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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 08, 2010

研修をガリガリと作るだけの人材開発部は時代遅れかもしれない(2)

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 (前回の続き)

 これからの時代の人材開発部には、新たに次の4つの役割が加わると私は考える。

(1)基本パターンをうまく応用する人材の育成
 高い成果を上げることができる社員は、研修で学習した基本的なナレッジを状況に応じてうまくカスタマイズし、ありとあらゆるパターンの業務を遂行している。既に述べた通り、経験パターンの中央部分から外れた部分のナレッジまで研修で教えるのは、莫大な時間とコストがかかるので非現実的だ。

 だが、ハイパフォーマーが持っているような「基本パターンの応用力」ならば、教えることは可能である。"What to Learn"(学ぶべきこと)ではなく、"How to Learn"(学ぶ方法)を教えるのである。それを教える手段を研修にするべきか否かは大いに議論の余地があるが、"How to Learn"(学ぶ方法)を学習する場では、社員は以下のような行動を習得する。

 ・現在直面している業務のつぶさな観察
 ・過去の経験の参照
 ・過去の経験と現在の業務の相違点の洗い出し
 ・過去の経験のカスタマイズ
 ・カスタマイズした方法の適用
 ・適用した結果のモニタリング
 ・うまくいった点、反省すべき点の洗い出し
 ・上記の反省点に基づき、カスタマイズした方法にさらに改善を施す
 ・新たなナレッジの確立

(2)環境変化に適応、あるいは変化を先取りして変革を遂げる人材の育成
 これからは、環境変化によって陳腐化しつつあるナレッジに代わる新しいナレッジを形成したり、変化を先読みして全く新しいナレッジを創造したりする社員が企業の成長のカギを握る。別の言葉で表現すれば、「クリエイティビティを持ち、それを具現化できる人材」である。こうした人材に欠ける組織は、成熟期を過ぎたらそのまま衰退して機能不全にになったり、競合他社や予期せぬ異業種からの参入に対して的確な施策を打てなくなったりする。

 新たなナレッジを創造できる社員は、既存のパラダイムに疑いの目を向け、多種多様な知識や情報、アイデアや人をアクティブに結びつける力に長けている。以下、かなり雑だが、新たなナレッジの創造と具現化に必要な行動を列記してみる。

 <新たなナレッジの創造>
 ・批判的思考(従来の前提や価値観を疑う姿勢)
 ・非公式なネットワーキングの形成(多様な人を結びつける)
 ・ネットワークを活用した情報収集(多様な情報やアイデアを集める)
 ・アナロジー思考(全く異なる業界のトレンドや方法論を自分の業界に当てはめてみる)
 ・アブダクション(枚挙的な帰納法ではなく、飛躍的な帰納法によって、創造的な仮説を作り出す)
 ・組織の価値観にとらわれない、個人の価値観に基づく思考
 ・他者の価値観との調和による新しい未来像の構築
 ・コンセプト・シンキング(《参考》ダニエル・ピンク)

 <新たなナレッジの具現化>
 ・社内のパワーポリティクスの把握
 ・反対派、中間派の巻き込み
 ・対話を通じた合意形成
 ・エンゲージメントを高め、動機づける
 ・コンセプトから実行プランへの落とし込み
 ・実行プランのモニタリングと修正

 これもまた、研修で教えるべきかどうかは検討が必要だが、先進的な企業ではこうした人材の育成に既に注力している。例えば「課題解決力研修」のような名前で、現在の事業や業務に潜む構造的で深層的な課題を設定し、その解決策と実行プランを作成させる研修を行っている。さらに進んだ企業では、研修で作成したプランを本当に現場で実行させ、その経過を定期的にモニタリングするフォロー研修まで行っている(いわゆる「アクションラーニング」である)。

(3)(1)(2)のような人材を現場で育成できる人材の育成
 これは非常にハードルが高いが、現場のマネジャーは従来の部下育成に加えて、(1)(2)のような人材育成も担うようになる。これができるようになると、人材開発部のいわば分身が現場にもたくさん生まれることになり、学習のレバレッジ効果が生じる。

 ただ、そういうマネジャーをどうやって育成するかは、非常に申し訳ないがノーアイデアである。(1)はこれまでもある程度OJTによって実施されてきたが、最近はマネジャーの業務量が増えたために、OJT自体が機能不全に陥っているケースも多い。そこに(2)の人材育成も加えようというのだから、マネジャーの仕事のあり方を抜本的に変えなければならないだろう。ただ、現時点で言えるのは、「変える必要がある」ということまでだ。実際にどうやってマネジャーの仕事を再定義すればよいかは、引き続き検討を続けていきたい。

(4)ナレッジを組織内に流通させるインフラの整備
 (1)(2)によって社員がナレッジを形成し、(3)によって部分的ではあるが組織的なナレッジが創造される。人材開発部はこれらのナレッジを全社で自由に流通させる仕組みにも積極的に関わるようになる。

 「ナレッジを流通させるインフラ」というと、ぱっと思いつくのは「ナレッジマネジメントシステム(KMS)」である。だが、往々にしてKMSの主導権は情報システム部が握っており、システム上の様々な制約に引っ掛かって重要なナレッジの流通が妨げられているケースが少なくない。

 情報システム部はデータ構造や処理速度の観点からシステムを眺める。一方、人材開発部は「ITを活用した効果的な学習」の観点からシステムを眺める必要がある。学習効果の高いKMSを構築するために、両部門の緊密な協業がますます求められるに違いない。

 「ナレッジを流通させるインフラ」はITだけとは限らない。企業によっては、現場が自発的に勉強会を実施しているところもある。ここに人材開発部がもっと介入する余地はある。KMSは「IT」を活用した学習だが、勉強会はリアルコミュニケーションという「場」を通じた学習である。そのような「場のデザイン」について、人材開発部が専門的な知識と方法論を使って積極的に支援することは、非常に意義のあることだと思う。

 さらに、「ナレッジの流通を目的としたジョブローテーション」も考えうる。通常のジョブローテーションは、本人のキャリア開発やスキルアップを目的としている。これに対して、ナレッジの流通を目的としたジョブローテーションでは、特定の社員が持っている貴重なナレッジを社内で横展開したり、ブレイクスルーをもたらしてくれそうな人材を組み合わせたりするために行われる。この点については、人事異動の担当者と連携する必要があるだろう。

 こんなことを言うと関係者から怒られるかもしれないが、かつては人事部門の中でも「人事考課>採用>教育研修」という明確な序列があったと聞いている。教育研修の位置づけは低かったのである。しかし、今後は人材開発部の責任がぐっと重くなる。人材開発部の存在意義が飛躍的に上がる日は限りなく近い。
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