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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 14, 2010

車を買わなくなった若者のお金はどこに流れているのか?

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 「若者の自動車離れが激しい」と言われる。実際、「年齢階層別の乗用車普及率をグラフ化してみる」で世帯主の年齢階層別にみた乗用車の普及率を時系列で見てみると、29歳以下の普及率は2009年にちょこっとだけ持ち直しているものの、じわじわと数値を落としていることが解る。

 では、自動車を買わなくなった若者のお金は一体どこに流れているのだろう?ぱっと思いつくのは、PCや携帯などの普及によりそちらにお金が流れていること、また最近の若者には、切り詰められる部分は切り詰める一方で、ちょっとした贅沢にはお金を使う傾向があり、そっちにお金を取られていることが挙げられるだろう。

 そこで、統計局の「家計調査報告」のデータを使って、2人以上の世帯で、世帯主年齢が29歳以下の家計における消費支出の内訳を、2000年から2009年までグラフ化してみた。

世帯主年齢29歳以下の世帯の消費支出内訳(2000〜2009年)

(ソースはhttp://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/OtherList.do?bid=000000330002&cycode=7

 余談だが、こういうグラフを作るためには、いちいちエクセルファイルをダウンロードして加工しなければいけないから、結構大変なんだな。一部の最近のデータはデータベース化されているものの、望むらくは全ての統計データがDB化されて、項目と年代を選択すれば自動的にエクセルファイルがエクスポートされますように…。

 個人的な愚痴はこのぐらいにしておいて、上記の図を見ると、「外食」、「通信」、「水道・光熱」、「衣服」、「その他雑費」にじりじりと「自動車等関係費」が削られていることがうかがえる。ちなみに、「その他雑費」には生命保険などの保険料が含まれている(「保健医療」の項目ではない)。おおよそ先ほどの仮説が支持された形だ。

 つまり、PC・携帯の普及で通信費が上がり、ちょっとした贅沢を楽しむために外食・衣服の出費が増える。なお、水道・光熱の出費が上がったのは、原油高が影響しているだろう。一方、「家具・家事用品」については、PC・携帯電話そのものの購入サイクルの短縮化や液晶大型テレビの登場でもうちょっと増えているかと思ったが、PCは価格破壊が起きているし、液晶大型テレビはこの世代が買うにはまだ早いのかもしれない。

 「いやいや、20代は単身世代の方が多いじゃないか?」という声が聞こえてきそう(国勢調査によると、今や20代の約7割が単身世帯である)なので、単身世代のデータもグラフ化してみた。ただし、こちらは29歳以下のデータがなかったため、34歳以下のデータで代用している。単身世代の場合は、20代から30代前半までそれほど消費傾向は変わらないだろう。また、分析対象の期間も2002年から2009年となっている。

世帯主年齢34歳以下の単身世帯の消費支出内訳(2002〜2009年)

(ソースはhttp://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/OtherList.do?bid=000000330014&cycode=7

 こっちのグラフは、2人以上世帯のグラフに比べるとやや特徴が読み取りにくい。2人以上世帯とは異なり、「通信」や「外食」は減少傾向にある。ただ、よく見ると、「住居」または「教養娯楽」の割合が前年より高くなる年は「自動車等関係費」の割合が前年より下がるケースが多いことが解る。家賃負担が高くなるか、娯楽にお金を費やそうとする(またはその両方が同時に起こる)と、自動車への支出が削られるという構図のようだ。

 これらのことを総合して考えると、自動車メーカーは他の自動車メーカーと競合しているだけではなく、広い意味では外食業界、通信業界、ファッション業界、保険業界、娯楽業界、不動産業界とも消費者の財布の取り合いをしていることになり、これらの業界とも戦っていかなければならないということになる。

 「家計調査報告」のデータを見ていてもう1つ面白い点に気づいた。グラフには載せていないが、自動車等関係費の中で、自動車購入費は減少傾向にあるのに対し、自動車維持費は横ばいで推移しているということだ。これは単身世帯でも2人以上世帯でも共通である。ここから考えられることは、

 自動車メーカー・ディーラーが自動車の販売難に直面
⇒アフターサービス、サービスパーツの販売で収益を上げようとする
⇒その結果として自動車維持費が上昇
⇒維持費がかかることを理由に、若者は余計に自動車を買わなくなる

という負のスパイラルである。

 じゃあ、若者は自動車に対する関心を失っているのか?というと、必ずしもそうとは言えないデータが存在する。冒頭の「年齢階層別の乗用車普及率をグラフ化してみる」では、中古車を購入する若者の急増を指摘している。つまり、安ければ買うのである。これを裏返せば、今の自動車メーカーのラインナップは、若者に対して価格に見合ったメリットを提示できていない、ということになる。

 かく言う私も実は自動車を持っていない。そもそも都心ではあまり自動車を活用する場面がないことに加え、移動時間は物事を考える時間に充てたい私にとって、自動車の運転はせっかくの思索の時間を奪ってしまうという偏屈な理由もあって自動車に乗っていない。しかし、一応免許は持っているし、妻から「もたまにはドライブを…」などとせがまれると、心に迷いが生じる。

 個人的には、今の軽よりもさらに小さい2人乗りの自動車ならばちょっと欲しい気持ちはある。関東県内で小旅行したり、郊外にちょっと出かけたりするような、それほど移動距離が長くない場面で乗るような車である。荷物を載せる空間はそんなにいらないし、当面は私と妻の2人で乗れれば十分である。そんな車だったら、ノートPCにちょっと上乗せするぐらいの価格を出して買ってもいいかな?と思ったりもする。

 国内市場では若者の人口がどんどん減っていくから、今後も若者を主要ターゲットとして捉えるべきかどうか、各自動車メーカーは重要な戦略的判断を求められるだろう。ただし、自動車は一度購入すると生涯に渡って買い替えを続ける傾向があるため、早い段階で顧客に自動車を購入してもらえれば、その分だけLTV(life time value)が上がる。

 そういう意味でも若者を取り込むことがこの先も重要だと考えるのならば、若者の生活シーンに密着した、若者が心から欲しいと思えるような自動車を開発しなければならない。そしてそれは、従来のような贅沢品としての自動車ではなく、まるで電化製品のような機能的な自動車になるはずだ。もっと言えば、電気自動車かハイブリッドかといった次元の話ではなく、全く別の切り口から見た大胆な発想から生まれる自動車のような気がする。
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