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April 09, 2010
結局、「キャリアデザイン」って何をデザインするの?−『キャリア・デザイン・ガイド』
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posted by Amazon360
NTTレゾナントが昨年9月に発表した「人材育成実態調査2009」では、景気悪化による予算縮小の影響を受けて即効性のある研修を求める傾向がある一方で、比較的中長期的にしか効果が出ないキャリア支援についても、約60%もの企業が「キャリア意識を高めさせる機会」に課題意識を持っているという、やや矛盾した実態が明らかになった。
http://www.e-cube.goo.ne.jp/survey/update2009.html
http://help.goo.ne.jp/pdf/20090909.pdf
我々の提供サービスの中に「(世代別)キャリア研修」があるが、社員の「キャリアデザイン」に関心を持つ企業は確かに多い。ところが、「『キャリアデザイン』とは何をデザインすることなのか?」については、必ずしもコンセンサスが取れているわけではない。MBO(目標管理)とリンクさせて具体的な業務上の目標を設定させたり、今後3年間で自分が取り組む課題を発見させたり、あるいは10年後の自分を自由に発想させたりと、キャリアデザインの目的や方法は各企業ともバラバラなのが実態である。
金井教授はしばしばキャリアを企業戦略のアナロジーで捉えている。「何をもって戦略と呼ぶのか?」という問に答えるのが難しいのと同様に、「何をもってキャリアデザインと呼ぶのか?」に答えるのもまた難しい。金井教授自身が書かれたこの本を読んでも、どこか判然としない印象があるのは否めない。
戦略論には大きく分けて2つの流派がある。1つは、産業構造論のSCPモデル(産業構造(Structure)が事業活動(Conduct)を規定し、それが引いては業績(Performance)を規定する、というモデル)に端を発するもので、外部環境の分析に重きを置く流派である。代表的なのはマイケル・ポーターの競争戦略論だ。
もう1つは、コア・コンピタンス、コア・ケイパビリティ、あるいは資源ベースの戦略論に代表されるような、内部環境の分析を重視する流派である。だが、実務上はどちらか一方の流派のみに従うことはほとんどなく、両者の考え方をうまくミックスさせながら戦略を立案するのが一般的である。
同じことがシャインのキャリア論にも言える。『キャリア・アンカー』は自分自身が船の碇(アンカー)のように拠りどころとしている動機や欲求、価値観を明らかにする。戦略論でいえば、内部環境分析にあたるものだ。これに対して『キャリア・サバイバル』は、現在および将来の「役割ネットワーク」を観察するものであり、自分自身と関わりのある人物(上司、同僚、部下、顧客、取引先など)を列挙し、彼らが自分に期待している仕事や役割を明らかにする。これは、戦略論でいうところの外部環境分析である。
そして、両方の分析結果を組み合わせてキャリアをデザインする。しかし、シャインは「キャリアアンカー」と「役割ネットワーク」を分析するツールは開発したものの、キャリアそのものをデザインするツールは用意してくれていない。そこで、どうすればうまくキャリアデザインができるのか、キャリアデザインに関するQTA(Question to be Answered:答えるべき問い)を私なりに10個考えてみた。
1.自分はいつまでにどのような成果を上げたいのか?
ポイントは2つある。1つは期限である。来年というのは短すぎる。それなら人事考課の延長線上でやればよい。逆に、10年後では不確実性が多くて長すぎだ。10年後のイメージをおぼろげながら持つことは別に構わないと思うが、キャリアデザインがターゲットとするのは、企業戦略と同じように3年後ぐらいがベストだと思う。
もう1つは、具体的な成果に焦点を当てることである。「マネジャーに昇進する」とか、「売上1億円を目指す」というのでは漠然としすぎている。マネジャーとしてどういう仕事をするのか、あるいはどういう顧客にどのような価値を提供して1億円を実現するのか、成果の中身を想像することが重要である。
2.なぜその成果を目指すのか?どのような動機からか?その成果は自分の価値観と結びついているのか?
目指したい成果が自分のキャリアアンカーとリンクしていることを検証する。両者の結びつきが強いほど、成果を実現するまでのモチベーションを維持しやすい。「経営管理能力」を持つ人が専門職のキャリアを歩んだり、逆に「専門・職能別能力」を持つ人が管理職のキャリアを歩んだりしても、本人にとって納得のいくキャリアにはなりにくい。
3.その成果は誰が必要としているのか?誰から期待されているのか?
