※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 14, 2011

【第17回】プロセスの時間を大幅に短縮する(2)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 (前回からの続き)

 ただここで1つ付け加えておきたいのは、何でもかんでも早ければよいというわけではない、ということである。重要なのは、「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入することであるのを忘れてはいけない。

 先ほどのホンダの事例に関して言うと、今では自動車の製品開発リードタイムも随分と短くなっている。しかし、だからといって、必ずしも「売れる自動車」が生まれるとは限らない。日産からアウディに転職したデザイナーのインタビューで、興味深いくだりがあったので紹介したい(※2)。
 日本の企業でデザインしていると、デザインした車が世の中に出ないうちに、もう次のモデルのデザインを始めなければなりません。非常に高い瞬発力を要求されるのです。個人的にはそれが美しいものをつくる環境を壊しているのではないか、本質的なものから遠ざかっているのではないかと思うようになったのです。
 アウディの場合、7〜10年の周期で、できるだけ完成度の高い車を出そうと考えます。アウディのデザイナーに比べると日本のデザイナーは倍の時間働いていると思う。しかし出てくる車の効果はたった数ヶ月なのです。アウディでは、働く時間は日本企業に比べれば比較にならないほど少ないですし休暇もたっぷりあります。でも出てくるクルマは1.5倍の値段がつき、2倍の期間新鮮さを保つのです。アウディはいま、デザイナーにとって最高の環境にあります。それだけに自分の仕事に対しても、逃げ道がないのも事実です。
 「とにかく早く製品開発すればいい」という強迫概念に取りつかれている代表的な企業は、おそらく携帯電話メーカーであろう。携帯電話業界では、1年間に100種類を超える新しい機種が登場する(※3)。1機種あたりの開発費は100億円程度と言われるが、果たして開発費を回収できるほど新機種は売れているのだろうか?(※4)

 携帯電話の買い替えサイクルは、約3.5年である(※5)。携帯電話の普及台数は人口とほぼ等しい1億2,000万台だとすると、年間の市場規模は1億2,000万台÷3.5年=約3,500万台となる。これを100機種で割れば、1機種あたりの売上台数は平均して35万台と推計される。

 携帯電話1台あたりの売上・利益はどのくらいだろうか?ドコモの機種の場合は、ドコモの決算資料から推測すると、携帯電話メーカーが得られる売上は1台あたり4.5万円のようである。ここでは便宜的に、他のキャリアに関しても、メーカーの1台あたり売上は4.5万円である仮定する。また、製造原価については、全メーカーを平均すれば約70%になるそうなので、1台あたりの粗利は、4.5万円×30%=1.35万円ということになる。

 よって、1機種あたりの総粗利は、35万台×1.35万円=約47.3億円となり、携帯電話メーカーは開発費の半分しか回収できない計算になる。そこで、キャリアが残りの開発費を負担することになるのである。ソフトバンクの孫社長が、「SIMロックを解除してキャリアが開発費の負担をやめれば、端末価格は4万円ほど上がってしまう」と発言したことがあったが、この数字はあながち嘘でないようだ。なぜならば、メーカーは開発費を自力で回収するために1台あたりの販売価格をほぼ倍にし、キャリアは値上がり分をそのままユーザーに転嫁するからである。

 ここでもう少しよく考えたいのだが、根本的な問題は、売れるかどうかもよく解らずに、むやみやたらに新機種を投入している携帯電話メーカー(とキャリア)の姿勢にあるのではないだろうか?消費者側から見れば、「とにかく競合が新機種を出すから、うちも新機種を出そう」という考えで新機種を出しているに過ぎない感じがする。

 その結果、確かに製品開発リードタイムそのものは短くなったけれども、メーカーの利益は出ない。国内の携帯電話メーカーの営業利益率は数パーセント台にとどまっており、ノキアやモトローラよりも低いと言われる。まして、営業利益率30%台を誇るiPhoneには、まったく及ばない(※6)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 バリューチェーンの各プロセスの時間を短縮する方法の多くは技術的なものである。例えば、設計リードタイムを短くしたければ、過去の設計図を流用できるCAD/CAEシステムを導入すればよい。物流リードタイムを短くしたければ、高性能の物流管理システムを構築すればよい。悲しいかなこうした技術的な方法は、競合他社に簡単に真似されてしまうものだ。

 「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入するためには、「顧客の潜在ニーズを素早く察知する『判断能力』」と、「キャッチした潜在ニーズを、製品の機能やデザインに迅速に反映させる『意思決定のメカニズム』」こそがカギを握る。これらは人に依存している部分が大きく、競合他社が模倣するのは困難である。逆に言えば、タイムベース競争のCSFは、この2つの属人的な要素にあると考えられる。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※2)一條和生著『MBB:「思い」のマネジメント−知識創造経営の実践フレームワーク』(東洋経済新報社、2010年)

一條 和生
東洋経済新報社
2010-06-18
おすすめ平均:
意思の力が実現を導く
リーダーをやるのが楽しくなります
posted by Amazon360

(※3)「検証用の携帯電話自営コストを大幅に削減するための新サービス「オンデマンドサポートサービス」を提供開始。」(株式会社ケータイラボラトリー、2008年11月30日プレスリリース)
(※4)これ以降の試算は、人力検索はてなの「日本の携帯電話の製造費ってどのくらいか、開発費はどのくらいかかるのか、教えてください。また、iphoneの開発費・製造費もご存知でしたらお願いします。」の数値を参考にしている。
(※5)「長持ち志向鮮明に!−耐久消費財 買い替え年数一覧表。」(CostDown、2009年9月10日)
(※6)「iPhoneの利益率、市場で突出」(VILLAGE Newspaper、2010年9月27日)
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする