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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 14, 2010

大事なのはリーダーシップのスタイルじゃないということ−『静かなリーダーシップ』

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ジョセフ・L. バダラッコ
翔泳社
2002-09
おすすめ平均:
原題は「正しいことを行うための、オーソドックスでないガイド」
東洋的発想で書かれた本
大学院で受けた講義
posted by Amazon360

 我々が抱いている「理想のリーダー像」は非常に華々しいものである。リーダーは大胆で勇気があり、人々を惹きつける魅力を持ち、情熱的でリスクをものともせず、時に自分を犠牲にしてまでもビジョンや目標に向かって猪突猛進する、そんなリーダーを我々は待ち望んでいる。しかし、本書で取り上げられているリーダーは、我々が通常イメージしているような英雄型リーダーとは全く違うものである。

 臆病で慎重、自分の利益やキャリアは守りたい、カリスマ性もないし特に頭がいいわけでもない、強い使命感や理想はなく自分の価値観で生きている、できるだけ時間を稼いで時機をうかがう…同書に登場するのはそんなリーダーたちである。

 ビジネスパーソンは、過去の経験や知識から得られた原則、あるいはその人が属する組織が長年採用してきた慣例や公式のルールなどを演繹的に適用することで事業や組織をマネジメントする。しかし、それらの演繹的推論が当てはまらない例外的なケースに出くわすことがある。そんな時はリーダーシップの出番になる。リーダーシップの重要な役割の1つは、例外的な事象をつぶさに観察してこれまでとは違う別のパターンを見出し、新しい仮説を帰納的に設定することである。そして、その仮説に従って人々を巻き込み、組織を正しい方向へと導く。

 著者のジョセフ・バダラッコが注目しているのは、一般的なリーダーシップ論が焦点を当てる組織のトップ層ではなく、ミドル層の人たちである。ミドルマネジャーは組織が定めた、あるいは自分がこれまで従ってきたマネジメントのルールを用いて業務を処理する。ところが、現場の最前線で変化を身近に感じている部下は、日々新しい情報を自分のところに持ち込んでくるし、自らもプレイングマネジャーとして現場に立つ中で、旧来のやり方だけでは処理できない問題に直面する。

 そういう意味では、ミドルマネジャーこそが最も「例外的なケース」に出くわしやすく、リーダーシップを発揮すべき存在だとも言える。ミドルが扱う問題は、組織全体から見ればそれほど重要ではないことが多い。また、ミドルのリーダーシップは、英雄型のそれとは違ってものすごく「静か」である。だが、彼らがリーダーシップを発揮して日常的な問題を解決してくれるからこそ、組織は全体として前進することができるのである。重要なのはリーダーシップの機能であって、スタイルではないのだ。ドラッカーもインタビューの中で次のように述べている。
優秀な経営者、優秀なリーダーとは、どのような存在なのでしょうか?先にもお話しした通り、私は70年に及ぶ長い歳月で、幾人ものリーダーたちと交わってきました。彼らの誰もが個性的で、誰一人として似ている人はいませんでした。この経験から私が理解したのは、「人はリーダーに生まれない」という事実です。生まれついてのリーダーなど存在せず、リーダーとして効果的にふるまえるような習慣を持つ人が、結果としてリーダーへと育つのだ、と。(ピーター・ドラッカー著、窪田恭子訳『ドラッカーの遺言』)

P.F. ドラッカー
講談社
2006-01-20
おすすめ平均:
がんばれ日本!とドラッカーが言っている。。。
今起こっていることs社会的気運は危機ではなく必要な変化。
キーワードは情報
posted by Amazon360

 バダラッコのリーダーシップ論の最大の特徴は、リーダーシップを発揮する上で「個人の動機」が重要な役割を果たすという点である。我々が想像する英雄型リーダーは、個人的な動機など二の次で、常に組織全体のため、社会のためという使命感に溢れているものだ。だが、バダラッコは全く正反対の主張をしている。
 先行き不透明で常に状況が変化している場合、または実践と倫理で何が重要なのか明確ではない場合、複雑な動機があると非常に有利に働く。難題に直面して、さまざまな方向性があると思っても、自分が混乱しているとも、自分の力が不十分であるとも考えるべきではない。動機が複雑なのは、状況を本当に理解しているということであり、先に進む際に、動機が役に立つガイドになり得る。
(※太字は原文のまま)
 同書で取り上げられているケンドラー・ジェファーソンを紹介しよう。彼女は、エレクトロニクス企業に勤める製造部長である。ある時、副社長がジェファーソンを呼び、彼女の部下であるアリスが困った状態にある、一番よいのはアリスをクビにすることだと忠告してきた。

 確かに、アリスの業績は芳しくなかった。しかし、ジェファーソンがここで簡単にアリスを解雇すれば、管理職としての自分の手腕に傷がつくことになるし、部下からの信頼を失いかねない。一方で、アリスの仕事ぶりに腹を立てているメンバーがいることも事実であるし、何よりも副社長からの忠告はほぼ命令に近いものであり、それがジェファーソンにとっては重荷であった。

 あれこれと考えをめぐらせた結果、ジェファーソンはアリスのことをもっとよく理解することに決めた。ジェファーソンもアリスも離婚経験があり、それが仕事にどのように影響するか共感できる部分があった。しかも、アリスの2人の子どもには学習障害があったから、彼女の精神状態は並のものではなかったはずだ。

 ジェファーソンは幼少時代のことも思い出していた。両親はジェファーソンに、「決意を持って一生懸命働けば、自分の望みを達成できる」と教えた。アリスにも成功の機会を与えれば、ひょっとしたらこれまでの業績不振を挽回してくれるかもしれない。これがジェファーソンの結論であった。最終的には、ジェファーソンの狙い通りアリスの業績が向上し、副社長もアリスを辞めさせろとは言わなくなった。

 著者のバダラッコは、ジェファーソンの動機は「支離滅裂」だと評している。しかし、支離滅裂であったからこそ、アリスをクビにするか否かという紋切り型の解決策に走ることなく、現状を多角的な視点から捉えることができた。ジェファーソンは回り道をしたが、最後にはアリスの業績向上という最高の結果をもたらしたのである。

 ミドルマネジャーの「静かなリーダーシップ」は組織の前進を陰ながら支えている。この例えでうまく伝わるかどうか自信がないが、英雄型リーダーの組織は「円錐体」であり、静かなリーダーが集まる組織は「多面体」である。円錐の頂点には英雄型のリーダーがどっしりと構えており、それゆえに組織は安定する。しかし、円錐は横から強風が吹きつけると簡単に倒れてしまう。組織が前に動こうとしても、倒れた円錐は頂点を中心としてグルグルと回るだけで、自力では立ち上がることができない。

 一方、多面体型の組織は、各頂点に静かなリーダーがいる。この組織は非常に不安定ではあるが、横から強風が吹きつけてもゴロゴロと転がりながら動くことが可能だ。そして、頂点の数が多ければ多いほど、その動きは早くなる。もちろん、この例えは極端であり、英雄型リーダーの存在を全否定する気は毛頭ない。だが、本当に優れた組織には両方のリーダーが存在するものである。
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