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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 17, 2010

優れたリーダーは最短距離を走らない(前半)−『人と組織を動かすリーダーシップ(DHBR2010年5月号)』

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 何十年も前のマッキンゼー賞受賞論文が3つも含まれていたため、やや新鮮味に欠ける内容かと心配したが、思っていたよりもいい特集だった。

新しい日本企業をつくる(柳井正)
 柳井社長は「2020年の夢」として、現在の約7倍にあたる売上高5兆円という目標を掲げた。ファーストリテイリングはもともと後継者問題を抱えている上に、この数字を達成しようとするならば経営者人材が圧倒的に足りない。そこで、一橋大学大学院国際企業戦略研究科と協力して自前の教育機関「ファーストリテイリング・マネジメント・アンド・イノベーション・センター(FR-MIC)」を設立し、5年間で200人の経営者人材を育成することに決めた。

 昨年このニュースを知った時は、「MBAみたいなコースで本当に経営者人材が育つのかなぁ?」と疑問に感じたのだが、このインタビュー記事を読むと、どうやら現実にファストリで起こっている課題を教材として、その解決を通じた人材育成を目指しているようである。その投資額たるや、「年間で数十億円規模になるかもしれない」と柳井社長は述べている。いやー、経営者人材の育成だけで売上の数%を投資している企業は日本にほとんどないだろう。FR-MICの今後の活動と成果を継続的にウォッチしたいと思う。

優れたリーダーはあえて組織をかき回す(H・エドワード・ラップ/1967年マッキンゼー賞受賞論文)
 「あえて組織をかき回す」というタイトルは、若干誤解を招くような気がする。私なりにこの論文の主旨をまとめると、「優れたリーダーは社内のあらゆる部署や階層にネットワークを張って情報源を作り、そこから得られる断片的なアイデアや提案を組み合わせて最善の選択肢を導き出し、行動する」ということである。

 リーダーは全知全能ではないから、代わりに集合知を活用する。だから、あらゆる人と接点を持ち、様々な視点や立場からの意見に耳を傾け、それらを統合して意思決定を行う。傍から見ると組織内を忙しく駆けずり回り、日和見的に主張を変える「非合理的」な行動に映るかもしれないが、リーダーにとってはそれが一番「合理的」なのである。

上司をマネジメントする(ジョン・P・コッター、ジョン・J・ガバロ/1980年マッキンゼー賞受賞論文)
 昔、ソニーの元人事部長から、「海外ではボス・マネジメントは当たり前のように受け入れられているが、日本ではほとんど知られていない。ところが、階層が上がれば上がるほど、ボス・マネジメントは重要になる。自分が支持する改革案を押し通し、反対勢力を排除するためには、時に権謀術数を駆使して上司を使わなければならない」という話を聞いたことがある。

 この論文はそういったパワーゲームよりも、もうちょっと穏やかなボス・マネジメントを取り扱っている。部下は「上司が自分のことを全て理解して、適切にマネジメントしてくれるものだ」と、勝手に思い込んでしまいがちだ。ところが、大多数の上司はそんなに万能ではない。

 だから、部下の側からもっと上司に歩み寄る必要があるとコッターは主張する。とりわけ、上司自身が抱えている目標や、上司が好むワークスタイル(例えば文章での報告を望むのか、口頭でのコミュニケーションを望むのか)には配慮しなければならないという。部下側の思いをちょっと抑えて、上司の都合にある程度合わせてみることが、良好な人間関係の構築につながると言えそうだ。

優秀なマネジャーに成長する条件(J・スターリング・リビングストン/1971年マッキンゼー賞受賞論文)
 これも一種のMBA批判にあたる論文である。「ピグマリオン・マネジメント」の提唱者として知られる著者のリビングストンは、いくつかの調査結果を引用しながら、MBAの惨めな結果を暴露している。(※)

 ・ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のMBAホルダーの平均年収は、卒業後15年でほぼ頭打ちとなる。
 ・HBSの学業成績と肩書き、給料、キャリア上の満足度には相関関係がない。
 ・有名大学でMBAを取得した社員の離職率は、入社から5年以内で50%を超える。これは調査対象企業のどの社員グループよりも高い。
 ・HBSの建学の精神はマネジャーの育成であるにもかかわらず、ライン・マネジャーの仕事に就くのは卒業生の3分の1にも満たず、残りはスタッフ部門やコンサルティング会社・監査法人などの専門職に就いてしまう。

 リビングストンは、MBAホルダーがマネジャーとして成功できないのは、MBAで次のような能力を教えないからだと指摘している。

 ・問題解決力(自ら行動を起こし、物事を成し遂げる能力。MBAホルダーは分析は得意でも、他人との協業に難がある)
 ・問題発見力(マネジャーに必要なのは、たとえ最先端の経営情報システムでも見つけられないような問題の予兆を早期に発見する「知覚力」である)
 ・チャンスを見出す能力(ケーススタディではビジネスチャンスは発見できない。実務経験を通じてのみ発見できる)
 ・自分らしいマネジメント・スタイル(MBAでは型どおりのスタイルに生徒を当てはめようとする。だが、本当に優れたマネジャーは、自分の性格に合った自分なりのスタイルでふるまう)

 もっとも、この論文はもう40年も前のものだから、今のMBAはもうちょっとマシになっているだろう。だが、MBAに限らず、自前で経営者人材の育成に取り組んだり、外部のコンサルティング会社や研修会社に依頼して幹部候補を養成したりしている企業では、今でもこうした罠に陥る可能性はあるから気をつけたいものだ(私自身も研修会社に身を置く人間として、この点は肝に銘じておきたい)。

(※)2月の記事「何でもコラボすりゃいいってもんじゃないんだよ(後半)−『信頼学(DHBR2009年9月号)』」で紹介した「ビジネススクールの責任」という論文では、今のビジネススクールは倫理観や行動規範を教えていないと批判されている。

 (後半へ続く)
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