『意図せぬ交流』を促す職場デザイン」などが「絆」にフォーカスを当てた論文である。
生物学、心理学、神経科学の知見が教える 利己的でない遺伝子(ヨハイ・ベンクラー)
トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』やアダム・スミスの『国富論』に代表されるように、「人間は生来、利己的である」という考え方は広く浸透しており、社会の様々な制度やルール、組織構造や報酬体系はこの考え方を前提に設計されている。ところが、近年の科学は、人間は思った以上に利他的であるという立場を強めているようだ。本論文にはまず、ハーバード大学の進化生物学者マーティン・ノヴァクが『サイエンス』誌上で語った言葉が登場する。
おそらく進化の最も注目すべき側面とは、競争社会で協力を生み出す能力である。したがって『突然変異』『自然選択』に次ぐ進化の第三の基本原則として『自然協力』を加えてよいのではないか。ノヴァクの言葉に呼応するように、人間は協力的で私心がないことを示す証拠も挙がっている。以下はゲーム理論に関する心理学の実験結果である。
広範な実験の結果、人間はゲーム理論の予想以上に協力し合うことが示されている。スタンフォード大学教授のリー・ロスの共同実験では、実験の参加者の半分に「コミュニティ・ゲーム(力を合わせて課題を解決していくゲーム)をする」と伝え、残る半分には「ウォールストリート・ゲーム(どれだけ儲けられるかを競うゲーム)をする」ことを伝えた。また、神経科学では、
コミュニティ・ゲームのグループでは70%が最初から最後まで協力的だったのに対し、ウォールストリート・ゲームでは逆に70%のプレーヤーが協力し合わなかった。当初、30%は協力的だったが、相手が反応しないと協力するのをやめた。
だれかに協力することで脳内の報酬系が活性化することもわかっており、これを科学的な根拠として、「選ぶとすれば、協力したいと考える人間は存在する。なぜなら気持ちがよいからである」といわれている。そうだ。さらに興味深いのは、人間の協力的な行動は、生まれた後に社会的に学習されるのみならず、遺伝による部分も大きいという点である。
性格は部分的に遺伝することが、いくつかの研究からわかっている。ミネソタ大学心理学部教授のトマス・プシャードとマット・マクギューの結論によると、外向性、情緒安定性、協調性、開放性などの人格特性は平均で42〜57%が遺伝性であった。しかし一方、ほとんどの人が大きな影響力を持つと考える共有環境要因(家庭など)は、人格と相関性がなかった。論文では他にもいくつかの研究が紹介されているが、それらの内容を踏まえて著者は、人間の利他的動機を引き出す協力のシステムを構築すべきだと説く。
動機に関する研究は古くから数多く存在する。古典的なもので言えば、フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」や、アブラハム・マズローの「欲求5段階説」(ただしこれは仮説にすぎない点に注意。「沼上幹の名言」を参照)、さらにはデイビッド・マクレランドによる動機の分類(「達成動機」、「権力動機」、「親和動機」)などがある。もう少し時代が下ると、エドワード・デシの「内発的動機」や、ミハイ・チクセントミハイの「フロー」の理論が出てくる。また、手前味噌で恐縮だけれども、過去の記事「「キャリア発達」と「動機づけ要因」の関係を整理してみた−『ぶれない「自分の仕事観」をつくるキーワード80』」で、ビジネスパーソンのキャリアとともに、主たる動機づけ要因が変化するという仮説を提示した。
どの研究にも共通して言えることだが、利己的動機と利他的動機を峻別することは困難であるように思える。欲求5段階説で最上位に位置づけられる「自己実現」は、「自分がやりたいことをやる」という意味では利己的動機である。しかし、「他者や社会への貢献」が自己実現と結びついているならば利他的動機でもある(同じことはマクレランドの「達成動機」やデシの「内発的動機」などにも当てはまる)。
「親和動機」は文字通りに解釈すれば利他的動機である。だが、相手からの感謝や何らかの物質的な見返りを期待しているならば、利己的動機の側面を否定することができない。あるいは、周囲をサポートする裏で、「周りの人に『あの人は非協力的だ』と思われるのがイヤだ」とか、「周りの人と仲良くしておかないと自分の居場所がなくなる」と考えているとすれば、それもまた利己的動機であろう。
権力欲求や金銭的欲求は、典型的な利己的動機と捉えられている。ところが、権力や金銭を握ることで初めて可能になる社会貢献もある。首相というポストはその一例だ。かつて小泉純一郎氏は、自らの最大の関心事である郵政改革を実現するために首相になり、「郵便物を配達するのに公務員である必要があるのか?」と主張して郵政民営化を実現した(残念ながら、その後かなり迷走しているが)。小泉氏にとって首相という地位は、長年温め続けてきた自身の政治テーマを実現するという利己的動機と、国民にもっと効率的な郵便サービスを提供するという利他的動機がともに結びついたものであったと言えよう。
人間が生来的に利己的なのか利他的なのかという議論は非常に興味深いのだが、現実問題として重要なのは、「利己的であると同時に利他的である動機」を持つことではないだろうか?純粋な利己的動機、あるいは純粋な利他的動機というのは、社会の富を増加させない。例えば強盗は、相手から自分に金銭を移動させているだけである。また、何の見返りも要求せずに相手に尽くし続ける人も、自分から相手に富を移動させているにすぎない。
社会が富を生み出し発展するのは、利己的であると同時に利他的な動機を持つ人々が集まった時である。言葉は悪いが、「私は周囲の人々の富を増加させる。その代わり、私は生み出した富の一部を分け前としてもらう」というスタンスの人が集まると、社会全体として富の創造が可能になる。だから、利己的であると同時に利他的な動機を刺激するような制度やインセンティブの設計こそが必要なのではないだろうか?
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