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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
May 03, 2010

逆説的だが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要(1)

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「組織の一体感」と「個の活性化」を両立させる
 2007年3月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「2010 年を展望する 人事戦略・人事制度に関する調査」の中には、現在(※調査実施時の2006年)および3〜5年後において、経営方針として「組織的に一体化をもって、力を発揮することを重視する」ことと「個人が活性化し個々の力を発揮することを重視する」ことのどちらを重視するか?という設問がある(p16)。この設問に対して、「現在、『組織的な一体感を重視する』と回答した企業の比率は66%と、『個人の活性化を重視する』と回答した企業34%を大きく上回り、さらに3〜5年後には、その傾向が一層強くなる」という結果になった。

 だが、これはきっと回答しづらい設問だったに違いない。なぜならば、「組織の一体感」と「個の活性化」は二律背反的な課題ではなく、できれば両立したいと考える企業が多いからだ。その証拠に、社団法人日本能率協会が同じく2007年に公表した「2007年度(第29回)当面する企業経営課題に関する調査結果」のp8を見ると、「『組織と個人の両立』の達成状況」という設問項目があり、46.2%の企業が「組織としての一体感は高いが、反面、個性を発揮しにくい面がある」と回答している。これを裏返せば、約半数の企業は「組織の一体感と個の活性化を両立させたい」と考えていることになる。

 「組織の一体感」と「個の活性化」−確かにこの2つはトレードオフの関係で捉えられてもおかしくはない。組織をさながら軍隊のようにルールや制度でがちがちに固めれば結束は高まるかもしれないが、個人は窒息してしまう。また、個人が自分の気の向くままに仕事をすれば、組織は空中分解を起こす。とはいえ、逆説的ではあるが、「個を活かす」ためには「よく整備されたシステムや制度」が必要だと私は思うのである。

KFCとマクドナルドはマニュアル人間を作り出していない

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 『1分間マネジャー』や『1分間リーダーシップ』の著者であり、リーダーシップのSL理論でも知られるケン・ブランチャードの最新作『カスタマー・マニア!』は、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)、ピザハットなど5つのレストランチェーンを傘下に持つヤム・ブランズ(※)の再生物語である。そこには、体系的なトレーニング、明確な目標設定とフィードバックの制度、賞賛の文化、透明な業績管理の仕組みといった組織的に整備されたインフラの上で、各国からやってくる多種多様な従業員が自らの能力を如何なく発揮している様子が描かれている。

 また、日本に目を向けてみると、リクルートワークス研究所の見館好隆氏が「顧客接点アルバイトが基礎力向上に与える影響について−日本マクドナルドに注目して−」という興味深い論文を発表している。マクドナルドのようなファストフードチェーンは、マニュアル対応しかできない機械的な人間を生み出しているとしばしば批判される。しかし、この論文を読むと、昨今注目を集めている「社会的基礎力」の向上に、マクドナルドの組織的な要素が深く関係していることが解る。しかも、クルー(マクドナルドの従業員)の能力は決して画一化されているわけではなく、各々が固有の成長ヒストリーを持って仕事に取り組んでいることもうかがえる。

「個を活かす」ために組織が準備すべき3つのインフラ
 「組織の一体感」と「個の活性化」の両立についてさらに詳細に分析した本として、クリストファー・A・バートレット『個を活かす企業』が挙げられる。同書の詳しい紹介は別の機会に譲るとして、上記のヤム・ブランズやマクドナルド、そして『個を活かす企業』で取り上げられている事例から、「個を活かす」ために組織が準備すべき必須のインフラを3つ整理してみたいと思う。

クリストファー A. バートレット
ダイヤモンド社
2007-08-31
おすすめ平均:
組織論、戦略論を考える上で大きな示唆☆
単なるエンパワーメントではだめなことを教えてくれる良書
posted by Amazon360

(1)スキルを平準化・底上げする十分なトレーニング
 社員が一人前になるまでは、徹底的にトレーニングを行う。マクドナルドには詳細なマニュアルが存在することはよく知られている。しかもこのマニュアルには、行動の背景まで詳細に規定されている。例えば、「なぜビーフパティを扱うために抗菌ウェットワイパーで手を拭かなくてはいけないのか?」、「なぜ挨拶から再来の挨拶までの最長秒数が決められているのか?」といった、非常に細かいことまでクルーは学習する。標準マニュアルは、クルーに基礎的な能力を習得させると同時に、行動の背後にあるマクドナルドの考え方や価値観を浸透させる役割を担っている。

 ヤム・ブランズには、「ヤム・ユニバーシティ」という企業内大学がある。その中の「オペレーション・カレッジ」では、本社の社員とフランチャイズ店の現場社員が、レストランの運営方法、リーダーシップ、人材教育、採用のベストプラクティスなどを1週間で学習する。もちろん、マクドナルドでもヤム・ブランズでも、こうした研修に加えて現場では日々上司や先輩によるOJTが実施されている。こうした手厚いトレーニングを通じて、全ての社員が顧客に対して最低限の品質を提供することを約束する。

(長くなったので、記事を分割します。(2)へ続く)

(※)ヤム・ブランズの"YUM"は、英語で「うまい」を意味すると同時に、"You Understand Me"([顧客の側から見て]ヤムは顧客のことをよく解っている)の頭文字を取ったものでもあり、顧客視点を強調する同社の姿勢をも表している。
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