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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 04, 2010

逆説的だが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要(2)

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「個を活かす」ために組織が準備すべき3つのインフラ(続き)

(2)改善・アイデアを奨励するオープンなコミュニケーションの場
 顧客の期待通りのサービスを続けているだけでは、いずれ顧客に飽きられる。顧客を虜にし、熱狂的なファンにするためには、顧客の期待を上回るクオリティを提供しなければならない。そのためには、従来のやり方を常に見直して改善を施し、アウトプットの質を向上させるためのオープンな議論の場が重要な役割を果たす。(1)を「一人前までの学習」と位置づけるならば、(2)は「一人前以降の学習」と言える。

 ヤム・ブランズはかつてはお互いの揚げ足を取るようなぎすぎすした職場だった。だが、社員に根気強くコーチングの技法を習得させ、誰かが困っている時には一緒に解決策を導き出す前向きな企業風土へと変化させた。ヤム・ブランズのコーチングの特徴は、「誰からでもコーチングを受けられる」点にある。上司からだけでなく、同僚からも、組織図上何の関係もない人からも、そして部下からだってコーチングを受けることができる。こうしたコーチングを通じて、日々のオペレーションや人材活用に関わる問題の解決に努めているという。

 マクドナルドもクルー間の密なコミュニケーションに力を入れている。マクドナルドが特徴的なのは、オープンなコミュニケーションが促進されるように、必然的にクルー同士の協業が求められる業務プロセスに変えてしまったことである。マクドナルドは、かつての作り置き方式を止めて、現在では注文を受けてから調理を始めるスタイルに変わっている。

 昼間の混雑時などランダムにいろんな注文が入るケースでは、それぞれの顧客に対して最短時間でフードを提供するために、各工程の担当者が緊密に連携する必要性が生じる。この連携がうまくいかないと、ジュースとポテトはできあがっているのに、ハンバーガーだけが遅れてしまう、といった事態が起こる。こうした細かい調整方法は当然のことながらマニュアルには書かれていないから、クルー1人1人がアイデアを考えて意思疎通を図り、行動を取らなければならない。

 私が京都に住んでいた頃だからもう7年ぐらい前のことだと思うが、昼間にマクドナルドに行くと、「注文から1分以内にフードを提供する」という取り組みをやっていた記憶がある(全てのマクドナルドでやっていたのか、その店だけでやっていたのか定かではないが)。注文が終わるとレジ担当のクルーが砂時計をひっくり返し、各クルーが協業しながら1分以内の完成を目指す。そして、フードを渡す時に砂時計を確認し、OKだったか時間オーバーだったかをバックヤードにフィードバックする、という感じだったと思う。

 「1人前以降の社員」にとっては、「考える余地」が学習の機会となる。マクドナルドは、「注文を受けてから調理を開始し、かつ最短時間で提供する」という制約を敢えて課すことで「考える余地」が生まれ、クルーの建設的な議論を促していると言える。

(3)目標と現実がオープンに見える仕組み(組織・個人ともに)
 (1)と(2)で「一人前まで」、「一人前以降」という区分を使ったが、そもそも各店舗や各社員が「一人前に達しているのか否か」を把握する仕組みがなければ(1)も(2)も機能しない。逆に、現状を正確に把握することができれば、次の目標が設定しやすくなる。個を活かす優れた組織は、透明な業績管理制度を持っている。

 ヤム・ブランズでは、「CHAMPS運動」と呼ばれる店舗のクオリティチェックがある。CHAMPSとは顧客が期待する品質水準を独自に定めたもので、各店舗がこの水準をどの程度達成しているかを定期的に採点して回る。そして、その結果は店舗間で共有される。各店舗は自らの現状を客観的な視点から把握し、次の目標を定めて改善策を練る。

 マクドナルドでは、個人の目標設定と現状把握を手助けする制度が整っている。保有スキルでクルーのランクが決まるシステムがそれである。長く勤めているクルーの方が偉いという年功序列的な考えはない。クルーは、各スキルの到達基準をクリアするとシールを獲得することができる。このシールには、最初の目標となる規定枚数の「シール」と、さらに上のランクの「エキスパートシール」という2種類のシールがある。しかも、シールの数や種類によってユニフォームが変わるため、お互いのスキルレベルが認識できる。

 こうした業績管理制度は透明であればあるほど社員は公平感を覚え、組織に対する信頼を強める。さらに、社員同士、店舗同士がよきライバルとなって適度な内部競争が生まれ、能力やサービスの質の向上につながっていく。

 一時期、人材育成の分野で「個の活性化」が話題になったが、どうも「個人の強みを伸ばす」というミクロな視点ばかりが強調されていて、個を支える組織をどのようにデザインするかというマクロな視点が欠けていたように思う。その理由の1つとしては、人材育成のエキスパートを名乗る企業の大半が研修会社であるため、研修でアプローチ可能な個人に焦点が当たってしまった、ということが考えられる。

 だが、これではまるで、道路建設を抜きにして、暴走する自動車ばかりを製造しているようなものである。これまで見てきたように、「個の活性化」と「組織の一体感」は両輪である。この2つに同時にアプローチできるケイパビリティを、人材育成の専門家は身につける必要があると思う(自社への自戒も込めて)。
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