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May 16, 2011

研修のRFP(提案依頼書)の雛形に関する素案(ITのRFPを参考に)(2)

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永井 昭弘
日経BP社
2005-07
おすすめ平均:
永久保存版RFP本
とてもわかりやすいRFP指南書
RFP入門者向け
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 (前回からの続き)

 本書で紹介されているITのRFP(提案依頼書)を参考に、研修のRFPの雛形を考えてみた。まだまだブラッシュアップする余地があるけれども、ひとまずたたき台として載せておく。
(1)背景
 「何のために研修をやるのか?」という研修の目的を記述する。ここはITのRFPと同様、ビジネス上の目的でなくてはならない。逆に言うと、単に「営業担当者の提案力を強化する」とか、「新任管理職にマネジメントスキルを習得してもらう」といったスキルレベルの目的を書くだけでは不十分である。なぜなら、これだけではあまりに抽象的であり、読む人によってはいかようにも解釈できてしまうからだ。

 スキルの具体的な中身は、そのスキルが自社の目指している経営・事業の文脈の中で語られて初めて明らかになるものである。経営・事業の方向性と習得すべきスキルの関係性が明確でなく、漫然と「○○スキルを強化する」といった目的しか掲げられないのであれば、ベンダーに研修を依頼しない方がいい。そういう場合は、書店で売っている一般書籍を会社で購入して、社員に配布した方がはるかに安上がりだよ。

《例》
 (a)(BtoB企業を想定)当社がビジネスを展開している市場は成長期にあるため、新規の顧客企業をスピーディーに獲得していかなければならない。そのためには、顧客企業のキーパーソンを商談の初期段階で握り、キーパーソンの潜在ニーズを先取りした提案内容を素早くまとめることが重要である。ただし、営業担当者が1人で提案書を書き上げるのは現実的ではない。そこで、社内の営業スタッフや技術支援部隊などを活用して、”チームで営業を行う”というスタイルを営業部門全体に浸透させることが必要と考える。

 (b)(BtoC企業を想定)当社の強みは、店舗における顧客へのきめ細かいサービスである。ただ、事業の拡大によって多様な顧客が店舗を訪れるようになっており、しかも顧客のニーズは変化しやすい。顧客が再び来店してくれるかどうかは、「顧客が店舗を訪れるたびに『あっ!』と驚くようなサービスを販売スタッフが提供できるかどうか」にかかっている。販売スタッフの上に立つ管理職は、自らの成功体験や従来のやり方をスタッフに押しつけるのではなく、スタッフから新たなアイデアがどんどんと出てくるような風土を醸成しなければならない。

(2)育成対象者
 研修対象者の人数、所属事業、職種、職位、年次、これまでの業務経験などを記載する。

(3)研修のゴール
 ITのRFPで言うところの「業務要求」に該当する部分。(2)の育成対象者に、研修を通じて習得してもらいたい知識やスキルを記述する。ここでも「○○力の習得」といった抽象的な表現で終わらせず、「研修を通じて、社員に何ができるようになってほしいのか?」という具体的な業務・行動レベルで書くのが望ましい。

《例》上記の(a)、(b)を例に取ると、

 (a)・商談の初期段階で、ビジネスポテンシャルの大小を見極め、商談の優先順位をつける。
 ・顧客企業内のパワーポリティクスを把握し、キーパーソンを特定する。
 ・窓口担当者の情報や顧客企業のHP、その他公知情報などを活用して、キーパーソンの潜在ニーズについての仮説を立てる。
 ・インタビューでキーパーソンの潜在ニーズを聞き出す。
 ・社内関係者との打合せ(社内関係者に顧客企業の潜在ニーズを伝える、自社製品・サービスと顧客ニーズの適合性に関する意見をもらう、提案シナリオを検討する、提案に向けた作業分担を行う、など)におけるファシリテーションを行う。
 ・社内関係者が作成した提案書のレビューを実施し、アドバイスを提供する。
 ・プレゼン時に、キーパーソンに対して提案書の内容を短時間で伝える。
 ・プレゼンの結果や商談の結果を社内関係者と共有し、今後に向けた課題を整理する。

