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December 06, 2011

【論点】コカ・コーラは、工場を置く新興国の「水道事業」に参入するだろうか?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』

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【978本目】1,000エントリーまであと22

 約1ヶ月ぶりにブログのメインテーマに沿った記事をアップ。こっそりとサイドバーに「気が早すぎる2012年セ・リーグペナント予想」をつけたのだが、管理人の私が阪神ファンであることを知ってか知らでか、まぁよくもポンポンと巨人なんかに投票してくれるな〜。こっちも大人なので怒りませんけども(←その書き方がすでに若干怒っている・・・)。

 11月の仕事量が完全に予定外だったので、今年中に1,000エントリーを達成するという目標がかなり絶望的になってしまったものの、今日からほぼ毎日更新すればまだ到達の可能性があるから諦めない!今日の記事は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2011年12月号「【ケース・スタディ】リーダーの役割と使命」の書評。もうすぐ来月号が届いてしまうことなどお構いなしに、レビューを書くわけである。

 数年前までのDHBRは巻末にケース・スタディが掲載されていて、大学教授や経営者数名が自らの見解を述べているコーナーがあった。テーマも事業戦略やマーケティングに関するオーソドックスなものから、「共産圏で官僚から賄賂を手渡された場合どうするか?」とか、「セクハラ疑惑のある経営陣を解雇すべきか?」というなかなか際どいものまで幅広く、特集論文とは一味違う内容になっていた。

 12月号はその再現なのかな?と思ったけれど、よく読んだら経営者へのインタビューなどを基にした論文ばかりで、ケース・スタディっぽくはなかった。それどころか、本来のケース・スタディならば、ある企業が直面している状況についての説明があって、その後に論点が提示されているものなのに、その論点すらないというかなり乱暴な構成・・・。仕方ないので、自分で論文を読みながら、論点をひねり出してみることにした。


持続可能性との両立 コカ・コーラ:10年間で事業を2倍に成長させる(ムーター・ケント ザ・コカ・コーラ・カンパニー 会長兼CEO)
【論点】コカ・コーラは、工場を置く新興国の「水道事業」に参入するだろうか?
 本題に入る前に、この論文を読んで「なるほど」と思ったのは、コカ・コーラがアルコール類を扱わない理由である。日本では若者のアルコール離れによってビール業界が頭打ちを迎えているけれども、それでも市場規模は2兆9,421億円(平成21年度)(※1)あり、清涼飲料の市場規模4兆5,519億円(平成21年度)(※2)の6割程度の規模を有する大きな市場である。世界全体のデータは時間の都合上調べていないが(汗)、世界のアルコール市場もやはり、それなりに魅力的な規模を誇っていると推測される。

 アルコール市場に手を出さない理由を尋ねられたムーター・ケントCEOの回答は次の通りである。
 今後10年間に、8〜10億人の中産階級が生まれます。世界規模で進行する、過去最大の都市化現象です。言い換えれば、いつも忙しく動き回るライフスタイルの人が増加し、いつでも飲めるノンアルコール飲料の需要が非常に増えることを意味します。こんなにおいしい商売があるのに、どうして別の道を求める必要があるでしょうか。
 余談はこの辺にしておいて、冒頭に掲げた論点に話題を移そう。コカ・コーラは新興国に多くの工場を有している。しかし、工場で大量の水を消費するために、それが現地の水の枯渇を招いているという批判をずっと受けてきた(インドでは特に批判が厳しく、コカ・コーラの不買運動に発展したこともあった)。また、コカ・コーラが大量のペットボトルを利用していることも、環境負荷を高めていると非難の的になる。

 コカ・コーラは、工場での水使用量の削減や、植物原料のボトルの開発に取り組むことで、こうした風当たりを弱める努力をしている。さらに、事業を展開する地域社会の持続可能性に貢献すべく、現地の人々に水を届けたり、病院を建てたり、教育施設を作ったりしているという。

 こうした一連の活動は、いわゆるCSR(企業の社会的責任)の一環として捉えられるだろう。それはそれで重要なのかもしれないが、もっと踏み込んだ活動を行う余地はないのだろうか?新興国では、コカ・コーラの方が水より安いと言われることもある。さらに、一昔前には、母親は乳幼児に水ではなくコカ・コーラを飲ませているという公式報告まであったそうだ(※3)。

