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March 04, 2011
「その課題を解決できるのは自分だけ」という思いが使命感になる(1)―『MBB:思いのマネジメント』
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MBBとは「Management By Belief」の略であり、日本語にすれば「思いによるマネジメント」となる。これは、MBO(Management By Objects:目標管理制度)に対するアンチテーゼとして著者が提唱しているコンセプトだ。先日の記事「マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案」でも少し触れたが、MBOは会社全体の目標が最初にあって、それを各部門の目標⇒部門内の各チームの目標⇒チーム内の各社員の目標へと順番にブレイクダウンしていく手法である。
今や多くの企業が、業績目標や人事考課上の目標の設定にあたって、MBO的なアプローチをとっていると思われるが、MBOは運用を間違うと深刻な結果を招く。社員から見ると、自分の目標が上層部から半ば自動的に降ってくるので、「なぜその目標が今必要なのか?」、「他にもっとやるべきことがあるのではないか?」といった本質的な議論をすることが難しい。そのため、社員は目標を「押しつけられた」と感じ、仕事を「やらさている」という気分になってしまっている、というのが著者の問題意識である。
いや、正確に言えば、本来のMBOはこういう事態になることを全く想定していなかった。MBOを提唱したドラッカーは、"Management By Objects And Self-Control"と述べている。つまり、個々の社員が会社に貢献することを目的として自主的に目標を立て、そのPDCAサイクルを回すことに社員自身が責任を持つことを目指していた(この点は同書でも触れられている)。それなのに、いつの間にか後半の"Self-Control"が外れてしまい、先に述べたような弊害を生み出しているのである。
MBOは目標を分解して達成の道筋をつける方法としては優れているけれども(※)、そもそも「何が正しい目標なのか?」を教えてくれるものではない。「正しい目標」というのは、客観的なデータ分析から導かれることは決してなく、個人の「主観」からしか生まれないと著者は断言する。その「主観」を大切にして、「正しい目標」を立てるというのがMBBの考え方である。言い換えると、MBOは"How"を規定するものであるのに対し、MBBは"What"を規定するものである。
上から与えられた成果目標を目指して、ただ単調に業務をこなしていくようでは、組織に使われてしまう。WHATを見出すためには、やはり「自分が何をしたいのか」、「何をすべきなのか」、「何が正しいと思うのか」というった「主観」こそが大切なのだ。そうした「主観」を貫いて高い成果とモチベーションを保ち続けている人たちの一例として、同書ではイチローと矢沢永吉の名が挙げられている。
イチローは、矢沢永吉との対談の中で、「その瞬間は『これでいい』と思っても1週間後には『いい』とは思えなくなり、『もっと、いい』ものを探し求めなくてはならないが、それが面白いし野球を続けるモチベーションにもなっている」と語っている。また矢沢は、「仕事という前に、まず好きでないとダメだ」とミュージシャンとしての仕事への思いを吐露している。著者は「自分が何をしたいのか」と「何をすべきなのか」を同列で論じており、対談記事の引用文からも2人が「無類の野球好き」、「無類の音楽好き」であることが伝わってくる。ただ、個人的には「自分が何をしたいのか」と「何をすべきなのか」の間には、実はかなり大きな隔たりがあるように感じる。すなわち、「自分が何をしたいのか」という好みや欲求だけでは、「主観」としてはまだまだ弱いのであって、「自分が何をすべきか」という使命感にも似た次元に到達して初めて、本当のWhatを規定することができるのではないかと思うのである。
もちろん、「自分はこれが好き」とか、「自分はこれがやりたい」という気持ちは大事である。しかし、「やりたいこと」と「得意なこと」のどちらを優先すればいいんだろう?―『リーダーへの旅路』」でも書いたように、好みや興味というのは移ろいやすい不安定な感情だ。私だって本音を言えば、歌を作ったり歌ったりするのが好きだから、今の仕事ではなくて音楽活動で飯が食えれば幸せだろうなぁーなんて思うことがあるけれど、本気でそれを行動に移そうとはしない。なぜならば、その気持ちを一生持ち続けられる自信がないからだ(私にとって音楽というのは、趣味の世界で閉じているのが一番楽しんだよ)。
イチローに話を戻すと、イチローが相当の野球好きであることは間違いないが、それだけであそこまでの高いモチベーションを維持しているわけではないと私は考える。イチローの根幹には、「日本のプロ野球のレベルの高さを、大リーグをはじめ世界にもっと見せていかないとダメだ」という強い使命感があるように感じる。それは、メジャーで受けてきた、あからさまな人種差別に対する反発心の表れでもある。
そういう使命感がなければ、WBCの時に真っ先に参加を表明し、あそこまで感情をむき出しにして試合に挑むことはないだろう。逆に、オリンピックはアマチュアの世界大会であるという理由で、プロが出場可能であるにも関わらず全く出場を考えないのも、この使命感があるからだと思う(ちなみに、矢沢永吉のことはよく解りません…スミマセン)。
(その2へ続く)
(※)財務目標を分解して戦略目標を掲げ、その実現度合いを測定する指標を設定するバランス・スコア・カード(BSC)も、MBOと同じような弊害を招くリスクがある。BSCにおいては、起点となる財務目標は正しいものだという前提の下に、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点から目標をブレイクダウンしていく。しかし裏を返せば、最初の目標が本当に正しいのかどうかを検証するツールではないということだ(「実行を通じて戦略を修正するフィードバックループが欠けてるよな−『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』」を参照)。
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