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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 12, 2010

ビジョンを構成する要素とは一体何なのだろうか?

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 経営陣やビジネスリーダーは「ビジョン」を掲げるべきだとよく言われるが、「ビジョン」とは実に曖昧な概念である。いろんな企業のホームページを覗いてみると、「業界ナンバーワンを目指す」、「消費者の視点に立った製品を提供する」、「環境に配慮し、社会的責任を果たす」など様々な表現を見かける。また、最近ではファーストリテイリングの柳井社長が、「2020年までに現在の売上高の7倍にあたる5兆円企業を目指す」と宣言した。これは果たしてビジョンなのだろうか?

 こうやって考えていくと、「ビジョンを構成する要素とは一体何なのか?」という問いに行き着く。そこで、2冊の本からビジョンの構成要素を拾ってみた。

ジェームズ・C. コリンズ
日経BP社
1995-09
おすすめ平均:
Built to Last(継続するための会社設立)
主張は矛盾しているが働くことについておおいに考えさせられる。
素晴らしい翻訳・・・
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 ビジョンを語る上でこの本は外せないだろう。ただ、ジェームズ・コリンズはビジョンそのものを定義しているわけではなく、「ビジョナリーカンパニーとそうでない会社の違いを抽出している」という点には注意が必要だ。コリンズの主張を要約すると、「ビジョナリーカンパニーは、優れた『基本理念』と『進歩を促す仕組み』を持っている」ということになる。基本理念によってぶれない機軸を持ちつつも、他方では愚直に進歩や成長を追い求めるという、一見すると相反する2つの態度をビジョナリーカンパニーは持っているというわけだ。

 基本理念はさらに「基本的価値観」と「目的」から構成される。
基本的価値観
 組織にとって不可欠で不変の主義。いくつかの一般的な指導原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない。

目的
 単なるカネ儲けを超えた会社の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならない。


 そして、「進歩を促す仕組み」として多くのビジョナリーカンパニーが持っているのが「社運を賭けた大胆な目標(BHAG:Big Hairy Audacious Goal)」だとコリンズは指摘する。
 BHAGは人々の意欲を引き出す。人々の心に訴え、心を動かす。具体的で、わくわくさせられ、焦点が絞られている。誰でもすぐに理解でき、くどくど説明する必要はない。

 (中略)BHAGはきわめて大胆であり、理性的に考えれば、「とてもまともとは言えない」というのが賢明な意見になるが、その一方で、「それでも、やってできないことはない」と主張する意欲的な意見が出てくる灰色の領域に入るものである。BHAGは単なる目標ではない。社運を賭けた大胆な目標なのだ。

ケン・ブランチャード
ダイヤモンド社
2004-01-08
おすすめ平均:
ビジョンを、抽象的で身のないものと思っている人に
全速前進で突き進むために。
ビジョンを描く
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 もう1冊。こちらは『1分間マネジャー』や『1分間リーダーシップ』で知られるケン・ブランチャードの著書である。ブランチャードらがかつて提唱したリーダーシップのSL理論は、リーダーシップを上司と部下の関係の中で捉えている点で限定的だと私は思っているのだが、最近のブランチャードはもっと広い文脈の中にリーダーシップを位置づけようとしている。同書もその成果の1つと言えそうだ。

 この本は単にビジョンの構成要件を述べるだけでなく、ビジョンを描くプロセスにも焦点が当たっている。架空の企業を舞台に、平凡な人生を送っていた主人公が周囲との対話を通じてビジョンを創出し、人々を巻き込んでいく様がドラマティックに展開されており、読み物としても面白い。

 ブランチャードはビジョンの構成要素として「目的」、「価値観」、「未来イメージ」の3つを挙げている。さらに、この順番で検討することを勧めている。
目的とは何か?
(1)目的とは、組織の存在意義である。
(2)目的とは、単に事業の内容を述べたものではなく、「なぜ」という問いに答えるものである。
(3)目的とは、顧客の視点に立って、その組織の「真の使命」を明らかにしたものである。
(4)偉大な組織は深遠で崇高な「目的」、すなわち社員の意欲をかきたて、やる気を起こさせるような、「有意義な目的」をもっている。
(5)表面的な言葉づかいより、そこから人々に伝わる「意味」のほうが重要である。

価値観とは何か?
(1)価値観とは、目的を達成する過程で、どう行動していくべきかを示す、ゆるやかなガイドラインである。
(2)価値観には、「自分は何を基準にして、どのように生きていくのか」という問いに答えるものである。
(3)価値観の内容を具体的に明らかにしないかぎり、どんな行動をとれば価値観を実践できるかはわからない。
(4)つねに行動を伴うものでなければ、価値観は単なる願望にしかならない。
(5)メンバーひとりひとりの価値観と、組織の価値観とを一致させなければならない。

未来のイメージとは何か?
(1)未来のイメージとは、最終結果のイメージ。あいまいではなく、はっきりと思い描けるイメージである。
(2)なくしたいものではなく、つくりだしたいものに焦点をおく。
(3)最終結果に到達するまでのプロセスではなく、最終結果そのものに焦点をおく。
 上記の2冊で取り上げられているビジョンの構成要素は、つまるところ「目的」、「価値観」、「具体的な目標・イメージ」という3つで共通している。冒頭に書いた例に当てはめると、「消費者の視点に立った製品を提供する」は「目的」、「環境に配慮し、社会的責任を果たす」は「価値観」、「業界ナンバーワンを目指す」や「2020年までに現在の売上高の7倍にあたる5兆円企業を目指す」は「具体的な目標・イメージ」であり、それ単独では十分なビジョンにはならないということになる。

 ここで今度は、次のような問いが出てくる。
 ・なぜ、ビジョンの構成要素は「目的」、「価値観」、「具体的な目標・イメージ」の3つなのか?
 ・(コリンズが「目的」を「事業戦略」と混同してはならないと述べているが、)なぜ、事業戦略に加えてビジョンが必要となるのか?

 また、「価値観」をめぐるコリンズとブランチャードの見解は若干異なる。価値観についても、次のような問いが立てられる。
 ・価値観は普遍的でなければならないのか?それとも流動的に変化することを許されるのか?
 ・組織の価値観と個人の価値観を完全に一致させることは本当に可能なのか?また、完全に一致してしまうと組織が同質化し、変化がもたらされなくなるのではないか?

 これらに対する答えはまだ私の中で十分に煮詰まっていない。またの機会に書いてみたいと思う。
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