4.彼らはなぜその成果を必要としているのか?なぜそのような期待をしているのか?
自分が「これをしたい」と思っても、他人がそれを望んでいなければ意味がない。どんなに自社が売りたい製品があっても、市場にニーズがなければ売れないのと同じである。ここで「役割ネットワーク」の分析が活きてくる。自分のステークホルダーは誰なのか、自分が目指している成果は彼らにとってどのような意味を持つのかを今一度考えてみる。
5.その成果の実現プロセスにおいて、自分の現在の強みを活かすことはできるのか?
6.その成果の実現プロセスにおいて、障害となりうる自分の弱みは何か?
7.強みを活かし、弱みを補うためにはどうすればよいか?
戦略立案の際には、戦略を実現するにあたって、現在の組織能力が十分な要件を満たしているかどうか、フィット&ギャップ分析を行う。キャリアデザインでも同じである。しかしながら、自分の強み、弱みというのは解るようで解らないものだ。自分自身が考える時は自分の尺度で強み・弱みを判断するが、周囲の人間は別の尺度で強み・弱みを捉えている可能性もある。だから、強み・弱みを自分で一度棚卸した後、友人や同僚、あるいは家族から何らかのフィードバックをもらうと効果的である。
8.その成果を上げるために協力が欠かせないメンバーは誰か?
9.彼らから十分なサポートを受けるためには、彼らに対して何をすればよいのか?
新しい戦略を実現するためには、自社の能力を補ってくれる外部企業との提携を模索したり、あるいは取引先・顧客とこれまで以上の強固なリレーションを構築したりする必要が出てくる。それと同じように、キャリアも自分1人で実現できるものではない。
上司、友人、メンターなど、自分を支えてくれるサポーター(学術的には「発達ネットワーク」と呼ぶらしい)を見つける。ここでいうサポーターは、3、4で出てきた「役割ネットワーク」と異なっていても構わない。だが、とりわけ自分とは利害関係のない純粋なサポーター(例えばメンターや家族)に対しては、「自分から何かしてあげられることはないか?」を同時に考えておくといいと思う。サポートを受けるばかりではなく、できる限りギブ・アンド・テイクの関係を目指すのが理想的だろう。
10.成果の実現に向けて、明日から始めるべき行動は何か?逆に、明日からやめるべき行動は何か?
いわゆる「アクションプラン」というものである。一応、7でも検討しているが、ここで大事なのは、アクションを可能な限り日々の習慣に落とし込むことである。「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」という有名な言葉が示すとおりだ。
例えば、7で「新製品開発に活かすため、顧客企業が属している業界知識を深く身につける」というアクションを計画したならば、「毎月第2、第4土曜日は、業界関係者が集まる勉強会に参加する」などといった習慣を作るといいかもしれない。
昨日の記事でクランボルツの「計画的偶発性理論」に触れたが、「キャリアの大半が偶然に左右されるのならば、キャリアをデザインする必要はあるのか?」、「せっかくデザインしても、何らかの偶然で予定が狂うならば、デザインする意味はないのではないか?」という疑問を持つ方もいるだろう。
確かに世の中には、キャリアデザインを行わずに成功した(ように見える)人がいるのは事実だ。タレントのインタビューなどでも、「特にこれといった目標を持ってやってきた訳ではない」といった趣旨の発言を見かけることがある。ただ、それは成功者だからこそ言える一種の特権であり、あるいはその人なりの謙遜と捉えた方がよい。目標を持たずに彷徨った結果、さしたる活躍もできずに消えていった芸能人は探せばキリがないはずだ。
「事業環境なんてどうせ変わるのだから、うちの会社は戦略など立てません」と吹聴する企業などないのと同様に、「人生なんてどうせ偶然に左右されるのだから、キャリアビジョンなど要りません」という論理は通らないと思う。大まかなビジョンを持っているからこそ、自分が想定していた前提や仮定と現実世界とのズレを敏感にキャッチすることができる。
違和感を感じたら、その時々に応じて軌道修正したり、ビジョンを一から描き直したりすればよい。キャリアビジョンがなければ、自分が軌道から外れているのかどうかすら感知できないのだ。
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