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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 18, 2010

優れたリーダーは最短距離を走らない(後半)−『人と組織を動かすリーダーシップ(DHBR2010年5月号)』

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 前半からの続き。

難局を乗り切るリーダーシップ(ロナルド・A・ハイフェッツ他)
 環境が不安定で扱うべき変数が多い状況においては、かつてのような猪突猛進型のリーダーシップは通用しにくい。現在求められているのは2段階のリーダーシップであると著者は指摘する。(※1)

 ・第1段階「緊急段階」=状況を安定させ、時間を稼ぐ。(※2)
 ・第2段階「適応段階」=危機の原因に対処し、新しい現実のなかで生き抜く力を身につける。

 原文がどういう単語を使っているのか解らないが、個人的には「適応」という言葉はあまり好きではない。「適応」には、外部環境の様々なパラメータによって、自分の生き方が自動的に規定されているような響きがあるからだ。だから、「適応段階」というよりも「再生段階」と呼んだ方が人間の主体性が感じられて、私としてはしっくりくる。

 この論文でもう1つ興味深いのは、「分散型リーダーシップ(論文中ではこの言葉は使われておらず、私が勝手にそう名づけた)」という考え方である。
 ビジネス・リーダーは、あらゆること、あらゆる行動に責任を負っているという義務感をあえて抑え込み、社内のさまざまな地域、さまざまな部門の社員たちとその負担を分かち合うことで楽になれる。
 現在起こっている多くの問題は、あらゆる人間がそれぞれの利害を抱えて複雑に絡み合っている。こうした厄介な問題はもはやリーダー1人の手には負えない。これからの時代には、「複数人によるリーダーシップ」という考え方が主流になるだろう。聞こえはいいかもが、別の言い方をすれば、誰もが大なり小なりリーダーシップの責任を負わなければならない厳しい時代になるということでもある。それを辛いと思うか、チャンスと捉えるかは本人次第だ。(※3)

(※1)昨年の記事「『一撃必殺』の改革プランなどない」で、「成功する新任マネジャーは3回に渡って変革の波を起こす」という内容の論文を紹介したが、これもまた段階的なリーダーシップの例である。

(※2)リーダーがどこまで時間を稼ぐことができるか、そのさじ加減は非常に難しい。鳩山総理の普天間基地移設問題に対する態度を見ていればよく解る。なお、ジョセフ・L・バダラッコ著『静かなリーダーシップ』にも「時間を稼ぐ」リーダーというのが登場する。この本のレビューはまた別の機会に書こうと思う。

(※3)以前の記事「リーダーは別に1人じゃなくたっていい」、「『大物リーダー』不在の時代はつまらないか?」もご参考までにどうぞ。

インドvs.欧米のリーダーシップ(ピーター・キャペリ他)
 新しい考え方は辺境からやってくるのが常である。ならば、21世紀の新しいリーダーシップ観は、中国やインドをはじめとする新興国から生まれてくるだろう。という訳で、インドと欧米のリーダーシップを比較した論文。その比較から解ったことは、

 ・アメリカのCEOが法規制の問題や取締役会への報告、株主との関係など、外部からの要求にますます時間を割くようになっているのに対し、インドのCEOは戦略プランニングに多くの時間を使っている。
 ・インドのリーダーは社会的使命感が強く、人材育成に力を入れている。

ということであった。ん?論文では「欧米のリーダーはインドに学べ」と読者にハッパを書けているが、日本人から見たらごくごく当たり前の内容じゃないかい?少なくとも、本田宗一郎、松下幸之助、稲盛和夫、盛田昭夫ら20世紀を代表する起業家の多くは強い社会的使命感を持って企業を立ち上げ、終身雇用・年功序列・企業別労働組合という日本的経営の三種の神器を完成させて社員を大切にしてきた(もっとも、三種の神器は現在では制度疲弊を起こしているが)。

 ただし、企業が大きくなり、資本市場が発達してくると、どうしてもアメリカ型リーダーの時間の使い方に近くなる。現に日本企業にはそうした兆候が現れつつあるし、インドも将来的にそうなる可能性は否定できない。「社会的使命感」や「人材への投資」といった、企業発展の原点をもう一度見直すべき必要性を感じた論文であった。

マネジャーの日常(ジョン・P・コッター)

ジョン P.コッター
ダイヤモンド社
2009-03-13
おすすめ平均:
納得感のある一冊
GMの仕事
実証研究は高く評価
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 この本の要約みたいな論文だね。別の機会に『ビジネス・リーダー論』の書評を書くということで、この論文の紹介は省略(何と乱暴な…、汗)。

世界のCEOベスト50(モルテン・T・ハンセン)
 『バロンズ』の「最も尊敬されるCEO」や『フォーブス』の「CEO報酬ランキング」とは異なり、在任期間の業績で評価した世界初のランキングである。1995年以降に就任した世界中のCEO1,999人について、在任期間中のTSR(total shareholder return:株価の上昇または下降分と配当の総利回り)に基づいて順位をつけている点が特徴である。

 1位は『バロンズ』の「最も尊敬されるCEO」2009年版でも1位になったアップルのスティーブ・ジョブズであった。だが、『バロンズ』や『フォーブス』のランキングには名前が挙がらない新興国のCEOが入っていたり、逆に両雑誌の常連であるCEOがランキングから外れていたりと、ランキングは波乱含みとなっている。

 ちなみに、日本企業からは以下の3名がランクインした。

 ・17位=坂根正弘(小松製作所、2003〜2007年)
 ・28位=神林留雄(NTTデータ、1995〜1999年)
 ・38位=御手洗冨士夫(キヤノン、1995〜現在)

 まぁ、ランキングとしては面白いかもしれないが、いくつか問題もあるだろう。そもそもTSRが指標として妥当かどうかという点もそうだが、それに加えて、

 ・在任期間が短い場合、たまたま事業環境がよかったおかげでTSRが跳ね上がるケースも考えうる。
 ・TSRの上昇が本当にそのCEOの手腕のおかげなのかは判別がつかない。
 ・すでに成功している企業を引き継いでCEOになるよりも、苦境に陥っている企業のCEOになった方がTSRは上がりやすい(例えば、任天堂の岩田聡社長はランキングに入っていない)。そのため、前者のCEOの実力が過小評価される可能性がある。

 などといった問題点がありそうだ。
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