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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
November 18, 2010

「よかれと思ってやったのに・・・」というマネジメントのパラドクス集(その4〜5)

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(4)戦略的になればなるほど、人材が育たなくなる
 これは、以前に書いた「戦略とリンクした人材育成プランの立て方」についての記事と、つい最近書いた「新人や若手社員を育成する仕事のあり方」についての記事を読み返していた時に頭をよぎったパラドクスである。

 戦略とリンクした人材育成計画を作成するための5ステップ(1)
 戦略とリンクした人材育成計画を作成するための5ステップ(2)
 新人・若手には「会社にとってのリスクは低いが、完結した仕事」を任せよう(1)
 新人・若手には「会社にとってのリスクは低いが、完結した仕事」を任せよう(2)
 
 これから書く内容は、「戦略とリンクした人材育成計画を作成するための5ステップ」の内容と矛盾するかもしれないが、あの記事を書いた当初よりも私の考えが進歩したということでご容赦ください(何という言い訳、汗)。

 このパラドクスを表している一番の例が、ここ数年の阪神タイガースである。私と同じ阪神ファンの多くは、このパラドクスを痛いほど感じていることだと思う。岡田前監督は、最近の野球を語る上で欠かせない「セイバーメトリクス」に精通していたと言われる。さらに、楽天の野村名誉監督をして「現代野球の真髄」と唸らせた鉄壁のリリーフ陣「JFK」を完成させたのだから、セリーグの監督の中でもかなり戦略的な監督であったと言えるだろう。

 確かに、岡田前監督が就任した初年度(2004年)を除いて、阪神は毎年優勝争いをするほどの常勝軍団になった。一部には、星野元監督の遺産を食い潰しただけだというネガティブな意見もあるが、星野政権下と岡田政権下のメンバーはガラリと変わっているから、この批判は当てはまらないと思う。

 それよりも問題だったのは、岡田政権下では投打ともに主力メンバーがほとんど変わらず、若手選手が2軍から全くといっていいほど台頭してこなかった点である。真弓監督に代わってからようやく、上本、鶴、西村のような若手が起用されるようになったものの、1軍の世代交代がうまく進まずに首脳陣が苦労している場面が多々見られた。ここ数年の阪神は、戦略的に試合を展開する一方で、若手選手の育成が疎かになっているというジレンマを抱えている。

 「戦略的になればなるほど、人材(特に若手社員)が育たなくなる」というパラドクスは、事業戦略と人材戦略の時間軸が異なることに起因している。環境変化が激しい今の時代においては、事業戦略は3年もてばいい方であり、ヘタをすると毎年見直さなければならないくらいになっている。時間的なプレッシャーが高まる中で、戦略を成功に導こうと思ったら、どうしても即戦力に頼った人員構成になる。

 一方で、人材戦略、とりわけ若手社員の育成に関しては、もっと長期的な視野で考えることが求められる。いくら世間が「3年で1人前だ」と言っても、実際に25歳ぐらいの社員に、事業戦略の実現に直結するような重要な仕事を任せる企業がどのくらいあるだろうか?

 若手社員にそのような重要な仕事を割り当てるまでには、少なくとも5年以上の長いスパンで、腰を据えて育成にあたる必要があると思う。「新人・若手には『会社にとってのリスクは低いが、完結した仕事』を任せよう」の中で私が言いたかったのは、若手社員に対しては、事業戦略とは必ずしも直結しない安全領域において、失敗が許される一定量の仕事を任せて、じっくりとスキルアップさせるのがいいのではないか?ということであった。

 事業戦略というのは、本来的には中長期的なものであるが、先ほども述べたように昨今は大幅に短期化が進んでいる。これに対して、人材の育成スピードは劇的に短くなるものではない。むしろ、事業戦略が高度化するにつれて、戦略の実現を支える人材のスキル要件は厳しくなっている。となると、人材戦略はますます長期的な視点で考えなければならなくなる。両者の時間軸はもっと乖離が進むことが予想される。

 このジレンマに対する1つの解決策としては、事業戦略と直結した即戦力中心の人材戦略を策定する一方で、事業戦略とある程度距離を置き、主に若手社員を対象とした中長期的な育成重視の人材戦略を立てることではないだろうか?後者の人材戦略は、5年から10年後ぐらいにどんな事業戦略が来てもある程度適応できるような、強固な基礎スキル(いわゆる「コンピテンシー」のように、どの仕事でも高いパフォーマンスと相関関係のある能力)を持った人材の育成を目標とするのが望ましいように思える。

 そして、それぞれの事業戦略は、戦略を実行する際に投下した資本の回収だけをゴールとするのではなく、中長期的な人材戦略に要する投資額も生み出すように設計しなければならないだろう。

(5)成果主義を導入したのに、成果が出なくなる
 成果主義をめぐるジレンマはたくさんある。成果主義を導入したら、チームワークや部下育成が評価されなくなったために社員が個人主義に走り、組織がギスギスするようになった、という弊害を指摘したのは、株式会社ジェイフィールの高橋克徳氏である。

河合 太介
講談社
2008-01-18
おすすめ平均:
何だかよくわからない本だった。
情けは人のためならず
好事例に偏りが・・・
posted by Amazon360

 また、成果主義を導入したところ、目標未達成に対するペナルティを恐れて、社員が自分の目標を低く設定するようになり、逆に組織全体のパフォーマンスが下がってしまったと暴露したのは、元富士通の人事担当で現在は人事コンサルタントを務める城繁幸氏だ。

城 繁幸
光文社
2004-07-23
おすすめ平均:
バランスを欠く内容と異常な文書
告発本として臨場感を伴った内容
時は流れ「成果主義」の形も変わり始める
posted by Amazon360

 ただ、これら2つの事例は、評価すべき「成果」の定義を誤っていたのが原因であり、制度の運用次第でカバーできる問題であるように思える。最初の事例については、チームワークや部下育成を社員の役割として明確に定義し、それを評価するように制度設計すればよい。成果主義で測定すべき成果は、受注高やコスト削減のように、定量的に測定可能な結果ばかりとは限らない。

 2つ目の事例については、組織全体として達成すべき目標を出発点として、それを各部門、各社員へとブレイクダウンしていくことで、目標の整合性を確保するプロセスを導入すればよい。目標設定を社員任せにして、ボトムアップで制度運用しようとするから、おかしなことになる。

 しかしながら、上記のように正しい運用を行ったとしても、成果主義には避けることのできないパラドクスが存在すると思われる。それは、成果主義では「想定外の成果」を評価することができないという点である。成果主義によって各部門、各社員に与えられる目標は、目標設定の時点における戦略や事業計画、部門方針を前提としている。

 ところが、これだけ事業環境が変化しやすい時代であれば、1年も経たないうちに、当初の前提とは異なる事情が次から次へと生まれてくる。そのような変化に適応し、変化を乗り越えるために社員がとった挑戦的な活動は、当初の成果主義では評価されない。人間というのは、評価されない活動はしたがらないものだ。社員は、頭では新規の活動をやった方がいいと解っていながら、評価制度に引っ張られて足踏みしてしまう。こうした保守的な姿勢が積み重なれば、会社全体がイノベーションを追求する機会を失ってしまうのである。

 個人的には、成果主義で社員の評価を100%行うことは無理だと思っている。成果主義で評価できるのはせいぜい80%ぐらいであり、残りの20%は企業の将来的な成長に資するイノベーティブな活動をしたかどうかを包括的に評価するのが望ましいのではないだろうか?

 (続く)
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