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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
October 22, 2010

コア事業ではないが利益貢献している事業の社員をどう処遇するか?

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 企業が成長して複数の事業を展開するようになると、コア事業とノンコア事業という線引きがされるようになる。コア事業の定義は企業によって異なるだろうが、おそらくは「企業の中核的なコンピタンスやケイパビリティ、あるいはもっと深層にある組織の価値観やビジョンとの親和性が高いもの」がコア事業と呼ばれるだろう。ここでポイントとなるのは、売上や利益の規模がコア事業か否かを決めるのではないということだ。

 しかし、この定義に従うと、1つ困ったことが起こる。たいていのコア事業は売上も利益も大きいものだが、ノンコア事業が企業全体の売上や利益に対して、かなりの割合を占めているケースもある(私自身もいくつかの企業でこのようなケースを見たことがある)。事業ドメインの転換が不十分だったために、転換前の事業と転換後の事業がともにそれなりの規模で並存しているような場合、このような現象が見られる。

 この現象の何が厄介かというと、ノンコア事業が一定の売上や利益を上げているがゆえに、社員が相応の発言権を要求するようになるという点である。「うちの事業はお金を稼いでいるのだから、もっと社内で影響力があってもいいはずだ」というのが彼らの言い分である。これは人間の心理としては解らなくもないし、むしろ、自然なことだと思う。

 とはいえ、彼らの要求を呑んで発言権を与えてしまうと、深刻な社内分裂を引き起こす。本来であればコア事業の研究プロジェクトや商品開発に重点的に投資したい時期なのに、「事業の売上のX%を研究・商品開発の予算とする」という、事業が多角化する前にできた昔の社内ルールを濫用して、コア事業から予算を奪い取ってしまうかもしれない。

 あるいは、「うちの事業が売上を上げ続けるためにどうしても必要だ」という理由で、本当はコア事業で活躍してもらいたい人材を囲い込んでしまうこともあるだろう。こうしたノンコア事業の暴走は、コア事業の成長を止めてしまい、やがては共倒れに至る。

 カネボウはまさにこんな感じで衰退していった。明治時代にはドル箱であった紡績産業も、1960年代には既に成熟産業になっていた。そこで、新たな成長源を求めて進出したのが化粧品事業(カネボウの子会社であった鐘淵化学が手がけていた事業)である。さらにその後、薬品、食品、住宅の3事業にも進出し、5つの事業からなる「ペンタゴン経営」が形成された。

 これらの5事業には何の有機的つながりもなく、シナジーも発揮されていなかったのだが、あえてカネボウのコア事業を挙げるならば化粧品事業であっただろう。しかし、カネボウの社長職は、1960年代に社長に就任した伊藤淳二氏をはじめ、紡績事業の出身者でなければ就任できないという暗黙のルールがあった。1960年代には既に成長が止まっており、バブル崩壊後には利益も生み出さなくなっていたノンコア中のノンコア事業の出身者が、大企業の最も重要なポストを握っていたのである。

 では、コア事業ではないが売上や利益貢献をしている事業の社員を、人事部はどのように処遇すればよいのだろうか?個人的な考えとしては(そして、ごくごく当たり前の結論だが)、「利益は還元するが、ポストは用意しない」ということに尽きる。ノンコアとはいえ利益をもたらしているのであれば、賞与などの形で社員に還元すること自体は何ら問題ない。賞与は過去の成果に対して与えられる一過性の報酬であるからだ。

 これに対して、ポストは今後の活躍を期待して与えられる。また、ポストに就けば一定の権限を行使することもできる。つまり、ポストは未来に向かって影響を及ぼし続ける報酬であると言える。この報酬をノンコア事業の社員に必要以上に与えてしまうと、最悪の場合はカネボウのようになってしまう。

 ノンコア事業の社員を一定以上のポストに昇進させない、あるいは特定のポストに占めるノンコア事業の社員の割合を低くする。人事部は、彼らの過去の功績に敬意を払いつつも、涙を呑んできっぱりとした線引きをしなければならないだろう。

 彼らにポストを与えない代わりに、人事部はコア事業への異動を積極的に勧める。コア事業でのキャリアパスを示し、今からコア事業に移っても、始めからコア事業にいる社員と評価の面で不利益を被ることがないことを約束する。そして、コア事業で求められる能力の習得をサポートする。

 それでもノンコア事業に愛着があり、ノンコア事業に残りたいという社員もいるだろう。彼らの意思はもちろん尊重されるべきだ。ただ、個人的な意思は尊重するが、一定以上のポストには上がれないことを、何としても理解してもらう必要がある。
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