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May 07, 2010

事例から見るキャリア開発支援の5パターン−『先進企業の挑戦 キャリア支援と人材開発』

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 以前の記事「結局、「キャリアデザイン」って何をデザインするの?−『キャリア・デザイン・ガイド』」の中で、NTTレゾナントが昨年9月に発表した「人材育成実態調査2009」を紹介した。この調査では、景気悪化による予算縮小の影響を受けて即効性のある研修を求める傾向がある一方で、比較的中長期的にしか効果が出ないキャリア支援についても、約60%もの企業が「キャリア意識を高めさせる機会」に課題意識を持っているという、やや矛盾した実態が明らかになった。

 http://www.e-cube.goo.ne.jp/survey/update2009.html
 http://help.goo.ne.jp/pdf/20090909.pdf

 本書には先進企業におけるキャリア開発の事例が数多く収録されており、人事部・人材開発部にとって自社社員のキャリア開発支援のあり方を考える一助になるかもしれない。だが、そもそも論として、「企業が社員のキャリア開発を支援する」とはどういうことなのか、未だ関係者の間ではコンセンサスが取れていないように私は感じる。この曖昧な「キャリア開発」は、ややもすると「自己啓発」と同義で捉えられ、「時間に余裕がある人はどうぞ」的なノリでとりあえず「キャリア研修」と銘打った研修を実施している企業も少なくない。

 では、「キャリア開発支援」とは具体的にどういうことを行えばよいのか?それは狭い意味での「人材育成」と対比させることで明らかになると思う。狭い意味での「人材育成」は、特定の職種や業務で求められる最低限、あるいは標準的な知識・スキルを習得させる目的で行われる。言わば、「社員を一人前にする」ことがゴールだ。だから、主導権はあくまでも会社側にあり、会社側が求める基準まで社員を引き上げることになる。

 これに対して「キャリア開発の支援」は「一人前以降の学習を支援すること」と定義できる。つまり、標準的で代替可能な「人材」から、その人ならではの価値を発揮できる代替困難な「人財」を育成することである。もっと噛み砕いた言い方をすれば、「エッジの効いた人財」の育成だ。そのためには、
 ・企業のニーズと社員の欲求・動機のマッチングを重視する(=企業と社員が対等になる)
 ・社員固有の強みを伸ばすトレーニングを実施する
 ・それぞれの社員が特有の強みを活かし、ストレッチして活躍できるフィールド・選択肢を幅広く用意する
ことが企業側には求められる。

 キャリア論の第一人者であるエドガー・シャインは、「組織の3次元モデル」によってキャリアを説明した。このモデルは、垂直軸が階層を、水平軸が職務・職能領域を表す円錐体で表現される。この円錐体を使うと、企業内のキャリア開発支援には次の5つのパターンがありうることが解る。そして、それぞれのパターンにおいては、以下のような人事施策が採られる(※またまた雑な図ですみません…なお、この5パターンと人事施策の整理は私なりのものであり、同書で触れられている内容ではない)。

キャリア開発の5パターン

(1)専門性を高める(水平軸の深耕)
 ・高度なスキルを扱うトレーニング
 ・成果主義(※最終的な実績のみを問う結果主義ではない)

(2)視野を広げる(水平軸の移動)
 ・ジョブローテーション
 ・クロストレーニング
 ・社内FA制度
 ・一般職から総合職への転換(女性社員の場合)

(3)管理職への早期選抜(垂直軸の移動スピードアップ)
 ・幹部候補・次世代リーダー育成
 ・女性リーダー・女性管理職育成(女性社員の場合)

(4)複合的なキャリアパス(水平/垂直軸の自由な選択)
 ・複線型人事制度

(5)事業を創造=新しい軸をつくり出す(水平/垂直軸の創造)
 ・社内ベンチャー制度
 ・事業開発を目的としたタスクフォース形成
 ・通常の事業部とは切り離された業績・人事評価制度

 同書で紹介されている10社の事例が上記の5パターンのどれに当てはまるのかを整理したのが下図である(ざっくりとした整理なので、間違いがあったらお許しください…)。

キャリア開発の事例分類


 2つの図表からは、企業内キャリア開発に関する現状の問題と限界が見えてくる。

 まず、問題としては、パターン(1)〜(3)が多く、パターン(5)がほとんどないということだ。同書で取り上げられた10社が全企業のサンプルになっているわけではないから、この図だけを見てパターン(5)に取り組む企業の少なさを指摘するのが乱暴であることは百も承知だ。ただ私自身、曲がりなりにも研修会社に身を置く人間として一言付け加えるならば、(5)を真剣に考えている企業に出会うことは非常に少ない。

 金融危機によって国内需要が急速に冷え込み、一方では新興国において新しい企業や市場が生まれている現在では、国内企業が再び上昇気流に乗るための事業創造はもはや避けては通れない道となっている。そこに着手できない企業は、早晩環境変化の渦に飲み込まれることになるだろう。

 また、企業側がキャリア開発支援を行う場合の限界としては、どうしても「外的キャリア」が中心になるという点である。つまり、役職や職務という、外部から観察可能なラベルの書き換えに手を貸すことがメインになってしまう。これはパターン(1)から(5)の全てに共通して言えることである。

 「外的キャリア」の対義語は「内的キャリア」である。「内的キャリア」とは、個人が仕事の内容や質をどう認識し、どのように意味づけるか?と自問自答することである。そしてそれは、個人の価値観や動機、働きがいやアイデンティティと深く結びついている。先ほど、企業側がキャリア開発支援をする際には、企業のニーズと社員の欲求・動機のマッチングを重視する必要があると書いたが、企業が個人の欲求や動機を完璧に把握することは難しい。それが解るのは、他ならぬ本人しかいないのである。

 企業におけるキャリアやリーダーシップを研究している神戸大学の金井教授は、『キャリア・デザイン・ガイド』の中で、「キャリア開発に責任を負うのは究極的には個人である」と述べている。ただ、「究極的には」という言葉の裏には、「内的キャリア」の開発を本当に個人に全て押しつけてしまっていいのか?企業側が支援できる部分はないのか?という問いに対する議論の余地が残されていると思う。

 《2017年4月3日追記》
 上図で,量隶が中心から外に向かっているが、エドガー・シャインの図に従えば、外から中心に向かうのが正しい(これを「中心化」と言う)。お詫びして訂正いたします。
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