 こうした背景には、同社が水を大量に使用するために、現地で使える水の希少価値が上がってしまうことが挙げられれる。しかし、見方を変えれば、コカ・コーラの工場の方が現地の水道事業者よりも生産性が高く、かつ品質が高くて安全な水を製造できることを意味している。このケイパビリティ(組織能力)を活用して、コカ・コーラが現地の水道事業に参入するという選択肢はないのだろうか?(※4)これは、先ほど述べたような、現地の人々に水を配るというささやかな話ではなく、もっと大掛かりな事業構想である。

 コカ・コーラの水道事業参入によって実現を目指しているのは、M・ポーターの言う「共通価値の戦略」である。「共通価値の戦略」とは、「社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を実現する」ものであり、「実現した経済的価値の一部を還元して社会的ニーズを充足する」CSRとは異なる。現地の人に水を配るのは、コーラで儲けた利益の一部を還元していることになるわけだが、それはあくまでCSRであって、共通価値の実現とは異なる。

社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(1)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(2)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
「社会的価値」はどうやって測定すればいいのだろう?―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
ポーターの「共通価値」の理解が深まるBOPビジネス事例集(1/2)―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』
ポーターの「共通価値」の理解が深まるBOPビジネス事例集(2/2)―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』

 経済的価値の一部を還元して社会的ニーズを満たすのは比較的簡単である。ところが、「社会的ニーズの充足」が「経済的価値の実現」につながるまでには、長いシナリオが必要になる。もちろん、コカ・コーラの水道事業そのものも利益を目指すけれども、水道という事業の性質上、大きく儲けることはできない。あくまでも水道事業は、本業である清涼飲料水で利益を上げるための足がかりである。その足がかりから本業のリターンへと至る道のりは、ざっくりとではあるがこんな感じになるだろう。

  コカ・コーラが水道事業に参入する
 ⇒現地の人々が、高品質で安全な水を入手できる
 ⇒現地の人々、特に乳幼児の疾病率が低下する
 ⇒乳幼児の死亡率が下がる
 ⇒将来的に、その地域の労働力人口が増加する
 ⇒平均収入が上がる
 ⇒コカ・コーラの製品をもっと買えるようになる

 もっとも、行政側からすると「『水』という住民の生活に関わる重要な要素を、外国籍の企業に任せていいのか?」とか、コカ・コーラ側からすると「こんなに息の長い投資案件を、気の短い投資家にどう説明すればいいのか?」など、多くの壁が存在するのは確かである。ただ、公共事業に投資するだけの十分な財源がない地域で、行政や住民がコカ・コーラの工場の性能に期待して水道事業への参画を懇願した場合、果たしてコカ・コーラは何と回答するのであろうか?

 (続く)

(※1)ビール業界|業界動向サーチ.com
(※2)清涼飲料業界|業界動向サーチ.com
(※3)「水」戦争の世紀(モード・バーロウ & トニー・クラーク、集英社新書)
(※4)実際には、現地の水道局から民間委託という形で事業を請け負うことになる。日本だと、「水道事業は公共がやるものだ」という認識が強く、民間委託をするにしても、施設の設備点検・運転管理などに範囲が限定されるのが通常である。これに対し、例えばフランスは、歴史的に水道を始めとする社会的インフラを民間が整備してきた経緯もあり、行政サービスを民間企業が行うことは珍しくない。

 しかもその範囲はインフラの運用・保守に限定されず、事業全体に及ぶ。水道で言えば、契約者の開拓、設備投資の意思決定、建設に必要な各種資材の調達、品質・安全性向上のための技術研究など、まさに一般の民間企業と同じことをやっている。

 海外の行政アウトソーシングについてはこちらを参照。

パブリックサポートサービス市場ナビゲーター―公共サービス5兆円市場の民間開放がはじまるパブリックサポートサービス市場ナビゲーター―公共サービス5兆円市場の民間開放がはじまる
野村総合研究所パブリックサポートサービス研究会
東洋経済新報社 2008-03

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