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April 02, 2010

「覚える力」と「考える力」を伸ばすためには?−『ゆとり教育が日本を滅ぼす』

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櫻井 よしこ
ワック
2005-02
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ゆとり教育否定論者の本ですが、わりとリベラル
小学生の親として考えさせられることが多い
何となく語られる一般評論
posted by Amazon360

 昨日の記事「個性を伸ばす前にやるべきことがある−『ゆとり教育が日本を滅ぼす』」では、教育の目的は「覚える力」と「考える力」を身につけることであり、その土台があって初めて「個性」が成り立つと述べた。それでは、教育の現場でこの2つの力を習得するためにはどうすればよいのか?同書の中から引用してまとめておこうと思う。

(1)「覚える力」
 「覚える力」を養うには、反復練習しかない。「百マス計算」に代表される陰山メソッドや、以前「良質の『準備ルーチン』は創造性を生む」という記事で触れた立命館小学校の「モジュールタイム」も、基本的な読み書きをひたすら繰り返すように設計されている。

 著者の宮川俊彦氏は、国語における反復学習の重要性について次のように主張している。
 言葉を限定し、意味を規定し、これを全員に一斉に教えて理解させる。こうして画一的に知識を注入しない限り、国民の表現と理解の一定の水準という国語の基礎領域は構築できません。私は子どもたちの作文を指導していますが、その前提としては、子どもたちに対して、考えるため、感じるため、あるいは知識の基本となる言語の意味・用法・概念・を徹底的に教え込み、繰り返し理解を促すことが基礎であり、いちばん重要なことだと考えています。
 そして、他の教科においても反復訓練は同様に重視されるべきであるとし、陰山メソッドに対しても肯定的な評価を与えている。

(2)「考える力」
 宮川俊彦氏は「学校は『日常性』を突き破る場だ」と強調している。これは、単に社会の規範やルールをそのまま学校の中に取り込むのではなく、それらを批判的な視点で学習する場を学校が提供すべきだということを意味している。
 社会がこうなのだからこうしていればいいと教えるのだったら、なぜこうしてはいけないのか、どう生きるべきなのかといった日常性を突き破る教育なんてできませんよ。学校には、社会をまるごと捉えて問題を吸収して検証してゆく、そういう原理的に物事を考えていく機能が必要なんです。

 (中略)私はよく、授業で殺人事件や子どもが関わっている事件を取り上げます。君たちはどう思うかと問題を投げかけると、ああでもない、こうでうもないと議論はどんどん深化していきます。その過程で、時代はどうで社会はこうかと彼ら自身で考える眼ができてきます。

 最後には「なぜ殺人はいけないのか」「戦争はどうなのか」という議論に到達します。そのときに「こういう決まり、法律があるから」「人を殺すのはいけない」「暴力は悪い」とか、「戦争は悲惨です」「平和は尊い」という一般論や理念、お題目教育をしていたのでは、本当の自覚や認識は生まれません。
 宮川氏は、各教科の一般的な知識や概念の暗記を推奨する一方で、社会の倫理や道徳を丸呑みにすることには否定的な態度を取っている点に注目したい。社会の倫理や道徳は、社会を構成する様々な人間の価値観や判断基準、あるいはその社会が脈々と受け継いできた文化・歴史的背景といった、あらゆる主観的要素が複雑に絡み合って形成されている。

 そうした複雑さを丸ごとそのまま体内に吸収するだけでは考える力は育たないし、社会で生き抜くパワーも身につかない。逆に、その複雑さに正面から対峙することが、規範や秩序に対する意識を醸成する。と同時に、個々人の内面にもはっきりとした感性や認識を芽生えさせる。日常性を突き破る教育の目的はそこにあるのだと私は思う。

 昨日の記事の繰り返しになるが、知性は客観性と主観性をともに備えることで初めて個性を発揮することができる。ゆとり教育に対する厳しい批判を受けて、文部科学省は教育方針を見直す方向で動き出しているようだが、教育現場の実態とは離れた次元でのイデオロギー論争に時間を費やすのではなく、教育が目指すべき人間像をもっと明確にし、その実現に向けたリアリティーのある教育のあり方を議論してほしいと願うところだ。
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