 (b)・販売スタッフと密にコミュニケーションをとる時間を確保し、現場で得られた気づきを聞き出す(今までにないタイプの顧客がいたか、その顧客にどういうサービスを提供したか、など)。
 ・販売スタッフの意見の善し悪しをいきなり評価せず、まずはスタッフが自らアイデアを生み出したという姿勢を肯定する。
 ・その上で、管理職自身がよいと感じた点をスタッフに素直にフィードバックする。
 ・自社の価値観や行動規範に照らし合わせると、「もっとこうした方がいいのではないか?」と思う点については、販売スタッフに対して問題提起をする(決して、管理職自身の見解を押しつけてはいけない)。
 ・スタッフのアイデアのうち、他のスタッフにもぜひ学んでほしいアイデア(横展開するアイデア)を選定する。
 ・勉強会などの形式で、定期的にアイデアの横展開を行い、他のスタッフからも意見を引き出す。

(4)研修に対する要求
 ITのRFPで言うところの「技術要求」に該当する部分。ここは、研修の「内容」と「運営」に関する要求の2つに分けられる。内容面の要求には、研修の中で是非取り上げてほしいトピックスや、逆に絶対に教えないでほしい事柄(実際、こういうリクエストを受けることもたまにあるよ)などを入れる。また、「演習を多く取り入れてほしい」、「個人ワークではなく、グループワークを中心にしてほしい」という要望も内容面の要求に入る。

 運営面の要求とは、研修期間(何日間の研修なのか、あるいは第1・3土曜日に1日ずつ実施してトータルで2日研修とするのか、など)や、研修開催場所(自社の研修センターなのか、合宿形式でどこかのホテルに宿泊するのか、研修ベンダーの施設を使いたいのか、など)のことである。

(5)講師に対する要求
 これは「技術要求」の一部とも言えるが、講師の人柄やスキル、経験、経歴が研修導入の可否を握ることも少なくないので、別項目として切り出した。

 ・自社と同様の業界における業務経験がある講師にしてほしい。
 ・社員のモチベーションが下がり気味なので、『褒めて伸ばす』タイプの講師にしてほしい。
 ・社内の人間があれこれ言ってもさほど効果がないので、外部の目線から厳しくアドバイスができる講師にしてほしい(こういうのも実際にあるリクエスト)。

など、講師そのものに対するニーズをまとめる。

(6)事前準備・事前課題に対する要求
 ITのRFPで言うところの「運用要求」に該当する部分。ただし、研修終了後だけでなく、研修の前から継続的なフォローを必要とすることがあるため、「事前」と「事後」で分けた。小演習や診断、テストなどの事前課題を実施したい場合は、その旨を記載する。

 なお、新しい研修を導入する際に、「現場の協力や理解をどのようにして得るか?」をめぐって、人事担当者が頭を抱えるケースがある。特に管理職の人たちは、部下を研修に出席させることで現場の業務に支障が出ることを恐れて、ネガティブな態度を取りやすい。現場へスムーズに研修を導入する方法について、ベンダー側から何かしらの提案を受けたい場合も、その旨を書いておく。

 手前味噌で申し訳ないけれど、私の会社では、部下が受講する研修を半日程度にまとめたダイジェスト版を管理職向けに実施したり、上司と一緒でなければできないような事前課題を企画したりすることがある。

(7)事後フォロー・事後課題に対する要求
 これは、学習効果の検証に関わる要求である。まず、短期的な検証としては、研修からそれほど日が経たないうちに小テストや事後課題、診断をやってもらい、研修前のスコアとの比較をする、という方法がある。

 中長期的な検証としては、短期的な検証と同じような方法でスコアを算出して、得点の推移を見るという手もあるが、これ以外にも「フォローアップ研修」を開催することもある。例えば、研修から半年後に同じメンバーに集まってもらい、

 ・研修での学習内容をどのくらい現場で実践したか?
 ・実践にあたってどんな課題があったか?
 ・その課題をどのようにクリアしたか?
 ・未解決の課題は何か?

などを議論して研修内容の定着度合いを把握し、さらなる継続的な取り組みを促すことを狙いとしている。フォローアップ研修は手間がかかるが、スコアだけでは解らない成果や課題を発見するのには適している。こうした事後フォロー・事後課題に関する要望があれば、ここに記述する。

(8)予算
 研修1回あたりのおおよその予算を記述する。なお、事前/事後課題やフォローアップ研修、診断などの付加的要素を検討している場合は、その分の予算を別途確保しておく必要がある。

(9)スケジュール
 研修ベンダー決定から研修開催まで(事後課題・事後フォローがある場合は、その分のスケジュールも含む)の大まかなスケジュールを記述する。ベンダーが持っている研修コンテンツのカスタマイズに要する期間や、受講者の募集期間などを考慮しておく。

(10)特記事項
 ITのRFPと同様、提案書に盛り込んでほしい内容、提案書の提出〆切、提案書提出以降のスケジュール、RFPに関する問合せ窓口などを記述する。
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