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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 19, 2010

合意形成の実践的手引書だね−『コンセンサス・ビルディング入門』

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ローレンス・E.サスカインド
有斐閣
2008-04-11
おすすめ平均:
具体的、実践的、体系的
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 何度かダイアローグのプロセスについて取り上げてきたが、何となく表面的なプロセスをなぞっているだけで、ダイアローグがどのように変化を創出するのかについてはほとんど書けていない気がしていた。例えて言うならば、自動車の部品構造については説明したが、それらの部品がどのように作用し合って動力を生み出しているのかについては言及していないような感じだった。

<過去のダイアローグに関する記事>
 ダイアローグの4プロセスを整理してみた−『ダイアローグ−対立から共生へ、議論から対話へ』
 ピーター・センゲのU理論を再解釈してみた(1)−『出現する未来』
 ピーター・センゲのU理論を再解釈してみた(2)−『出現する未来』

 そこで、「もっと実務的な観点からダイアローグを扱った本はないか?」と探してたどり着いたのがこの本。タイトルに「コンセンサス・ビルディング(合意形成)」という言葉が使われ、取り上げられているケースも「公共政策」に関するものではあるが、ダイアローグの理解を深める上では十分に有益な本であった。

 「合意形成」というと、全員が納得するような意思決定を指しているようなイメージがあり、「そんなのは非現実的だ」と言いたくなるのだが、同書ではこの出発点をうまく変えている。つまり、合意形成とは「ほぼ全員の同意」であり、「合意しないよりは合意した方が各ステークホルダーにとって利益となる状態」を作り出すことだとしている。これはかなり実務的な定義だ。

 訳者の補論には、「同床異夢」という言葉が出てくる。お互いの利害(=夢)が一致する必要はないが、相互に共存できる状態を目指すのが合意形成であるという。そうか!デビッド・ボームが『ダイアローグ−対立から共生へ、議論から対話へ』の中で、「お互いの『見解』を合致させることは必ずしも必要ではなく、『意味』を共有することが重要である」と述べたのは、こういう意図だったのかもしれない。

 「合意しないよりは合意した方が各ステークホルダーにとって利益となる状態」は、それぞれのステークホルダーが持っている複雑な「利害」を、様々な「取引」を通じて調整することで達成されるという。取引の際の具体的なやりとりも、架空のケースを用いながら丁寧に記述されているのが読者にとっては嬉しい。その意味でも、同書はダイアローグの「動力」にまで踏み込んだ良書であると思う(欲を言えば、例示にとどまらず、利害の取引方法についてもっと一般化された解説があるとよかったが…)。

 かといって、同書では合意形成の「プロセス」が軽視されているわけではない。むしろ、属人的で個別対応になりがちな合意形成に、割と厳格なプロセスを導入しようとしている(※)。例えば、合意形成を行うメンバーを選定するにあたって、「紛争処理アセスメント」という手続きを踏み、利害関係のある組織・団体と彼らの利害をモレなく洗い出し、各ステークホルダーの利害を的確に代表するメンバーを選出することを勧めている。

 また、合意内容を文書にまとめた後、メンバーが文書を所属元の組織・団体に持ち帰って承認を得る(=単にOKをもらうのではなく、文書に印鑑をもらう)ことの重要性を説いている(もちろん、所属元から異論が出れば、メンバーはそれを合意形成の場にフィードバックし、合意内容を修正する)。

 そして、最終的な合意文書に対しては、各ステークホルダーの承認に加え、合意形成に参画したそれぞれのメンバーも個人として承認を下すことを求めている。当たり前といえば当たり前のことだが、後から合意内容を不合理な理由でひっくり返されないためにも、こういう手続はとても大事だ。

 日本にはもともと根回し文化があり、欧米人に比べれば合意形成には慣れている方だと思う。ちょっと話が脱線するが、城山三郎の小説『雄気堂々』(下)には、大隈重信が「八百万の神達、神計りに計らいたまえ」という言葉を引き合いに出して、様々な能力を持った人々をかき集め、ありとあらゆる角度から議論を行って、新しい国家の仕組みを作り上げていく様子が描かれている。

城山 三郎
新潮社
1976-05
おすすめ平均:
城山歴史小説の隠れた佳作
日本初の財界人
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 企業経営でも政治でも、根回しは意思決定を左右する重要な要素である。だから、本書を読む人の中には、「日本人にとっては当たり前の内容ではないか?」と感じる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、全ての根回しがうまく機能しているわけではない。前述した通り、往々にして非公式に行われる根回しは属人的で場当たり的である。特定のステークホルダーを意図的に外して、利害が近い者同士で合意形成を進め、既成事実を作ってしまうというケースも多々見られる。

 訳者の補論では、日本の公共政策における合意形成の現状が記述されている。これを読むと、日本でも合意形成が必ずしもうまくいっているとは言えないことが解る。一つには先ほど述べたステークホルダーの選出に関する問題があるが、もう1つの問題として、「形式的なプロセスを重視しすぎている」という点も指摘されている。

 「手続が公正ならば、その結果も公正である」という手続き的正義を支持する行政側は、合意内容の「正統性」を担保するために、プロセスを厳格にしようとする。しかし、この形式主義が、合意形成の本来のメリットである「柔軟な利害調整」を妨げているのである。

 私は民間に身を置く立場なので、企業やNPOなどで役に立つダイアローグ、合意形成の方法を構築したいと思っているのだが、日本の行政と同じ轍を踏まないよう気をつけなければ、と気を引き締め直したところだ。

(※)日本ではあまり馴染みがない(私も恥ずかしながら知らなかった)のだが、アメリカには多数決原理に基づいて意思決定を効率的に進めるための「ロバート議事規則」という詳細なルールブックが存在する。

 しかし、あまりにルールが細かく定められているために、意思決定が形式主義に陥りやすいという欠点がある。著者のローレンス・E.サスカインドも、「ロバート議事規則」の反省を十分に踏まえ、合意形成に形式的なプロセスを導入することには慎重になっていることがうかがえる。
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