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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 04, 2010

ES調査の結果通りに研修やったら、社員から文句を言われたという矛盾

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 twitterで「社員満足度(ES)調査では『研修をもっとやってほしい』という声が多いのに、実際に研修をやろうとすると嫌がられることが多い」というつぶやきがあって、他のユーザーの同情を買っていた。いやはや、確かにこれは同情したくなる。ES調査も研修も、人事部にとっては結構大変なんですよ。ES調査をやる時は、現場の各部門に「ちょっとだけ時間を割いてアンケートに答えてくださいね」お願いして回らなければならないし、新しい研修を導入する時も、「こういう研修をやるから是非参加してくださいね」と現場に知らせて回る必要がある。

 そこまでお膳立てしておいたのに、いざ研修をやろうとすると現場から文句を言われるのだから、そりゃ人事部だってたまったもんじゃないだろう。こうした矛盾がなぜ起こるのか、私なりに3つの仮説を立ててみた。

(1)研修の中身に問題がある
 真っ先に思いつくのがこれ。研修の内容が現場で使える内容でなければ、当然現場は嫌がる。こうしたミスマッチは、ES調査で「もっと増やすとよい研修は何ですか?」という設問に、「技術スキル系」、「営業スキル系」、「マネジメント系」、「コミュニケーション系」、「自己啓発系」といった選択肢で答えさせる場合に起きやすい。

 「ES調査の結果、コミュニケーション系の研修を望む声が多かったから、来年度は新しくコミュニケーション研修を導入しよう」と考えた人事部が、外部の研修会社にいくつか問い合わせてみたところ、「コーチング」を勧める会社が多かったので、新しくコーチング研修を採用したとしよう。

 しかし、「コミュニケーション系」と言っても非常に幅が広い。人事部は、社員がコミュニケーションのどの部分に課題を抱えているのかをもっと具体的に調査しない限り、最適な研修を企画することは絶対にできない。いつも結論が出ない社内会議のやり方に現場の社員は苛立ちを感じているのかもしれないし、上司が仕事に関するフィードバックをちゃんとしてくれないことに部下が不満を覚えているのかもしれない。あるいは、もっと基礎的な部分で、若手社員の「報・連・相」が身についていないと上司や先輩が思っているのかもしれない。

 ES調査はあくまでも現状把握の第一段階に過ぎず、表面的な調査結果だけを捉えて研修を導入しても、効果は薄いと言わざるを得ない。

(2)研修を企画・実行するプロセスに問題がある
 「参画型マネジメント」という言葉を聞いたことがある方も多いだろう。重要な意思決定に現場社員を参画させると、経営意識が強くなり、仕事に対するコミットメントが高まると言われている。

 それでは、研修の企画に現場社員を参画させている人事部は果たしてどれほどあるだろうか?ES調査の結果、新しい研修の企画が決まったとしても、たいていの人事部は会議室にこもって研修カリキュラム、テキスト、日程を全て自分たちで決めてしまう(多少なりとも現場社員にインタビューなどを行って、現状業務やスキル上の問題を把握しようとしているならまだましな方だ)。

 現場からすれば、「もっと研修をやってほしい」と声を上げたものの、人事部からは何の音沙汰もなく、ある日突然、「研修ができあがったから参加してください」と言われることになる。これでは現場が嫌がるのも無理はない。

 参画型マネジメントの原理に従うならば、研修企画チームに現場社員および彼らの上司も何人か参加させ、現場サイドの意見やニーズを取り入れながら研修の内容を詰めるのが望ましいだろう。また、企画プロセスで都度できあがってくるカリキュラムやテキストについても、社内イントラを通じて随時現場に公開し、広く意見を募るのも有効かもしれない。

(3)実は、現場が望んでいるのは「研修」ではない?
 3番目の仮説はちょっと大胆なものだが、「研修をもっとやってほしい」という現場社員の言葉の真意を汲み取ると、実は現場社員が望んでいるのは「研修」というスタイルではない、ということも考えうる。

 「研修をもっとやってほしい」という言葉の裏には、「自分自身のスキル向上の機会が不足している」という現場社員の問題意識がある。スキル向上の機会は、何も研修に限られた話ではない。上司から受けるOJTや、社内のナレッジマネジメントシステムの活用を通じてスキルアップを図ることもできる。あるいは、ジョブローテーションによって異分野の仕事に携わることも学習の機会になる。さらに、会社の福利厚生を利用して外部のセミナーや資格取得に走ることだって、立派な学習と言える。

 もし、社員がそれらを問題視しているということになれば、彼らの本音は「上司の育成能力が足りない」、「社内のナレッジマネジメントシステムが機能していない」、「自分が望む異動が実現しにくい」、「福利厚生が充実していない」ということなのかもしれない。こればかりは、ES調査に答えた本人に聞いてみないと解らない。

 少なくとも1つ言えることは、ES調査は所詮「社員満足度」という主観的な指標を計る曖昧な調査であるから、調査結果を額面どおり受け止めるのではなく、その数値の意味するところを深く読み取ることが必要だということである。
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