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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
November 15, 2010

ベンチマークするほど組織が凡庸化するってパラドクスもあるかもね−『ビジネスで一番、大切なこと』

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ヤンミ・ムン
ダイヤモンド社
2010-08-27
おすすめ平均:
マーケティングにおける考え方を整理できる本
顧客を引きつけるには摩擦が必要だ
タイトル
posted by Amazon360

 先日の記事「差別化するほどコモディティ化してしまうという悲しいパラドクス−『ビジネスで一番、大切なこと』」の補足。この本は他社製品とのベンチマーキングがコモディティ化を招くというジレンマを扱っているが、ベンチマーキングが使われる場面はマーケティングだけではない。ベンチマーキングは、組織のパフォーマンスを上げる手法としても使われる。

 ベンチマーキングを初めて本格的に活用したのは、ジャック・ウェルチ時代のGEだと記憶している。ウェルチは官僚組織化したGEを変革するために、自社の社員を他社に見学に行かせて、ベストプラクティスを積極的に学ぼうとした。GEの社員が見学に来ると、「あのGEがうちの会社を見に来たぞ!」と、ちょっとした話題になったそうだ。GEのベンチマーキングの成果で最も有名なのは、おそらくモトローラのシックスシグマを取り入れて経営改革を成功させたことだろう。

 組織パフォーマンスのベンチマーキングも、製品の場合と同様に、自社が他社より劣っている部分を他社並み、あるいは他社よりも上の水準に引き上げることを目的としている。コンサルティング会社の組織風土診断や従業員満足度調査などを使えば、組織パフォーマンスを構成する各指標について、自社のポジションやレベルを詳細に知ることができる。そして、他社に劣る箇所を改善するべく、様々な施策を実行する。

 組織パフォーマンスをベンチマーキングする際の視点には様々なものがあるが、以下に一例を示す。まず、定量的な指標として測定可能なものとしては、

・組織機能別(製造、営業、販売、アフターサービスなど)に見た社員数
・社員1人あたり生産性、社員1人あたり営業利益
・ライン社員とスタッフ社員の比率
・売上高に対するスタッフ部門の規模
・各ビジネスプロセスのリードタイム(製品開発リードタイム、調達リードタイム、納品リードタイムなど)
・組織機能別(製造、営業、販売、アフターサービスなど)に見たコスト構造
・社員のスキルレベル(情報システム業界におけるITSSのように、スキルレベルに関する業界標準がある場合は測定可能)
・設備投資の種類と金額
・IT投資の種類と金額
・特許保有数、研究開発部門の規模、売上高に対する研究開発費の割合

などが挙げられる。これに加えて、他社のこれまでの変革事例を調べることもある。

・組織構造、体制の変革
・人事制度の変革
・社員のリストラ、再配置
・先駆的なITの導入
・調達先の見直し
・販売チャネルの再構築 など

 ちなみに、ベンチマーキングの具体的な進め方は、実はデューデリジェンスの本に詳しく書かれていたりするのでご参考までに。

アビームM&Aコンサルティング
中央経済社
2006-11
おすすめ平均:
実務でそのまま使えて、ほぼこれ一冊で完結
どさくさビジネスDDで大活用・・・タイトルの「実務」に偽りなし
ビジネスデューデリジェンスの理解に最適
posted by Amazon360

 自社の組織パフォーマンスが他社より著しく劣っている場合は、ベンチマーキングによる改革が有効だろう(なお、ウェルチがCEOに就任した頃のGEは、財務的に見れば決して苦境に陥っていたわけではないのだが、ウェルチの目には危機的な状況に映っていた)。ただ、製品のベンチマーキングと同様に、組織パフォーマンスのベンチマーキングも、やりすぎるとかえって凡庸な組織ができあがってしまうというリスクがあるように思える。

 とりわけ日本企業は競合他社の動きに敏感なようで、競合がやっていることは自社でもやろうとする傾向がある(逆に、競合がやっていなければ自社ではやらない)。IT業界の方から聞いた話では、情報システム部門の担当者は、必ずと言っていいほど競合他社の導入事例を聞きたがるという。競合が既に導入しているシステムであれば、経営陣の決裁も下りやすい。こうしたことが繰り返されると、結果的には、業界内の企業が皆似たようなシステムを導入することになる。

 グーグルやアップルなど、ムンの本で紹介されている「エッジの効いた」企業は、組織や経営手法もエッジが効いている。グーグルの社内にビリヤードやダーツが置かれており、贅沢すぎるほどの社員食堂が存在することが解った時には、しきりにニュースで取り上げられたものだ。

 グーグルはそうした福利厚生的な要素だけでなく、伝統的な組織構造とはかなり違った、フラットで流動的な組織形態をとっているし、「企業ではリーダーが多すぎて絶対にうまくいかない」と考えられてきた「三頭政治」(エリック・シュミット、ラリー・ペイジ、サーゲイ・ブリンの3人による経営体制)をずっと貫いている。

 アップルも、経営の透明性が求められるこの時代にあって、かたくなに秘密主義をとっている。そして何よりも、リーダーシップ論の中では最悪の部類に入るカリスマリーダーシップによって、iTunesやiPhoneをヒットさせているのである。

 ベンチマーキングをすれば、それなりにパフォーマンスの高い組織にはなるが、他社とそれほど変わり映えのしない、特徴に欠けた組織になる可能性がある。他方、世間の常識に抗って独自のマネジメントを行う企業に関しては、一部は目も当てられないくらいひどい潰れ方をするだろうが、一部は誰も想像しなかった成果を上げるかもしれない。どちらの道を選ぶかは、ひとえにその組織の価値観に懸かっているように感じる。
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