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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 05, 2010

「とりあえず箱作っちゃえ」的な組織設計の危うさ

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 「予算がたっぷりついたので建物だけデカデカと作っちゃったけど、ふたを開けてみたら人が全然入らなくて大赤字でした(汗)」という「箱物行政」は何かと批判の対象になるが、企業経営においてもこれに近いことは起こる。とりあえず新しい組織を立ち上げて予算と人員をつけてみたものの、組織のミッションが明確でないために社員が何をしていいか解らずに戸惑い、結局目立った成果が上げられないというケースである。これは「箱物行政的な組織改編」とでも呼ぶべきものだろう。

 組織改編は社内の注目を集めやすいので、組織改編を行うと何か大きな変革を成し遂げた「気分になる」。これはもう一種の麻薬である。だが、組織が変わると、稟議プロセスが煩雑になったり、社員の目標管理制度や評価制度が変わったり、古い社内システムの設定が使えなくなったり、新たな組織間の壁ができたりと、何かとやっかいな問題が起こる。それだけに、組織というものは慎重に設計しなければならない。

 「箱物行政的な組織改編」の罠にはまるのは、「組織を作ってから業務プロセスを考える」からである。しかし、これは誤りだ。「業務プロセスを作ってから組織を考える」のがセオリーである。以下に簡単な例を使って説明してみたいと思う。

 下図は受注生産型の機械メーカーにおけるBtoBの営業プロセスである。見込み顧客のリストアップから始まってアポイントを取りつけ、提案を繰り返しながら製品仕様を固めていき、価格交渉を経て受注する。そして納品後一定期間が経過するごとにアフターサービスの案内を行うというプロセスである。

 まず第一に、業務プロセスをいくつかのステップに分解する。下図で言えば「顧客ターゲティング」〜「アフターフォロー」がこれに該当する。次に、それぞれのステップで、具体的にどのような業務(=社員の行動)を行うのかを書き出す。この段階ではまだ、「どの部署がその業務をするか?」ということを一切考えてはいけない。とにかく、必要な業務を思いつく限り列挙する。

まずは業務プロセスを定義する

(※クリックすると拡大表示。なお、「既存顧客」と「休眠顧客」はあえて分けて表記している)

 業務の洗い出しが終わったら、晴れて組織設計の段階に入ることができる。先ほどの業務を各組織に割り振ったものが下図になる。ただし、これはあくまでも一例である。以下の3つの論点にどのように答えるかによって、最終的にできあがる組織デザインは大きく異なってくる。

業務プロセスから組織設計へ

(※クリックすると拡大表示)

(1)類似の業務を組織間でどのように分担するか?
 この企業は顧客ターゲティングから初期接触までの業務を複数部門で分担している。これは、顧客の規模や重要度などに応じて、アプローチの手厚さを変えるためである。全国各地にある営業部の各営業課に配属されているそれぞれの営業担当者が直接電話でアプローチするのは、a)重要な既存顧客、b)各営業部の営業管理課が作成した新規顧客リストの中に含まれる大口企業である。ビジネスポテンシャルが大きい顧客には、営業担当者が直接電話でアプローチする。

 その一方で、上記以外の顧客、すなわち、c)重要度が低い既存顧客、d)新規顧客リストの中の小口企業、e)過去何年にも渡って取引がない休眠顧客については、できるだけ効率的にアプローチするため、本社のマーケティング部に業務を集約させている。マーケ管理課がDMを作成・送付し、コールセンターがDM送付後の架電フォローをするという流れだ。コールセンターがアポイントを取れれば、各営業部の営業担当者にアポを引き継ぐ。

 こうした分担には様々なパターンがありうる。営業担当者が全て自分でアプローチするという場合もあるし、逆にコールセンターによるアウトバウンドコールを重視するというケースもある。顧客属性や扱っている製品の特性、ターゲティングに要する業務量、企業が抱えている人材の質と量、その企業の行動規範など、様々な要因を考慮しながら業務分担を決めていく必要がある。

 業務分担の設計を誤ると、違う部署が同じ業務を重複して行ってしまうということや、本来やるべき業務を担当する部署がないという事態が発生してしまうので要注意である。

(2)マネジメントのための組織を作るか否か?
 「管理」と名のつく組織は、マネジメントを行うための組織である。だが、別にマネジメントのための組織が存在しなくても、現場社員の上に立つマネジャーが十分なマネジメントを行えば足りるという考え方もできる。

 上図で言えば、「ターゲティングリストの精度の検証」や「商談のランクづけ」、「その後の営業活動の優先順位づけ」は、営業担当者の上司が行ってもよさそうな業務である。しかし、この企業は1商談あたりの金額が大きい反面、受注までにある程度の製品仕様を顧客と詰める作業があるために、リードタイムが長くなりがちという特徴があったとする。

 この場合、それぞれの上司に案件マネジメントを任せるよりも、各営業部で組織的に案件をモニタリングした方がリスクを抑制できる。組織的に統一された基準で案件をチェックし、基準を満たさない案件については早々に営業工数を減らしつつ、他方で重要な案件に工数を集中投下することで、営業生産性を高めることが可能だ。そこで、この企業では営業管理課に対し、通常の企業であれば営業担当者の上司が行うような案件マネジメント業務を実施する権限を与えている。

 マネジメントのための組織を作るか否かは、マネジメント業務の量や質などを考慮しながら決めていく。マネジメントのための組織を作ると、上述のようにマネジメント業務のレバレッジ効果が効くというメリットがあるが、社内手続きや稟議プロセスが複雑になりやすいというデメリットもある。

(3)特定の業務を支援するための組織を作るか否か?
 この企業では、製品仕様を顧客と決める際に、営業担当者をサポートする目的で、製品に詳しい設計部・製造部の社員が営業同行することがある。こうしたサポート業務がある場合、サポート業務専門の組織を設けるか否かも大きな論点になる。

 実際の企業には、「営業支援部」、「技術支援部」といった名前で、営業支援を専任で行う部隊を持っているところもある。だが、上図の企業では特に支援部隊を作ることはせず、必要に応じて営業担当者が本社から設計・製造担当者を呼び寄せることにした。これは、1つにはサポート業務の発生頻度がイレギュラーであること、もう1つには営業担当者の製品知識レベルを上げれば、サポート業務をさらに減らせると考えたからである。

 サポート業務の専任部隊を検討する場合は、想定されるサポート業務の量や質などを事前によく見積もっておくことが大事だ。せっかく専任部隊を立ち上げたのに、思ったよりサポート業務が発生しなかったら、サポート部隊の人員の稼働率が下がり、組織に余計なコストを負わせることになる。

 以上、組織設計に関する重要な3つの論点を紹介してきた。繰り返すが、「組織を作ってから業務プロセスを考える」のではなく、「業務プロセスを作ってから組織を考える」のである。「箱物行政」は税金の無駄遣いになるが、「箱物行政的な組織改編」は経営資源を浪費するので、同じように気をつけるべきだと思う。
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