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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 10, 2010

薬局はもっと大規模組織化してもいいんじゃないか?

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 家の近所に診療所が少ないこともあって、しばしば数駅離れた所まで通うことがある。最近、複数の病気を同時に診てもらうために、異なる駅の診療所の間を何度も移動しなければならないことがあったのだが、その際に感じたのは処方箋の効率の悪さである。

 基本的に処方箋は、どこの薬局でも受け付けてくれるはずだ。しかし、診療所はたいてい、最寄の薬局を指定してくる。しかも、その薬局を目指して歩いていくと、診療所では教えてもらえなかった薬局の前を通り過ぎることもある。「なぜ、この薬局は教えてくれなかったのだろう?」と疑問を感じ、その薬局でも処方箋は通用すると知りながら、結局は診療所で紹介してもらった薬局で薬を処方してもらう自分がいるのである。複数の診療所にかかると、いちいち薬局の場所を覚えなければならず、非常に面倒くさい。

 昔は病院や診療所でも薬を処方してもらえた。だが、医者が患者の都合よりも自らの収益を優先して、わざわざ高い薬を処方するような利益相反行為を防ぐため、最近では医療行為と薬の処方を分離する動きが進んでいる。これは「医薬分業」と呼ばれる。これによって、患者はどこの薬局に行っても効率的に薬を処方してもらうことができるし、さらに異なる医者が処方した薬の飲み合わせの是非を薬剤師にチェックしてもらえるというメリットも期待された。

 ところが、どうも実際はそのようになっていないようである。医薬分業によって、病院や診療所の周りに薬局が爆発的に増えたため、むしろ私が経験したような不都合が起こることがある。実際に病院・診療所と薬局の数の推移を見てみよう。以下、『厚生労働白書』のデータを基に作成している。

 まずは、医療施設(病院+一般診療所+歯科診療所)の数の推移である(1995年〜2006年)。なお、医療施設増加率は、95年を100とした場合の指数で計算している。

医療施設(病院・診療所)数の推移(表)

 グラフ化するとこんな感じ。病院は微減傾向にあるが、診療所は増加を続けており、全体では約10年でおよそ1.1倍になっている。

医療施設(病院・診療所)数の推移(グラフ)


 一方、薬局数の推移は下記の通りである。増加率は、医療施設数の時と同じく、95年を100とした場合の値を用いた。これを見ると、薬局数はこの10年で約1.3倍に増えていることが解る。医療施設の伸び率を上回っているわけだ。

薬局・処方箋数の推移(表)

薬局数の推移(グラフ)

 ちなみに、肝心の医薬分業はどのぐらい進んでいるのかを見てみよう。「医薬分業率」は、「薬局への処方箋枚数÷外来処方件数」で算出される。

薬局処方箋数・医薬分業率の推移(グラフ)

 95年には20%程度だった医薬分業率は、06年には55%台にまで上昇している。医薬分業そのものは順調に進んでいると言える。だが、私が問題にしたいのはその中身である。

 よく考えてみると、薬の処方は確かに薬剤師の専門知識が必要とはいえ、事務集約的な業務である(こう言い切ると関係者から怒られるかもしれないが…)。どこの医療施設の処方箋でも扱えるのならばなおさらだ。それならば、薬局自体がもっと大きくなって規模の経済を追求してもよさそうなものである。

 ところが、実際には私が経験したように、それぞれの医療施設は近所の特定の薬局と結びついていると考えられる。1つの医療施設の周りに、複数の零細薬局が存在している光景は日常的に目にすることができる。医療施設と薬局が1:Nでくっついていると考えると、薬局数の伸び率が医療施設数の伸び率を上回っている現状をうまく説明できる。

 私個人の考えとしては、患者の最寄駅の近くに「かかりつけ医師」ならぬ「かかりつけ薬局」があって、そこでいつでも薬を処方してもらえるのが理想的である。そうすれば、どの医療施設にかかっても、帰宅時にかかりつけ薬局に行けば済む。しかも、薬剤師と患者の関係が深くなるので、薬の飲み合わせに関する的確なアドバイスも得られるようになる。

 「かかりつけ薬局」は、処方業務を集約化することで組織を大きくすることが可能となる。また、周囲の人口や年齢構成などから、疾病の発生率や発生頻度がある程度読めるため、薬の需要予測も容易になり、無駄な在庫も減る。さらに、かかりつけ薬局がチェーン化していれば、薬局間で在庫を融通することもできるから、より柔軟な在庫管理が実現する。現在のドラッグストアが行き着く先は、このような業務スタイルのような気がする。

 一方で、医療施設はあまり巨大化しなくてもいいと思う。特に、規模が小さい診療所に関しては、むしろ多種多様な方が患者の利益になる。年齢を重ねるに連れて複数の病気を併発する可能性は高まるが、その症状が軽ければ病院に行くよりも複数の診療所に通う方が得策である。仮にそのような患者の治療まで大きな病院に集約化しようとすると、病院が軽症(傷)の患者で溢れかえることになり、本来の目的である急患や重症(傷)患者の治療が阻害されてしまうからである。

 また、同じ病気であっても、複数の医師の見解を聞いてみたいと思うケースもある。患者は多角的な視点による診療を通じて、自分の病気のことを深く知り、自分に合った治療法を選択することができる。そういう意味でも、診療所は多種多様であった方がよいと思う。そして、診療所が多様であればあるほど、「かかりつけ薬局」で一度に薬を処方してもらう意味は大きくなるのである。

《補足》
 話の本筋からは逸れるが、こうした薬局の細分化は、ジェネリック医薬品の普及を妨げる遠因にもなっているのではないか?とりわけ零細の薬局にとっては、利益率の低いジェネリック医薬品を処方されるよりも、利幅が大きい薬を処方された方がありがたい。それを知っている医療施設側には、薬局の経営事情に配慮して、ジェネリック医薬品の処方を抑制するインセンティブが働いているとも考えられる。
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コメント

えーと、単に医者に言われたとおりの薬局に行かずに、大き目の調剤薬局に行けば良いだけですよ。そうすれば、その薬局が繁盛してくれば、巨大化してくれるかも。

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